第4話「カワイイ」

 お父様、お母様、すみません、俺、今日捕まるかもしれません……。




「それじゃ、今から生徒会の仕事について大まかに説明をします」


 俺は今、皐月との挨拶を済まし、生徒会の仕事について教えてもらおうとしてた。

 

 生徒会には大きなテーブルが1つ置いてあり、そこに椅子が4つ配置されている。

 テーブルのサイズは、一般的な家庭のリビングにあるものより少し大きい程度だ。

 俺は、皐月にそこへ座るように指示をされた。

 だがここで問題が起きた。

 俺が席に座ると、彼女は俺の真横、それも人1人分もないほどの近さに椅子を移動させ座った。

 彼女からは、言葉にできないほどのいい匂いがした。

 言葉に表すなら爽やかでシトラス系の匂いだ。

 

 いや、言葉にしちゃってんじゃん。


 やばい……匂いが鼻を通して脳に直接……。






 危なかった、危うくイキかけたぜ。

 それにしても、こいつの匂い、中毒性でもあんのか、ハマっちまいそうだ。

 しかし、俺はまだ警察にお世話になるわけにはいかないからな。

 ん? この言い方だとそのうちお世話になるみたいじゃないか。

 まぁ、先のことは誰にもわからない、こんなカワイイ奴の近くにいたらそのうち襲ってしまうかもしれないしな。

 

 

 取り敢えずいったん落ち着こう、近くにいるのがやばいなら離れてもらえばいいだけなのだ。


 「あの〜、少しだけ近くないかな?」

 「え……あっ、そうですね、嫌ですよね……」


 あれ、なんかすごい落ち込んでるんだけど、顔なんか俯かせて、ちょっと小動物みたいでカワイイな……。

 いや、違うだろ彼女は今、俺の発言のせいで確かに落ち込んでしまった。

 でもなぜだ? 俺は今少し近いとしか言っていないのに……。

 

 あっ、俺はふと中学の時のことを思い出した。

 中3の修学旅行の時だった。

 俺は、クラスで集合写真を撮るからと教師に適当に並ばされた。

 俺は、運悪く女子の、それもかなり気の強そうな女子の隣だった。

 俺は出来るだけ間を空けて身体を近づけないようにした。

 しかし、カメラマンはそんなこと露知らず。

 だれでも一度は聞いたことがある、あのセリフを放ったのだ。


「もうちょと寄って、間隔狭くしてー‼︎」


 この言葉を聞くと、隣の男子は俺を押すように身体を寄せてきた。

 男子が身体を寄せるって言葉にするとかなり字面がヤバいな……まぁ気にしないでおこう。


 男子が身体を寄せたことで俺と気の強そうな女子の距離はかなり狭まり肩がつきそうなほど近づいた。

 そこで彼女は言ったのだ。


 「ちょっと近くない」


 俺はその時かなり傷ついた、だってめっちゃ嫌そうな顔で言うんだもん。

 


 俺はそんな過去のトラウマを思い出していた。

 皐月も同じような気持ちなのだろうか。

 まぁ、俺は嫌そうな顔はしていなかったと思う、むしろかなりだらしない顔をしていただろう。

 

 理由はどうあれ彼女が落ち込んでしまったのは事実だ。

 ならば俺は、彼女を落ち込ませた責任として彼女に何か言ってあげなければいけないのではないだろうか…………よし、こういう時は正直な気持ちを伝えるべきだろう。

 

 「皐月、俺は別に嫌だから近いって言ったわけではないんだぞ」

 「いや、気にしなくて大丈夫ですよ」


 そう言うと、彼女の顔はさらに暗くなった。


 「いや違う、よく聞け、むしろ逆なんだよ」

 「逆とは?」

 「俺は、皐月が嫌だから近いと言ったわけではない、むしろ近くにいると襲ってしまいそうになるから離れてもらおうと思ったんだ」

 「えっ……」


 俺が正直に話すと彼女は動きを止めてしまった。


 「なんですか急に、セクハラですか、そんな……襲いたいなんて……」


 ん? 襲ってしまいそうになるとは言ったが、誰も襲いたいなんては言っていないぞ。


 「すまんすまん、言葉足らずだった、別に襲いたいってわけじゃないんだ、ただ皐月みたいにカワイイ奴と身体が触れそうになるとな……その俺も男な訳だし……」


 頼む、察してくれ、こう言った男の子の話は女子とは話したくないんだ。


 あれ、皐月の様子がまたおかしくなった。


 「えへへ、カワイイって言ってくたどうしよう嬉しくて顔がニヤけちゃう」


 彼女は俯きながら、ぶつぶつと何か言っているが俺には聞こえなかった。

 前もこんな事あったな。


 「どうしたんだ?」

 「いえ、どうもしないです」


 俺が問うと彼女は素早く顔をあげてそう言った

 彼女の顔は耳まで赤く染められていたが、表情はとても険しい顔をしていた。

 目なんてキリっとしすぎてめっちゃ怖い。 

 例えるなら、獲物を殺さんばかりに睨むライオンみたいな感じ。

 

 「真叶は、いつもそうなのですか」

 「いつもってなんのことだ」

 「その……カワイイって……カワイイって誰にでも言ってしまうような、すけこましだったのですか」

 「いや、すけこましって今日日聞かないぞ」

 「そんなことはどうでもいいのです‼︎ 真叶は誰にでもカワイイとか言うんですか」

 「どうでもいいのかよ」

 「はい。で、どうなんですか」

 「いや、誰にも言わないけど」

 「え、そうなんですか」

 「そりゃそうだ、てか言う相手もいないしな」

 「へぇ、相手もいないですか……」

 「ああ、だからカワイイなんて言うのも皐月にだけだな」

 「なっ、だからそう言うことはあまり軽々しく言わないで下さい」

 

 どうせちっちゃい時から言われていて慣れてると思っていたのだが、そうでもないらしい。

 それにしても照れながら嫌がる姿、なんか心の奥が刺激されるて、新しい何かに目覚めそうだ。


 「皐月はカワイイな〜」

 「だからやめて下さい‼︎」

 

 彼女は、やはり嫌がりながらもどこか嬉しそうに照れている。

 今後この事をと名付けよう。


 「カワイイな〜」

 「だから」

「皐月はカワイイぞ〜」

 「やめてって」

 「誰よりもカワイイな〜」

 「言ってるじゃないですかーー!!」


 皐月は走りながら生徒会室を出ていってしまった。


 やばい、やりすぎたな、少し、いやかなり調子に乗ってしまった。

 しかし本当に可愛いかったな。

 まぁ、俺も今日はかなり、たがが外れていたからな、今後はこんな事はないようにしなければならないな。

 それにしてもちゃんと謝らないとな。




 この後、彼女に謝るも、口をきいてもらえなかった事は、語るまでもない。

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