第六章 陰謀の影

1 戦士の丘



 その日は、冴え渡る蒼が眩しいほどの空模様だった。少し冷たい風が吹き抜けて、草原をさわさわと撫でてゆく。

 草に覆われた地面に大判のラグを敷き、その上に寝転んでぼんやりと空を眺め、少し離れた所でモルックに興じるロサとティーダの歓声を子守歌に微睡む。


 ……平和だ。

 …実に安穏とした心地だ。


「ティードさんッ! …寝ないで下さいね?」

 安らかな居心地のまま意識を手放そうとした時、メアリーの甲高い声が飛んできた。その怒気をはらむ一言に、気怠い上半身を持ち上げ、歩いてくる彼女を顧みる。

 怒る…とまでは行かないが、不機嫌ないつもの膨れっ面がそこにある。両腕には馬車に載せてあった大きなバスケット。

「……起きてる」

 素っ気なく答えながら、俺はラグの上に座り直す。すると、メアリーは運んできたバスケットをラグの上にドスン、と置き、中の食器が甲高い悲鳴を上げた。


 割れてなきゃ良いが…。


俺の心配を他所に、メアリーが事務的な台詞を返してくる。

「そうですか、…それなら、良いのですけれど」

 呆れたように溜め息を吐きつつ、メアリーは俺をじっ、と見る。

 彼女の瞳には疑心が浮かんでいた。

 その責める視線から自分のそれを逸らし、誤魔化しの言い訳を返す。

「…に居眠りなんかしねぇよ」

「……、何か飲まれます?」

 メアリーは俺の返事を無視スルーして、バスケットを開くと、中から野外用の小さなケトルと茶器を出して、ラグの一角に簡易キッチンを広げ始めた。

「…水で良い」

 そう答えて青空に広がる大樹を見上げる。折り重なった枝葉の隙間から陽光が差し、木漏れ陽となったそれらがキラキラと舞って、少し眩しい。


 ここは戦士の丘。

 モルガナンシン城から少し離れた小高い丘に、樹齢何百年か定かではない菩提樹リンデンバウムが佇む草原だ。

 十体程の石像が墓標のように菩提樹を囲み、見方によっては異様であり、神聖なものも感じさせる、不思議な場所。


 今朝も、いつものように〈黄金の盾〉で適当な依頼を探そうと出掛ける準備をしていたところ、俺達を訪ねて来た使いの男に、半ば拉致される格好で馬車に乗せられ、話を聞けば、『ラピュサリスの護衛』という依頼で俺達は駆り出された。

 依頼主はラトリッジ氏。

 氏が仕え護衛するモルガナンシン王家の末裔は、月に一度【戦士の丘ここ】を訪れ、王家にまつわる伝説を語り継ぐ、ニクス・リニクスというエルフの語り部と歓談するのが習慣らしい。

 毎月この日を楽しみにしているらしく、熱心に語り部ニクスの話に耳を傾け、時折、先王や先祖について質問をしていた。

 いつもならラトリッジ氏が随行するんだが、今日は急用で都合がつかず、急遽、俺達にお鉢が回ってきたって訳だ。


「そろそろ休憩なさったらいかがですか~?」

 軽食スナックと人数分のティーカップをラグの真ん中に置いた円形の盆の上に広げたメアリーが、穏やかな声音で少し離れた所で遊んでいるロサとティーダに呼び掛ける。

 それに応えた二人は楽しそうに、笑いながら戻って来た。よほど楽しかったのか、満面の笑みで駆けてきたロサは、ラグに置いたクッションに勢い良く座り、俺を顧みた。

「ねぇ、次はティードもやろう!」

「…いや、俺は…護衛で来てるから…」

「え〜、ティーダじゃ下手ヘタすぎてゲームにならないんだもん…」

 少し不貞腐れたように頬を膨らませて俺をジィッ、と見る。その言葉にティーダを見れば微妙な苦笑いを浮かべてる。

 こういう顔をする時は、大抵が何かを誤魔化してる時だ。


 ロサの機嫌が悪くならないように、と負けてやってんだな…。


 俺の兄貴ティーダは手先が起用で、何でも卒なくこなす奴なんだ。子供相手のモルックでなんてありえない。

 ロサの言葉を受けて溜め息を吐いた俺に、ティーダが苦笑を浮かべたまま言った。

「警戒はオレがするから、相手してやってくれないか?」

 まるで、末弟の肩を持つような口振りだ。

 語り部ニクスとの歓談が終わるとそのままピクニック、ってのがいつもの流れらしく、この日も例外なくそうなり、ティーダはずっとロサ相手に遊んでいたから休憩もしたいんだろう。

