第3話 最悪の始まり

「………………紡!!!つーむーぐ!!紡、起きて、死んじゃいや!!」


微かに愛の声が聞こえる。死んじゃいや?何を言っているんだ?入学式中に死ぬわけなんて………

紡は、ハッと目を覚ました。目の前には泣きじゃくる愛と琴美がいた。愛は右腕から、琴美は、額から出血していた。


そして、目を疑った。周りには、瓦礫の山が築かれていた。さっきまで、講堂があったはずなのに、支柱だけが立っており、屋根は全部吹き飛んでいた。


未だに上手く状況判断ができない。一体何が起こったんだ。


周りからは、生徒や保護者の泣き声や呻き声が聞こえる。


遠くでは、担任が、動ける者の避難誘導しているようだった。




ああ、講堂が崩れたんだ。やっと、紡は、何が起こったのか少しずつ理解し始めた。

——あれ、親父と母さんは?


後ろに振り返ると、そこには、瓦礫が散乱して、その隙間に人が沢山倒れていた。


そこに、今朝母さんが来ていた、淡いピンクのスーツが見えた。


「母さん!」


駆け寄ると、まさに自分の母親であった。瓦礫に挟まれており、意識が朦朧としているようだった。


「母さん!母さん!」


何度も呼びかけると、弱々しい声で母さんが話し出した。


「紡、無事だったのね、愛ちゃんとことちゃんも無事でよかっ、ゲフゲフ。」


「母さんもう話さなくて大丈夫だよ、病院に連れてってもらおう。」


「紡、父さんはどこ?」


諭は辺りを見回したが、父さんらしき人は周囲にいなかった。


「父さんは、大丈夫だよ多分無事だよ、あの人いつも運だけは強いじゃん。」


そういって紡は話を濁した。


「紡、聞きなさい、母さんはもうダメかもしれない、手足の感覚がもうないの。血も流しすぎてるみたい。紡、立派に生きなさい。落ち込んでもいい、塞ぎ込んでもいい、だけど最後には立ち上がり、自分に正直に、自分の手に届く範囲の人しを愛して幸せにしなさい。愛する者を守りなさい。あなたを愛してくれる人を大切にしなさい。」


「何で、遺言みたいなこと言ってるんだよ。今助けるから母さん。」


紡は近くにあった、鉄のパイプをがれきの隙間に挟み、テコの原理でがれきに隙間を開け、母さんを助け出そうとした。


すると、横の方から、


「おーい、早く逃げろ〜支柱が倒れそうだぞ〜〜。」


講堂を支えていたであろう支柱の方を見ると、グラグラと揺れていた。


「紡、私のことはいいから早く逃げなさい。愛ちゃん、ことちゃん、二人で紡を引っ張って逃げてちょうだい。あなた達が生きていてくれることが私の幸せだから。」


愛と琴美は泣いていた。泣きながら、床に座り込み呆然としていた。


「愛、琴美、お前らだけでも早く逃げろ。俺は母さんを助けてから逃げる」


「紡!!お母さんの言うことを聞いてちょうだい!お願いだから逃げて、支柱が倒れてきちゃう。」


「そんなの知ったことかよ。愛する人を守れと言ったのは母さんだろ。俺は、母さんに死んでほしくないんだよ。」


母さんを助けようとしていたら、急に体が宙に浮いた。担任が諭を担ぎ上げていた。


「先生、紡をお願いします。安全なところまで連れて行ってください。」


母さんは涙を流しながら、息も途絶え途絶えに先生に言った。


「五ノ神君のお母さんですね。息子さんのことはお任せ下さい。頑張ってください、必ず助けに来ますので。五ノ神君! 危ないからここは一旦離れなさい。おい暴れるな。」


「母さん、母さん、先生降ろせよ、母さんがこのままだと死んじまうだろ、頼むから助けさせてくれよ!」


紡の地団駄も虚しい抵抗に終わり、担任は、紡を担いだまま、講堂の瓦礫の上から紡を避難させた。琴美や愛は腰を抜かして立てなかったため、他の先生が担ぎあげ、紡のとこまで運ばれてきた。


しかし、紡は諦めていなかった。担任が紡を地面に下ろすと、すぐに母さんがいるところへ駆け寄ろうとした。そのため、担任や先生達が、必死に紡を押さえ込んだ。


「離せよ、離せ——。」


ど—————ん


紡が担任の制止を振り切ろうとした時、突然目の前に何かが落下してきて、凄まじい轟音と、砂煙が舞い上がり、その瞬間、紡達は衝撃波で飛ばされた。










右手が痛い



気がつくと紡の右手から血が流れている。瓦礫が腕に刺さったらしい。


「何が起きたんだ、愛、琴美大丈夫か……、それに、母さんは!?」


愛と琴美は紡のすぐ横に吹き飛ばされていた。一方、紡が講堂の方を見ると、そこには深さ2mほどのクレーターができており、講堂が崩壊してできた瓦礫は周りに吹き飛んでいた。

そして、母さんがいたはずの場所は、何も存在していなかった。


——母さんも父さんも死んだ……


紡は、顔面蒼白になり、呼吸も早く過呼吸気味になってただただ、思考停止状態に陥っていた。


そんな紡を尻目に、愛が一言だけ発した。


「リビンが来た……。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る