第6話 応戦

「井上課長!!奴らが隊列を組んで前進してきています。」


校門にて、避難誘導していた警察官に緊張が走った。


「課長!撃ちますか、退避しますか?」


——校門付近には、すでに一般市民はいなさそうであるが、まだ逃げ遅れている市民がいるかもしれない。今私たちが引いてしまうと、逃げている市民達が殺されてしまう。


「さっき出した応援要請はどうした、誰か来てくれないのか!」


「どこも手一杯で、応援を出せないそうです。」


課長は決断を迫られた。


「みんな、我々は市民の守護者たらなければならない。ここで引いては、被害を大きくしてしまうだけである。しかし、新婚のやつ、子どももいる奴など、生き残らなければならない奴もいる。ここには、俺だけが残る。後の者は、陸上自衛隊駐屯地に向かえ!!」


これ以上の市民の犠牲者は許容できない。しかし、部下をここに残らせて、貧相な武器で戦わせれば、ここで死んでくれと言っていることと同義になってしまう。難しい決断であるが、課長は、何が最善かを考え、この答えに辿り着いた。


しかし、部下は井上課長の予想に反した行動をとった。


「課長、そんなこと言わないでくださいよ。警官になった時に、市民に尽くすことを誓っています。我々も、課長にお伴しますよ。」


部下達は、頷きながら、課長に対して微笑んでいる。ただ、やはり怖いものは怖い。部下達の微笑みはわずかに引きずっており、若干の恐怖がそこに存在した。だが、部下達は、使命感で恐怖心をなぎ払い、恐怖に打ち勝っていた。


「お前達、いいのか?行く先には、地獄しかないぞ。」


「地獄がどうかは、自分で決めます。ここで敵を引き留めましょう。」


そういうと、部下達全員、校門前に停めてあるパトカーを盾に、敵部隊を待ち構えた。


ザッザッザッザッザ————


敵部隊の足音が段々近づいてくる。リボルバー式の拳銃しかなく、心許ないが、優秀な部下達が俺にはついていると、課長は自らを鼓舞した。


「全員、射撃用意!!」


課長の号令により、警官達は一斉に拳銃を構えた。


「撃て!!!!」



バンバンバンバンバンバン—————


一斉射撃が始まった。各々6発撃ち弾倉が空になると、すぐに次弾装填して撃ち続けた。


警官達の必死な抵抗にもかかわらず、敵部隊の進軍は止まらない。そして、おかしなことに、敵部隊は撃ち返してこない。


「課長、敵が打ち返してきませんし、銃弾が当たっているようには見えませ……」


課長に報告していた警官の額に穴が空き、警官は倒れた。


「気をつけろ、反撃だ!」


しかし、課長の声は敵部隊の銃撃音によってかき消された。


凄まじい反撃である。弾丸がそこらかしこに飛んでいき、パトカーはみるみるうちに大破していった。そして、部下が一人、また一人と倒れていく。


「退避だ、早く退避しろ!」


課長は、大声で叫んだ。しかし、誰からも応答がない。そう、課長以外全員、すでに殉職していたのである。


次の瞬間、課長の胸を複数の銃弾が貫通した。課長のワイシャツは段々と赤く染まっていき、意識が遠のいていく。


薄れる意識の中、課長は、静かに呟いた。


「ダメだったか、部下達よ、すまん、守りきれなかった。家族の皆、すまんな、俺はここまでみたいだ、最後にみんなに会いたかった、ゆきもっとお前の成長を見守りたかった。秋江あきえ、すまん、先に逝く。」


そう呟くと、井上課長は静かに永遠の眠りについた。


—————————————————————————————


「前方300 m先に、ヴァイサイトの武装兵を発見。情報と照会、武装兵は、『警察官』というヴァイサイトの自警団組織みたいです。隊長どうしますか。」


「確実に当てられる距離に入るまで、前進せよ。どうせ奴らの弾は当たらぬ。」


警察官達は、パトカー越しに、ハイダン率いる機動偵察部隊に銃弾の雨を降らせた。しかし、弾は全く当たらなかった。


「ヴァイサイトの奴らはバカですね。撃っても当たらないのに。神、アテーナー様の能力『絶対防御』を元に開発された防御シールド『レセプター』がある限り、ヴァイサイトのどんな攻撃も当たるわけがないのに。」


「そうだよな、アテーナー様の能力の劣化版ではあるが、ヴァイサイトくらいの攻撃だったら全く当たらないのに、可哀想な下等生物だな。ヴァイサイトは。」


リビン兵には、一人一人に防御シールドが配られており、銃などで攻撃されると、自動的に防御シールドが展開され、攻撃を防ぐ仕組みになっている。したがって、リビン兵に飛び道具の攻撃は通じないのである。


そんなことはつゆ知らず、警官達は、拳銃を撃ち続けている。


偵察部隊が、警察官の前方50 mまで前進したところで、ハイダン隊長が遂に号令を発した。


「撃ち方用意、前方の敵部隊『警察官』を排除せよ。撃て!」


タッタッタッタッタッタ————


アサルトライフルの連射音が響き渡る。20秒も経たないうちに、警官達からの攻撃が止んだ。


「撃ち方やめ!状況を確認せよ。」


ハイダン隊長の指示により、数名が警察官の遺体を確認し、全員死亡していることを確認した。


「全員死亡しています。手榴弾などのトラップもありませんでした。」


「よろしい、探知班、能力保有者はどちらに逃げた?」


「はい、ここから東の方向へと逃げたようです。」


「では、細心の注意を払って、東へ駆け足で進軍せよ。進軍開始!」


ハイダン隊は、貴船高校にてヴァイサイト殲滅作戦を実施した後、能力保有者捕縛に向け、東に進軍し始めた。


校門には、警察官達の奮闘の残渣が虚しく残るだけであった。

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