第5話 能力の痕跡

「おかしい‥。」


リビン兵部隊の中にいた、若い女性の隊員が、サーベイメータを地面に当てながら、つぶやいた。


「どうした、アイシャ少尉、何がおかしいんだ。」


ハイダン隊長は、訝しそうな顔をしているアイシャ少尉を問いただした。


「はっ、任務の一つとしてヴァイサイトの気候や地質などの調査をするため、サーベイメータにて、地質成分の調査をしていたところ、GA-5値が若干の上昇傾向を示しておりまして……。」


「GA-5値が上昇しただと!」


GA-5値とは、神から分与されし能力を測定した際に計測される能力値である。

能力を使用すれば、その痕跡が一定期間その場に残るため、GA-5値が上昇する。

つまり、GA-5値を調べれば、能力を使った奴がいることが分かるのである。



「少し待ってろ、本部に照会する。全員撃ち方やめー、本部、こちら機動偵察隊バイダン、照会を求めたい。」


「こちら本部、何を照会しましょう。」


「貴船高校にて、GA-5値の上昇を感知した。他の部隊の隊員が、この近辺で能力を使用したか、調べて欲しい。補足だが、私の部隊で能力を使ったものはいない。」


「I Copy. 照会を開始します。少々お待ちください。」


バイダンは、無線機をアイシャに預けると、偵察隊の部下の方を見て告げた。


「偵察隊諸君、リビンから脱走した能力保有者が近くに潜伏している可能性がある。万全を期すために、本部への照会が終わるまで、この敷地から出ての殲滅活動を禁ず。」



I Copy!!!



偵察隊の隊員達は、潔い返事とは裏腹に、どよめきが広がった。


「能力保有者って、神から能力を分与されるのって、師団長や部隊の隊長クラス、それか、リビン名誉市民くらいだぜ。基本強くて立派な人にしか与えられないのに……」


「そうだよな、マジでリビンから脱走した奴が近くにいて、そいつが能力保有者だったら、一筋縄ではいかないかもな、ヴァイサイト殲滅作戦と言いながら、下手したら俺らが殲滅させられてしまうかもな。」


先ほどまで、揚々と紡達を撃ち続けていた隊員達の顔は、次第に青ざめ、恐怖に支配されていった。


自分たちが狩る側だと思っていたら、実は自分たちが狩られるかもしれないわけである。


不安にかられる隊員達の雰囲気に気づき、ハイダン隊長が大声をあげた。


「お前達、なぜ俯いているんだ。お前達は、リビン神国の兵士であるぞ。誉れ高きリビン兵が、こんなことで狼狽うろたえるでない。確かに、能力保有者は、手強い。だが大丈夫だ、お前達非能力者のことは、このハイダンが必ず守り抜く!」


——うぉぉおおおおおおおおおおお


少しの沈黙の後、隊員達は、ハイダン隊長の檄に鼓舞され、叫び声をあげた。


「……こちら本部、ハイダン隊長聞こえますか?」


「こちらハイダン、結果はどうですか?」


「はい、ヴァイサイト能力検知所に問い合わせたところ、ハイダン隊長からの照会時点において、能力を使用したリビン兵はおりませんでした。ただ、検知所では、作戦開始前に、3回の能力使用を観測したとのことでした。通常ですと、すぐにリビン軍能力監視隊に能力使用者捕縛のための緊急通報がなされるはずでしたが、作戦開始直前が仇となり、通報が上手く監視隊に届かなかったみたいです。」


「了解した。照会ありがとう。通信終わり。」



——これは、まずいことになったな。


ハイダンは、周りを見渡しながら、今後の身の振り方を思案した。

目先の課題は、能力保有者をどうするかである。殲滅作戦途中に、能力保有者に横槍を入れられたら、大規模戦闘になりかねない。そもそも、簡単にこの地区のヴァイサイトを殲滅できると考えていたことから、対能力者装備ではなく、対ヴァイサイト用の簡素な武器しか携帯していない。


だが、ヴァイサイトに脱走した能力保有者は、リビンにとって絶対悪であり、見つけ次第取り押さえて、家畜にした後、死刑にしなければならないという法律がある。つまり、ここで、能力保有者を見逃せば、後々、師団長殿からつまらぬケチをつけられかねない。


——仕方ない、作戦を少し変更するか……


ハイダンは、作戦を部下に告げた。


「お前達、作戦を少し変更する。千載一遇とはまさにこのことである。リビンから脱走した能力保有者がこの付近に潜んでいることが明らかになった。能力保有者の脱走は重罪である。したがって、我々は、殲滅作戦を実施しながら、能力保有者の捕縛作戦も実施する。サーベイメータを持ってるものを一番前に並べ!また、能力保有者と対峙できるのは、同じく能力保有者である私である。ゆえに、他の非能力保有者の隊員達は、私の後方をついてこい。以上。」


隊員達は、一列目がサーベイメータ保持隊員、二列目がハイダン隊長とその側近、その後方が非能力者の隊員、一番後ろが副隊長という並びで隊列を組み直した。


「それでは、機動偵察隊よ、前進せよ。」


ついに、偵察隊は、高校の敷地を出るべく、前進し始めた。

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