第2話 新たな生活

俺がこの世界に生まれ変わって六年がたった。


この六年間で大きな変化もあった。


趣味もできたし一人称も僕から俺になった。


友達だって沢山できた、彼女はまだできてないけど。


幸運と言うか、この両親はアクティブな性格の人で俺に色んなことを経験させてくれたし色んなものに触れさせてくれた。


船に乗って釣りに行ったり、でかい山を登ったり、両親の経営してるレストランを手伝ったり。


良くも悪くもそういった経験は今の俺に相当な影響を与えたと思っている。


そのおかげでなのか前の人生で散々苦しめられた勉強への向き合い方も変わった。


親からの期待に応える為に勉強するのではなく、勿論多少はそれもあるがあくまで自分のためにするものだという考えになった。


どうせなら俺は大物になりたい、よく分からないけど王様とかになりたい。


そう言った欲があると不思議と何でも頑張れる。


自分で言うのもなんだけど俺は学校では成績は一番だったし生徒会長も務めた。


前の人生なら考えられないくらい今が充実している。


そして幸運なことにこの充実感はまだ感じれそうだ。


俺の今までの活動や学校での成績が認められ、ディープロマ学園の特待生枠の受験が許可された。


ディープロマ学園は国内外から貴族や富裕層などの上流階級の人間にとって絶大な人気を誇る名門校だ。


上流階級の間ではこの学校を卒業することは一種のステータスであり誇りらしい。


この学校に入学するには筆記試験と面接を受けそれをパスしなければならない。


ここまでだと日本の私立学校と一緒だがここからが違う。


この学校の入学条件は筆記と面接の合計の成績が合格点を超えていることなのだが、どう頑張ってこの合格点を超えることはできない。


筆記と面接で満点をとっても合格点のギリギリなのだ。


ならどうやって超えるのか?普通なら不可能に近い。


この答えは寄付金だ。


上流階級の人間は足りない点数を寄付金という名の賄賂でカバーする。


つまり入試の成績が上位であるほど寄付金の金額が多い、つまりそれだけ資金力があると言う証明になる。


だからみんなこぞってお金を出す。


聞いた話では数十億出した家もあるらしい。


今まで言ったことはあくまで噂だし確信はないがおそらくそうなんだろう。


現に年間でかかる学費は尋常ではない。


庶民が何年も貯金して手に入れる額を一年間で消費するのだ。


しかもこの学校は中高一貫校で仮に中等部からこの学校へ通っていたなら卒業までに必要なお金は普通の人間の生涯年収以上だろう。


だから幾ら上流階級といえど入学するのは高等部からだ。


そんな中で中等部から通いしかもその入試の成績が一番の奴はそれはそれは影響力がある。


今まで聞いた中では俺のような庶民には到底縁のない学校だろう。


しかしこの学校は俺がこの世界に転生する前に起きた革命、というか暴動に近いものがきっかけで貴族だけではなく優秀な庶民も入学を許すようになった。


というのもが起きた理由が貴族への行き過ぎた優遇にあったからだ。


そのため貴族御用達だったこの学校は貴族優遇の象徴として取り壊されそうになった。


そこで当時の理事長だった人が必死に説得して事なきを得たそうで。


その時にできたのが特待生制度だ。


この制度は各国各地域の成績上位者が集められ、その中で試験を受けて突破できた者が入学出来る制度であり、俺のような一般市民が成り上がるチャンスなのである。


今はそんな名門校に進学できる事と新しい生活への喜びがこみあげてきている。


因みに学校は全寮制で親とはしばらく会うことができない。


だから昨日は家族とのしばらくのお別れとしてちょっとしたパーティーが開かれた。


家族だけじゃなく村の人達や友達もこぞって来てくれた。


畑と港以外は何もない小さな村であんな学校に進学できる人間がいたってことでお祭り騒ぎになっていた。


時刻は午前五時、まだ起きるには早い時間帯だ。


ここから学校までバスを二つ乗り継いで十五分ほど歩かなければならない。


しかもここは田舎だから数時間に一回のペースでしかバスが来ない。


つまるところ一本でも乗り過ごしてしまったらその時点で遅刻が確定する。


だからこうして余裕を持って起きているんだ。


テーブルに出された朝食を食べ終え、身支度をしてバス停へ向かう。


