第5話 解決。

俺達は数時間かけて学園に帰ってきた。


「大傘さん送っていただいてありがとうございました、アベルさんとケビンさんも」


「後のお二人もしっかり送るので安心してください」


俺は軽く頭を下げて学園に向かう。


抜け出したことがバレないように柵をよじ登って寮に入る。


しかし国内外の重要人物のご子息が通う場所の警備がこんなザルでいいんだろうか。


巡回の警備員をうまいこと避けて寮内の部屋に入る。


「ただいま」


俺が部屋に入るとマーシとロジエが駆け寄ってくる。


「ルイス、よく戻ったな!」


「心配しましたよ」


二人の目元を見ると凄いクマが見えた、もしかして俺が出発してからずっと寝ていないのか?


「お前ら凄いクマだぞ」


「ええ、ルイス君が心配でずっと寝れなかったんですよ」


やっぱりそうなのか、凄い心配かけたな。


「それで、何か収穫はあったのか?」


「ああ、それは凄いものがな」


俺はアースノブでの出来事を可能な限り2人に話した。


流石に大傘さんのことは喋らなかった、これ以上心配をかける訳にはいかない。


「まあそんなわけだからさ今日は早く寝ようぜ、お前らも寝てないんだろ?」


「そうだね、ルイス君明日マチョスさんに会いに行くの?」


「ああ、早く顔出さないとな、これからヘンリオン家に向かうわけだし」


「そういやそれが本題だったな、大丈夫かルイス、過労死とかしないよな?」


「胃に穴なら開きそうだぞ」


そんな話をして眠りにつく、俺はシャルロットに合わなきゃならないから早めに起きなきゃならないけどな。


いつもより一時間以上早く起きた俺はシャルロットとの待ち合わせ場所に向かう。


これまたバレずにコソコソと行かなければならない。


俺は巡回している警備員を上手いこと避けて待ち合わせ場所に向かう。


昨日と言い今日と言いもしかして俺はアサシンの才能があるかもしれない。


きっと奥に眠る日本人としての忍者の血が騒いでいるんだろう、俺の祖先は百姓だったらしいけど。


待ち合わせ場所に着くと既にシャルロットがいた。


「よお、早いな」


俺が声を掛けると凄シャルロットは凄い勢いでこっちを振り向いた。


「ルイス!心配したぞ!」


「ああ、俺もお前の首が心配だよ」


振り向くとき首とかやってなかったらいいけど。


「それで、結果は?」


「ああバッチリよ、いつでもいけるぜ」


「なら、急で悪いんだが今週の週末はどうだろう」


「ああ、全然かまへんで」


ずっと大傘さんと一緒にいたから関西弁が移ってしまった。


ていうかこの世界に関西ないし、なんていうんだろう。


「なら決まりだな、私はヘンリオン家に連絡を取っておく」


「じゃあ俺はそれまでちょっとゆっくりしとくわ」


じゃあと言って俺はシャルロットと別れた。


とりあえずマーシとロジエ誘って食堂行くか、寝るにはもう遅いし。


部屋に向かって歩いていた時向こう側から人が歩いてきた。


なんだ?こんな朝早くに。


制服を見るに中等部の女子生徒っぽいな、見つかったら面倒だし適当に隠れるか。


そばに生えていた木の陰に隠れて相手が通り過ぎるのを待とう。


にしても流石中等部からこんなところに在籍できる家なだけあって美人だな。


ん?なんか見たことある顔だな、俺にこんな金持ちの知り合いはいないはずだけど。


なんだろう、知り合いというかもっと親しい関係だったような。


そこまで多くない俺の関係ある人物を考えているとある答えが出てきた。


でもそれはあり得ない、あいつがこんな場所に、いやこの世界にいるわけがない。


昔、この世界に来る前の俺が家にも学校にも居場所がなかった時俺に唯一味方してくれた、俺の実の妹、工藤楓。


いや、考えすぎだ。


楓がこの世界にいるわけがない。


顔が似てるだけの別人だろう。


その時相手がこっちを見て少し微笑んだように見えた。


「はは、まさかな」


頭にちょっとした疑問を残しながら俺は部屋に戻った。


時は流れ今日はいよいよヘンリオン家に出向く日だ。


今までの労力が意味を成すか、それとも無駄になるか。


全て今日で決まる、俺の首とマチョス家の命運がかかっている。


「準備はできたか?」


「ああ、行こうか」


俺とシャルロットはマチョス家が用意しれくれた車に乗り込む。


この車、入学式の時にシャルロットが乗ってたマセラティじゃん。


汚さないように慎重に乗ろう。


「出してくれ」


シャルロットの合図で車が走り出す。


流石高級車といったところか、乗り心地は最高だ、出来る事ならずっとこのままがいい。