 ロサがティーダの横で上目遣いに俺を見る。その瞳にある種の寂しさを見取って、俺は、仕方ない…、と答えた。

「……分かった」

「やった! じゃぁ、ランチが終わったら羽根突き遊びバドルドーアンドシャトルコックしよう!」

「……手加減しないけど、良いか?」

「いいよ~、僕、羽根突き遊びバドルドーアンドシャトルコック得意なんだ!」

 既に勝ったつもりなのか、自信ありげな笑顔を可愛らしい顔面に貼り付け、メアリー手製のサンドイッチをつまみ上げて、嬉しそうに食べ始めた。


 それから、他愛ない話をしながらメアリーの作ってきた弁当ランチを平らげて、少し休憩してから、ロサの宣言通りに俺は羽根突き遊びバドルドーアンドシャトルコックに駆り出された。



「ねぇ〜、本当にやったことないの!?」

 俺が打ち返したシャトルに追いついたロサが、目一杯の力で打ち返しながら不満げに言った。それにのらりと言葉と共にシャトルをロサが居る所とは反対の方に打ち返す。

「まぁ…、そうだな」

「それにしては…、上手じょうず過ぎるよっ!」

 そう答えて、またしてもシャトルに追い付き打ち返してくる。


 どうやら、目の前のお坊ちゃんは運動神経が良いらしい。


「っと、…思ったほど難しくないのは事実だけどなッ」

 そう答えながら、空中に放物線を描き返ってきたシャトルを強めに打ち返す。

 緩いショットが続いた後に不意打ちでスピードに乗ったショットを返すと、ロサは追い付けないと諦めて、地面に落ちたシャトルを苦々しげに見詰めた。

「あッ! ………もう!」


 羽根突き遊びバドルドーアンドシャトルコックは、コルク材の球体を半分に割った形状に削り出し、そこに水鳥かなんかの羽根を刺したシャトルを、柄の着いた木枠に硬質な糸を網状に張ったラケットで打ち合うだけの単純なもので、子供相手にやるには退屈な遊びだ。

 得意だ、と言っただけあってロサの腕前はそこそこだった。この年齢の子供にしては上手うまいし、何度か得点をリードされる事があったんだが、三ゲームを終えて、俺の全勝。

 普段、穏やかな気性のロサにも苛立ちが見え始める。

 少し離れた所で周りを警戒しつつ、こちらの様子を見ているティーダに視線をやれば、『大人気ない…』と苦笑を浮かべているし、メアリーに至っては何か言いたそうな険しい表情をしていた。


 まぁ、ここらで勝たせとくか…。


「…もういい。…もうやらない」

 俺が手心を加えようと思った時、ロサは、つまらないと言いたげに俯きながら零した。

「…次は勝てるかも、知れないしれねぇじゃねぇか」

「…勝てないかも、しれないじゃない…」

 ありったけの不満と不愉快を面に貼り付けて言い返してくる。それを見下ろして『面倒くさッ…』と内心で呟きつつ溜め息を吐き出した後、俺はしゃがんでロサの目線に自分のそれを合わせる。

 悔しそうに薄らと涙を浮かべ、俺を見返す翡翠には、得体の知れない力が宿っているように感じられて、背筋を冷たい何かが滑り落ちた。

 ただ、そこに宿る煌めきには、目が離せなくなる『なにか』があって惹き込まれる…。


 『ティード、それ以上その瞳を見るな。…されるぞ』


 脳内にアルフティードの警告が響いた。瞬間、本能的に俺はロサから視線を逸らす。

 冷や汗が首筋を流れ落ち、目の前で不思議そうに首を傾げるロサが怪訝とする。

「…ティード? どうかしたの?」

 その声にハッとして慌てて答える。

「いや…、何でもない」

 誤魔化すように答えて、再びロサを見る。

 大きな翡翠色の瞳は変わらずそこにあって、ただ不思議そうに見返してくるだけで、先程の強く惹き込まれるようなものではなかった。


 …何だったんだ、今のは?


