第3話 新たな問題。

あの後、俺には悪質ないじめが待っていると思っていたけどそうでもなかった。


あの一件から数か月がたち時期は学期ごとに一回の期末テストに差し掛かっていた。


これだけ何もしていないのはなんだか不気味だ。


「案外、忘れてくれたりしたのかもな」


俺は唐突にそんなことを呟く、あり得ないだろう。


あいつがあれだけの怒りを抑えてられるわけがない。


もしかしたら裏でとんでもない復讐の準備をしているのかもしれない。


なんにして他の奴を巻き込まないでもらいたいものだ。


「ルイス君、テストの結果どうでした?」


「ああ、あんまり良くなかったよ、おかしいなあもっと解けたと思ったのに」


テスト結果の内上位者十名の名前は掲示板に張り出される。


名前を見てみると貴族や資本家の大物などのビックネームが名を連ねていた。


すごいなあ、やっぱりああいう将来国を担っていく人たちはめっちゃ勉強してるんだろうな。


それともあまり考えたくないが寄付金を支払ったとか。


ここに来てから考え方が卑屈になってきたなとか考えていると端の方で肩を落としている女子生徒を見つけた。


その女子生徒には見覚えがある、入学式の日にバス停で見かけたマセラティに乗っていた子だ。


頑張って勉強したのに思ったよ成績が良くなったのだろうか、それにしたって様子がおかしい。


何というか親でも殺された様な顔をしている。


その女子生徒はふらふらと向こうに歩いて行った、一体何だったんだろうか、不気味だ。


「なあマーシ、食堂行こうぜ、ロジエも誘ってさ」


「いいけど夕飯まではまだ時間あるよ?今から行ってもめぼしいものはあんまりないかも」


「デザートぐらいはあるだろ、おやつでも食いに行こうぜ」


「じゃあロジエ君誘ってくるね、ルイス君は先に行ってて」


マーシはそう言ってロジエの元に行った、あいつも段々俺らと話すのに慣れてきたようだ。


しみじみとマーシの成長に感動しながら俺は足早にその場を後にする。


食堂で何を食べようか、ケーキか?シュークリームか?それともタルトか?


なんにしてここの食堂、メニューの充実度は半端じゃない、流石名門だ高い学費を取るだけはある。


今の気分はルンルン状態だ、なんせ今から美味い菓子が食えるんだから。


そんな時俺の降伏をかき消す様にドンドンと何やら鈍い音が聞こえてくる。


その音が聞こえる方を見てみるとさっきの女子生徒が拳で壁を殴っていた。


何やらぶつぶつと呟いている、なにあれ怖い。


早く立ち去ろうと思ったのもつかの間、その女子生徒が頭を思いっきり後ろに下げた。


もしかしてあれ壁に頭をぶつけようとしてるのでは?