「そのスーツ、よく似合ってるじゃないか」


「ありがとよ、でもなんか落ち着かねえな」


俺は今シャルロットが用意してくれたスーツを着ている。


流石に貴族と面会するんだからそれ相応の服装で行かなくてはならない。


ヘンリオン家のような高貴な身分の貴族なら尚更だ。


でも俺はそんな服なんて持ってない。


それでシャルロットが用意してくれた訳だが、出てきたのが滅茶苦茶高そうなスーツだった。


大傘さんが着てたのとはまた違った感じだ。


今ままでこんな高い服着たことないからか、凄いそわそわする。


それで俺はさっきからネクタイを緩めたりしてる訳だ。


早くこの服に慣れないと面会どころではない。


「早く慣れないとな、もうすぐだろ?ヘンリオン家の屋敷って」


景色はすでに町から郊外にさし変わっている、ヘンリオン家の屋敷があるのもこの辺りだ。


「ああ、この先だ」


「いよいよだ」


少し走ると大きな屋敷が見えてきた。


アースノブで見た大傘さんの屋敷をもっと大きくした様な感じだ。


壁には彫刻が施され、門の先には大きな噴水がある。


ザ貴族の屋敷といった感じだ、一目見ただけで威圧感を感じる。


車が門を通り玄関の前で停まり俺達は車から降りる。


玄関の前には使いの人と思わしき人が立っていた。


「シャルロット=ブルーニ=チョマスです」


「ルイス=エル=オルガドです」


俺達は車から降りて使いの人に頭を下げて挨拶をする。


「ヘンリオン家執事のナセル=エル=ジャコーです、お二人のことはヘンリオン様よりお伺いしております。こちらへどうぞ」


俺達はナセルさんに案内され当主のいる部屋に連れてこられた。


重厚感のある豪華な扉、いかにも当主の部屋といった感じだ。


「ヘンリオン様、お客様がお見えになりました」


「入れ」


扉がギイっと音を立てて開く。


その先には小太りで髭を生やした男がこれまた豪華な椅子に座っていた。


この男が、ヘンリオン家六代目当主イボン=ド=ヘンリオン。


「失礼します、私は」


「ああ、いい。貴様のような平民の名なぞ聞きたくもない」


イボンはそう言うと葉巻を取り出し何やら道具を取り出しいじり始めた。


しばらくしてその葉巻をこっちに向けて合図をした。


「ど、どうぞ」


シャルロットがポケットからライターを取り出し葉巻に火をつけた。


数十秒ほど火を当て続けたところでライターをしまう。


「座れ」


俺達はイボンの前にある椅子に座るよううながされた。


「おい、貴様」


イボンが俺を睨む、俺何かした?


「貴様のような平民風情がわしの家にある椅子に座れると思っているのか?貴様は立っていろ」


何と言う横暴ぶり、しかしこれはこれで好都合だ。


「分かりました」


これはシャルロットの隣に立って話をすることにした。


「要件は、借金のことか?」


「はい」


「悪いがその件については意見を変える気はない。金を払うか、領土を渡してお前さんがわしの所に嫁ぎに来るかだ」


「その件ですが」


俺はイボンの前にアースノブで入手した書類を並べる。


「なんだこれは」


「読んでいただければわかるかと」


イボンは書類を少し読み机に投げ捨てた。


「ふん、くだらん。ここに書いてある事はすべてデタラメだ」


ここまでは予想通りだ、書類に書いてあることが事実でも虚実でも相手は嘘だと主張するだろう。


俺の計画はこれからだ。


「本当にそうでしょうか?」


「どういうことだ」


「ここに書いてある事が本当にデタラメなのでしょうか?」


「だからそう言っているだろう」


「疑惑の本人が言っても説得力はありませんよ、だから第三者に頼んで徹底的に調査してもらいましょう。そうすればあなたの身の潔白は証明されます」


「ふん、どうせ探しても何も出てはこないぞ」


「それは税務署の人間を囲っているからですか?」


「なんだと?」


イボンの表情がさらに険しくなる。


「あなたが税務署の人間を囲っているから税金をちょろまかすことができているんでしょう?治める税金よりも税務署に払う賄賂の方が安くつくから」


「貴様、調子に乗りおって!」


予想通りだ、イボンは俺の挑発に乗ってきた。


「俺みたいな素人がちょっと調べただけでこれだけ出てきたんです。もし反ヘンリオン家の議員や貴族が本気で調べれば、一体どうなるんでしょうね」


それを聞いた瞬間ヘンリオンは机を叩き立ち上がる。


「さっきから黙って聞いていればいい気になりおって!貴様らのような畑を耕すしか能のない連中は黙ってわしらに税金を納めておけばいいんだ!おい、この平民をつまみ出せ!」