最初に会った時に感じた不可思議な印象と今の瞳の力に疑問が浮かぶ。警告を放ったアルフティードは、こんな時に限ってしゃしゃり出て来ない。

「………」

 無言で見返してきてたロサの視線が、不意に彼の足元に転がるシャトルに移る。幼い王様の表情に浮かぶのは微妙な顰めっ面だった。

 まだ遊びたいが、自分で『やらない』といった手前、もう一度やりたい、とは言えないのか…。

 その様子に子供だった頃の自分の姿が重なる。


 一度張った意地を収める事が出来るような、素直な子供ではなかったからな、…俺も。


「……とにかく、諦めずにもう一回やってみよう? ……な?」

 自分で言っといてなんだが、この台詞におかしな気分になった。

 子供だった頃、何かと上手く出来ない俺やメリアルドに、ティーダがよく掛けてくれた言葉だったから。まさか、俺が子供相手にこんな事を言う日が来るとは想像もしなかった。

 俺の言葉に、ロサは口を尖らせたまま、地面のシャトルを見詰めて「……わかった」と呟いた。

 なんだかんだ言っても、羽根突き遊びバドルドーアンドシャトルコックが好きなんだろう。


「それじゃ、行くよ~!」

 シャトルを掲げて、ロサがサーブの体勢になり、少々強めのショットが飛んでくる。それを緩く返すと、ロサは緩慢なスピードで返って来たシャトルを容赦なく力一杯打ち返してくる。


 よほど負けたくないらしい…。


単調なラリーを何度か繰り返し、ロサにリードさせると、機嫌が直ったのか楽しそうな笑顔を浮かべてシャトルを追い駆ける。

 次にシャトルを返せなければ俺の負け、と言う局面で、思わず強めのショットを返してしまい、それは追い風に乗り、ロサの頭上を越えて、彼の四、五メートル後方の雑草の群生領域コロニーに落ちた。

「悪い! …つい力が入った」

「も〜、…どっちにしろだからティードの負けだよ~」

 呆れながらも、ようやく掴んだ一勝に機嫌良く答えたロサはシャトルを拾いに行くため踵を返した。


 コート外って、そんなラインいつ引いたんだよ…。


と思いつつ、苦笑いを浮かべて「ああ、俺の負けで良いよ」と答え、歩いてロサを追い掛ける。警護対象から離れる訳にはいかないし、何もない見通しの良い原っぱとは言え、所々に背高の雑草が群生領域コロニーを形成していて、見通しが悪いところもある。

 生い茂る雑草の中からシャトルを拾い上げ、振り返り俺を見たロサの表情が、微笑みから戸惑いと驚きに染まって、声を荒げる。

「ティード、後ろッ!」

「……?」

 後ろがどうした…? と思い振り返ろうとした時、背後から殴打され不意の衝撃と痛みに、俺は堪らずその場に崩れ落ちた。急襲してきた奴らは、どこかの群生領域コロニーの中に潜んでいたらしい。


 油断した…、ティーダは間に合うか…。

 ラケットを振り回すからって、ラグから少し距離を取ったのが仇になったな…。


痛みで混濁する意識の中、遠くで数人が揉み合う足音がして、ロサの悲鳴が聞こえた。非力ながら抵抗は試みたようだ、見かけに反して剛気な坊ちゃんだ。

 地面を伝って、遠ざかる足音、遠くから駆けてくる足音が脳内で混じって、煩い反響音を響かせる。そんな中、ティーダの叫び声が聞こえた。

「ティードッ、立て! 走れぇぇぇーッ!」

 必死の形相で走ってくるが、ティーダの居た位置からだと、アイツの脚力でも追い付くのは困難だ。

「頼むッ! …オレじゃ追い付けない!」

「……ッ、…分かってる!!」

 軽くふらつく身体をどうにか立て直す、殴られた後頭部を確認しながら遠ざかる三つの影を視界に捉え、全速力で追い駆ける。幸い、流血はしてないみたいだ。意識もハッキリしてきた。


 敵の数は三人、体格から見て蛮族じゃない。…人間とエルフか…?