「ちょちょちょっとまて、流石にそれはまずいて!」


ああしまった、思わず声が出てしまった、そしてこれから面倒くさいことになっていくんだ。


「何だ、お前には関係ないだろう。それともあなたも笑いに来たのか?落ち目の貴族令嬢って」


「いや、別にそんなつもりは」


この人怖い、まず目が怖い、次に話し方が怖い、もう全部怖い。


「だったら何だ?私に何の用があるのか?」


「いや、流石に壁に頭を打ち付けるのはやめたほうが...」


「別にいだろう、死にたい気分なんだ」


何ということだ、一人の女子生徒が自殺する場面に出くわしてしまった。


とりあえず何とかなだめるためにいったん話を聞こう。


「そ、そのお、もしよければ相談に乗るけど」


女子生徒の目がさらに怖くなる。


怖い、早く解放されたい。


「ほ、ほら、人に話した方がスッキリする時もあるし」


「分かった、だがどうせお前には分からないぞ」


「じゃあとりあえず食堂で何か食べながら話そうか」


俺は女子生徒を連れて食堂に向かった。


食堂に着いてからしばらくすると女子生徒は冷静を取り戻し今は顔を真っ赤にしている。


「恥ずかしい所を見せてしまった」


さっきのがだいぶ恥ずかしかったんだろう、ずっと下を向いている。


「申し遅れてた、私はシャルロット=ブルーニ=チョマス、マチョス家の人間だ」


マチョス家、マチョス家、なんか聞いたことあるな。


「マチョス家ってお前、俺の地元の領主か!?」


思い出したぞ、マチョス家っていえば代々俺んちの周辺を治めてる伯爵家のことじゃねえか。


「あなたもカーイス出身なのか?」


「ああうん、ルーラルって村の出だ」


まさかこんな所で同じ出身地の人間と会えるとは思ってもみなかった。


「で、なんであんなに荒れてたんだ?」


「ああ、実はな」


話を聞くにこうだ、マチョス家は昔領地の運営に困った時公爵家であったヘンリオン家に借金をしたらしい。


その借金はずいぶん前に返済したはずだったが最近になって向こうが未払金があると迫ってきた。


マチョス伯爵は完済したはずだと言ったが聞く耳を持たず返済を迫った。


そしてその額は本来借りた額に利子が付き何倍にも膨れ上がっていた。


向こうは領地を明け渡す事とシャルロットを自分の息子であるパトリックと婚約する事を条件に借金を免除するとマチョス伯爵に言ったらしい。


領地を奪われることはこの国の貴族にとっては死を意味する、しかし到底返済できる額でもない。


尚且つ相手は公爵家、王族の血を引く家系なので逆らうわけにも行かない。


マチョス伯爵は何とかしようと動いていたのだがそれが災いしてしまい過労で倒れてしまった。


「しかもヘンリオン公爵は何かと黒い噂が絶えないんだ、そんな人に領地が渡ってしまったらどんな使い方をするかわからない」


うーん貴族も何かと大変そうだ、何とかしてあげたいがなんせ貴族同士の問題だ、俺みたいな一般人が解決できる問題でもない。


「何とかしてあげたいけど俺じゃ到底力には」


「おや、シャルロットじゃないか」


ある男が話に割り込んできた、この展開は二回目だぞ。


「パ、パトリック様...」


「僕のものになる準備はできたかいシャルロット」


パトリックはそう言ってシャルロットの身体をいやらしく触る。


なぜこういう身分が高くて自己中心的な連中は人が話してる時に割り込んでくるのだろうか。


「パ、パトリック様、ここでその様な行為は...」


「何を言ってるんだい、結婚したら毎日するんだ、それにここで僕に文句を言える人間なんていないよ」


パトリックの発言にシャルロットはもう限界のようだ、凄く引きずった顔をしている。


「だから大人しく僕のものに」


「あのー」


「なんだ、お前は」


パトリックが不機嫌にこっちを向く。


「お前とシャルロットの間に何があるのか知らないけど俺には少なくともシャルロットは嫌がってるように見えるんですよ」


「なんだお前は、このパトリック様に口出しするのか!?」


家がいいところでプライドを持っていて自分に自信がある、レーズと同じタイプか。


この学園にはまともな金持ちはいないのか?