イボンがそう言うと外からごつい男が入っていて俺を引っ張り上げた。


「明日また来ますよ、ヘンリオンさん」


「貴様なんぞ二度とこの家には入れんわ!」


「いいえ、あなたは入れたくなりますよ。そしてマチョス家の借金も、帳消しにしたくなるはずです」


俺はそのまま二人に両脇を抱えられ廊下を引きずられ屋敷から投げ出された。


「痛えな、もうちょっと優しく扱えや」


俺の訴えに投げ捨てた連中は知らんぷりして屋敷に戻っていく。


とりあえずどっかで休憩しよう、明日もう一回ここに来なければならない。


俺は遠くに目をやる、すると向こうからトラックが一台走ってくるのが見えた。


俺はそのトラックに手を振り停まってくれるように促した。


「なんだい兄ちゃん」


「おっちゃんこのあたりに泊まれる場所ない?」


「この先にあるぞ、ちょうど通り道だから送っててやろうか?」


「ありがとう頼むよ」


俺はトラックに乗って宿まで移動する。


「兄ちゃんこんな田舎にスーツなんか着て何してたんだ?」


「いや、ちょっと用事で人と会ってましてね」


俺がそう言うとおっちゃんはふーんと言いながらシフトレバーを動かした。


トラックが進むにつれ景色が変わっていった。


道路は整備が満足にされてないのかデコボコしていてその周辺に建っている民家も貧相なものだ。


「もうちょっとでつくから準備しとけよ」


おっちゃんがそう言ってしばらくするとトラックからガガガと本来聞こえてはいけないような音がした。


「おっちゃん、トラックからすごい音なってるけど大丈夫?」


「あーこれな、時々鳴るんだよ。修理しようにもそんな余裕はないし、まあ大丈夫だ」


おっちゃんはそう言うが音はだんだん大きくなっていった。


「なあおっちゃん音がやばいんだけどホントに大丈夫なの?」


おっちゃんはちょっと引きずったお顔をしながら大丈夫だと答えた。


それからしばらくしてボンネットの方から黒い煙が見えてきた。


「なあおっちゃんこれ絶対大丈夫じゃないよな、ボンネットから煙って一番やばい状況だよな」


俺は恐る恐るおっちゃんの顔を見る。


おっちゃんは絶望の顔をしていた。


おっちゃんはブレーキを踏んでトラックを停車させ勢いよくドアを開けた。


「兄ちゃん逃げるぞ!」


やっぱりまずかったんだ。


俺はドアを開けて外に出る、トラックの方を見ると大きな火が上がっていた。


「くそ、ヘンリオンがもうちょっとちゃんとした奴なら」


「ヘンリオンがどうかしたのか?」


「あいつ、高い税金取ってるくせにその他にも何かと難癖付けて金取ってくんだよ、おかげて俺たちは明日食うのもやっとの生活だ」


おっちゃんは下を向きながら手を顔に付けてそう言う。


「おーい大丈夫か」


後ろを振り向くと数人の人が長いホースをもって走ってきた。


その人達はトラックに向かってホースを向けるとホースの先からは水が出てきた。


「村の消防団の人だ、とりあえずここはこの人らに任せて村に行こう、宿もそこにある」


俺はおっちゃんと一緒に村に向かった。


たどり着いた村は実にひどいものだった。


家はボロボロだし街頭もほとんどが壊れていて使い物にならないものばかりだ。


「ひでえ荒れようだろ」


「ええ、なんでこんなことに」


「田舎の方はあまり人が住んでないから適当でいと思ってんだろ」


俺の村だって結構な田舎だけどここまで酷くないぞ。


「ほら、兄ちゃんの宿はこっちだ」


おっちゃんに案内され宿につく、宿は結構綺麗にされていて問題なく滞在出来そうだ。


「おっちゃん、この辺りに電話ある?」


「ああ、宿にあるぞ」


俺は宿に入って電話を取りシャルロットの車に電話を掛ける。


「はい」


スリーコールとしないうちにシャルロットが電話に出た。