 どちらにしても、同業がチェザーリの指示で動いているんだろう。


そんな事を考えながら、徽章きしょうの中で眠る小魔インプに呼び掛ける。

「オイ! 起きてんだろ、出てこい!」

 ブーツの飾りベルトに着けた徽章から黒い靄がゆるりと立ち上り、それは体高二十センチほどの人形ひとがたを象ると、いつもの異貌した俺アルフティードの姿になり、全速力で走る俺の肩に腰かけた。

 大きな欠伸を吐き出した後、のんびりと状況確認をし、他人事のように愉快だと嘲笑わらう。

『お〜お〜…なんか大変そうだな~、助けてやろうか?』

 その一言にイラッと来て、俺は思わず叫んだ。

「…その為に呼んでんだッ!」


 畜生め、無駄な体力使わせやがって…!


『なんだぁ~、偉そうだなぁ…気に食わねぇなぁ』

 思いっきりの不満を隠そうともせず、俺の髪を引っ張りながらそう言って、俺は肩に乗るヤツを手で払い除けようとしたんだが、アルフティードは素早く避けてククッと嗤い、俺の頭頂部に移って胡座をかく。それに苛立ちを堪えて頭上の小魔インプに言いつける。

「チッ! …〝アルフティード〟目の前の、あいつらを足止めしろッ…!」

『ん〜〜、お前、オレがと勘違いしてねぇ?』

「は!?」

『オレはあくまで〝ゲート〟なんだよ、魔神の依り代で、そんな大した事は出来ねぇよ? 走るのだってお前より遥かに遅いおせぇし…、飛ぶって言っても…この距離じゃ追いつけねぇしな〜』

「チッ! …使えねぇな。……じゃぁ、この状況で出来る事はッ?」

 期待外れな返答に舌を打って、現状、出来る事を問いかけると、ヤツは愉快だと言いたげに、勿体ぶった答えを寄越した。

『そりゃぁ…、魔神をぶくらいだなぁ〜』

「アァッ!? マッ…ジで使えねぇッ!! じゃぁ、もう、用はねぇ、徽章に戻れ!!」

 頭の上に乗る小魔インプを無造作に掴んで投げ捨てると、ひらりと身を翻して飛行しながら、奴は情けない顔で縋るように俺の肩にしがみついて呻いた。

『えぇ〜、せっかく出て来たんだから、アザービーストあたりで良いから召還しろよ〜ぉ…』

「うるせぇッ、断るッ!! 早く戻れ!!」

 そんな事を言い合ってる間に、目の前を走る三人組のうちの一人が、突然、地面に倒れた。俺からは良く見えないが、どうやら新手に脚を撃たれたらしい。


 チッ! 面倒が増えたな…。


倒れた仲間を置いて、残った二人が慌てて進路を変え、こちらへ戻ってくる。

 誘拐犯の後ろに人影が見えて、それが見知った顔だと気付く。ギルドで顔馴染みになったアウェインと仲間の…ユーリティアとか言ったか。


 手助けしてくれたと考えるより、彼らもロサが目的と考えておいた方が良いか…?


 残った誘拐犯の一人がアウェインを迎え撃つ間に、ロサを担いだヤツは俺に気付いてまた方向を変え、緩やかな斜面を下って行くが、ユーリティアが先回りして行く手を塞ぎ、足止めした。

 残った誘拐犯は、いよいよ逃げ場を失い、腕に相当な自信があるのか、ロサを担いだままユーリティアを迎え討つ。


 実際、誘拐犯とユーリティアは、相当な手練れだった。無駄な動きは一切なく、互いに牽制しつつ的確な攻撃で確実に体力を削り合う。

 ロサを担いだままでは埒があかないと思ったのか、誘拐犯はロサを乱暴に投げ降ろすと、向かって来たユーリティアの剣を受け、切り組んだ。

 そこで二人の剣士は膠着状態になり、互いに一歩も引かず、その隙にロサは素早く起き上がり、自由のきかない両手で目隠しを外して周りを見渡す。

「ロサッ! こっちだ、走れるかッ!?」

 そう呼び掛けると、彼は俺を視界に止めてコクリと頷くと、勢い良く立ち上がりそのままこちらへ向かって走り出す。

 ロサのその行動が、誘拐犯とユーリティアの切り合いに決着を付けた。


 逃げたロサを逃すまいと、そちらに気が逸れた誘拐犯に隙が出来き、ユーリティアの剣がそこを突いたからだ。

 誘拐犯はその場に倒れ、ユーリティアがこちらを見る。その表情には薄ら笑いが浮かんで、新たな標的を目の前にした歓喜に彩られた…、ように見えたんだが、ロサが俺の元に辿り着いたと見ると、剣を鞘に収め、こちらが思いもよらぬ軽さで声をかけてきた。