初めて袖を通した制服は流石名門校の制服というべきか使われる生地も着心地も抜群だった。


バス停ではまだ五時半だというのに村の人達が集まって俺を見送ってくれた。


バスが走り出すと村の人達が「頑張って」とか「元気でな」とか言っていくのが聞こえてくる。


こうしてみると俺はこの村で生まれ変わって良かったなとつくづく思う。


バスは村を抜けて街に入った、早朝というだけあってどこの店も開いてないしどの家も電気はついていない。


街にいるのは朝帰りの人や店で料理の仕込みをしている人しかいない。


こんな朝早くに街に来ることがないから不思議な光景だ。


程なくしてバスの乗り継ぎ地点に着いたのでバスを降りて次のバスを待つ。


バスを待っているとやけに高そうな車が前を通った、マセラティって奴だ。


車好きの俺にとってはあんな高級車に出会えるなんて今日は付いてるって感じになる。


だけどそれよりも気になったのは後部座席に乗っていた女性だ。


あれは確かにうちの学校の制服だった、もしかしたら同級生かもしれない。


そういえばあの学校は世界各国から金持ちが集まってくる所だ、あんな金持ちなんてゴロゴロいるだろう。


今更ながら俺は凄い学校に進学したなと改めて実感する。


しばらく待っているとバスが到着した。


それから二回目の乗り継ぎ地点についてバスを乗り換えしばらくして遂に目的地、ディープロマ学園についた。


俺は立派な校門をくぐり入学式が開かれる講堂に向かう。


入学式の席は特待生と一般生に分かれていて特待生は三階の席に座らされる。


この学校は特待生と一般生との扱いに相当な差があるらしく何をするにも一般生が優先される。


簡単な話大金を払ってくれる生徒と金を払うどころかむしばんでいく生徒だったら前者を優先するんだろう。


席について式が始まるのを待っている間に辺りを見渡してみる。


特待生は元から人数が少ないしまだ式が始まるには時間があるからそんなに集まってはいない。


それよりもすごいのは一般生だ。


もの凄い数がいる、多分二、三百人はいるだろう。


こいつら全員家が金持ちなんだろうなと考えると世界は広いなと思う。


こいつら全員高い寄付金払ったのかなとか、一回の入試でいくら儲けているんだろうかとか考えるとなんか楽しい気分になってきた。


そんな有意義な時間を過ごしていると他の生徒が声をかけてきた。


「あ、あの、と、隣りの席空いてますか?」


話しかけてきたのはちょっと内気そうな男だった、きょどきょどしてるし前髪とかめっちゃ長くて前見えてんのかって思ってしまう。


どうやら席が空いてるか確認したかったようだ。


ていうか他にも席空いてるのになぜここなのだろうか、まあ別に空いてるからいいけど。


「ああうん、空いてるぞ」


「じゃ、じゃあ隣り座ってもい、いいですか?」


「ああ、うんいいよ」


俺がそう言うとその生徒はじゃ、じゃあ失礼しますと言って俺の隣に座った。


しかしこうなると話は変わってくる。


隣に座って何も話さないんじゃなんだか気まずくなるしなんとか話題を振りたい。


だけど俺がそう思っているだけで向こうは話したくないかもしれない。


そう思うと話しかけていいものか迷ってしまう、やだ俺ったら気遣いができる人。


「あ、あの」


そんな俺の思考とか裏腹に向こうは話しかけてきた、なんだ話したいのか。


「ご、ご出身ってどちらですか?」


「南の方の小さな村だよ、ルーラルって村」


「そ、そうなんですね」


「えーっとお前どこ出身なの?」


「ぼ、僕は北の方にあるルークs」


「よお貧乏人、お前もこの学校だったんだな」


いきなり会話を遮ってちゃらちゃした奴が割り込んできた。


「ここじゃあ前より俺とお前との差は明確に出るぞ、なあマーシ」


この様子からみてマーシはこのちゃらちゃしたやつにいじめられてたんだろう。


現にマーシは今にも泣き出しそうだ。


このまま何もしないってのもなんか気分が悪い。


「おいおいちょっとちょっと君」


「ああなんだてめえ?見てわからねえのか俺はこのマーシとしゃべってんだよ」


そいつがなあと言うとマーシは怯えながら小さく頷く。


「お前こそ見てわからなかったのか?明らかマーシは俺と喋ってただろ」


「だからなんなんだ?あ?お前は俺に意見できるほど偉いのかよ?」


こいつ、話が通じない。