「俺はただの庶民の田舎者ですよ」


「田舎者?田舎者だと?ふん、本来なら口もきけないほど高貴な僕に出会えて自分の立ち位置が分からなくなったのか?これだから世間知らずの田舎者は」


「ええ、あなたと比べたらチリごみ程度の存在ですよ。でも安心しましたよ、公爵の息子もあまり俺と変わらないようで」


パトリックは更に不機嫌になっていく。


「君、それはどういう意味だね」


パトリックは眉毛をぴくぴくと動かしながらそう言う。


「入学式の時程度の悪い成金の息子がいましてね。それがパトリック様とよく似た人でして、公爵家の人も庶民に寄り添ってわざとそんな態度をとってるんですよね?」


「貴様、それではまるで僕が程度の悪いと言っている様じゃないか」


「様じゃなくてそう言ってるんですよ」


俺のこの発言でパトリックの怒りは頂点に達した。


「貴様、どうやら自分の身分をわかっていないようだな。貴様の様な庶民なんぞ簡単に潰せるんだ!謝ったってもう遅いぞ!」


パトリックはそんな捨て台詞を吐いて向こうに走っていった。


「これでいつの家をどうにかしないとまずいのはお前だけじゃなくなった訳だ」


シャルロットは俺を恐ろしいものを見るような目で見ている。


「あんなことを言ってどうするつもりなんだ、相手は公爵なんだぞ!」


シャルロットは俺の両腕を掴んでゆさゆさと揺らしながらそう言う。


「大丈夫だってお前には迷惑かけないからさ」


「そういう問題じゃない、君は、言い方は良くないがただの一般人なんだぞ。こんな君が公爵家の人間に喧嘩を売って、パトリック様の言うようにただでは済まされないぞ」


「大丈夫だって策はあるから」


「ルイス君お待たせ、ロジエ君探すのに戸惑って遅れちゃった」


「すまねえ、ちょっと別の校舎に行っててよ、ていうかその女子誰だ?」


マーシたちがタイミングよく来てくれた、これで話を変えられる。


「いや、さっき丁度会ってな、一緒にお茶会でもどうかと思ってな、こちらシャルロット=ブルーニ=チョマスさんだ」


「ど、どうも」


マーシとロジエが戸惑いながら挨拶をする。


まあ三人で一緒に集まろうって言ってたのに知らないやつがいたら戸惑うのも無理はない。


「まあ安心しろよ、俺だってなんの対策もなくあんなことをしたわけじゃないから」


「だ、だが...」


俺はシャルロットをなだめてマーシたちとお茶を楽しむ。


注文したカフェオレとモンブランが俺の疲れを癒していく。


隣でシャルロットが不安げそうにショートケーキを食べている。


「ああそうだ、俺来週の連休ちょっと外出するからさ、先生にうまいこと言っといてくんね?」


「どうして?ただ外出するなら外出届を出せばいいんじゃ」


「外出届って行き先書かなきゃいけないだろ?到底書ける場所じゃないのよ」


「ど、どこに行くつもりなの?」


俺がこの揉め事を解決する上でどうしても行かなきゃならない場所、この国で最もいろんなものが集まる場所。


「アースノブだ」


アースノブはこの国で最も北にある街であると同時にこの国の中で最も治安の悪い街だ。


「な、なんでそんなところに行くんだ?」


普通ならアースノブなんて大半の人間にとっては一生用のない場所だ。


だが今の俺は普通ではない。


「どうしてもいく必要があるんだよ、大丈夫だって俺を信じろ」


俺はそう言って席を立つ、これからアースノブに行く準備をしなくてはならない。


「待ってくれ」


シャルロットが俺を呼び止める、振り向くとその整った顔は獰猛な猛獣もビビる程恐ろしい顔になっていた。


「アースノブに行くのは、さっきの件のためか?」


「ああそうだ」


「何故だ?何故さっき会ったばかりの人間にそこまで出来る?アースノブに行けば、下手をすれば殺されるかもしれないんだぞ!」


シャルロットが俺の胸倉を掴んでくる、顔は相変わらず怖いままだ。


「これはお前だけの問題じゃないだろう、俺だって何とかしなきゃやばいんだ」


「なら、なら私がパトリック様に直接」


「ダメだ、それだとお前、更に厄介な条件を課されるぞ、それにあいつはそんなんじゃ俺のこと許さんよ」


パトリックがそこまで人間ができているとは思えない、シャルロットに、マチョス家にそこまで迷惑をかける訳にはいかない。


「どうしても行くのか?」


「ああ、それでちょっとお願いが」


「なんだ?」


「貴族ってさ、少なくボディーガードみたいな人っているんだろ?その人ちょっと俺に貸してくれないか?流石に一人でいくような場所じゃないからさ」


流石の俺もアースノブに一人で行くほど度胸がる訳ではない。


「...分かった、手配しよう」


「恩に着るよ」

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