「あ、シャルロット、久しぶり」


「ルイスか!?今どこにいるんだ!?」


シャルロットが声を荒げながら聞いてくる。


「まあ落ち着けって、俺はヘンリオンの屋敷から少し行った村の宿にいる」


「そうか、良かった。てっきり殺されたのかと」


「まさか流石にそこまでは」


しないよな?ここまで元から悪かったヘンリオン家のイメージがさらに下がってるから自分の邪魔は消し去ってもおかしくないかもしれん。


「とりあえず俺は明日もう一回ヘンリオン家に向かう」


「大丈夫なのか?今日あれだけヘンリオン様を怒らせたんだ、もう敷地内には入れてくれないぞ」


「大丈夫だ、絶対に」


「何故そう言い切れる?」


「ここまで全部計画通りに進んでるからだよ」


俺はそう言って電話を切った。


かっこよくしめたつもりだけど向こうからしたら意味不明だろうな。


俺は宿にいる受付のおばちゃんに話しかけた。


「おばちゃん、一泊だけ泊まりたいんだけどいくらかかる?」


「それだったら五ユー二だよ」


安いな、普通だったら十ユー二は取られるのに。


「はいこれ」


俺はおばちゃんに宿代を渡して部屋に案内してもらう。


「あんまり広くないけど我慢してね、その分安くしてるんだから」


部屋の中はベッド一つだけでちょっとスペースがあるだけだった。


「この村に昔みたいに活気があれば広くできるんだけど」


おばちゃんはため息をつきながらそう言った。


「あらやだ、すいませんねお客様の前でみっともない」


口元を手で隠して笑いながらおばちゃんはフロントの方に戻っていった。


俺は部屋に入ってやらなくてはならない事をして眠りについた。


十分に休息をとれた俺は再びヘンリオン家に向かう。


シャルロットが迎えに来てくれたおかげで移動手段には困らくて済んだのは幸いだ。


荒れ果てた田舎の村にいきなり高級車が現れたので村の人達は目を点にしている。


「兄ちゃん、あんた一体何者なんだい?」


おっちゃんが車の窓越しに聞いてくる。


「普通の高校生ですよ。この恩は結果で返します、お世話になりました」


しばらく走っているとヘンリオン家の屋敷が見えてくる、相変わらず馬鹿みたいにでかい屋敷だ。


門の前に着くと昨日俺を追い出した二人が立っていた。


「また来たのか」


「言ったでしょまた来るって」


「もう屋敷の中には入れないぞ」


二人は俺を睨み付けそう答えた。


「本当にそれでいいのか?あんたらのご主人様が没落するかもしれないのに」


「なに?」


「今あんたたちの最善の選択は俺を屋敷の中に入れることだと思うんだけど、いや入れたくないならやっぱりいいわ、就活頑張ってね」


「わかった、ヘンリオン様に確認を取ってくるから」


一人がそう言って屋敷に入っていった。


「おい、中に入れ。ただしお前ひとりでだ」


「だ、大丈夫なのかルイス?」


「ああ大丈夫だよ、俺を信じろって。じゃ、行ってくるわ」


俺はシャルロットを置いて屋敷の中に入っていく。


だだっ広い廊下を歩いて昨日の部屋の前までついた。


ノックをするとギイっと音を立てて扉が開く。


部屋の中には不機嫌そうなヘンリオンが座っていた。


俺はヘンリオンの前にある椅子にドカッと座る。


俺が勝手に座ったことに腹を立てたのかヘンリオンは不機嫌そうな顔をする。


「貴様、何しに来た」


「昨日と同じですよ。マチョス家の借金を帳消しにしていただきたい」


「ふん、何度言っても結果は同じだ」


「これを見てもですか?」


俺は持ってきたカバンから青い石を取り出し机の上に置く。


石にちょっと魔力を送り込むと石から声が聞こえてきた。


(貴様らのような畑を耕すしか能のない連中は黙ってわしらに税金を納めておけばいいんだ!)