「偉い偉くないは今関係ないだろ。俺は今常識の話をだな」


その時相手の拳が俺の頬の横を通りすぎていった。


「てめえ、次は当てるぞ」


俺の胸倉を掴みそいつはそう言った。


と言うかこれだけの騒ぎにもかかわらずだれも止めようとしない。


生徒はともかく教員の一人ぐらいは止めに来てもいいころ合いだろ、どうなってんだ。


「おいおいいきなり暴力か?お前ってこの学園に一般生で入れるほどには金持ちなんだろ?ブルジョワジーってのも大したことないな」


相手の怒りは頂点に達しそうだ。


「周りのお前の見る目を見てみろよ。いくら庶民と言えどお前がここで威張れるのは俺ら庶民のおかげだ。その庶民に見放されたら、どうなるんだろうな?」


いいぞいいぞ殴ってこい。


いくら俺が挑発したからって殴ったら悪いのはお前の方なんだ。


それでお前の親にたっぷり慰謝料を請求してやる。


相手はしばらく俺の胸倉を掴んだまま何もしてこない。


「くそ。てめえ覚えてろよ、その女みたいなてめえの面をいつかぜってえぶん殴ってやる」


やがて拳をしまって小物臭い台詞を吐きながら帰っていった。


なんだ、殴らないのか。


まあいいや痛いの嫌だし。


俺は横でガタガタ震えてるマーシの元に向かう。


「ほらマーシ、立てるか?」


俺が手を伸ばすとマーシはう、うんと小さく頷いて俺の手を握った。


「だ、大丈夫なんですか?レーズ君に目をつけられたんじゃ」


「まあ多分大丈夫だよ、ああいう奴に絡まれるのは初めてじゃないし。だからさ。過ぎたことは忘れて早く席に座ろうぜ、もうすぐ式も始まるし」


過ぎてしまったことはどうしようもないし何かあればその時考えればいい。


「そ、そうですね」


俺とマーシはそう言って席に座ると程なくして式が始まる。


式は理事長の話、担当教員の紹介と着々と進み残すは新入生の答辞のみとなった。


答辞を読む生徒が舞台へ上がると新入生答辞と言う掛け声から答辞が始まる。


内容もなんか当たり障りのない普通の内容だ。


答辞が終わると講堂内は拍手で包まれる。


内容はほとんど聞いてないけど一様拍手をしておこう。


式が終わると俺達はこれから生活する寮へ案内される。


一通り寮の説明が終わると部屋割りのメンバーが発表される。


特待生は一部屋三人で一般生は二人だが一部屋の奴もいる、一体いくら払ったんだろうか。


何はともあれ嫌な奴でないこと祈る。


「部屋割りを発表するぞ、A部屋は」


教員が順番に発表していく、なんか緊張して来た。


「D部屋、ルイス、マーシ、ロジエ」


ついに俺の名前が呼ばれた、俺は荷物を持って部屋に入る。


「よおマーシ、また会ったな」


「あ、ル、ルイス君、どうも」


「後ロジエ、よろしくな」


「ああよろしくな!」


俺は同部屋の奴に挨拶を済ませて荷物整理に入る。


今日はこのまま部屋で待機しその後校内の説明がある。


なんにしても昼までやることがないからめちゃくちゃ暇だ。


「なあ、お前って入学式の時にレーズと喧嘩してたやつだよな?」


「そうだけど」


「俺めちゃくちゃ感動したぜ、あいつにあんな言い方できるやつがいるなんて!」


突如として感動されてしまい困惑している俺がいる。


「お前あいつのこと知ってたのか?」


「ああ、というか俺とマーシとレーズは出身地がルークスで同じだからな、あいつは嫌な奴だってんで有名だったんだよ」


ルークスと言えばこの国の首都で大都会のところだ、日本でいえば東京みたいな。


発展具合も人口も桁違い、多分こいつら以外にもルークス出身の奴は何人かいるだろう。


「一様聞きたいんだけどレーズってどんな奴なの?」


「ああ、親がルークスでビルを沢山持ってるビル王でな、親の七光りで調子に乗ってとにかく滅茶苦茶するんだよ」


それから出てくるは出てくるはレーズの悪行の数々。


いじめで自殺者を出したとか愛人を囲ってるとか悪いグループと繋がりがあるとか。


まともな奴じゃないと思ってたが想像以上だった。


しかし子がこれなら親は一体どんな奴なんだ?


もしあそこで殴られてて慰謝料の請求なんて言ったら俺は一体どうなってたんだ?


そう考えると恐ろしくて寒気がしてくる。


何もなくて良かった、本当に。




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