第6話 衝撃の再開

「あー緊張するな」


手で胸を撫で下ろしながら俺は深呼吸をする。


俺が何故今ここまで緊張しているのか、それは数日程前に遡る。


ヘンリオン家とマチョス家との問題が終わり俺はいつも通り食堂にて食に感謝しながら胃袋を満たしていた。


そこにちょっといいかとやってきたシャルロットに連れられて人気のいない場所に連れていかれた俺はそれはそれは色々な想像を働かせた。


しかしそこで言われたのは俺の想像を凌駕するものだった。


ヘンリオンと同じ公爵家であるブシャール家の人が俺に面会を申し出ているらしい。


最初はヘンリオンの件で怒って俺殺されるんじゃと思ったがどうもそうじゃないらしい。


厳格なブシャール家の当主であるクロード=ディ=ブシャールは問題の目立つヘンリオンに目をかけていたらしく今回の件でヘンリオンも少しは大人しくなるだろうと考えているらしい。


それでこの問題の立役者だと考えられている俺に是非とも礼したいと。


しかし公爵家であるブシャール家の当主ともなれば多忙を極め俺との面会など中々とることはできない。


そこで同じ学園に通い年も近い一人娘であるエリサ=ル=ブシャールに代役を任せた。


それで俺は今その一人娘のいる学園の応接室の前にいる。


昨日までは公爵家の一人娘と面会だと有頂天だった俺も時間がたつにつれ自分が会う人物がいかなる人物なのかを再認識した。


それからはずっと緊張しっぱなしだったおかげで一睡もできなかった。


シャルロットが一緒ならまだ多少は緩和されただろうが対一で面と向かって話をしようと言われたからには一人で行かなければいけない。


「よし」


覚悟を決めた俺はドアをノックする。


「どうぞ」


ドアの向こうから声が聞こえてきたのを確認すると俺はドアを開けて部屋の中に入る。


中にいたのは整った顔立ちと気品が漂う女性だった。


それはこの前、シャルロットと別れた時にすれ違った女子生徒だった。


あの人公爵家の娘さんだったのかと思いながら俺は部屋のソファーに座る。


「初めまして。エリサ=ル=ブシャールです。お父様は現在別用で国外におられるので私が務めさせていただきます」


「ルイス=エル=オルガドです。よろしくお願いします」


軽い挨拶を済ませたところで話が始まる。


「まず、今回はありがとうございました。ヘンリオン家には我々ブシャール家も手を焼いておりまして」


「ありがとうございます。ブシャール家の人にそう言っていただけて光栄です」


「この件にはお父様も絶賛しています。いつか正式にあなたと面会したいと」


どうやらブシャール家の俺に対する評価は高いようだ。


エルサさんの言っていることがお世辞でないことを祈ろう。


「しかし、ヘンリオン家は何代も前から傲慢で頑固な貴族として有名です。そのヘンリオンに一体どうやって要望を飲ませたのですか?」


「あれは、言葉としては悪いですがヘンリオンが馬鹿だったから実現できたんですよ。ヘンリオンがもう少し利口ならあそこまで上手くはいかなかったでしょうし」


事実あれはかなり強引な手だったと自分でも思っている。


ヘンリオン家は何でまだ存在して権力を握っているのか謎なほどに今まで問題を起こしてきた。


議会での失言の数々に公爵の身分にいながらの脱税疑惑、その他いろいろ。


だから叩かなくてもホコリが出るとふんであれを実行したのだ。


今思えば結構な博打行為だった。


「そうですか、まあこれでヘンリオン家も懲りて問題を犯さなければいいんですが。貴族は今とても不安定な立場ですので」


「でうでしょうかね、あれ多分天性の馬鹿ですよ」


「ふふ、あなた、結構言いますね」


エルサさんは少し笑いながらそう言った。


「そう言えば、もう一つお伺いしたいことがあるのですが」


「何でしょうか?」


エルサさんは少し貯めてからまたしゃべりだした。


「これから話すことが分からなければ、このことは忘れてください」


エルサさんはすうっと息を吸い込み何かを決心したように口を開いた。


「東京都港区」


その言葉に俺は衝撃を受けた。


この世界に東京都も港区と言う地名は無い、だからその地名を知っているのはかつて俺のいた世界住んでいた人だけだ。


そしてもう一つ驚いたことがある。


東京都港区は俺の実家の住所だ。


まさか、この人は本当に。


「楓、なのか?」


俺がそう言うと、エルサさんの表情は少し涙目になっていた。


「本当に、兄さんなんですね」


なんでだ、なんで楓がここにいる?


俺は頭の中が真っ白になる。


「なんで、お前がここに」


「兄さんと同じ理由ですよ」


同じ理由、まさか楓も自殺したのか?


「同じ理由って、なんでそんな」


楓は少し間をおいてしゃべりだした。


「兄さんが自殺したことを、私が知らされたのはいつか分かりますか?」


「いつって、見つかった時じゃ」


「私が留学期間が終わって帰ってきた時ですよ。理由を聞いたら留学で勉強中の私の邪魔をしたくなかったと」


俺が自殺した日は楓の留学が終わる一週間前だ。


「その後、兄さんの葬儀が終わった後、両親がなんて言ったか分かりますか?」


楓の声は怒りで震えていた。


「あのバカ息子が死んだせいで葬儀の手続きやらが面倒だの世間体がどうだのと。私が最も許せなかったのは(でも出来の悪い奴だったから丁度良かった)ですよ。それが親のセリフだと?」


楓はまだ話を進める。


「その時私は思ったんです、ここは私のいる場所じゃないと。私の居場所は兄さんのところだと。それで兄さんの墓ができた次の日に、その墓の前で、自殺したんです。兄さんに会うために」


その話を聞きいた時、今まで感じたことのない衝撃を受けた。


両親が俺のことをどう思っていたのかもそうだが、何より楓が自殺した理由は俺のせいではないのかと考えてしまう。


俺が自殺しなければ楓が死ぬことはなかったのではないか?


楓は俺と違って友達も多かったし何より何に対しても才能があった。


俺は楓の輝かしい未来を潰してしまったんじゃないのか?


「俺は、またお前に迷惑をかけた。それがこんな結果になってしまった」


「そんな、私は兄さんを迷惑だと思ったことなんて一度も!」


「そう言ってもらえて嬉しいよ」


何はともあれ今俺がすべきことはこの現実に目を向けることだ。


楓は俺に会うためにこの世界に来てくれた、なら俺もそれに答えよう。


「なあ楓、この後時間あるか?久しぶりに兄妹の時間を過したいんだけど...」


「...はい!」


楓は心底嬉しそうに返事をした。



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