その音声にヘンリオンの表情は青ざめていく。


「馬鹿な、なぜ貴様のような平民のガキが録音石など持っている!?」


俺がアースノブへ行った理由の一つ、それはこの録音石を手に入れるためだ、まあ本物は変えないからおもちゃで代用しようと思ってたんだけど。


録音石はその名の通り録音ができる石であり録音した音声を聞くには数時間ほど時間を置かなければならないが一度録音してしまえば何百年と保存が可能になる。


しかし流通量が極端に少なく運よく巡り合えたとしても到底購入できる値段ではない。


「もしこれが反ヘンリオン家の人間に渡れば大変なことになりますね。当然あなたは公爵の地位から転落、いや、最悪の場合処刑されるかも」


「しょ、処刑だと!?」


「ええ、あなたのことを殺したいと思っている人はこの国に五万といますからね」


ヘンリオンは頭を抱え下を向いた。


「ふん、そんなもの、今ここで壊してしまえば」


「まさか、これ一個だとお思いで?」


ヘンリオンの表情がさらに青ざめていく。


「ヘンリオンさん、俺の出す条件を飲めばあなたは今後も優雅な生活と地位を維持できるんです」


ヘンリオンは下を向いたまま何も話さない。


「ふふ、言っただろう、貴様の様な平民なんぞどうにでもなるとな。おい!この平民を殺せ!」


ヘンリオンが叫ぶと部屋のドアが勢いよく開く。


「な、なんだと」


ドアの向こうにいたのはケビンさんとアベルさんに銃を突きつけられた二人の男だった。


「貴様ら一体どうやってここに入った!?」


昼夜問わず多くの警備に囲まれまるで要塞と化しているヘンリオン邸に侵入することなど限りなく不可能だ。


しかしどんなものにも穴はできるものだ。


「ちょっと頼れる助っ人ができましてね。あなたが強硬手段に出ることは目に見えてましたから」


そして俺はその穴を開けることができる人を知っている。


「どうですか?さっきの発言と今の状況を見ても有利なのはこっちです」


ヘンリオンは両手を膝につけたままプルプルと小刻みに揺れている。


やがて大声を出しながら勢い良く立ち上がった。


「なめおって!わしはお前の様な平民には屈しない!...いや」


自分で言ってて自信がなくなってきたのか段々と声が小さくなっていき再びソファーに腰を下ろした。


伝統ある公爵家の当主と言えど所詮ここまでの人間だったということだ。


「それで、条件というのは?」


これでヘンリオンは完全に堕ちた。


「三つあります、まずマチョス家の借金の帳消しと今後我々にいかなる報復もしないこと。そしてあなたの領地にある村に対する支援です」


「む、村に支援を?」


「あなたが欲におぼれ過ぎたばかりにここの村は完全に廃れてしまっています。もし改善しなければ俺が音声を公開しなくてもそのうち反乱が起きるでしょう」


「く、わかった。約束しよう」


「ではこれにサインを」


俺はカバンから三枚の書類をヘンリオンに渡す。


一つはマチョス家の借金に関すること、二枚目は俺達に危害を加えないこと。


もう一つは村への支援を約束することの書類だ。


ヘンリオンはペンを取り出し書類にサインをする。


「これで契約は成立です。ではこれを」


俺は書類を受け取り録音石をヘンリオンに渡す。


「もし契約を破った場合。どうなるかはお分かりですよね」


俺はシャルロットを連れて部屋を出ようとする。


「本当に、本当に私はこれで大丈夫なんだな!?」


「ええ、約束は守ります」


俺はそう言って部屋を出る。


出るときにチラッと見えたヘンリオンの姿は、センドブル王国の公爵とも思えないほど惨めなものだった。


屋敷を出た俺達を見るやシャルロットはこちらに駆け寄ってきた。


「ルイス!それと、ケビンとアベル?なんでここにいるんだ?」


「まあいいじゃねえか。それとさ、借金の件、もう心配しなくてもいいぞ」


え?と言った顔をしながらシャルロットは俺の方を見る。


「そ、それはどういう」


戸惑うシャルロットを背に俺達は車に乗り込む。


「本当に、終わったのか?」


少し遅れて車に乗ってきたシャルロットが俺に聞いてくる。


「ああ終わったよ、これでマチョス家は金を払う必要はない」


「凄いな、君は」


シャルロットは窓の外の、遠くを見てボソッと呟いた。


「ありがとう、本当に、何と言ったらいいか」


「礼はいいよ、半分自分のためだし」


「し、しかし」


自分がされたことに対して何もしないというのは今まで礼儀やら何やらをたたき込まれたシャルロットにとっては抵抗があるのだろう。


「分かった分かった、じゃあ飯奢ってくれ。今日まだなんも食ってなくてよ。言っとくけど俺練習終わりのラグビー部よりも食うからな」


「そうか、なら私の知る限りの最高の店に案内しよう。思う存分食べてくれ」


外では太陽がまだ高々と昇っていてずっと我慢していた腹の虫も耐え切れなくなって次から次へと鳴き出している。


勝利の美食で黙らせるとしよう。


「よしそうと決まれば早速行こう。今日の売り上げに多大なる貢献をすることになるぜ」


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