第4話 リビン襲来
紡が前方を見ると、大体50人ほどが深さ2mほどのクレーターの真ん中に立っていた。
その中でも一際大きく骨格もがっしりした男が何かを話していた。
「こちら、機動偵察隊隊長ハイダン、ヴァイサイトの指定ポイントに到着。ヴァイサイトを視認しました。命令を請う。」
「こちら本部。別命あるまでそのまま待機してください。ヴァイサイトとの接触も禁じます。」
「接触を禁じるって、もう目の前にいるのに、これって接触の範疇に入るんじゃないんですかね。後、我々、偵察隊なのに、姿バレバレな状態ですし、こっちにも偵察のプライドってものがあるんですから、もっと適材適所な場所に配置して欲しかったですね。ねえ、ハイダン隊長。」
「マーク私語は慎め、今回の作戦総責任者は神である。その発言、神への冒涜になるぞ。」
「ですが隊長。ヴァイサイト相手にここまで、大規模に部隊を動かして、しかも、1時間だけの殲滅作戦とは、神は一体何を考えていらっしゃるのか。」
マークは不満そうにしながら、足元の石ころを蹴飛ばした。
「神が思考されることなど、我々には想像さえできないことである。そもそも、神の御心を知ろうとすることでさえ不敬である。慎めマーク。」
——何の話しているんだ?
紡達は、次から次へと訳がわからないことが起こらことに対して、呆然とするしかなかった。その間もハイダンやマークとか言った奴らは、紡達には興味もくれずに、話し続けている。
ただ、ヤバそうなことだけは、肌で感じた。
「私のせいで、リビンが来てしまったんだ……」
また、愛が呟いた。愛は、俯いて絶望していた。こんな愛みたことない。紡は、母を失ったショックにより、愛に優しい言葉をかける余裕がなく、そんな愛をただ傍観していた。
「愛ちゃん、大丈夫?しっかりして!」
琴美だけが正気を保っているようであった。琴美が愛の肩を抱き寄せ、頭を撫でて、愛を落ち着かせようとしている。
「みんなごめんなさい。私が能力を使ったせいでリビンが来ちゃったんだわ。私のせいで、紡のお母さんも………ごめんなさい。」
愛が泣きながら、紡と琴美に向かい小さな声で謝罪した。
「愛、さっき講堂が崩れる前に、叫んだのって、能力で何が起こるかわかったからなの?」
愛の言葉を聞いて、いつもの琴美らしくない真剣な面持ちで愛に詰め寄った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。能力は使っちゃいけないことは分かっていたの。でも、なんだか嫌な予感がして、ソワソワしてたら、急にことちゃんと諭が吹き飛ばされる映像が頭に流れたの、そして、気づいたら叫んでた……、伏せてって。」
「いや、愛は何も悪くないよ、愛は私達を守ろうとしてくれた。本当にありがとう。能力だって貰ったばっかりじゃない。まだまだ使いこなせないのは当たり前よ。」
琴美は優しく、愛を抱きしめた。愛は、琴美の胸の中で、泣いていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい。能力を使えば、リビン兵が攻めてきて、捕まえようとしてくるから、絶対能力を使っちゃダメだよと、お母さんやお父さんにキツく忠告されていたのに、私、無意識に使っちゃったよ〜〜。だから、リビン兵を私達のところに呼び寄せて、そして、諭のお母さんまで巻き込んで……。」
愛は、咽《むせ》び泣きながら、心境を滝のごとく吐露し続けた。
「そんなことないよ、そんのことないよ。」
琴美は、愛の告白を優しく受け止め続けた。
——能力ってなんだ?リビンってなんだ?もう訳がわからない、もうどこかに逃げてしまいたい。思考を止めてしまいたい。
そう紡が自暴自棄になりかけた時、
上空に映像が投影された。
「ヴァイサイトよ、我は、リビン第1師団長ヴィクトリムである。お前達は本当に幸福である。今回、神、アレース様のお心遣いにより、ヴァイサイトが、アレース様の余興の参加者として選ばれた。これより、1時間、リビン兵がお前達を殲滅する。アレース様がお前達に望むことは、二つ、逃げまどえ!ヴァイサイトよ。そして、お前達の気概でもって、アレース様をお楽しみあそばせよ!!」
リビン、アレース、余興、ヴァイサイト、聞いたこともない知らない単語が次々と、知らない奴の口から出てきて、ただでさえ訳のわからない状況に拍車をかけた。
ただ、紡は、悟った。このままでは、殺されると。
先ほど、偵察隊とか言っていた奴らの手には、アサルトライフルが握られている。
いきなり空から降ってきて、降ってきたにもかかわらず無傷で立っている奴らである。もはや人を超越している。この情報だけでも圧倒的に危険人物である。そして、上空で、バカみたいに大きな声で演説をかました偉そうな奴は、逃げまどって、気概を見せろとか、ふざけたようなことを言っている。こんな奴らが暴れ出したら、命がいくつあっても足りない。
——どうすればいい、
紡は思考した。しかし、紡は最悪の決定を下した。もうどうにでもなれと紡は思った。生きることを放棄することに決めたのだ。
そして、遂に時は来てしまった。
「第1師団全隊員に告ぐ、アレース様より神命が下った。只今よりヴァイサイト殲滅作戦を開始せよ!」
その言葉を聞くや否や、クレーターから出てきたリビン兵達は、一斉に諭達に向け引き金を引いた。
ヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ…………
辺り一面に、銃声が響き渡り、その銃声の間隙に人々の悲鳴が響き渡る。
みんな一斉に、校門の方へ走り出し、我先にと逃げ惑っている。
「紡、しっかりして!愛と逃げるよ!」
唯一正気であった琴美は、紡と琴美の手を引いて、校門まで全力ダッシュした。一緒に走って逃げていた人達が、どんどん銃弾に倒れていく。その様子を紡と愛は琴美に手を引かれながら呆然と見ていた。
校門まで後少しのところまで来た時、
「君達、早くこっちに!!」
講堂崩壊の現場検証に来ていた、警察官達が、拳銃でリビン兵に応戦していた。
その甲斐あって、紡達は、奇跡的に校門に辿り着き学校からの脱出に成功した。
ただ、最悪な状況はまだ続いていた。学校の外もすでに戦場と化していたのである。
「君達、陸上自衛隊の駐屯地に向かいなさい。そこで保護してもらいなさい。」
陸上自衛隊駐屯地は、学校から東に1 km離れた場所に位置する。確かに、陸上自衛隊ならば、この状況に対応可能かもしれない。しかし、そこまで行くのが至難の業である。
「警察さん、一緒に来ていただけませんか。」
一緒にグランドから逃げてきた人達が、警察官達に懇願した。それはそうである。武器もなしにこの状況下で、1 kmも逃げ切れる保証はないし、そんなのは無理であることはかなり自明である。
「我々は、ここで敵を食い止めなければなりません。ですが、そうですね。浅井巡査、君が彼らに付き添い守りなさい。」
20代後半ぐらいの警察官が、諭達の自衛隊駐屯地までの引率に選出された。
「浅井、死ぬなよ。」
「井上課長も、死なないでくださいよ。また後で会いましょう。それでは、皆さん移動しましょう。駆け足で行きます。ついてきてください。」
そうして、紡達は、学校を後にした。
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