「よ〜、怪我ぁねぇかぁ~?」

 酔いどれオヤジとも言えるだらしない軽薄な笑顔を覗かせて、こちらへ歩いて来る。


 この軽妙さ、逆に怪しい…。


 警戒はしたほうが良い、と判じてロサを後に下がらせる。そこにティーダとメアリーが追い付いて来て、ロサの保護をメアリーに任せ、ティーダが歩いて来るユーリティアに声をかけた。

「ユーリ! …助かった、ありがとう」

「いやぁ、大した事はしてねぇよ。誘拐の現場に遭遇したなら、助けんのは当たり前だァな〜」

 軽薄さを残したままの笑顔でユーリティアはティーダに答え、後ろから歩いて来たアウェインを顧みた。俺達の顔を確認して、アウェインが、ニカッと破顔する。

「お〜、やっぱティーズだったな~!」

 俺とティーダを交互に指差し、人懐っこい笑顔を覗かせて歩いて来る。俺もティーダもいい顔はしないのに、なぜかアウェインは俺達をまとめて『ティーズ』と呼ぶ。

 仲間の無事な様子に、安堵の溜め息を漏らし、ユーリティアが問いかける。

「アウェイン、残りの連中は?」

「うん? 向こうでのびてる! エディトが拘束中〜」

 得意気な表情を作ると、少し離れた所で、気絶した誘拐犯どもを手際良くロープで縛り上げるドワーフの女の姿が見える。

「……ここへは何しに来たんだ?」

 俺がそう問いかけると、ユーリティアは、へらっ、と笑い、腰に下げた革袋から酒瓶をのぞかせながら、変わらずの軽い口調で答え、アウェインを顧みる。

「…何って、オレは、ニクスと一杯やろうと思ってなァ〜」

「俺とエディトは付き添い、たまにはピクニックも良いかと思ってさ〜」

 能天気な笑顔を覗かせてアウェインがユーリティアに調子を合わせる。その様子にティーダは、にこり、と笑うんだが、俺はそれが逆に怪しく見えて、少し語気を強めて問いかける。

「偶然、居合わせたって事か? それにしてはタイミングが良いな…」

「なんだよ、なんでそんな警戒してんだ? その坊ちゃんの護衛か?」

 そう言いながら、アウェインは俺の後に居るロサを指して覗き込む。メアリーとロサを下がらせて、ラグの方へ戻るように促すと、俺が答えた。

「……助けてくれた事は感謝するが、お前らを信用してる訳じゃない」

「ティード! 言い過ぎだ!」

 俺の言葉に驚いたティーダが、険しい顔して俺の腕を掴み、『いい加減にしろ』と言いたげに制止して俺を睨むから、ヤツの手を振り解き『…チッ』と小さく舌を打つ。

 その俺の態度に、ティーダは不愉快と眉根を寄せるが、慌てて二人を見返すと謝った。

「…済まないユーリ、アウェイン」

「…ハハッ、いやぁ~、気にしてねぇよ」

 俺の言葉を受けて、当のユーリティアとアウェインは、一瞬、言葉を失ったんだが、即座のティーダの謝罪に二人は苦笑いを浮かべ、ユーリティアが答えた。

 俺の顔をジッと見て『ふっ……』と意味深に笑い、俺の肩に、ぽん、と手を置いて、通りすがりに俺に聞こえるように小さく呟く。

「良い心掛けだな。ただ、疑り深いと仲間を失うぞ〜、坊主。…気を付けんだな」

 そう言い残して菩提樹に向かって歩いて行く。それを見て、彼の後ろ姿にアウェインが言葉を投げかけた。

「ユーリ! どこ行くんだよ」

「ニクスんとこだよォ、コレが目的で来てんだ。後はお前に任せる〜」

「…ったく、面倒事はいつも俺達に押し付けんだから…」

 振り返る事なく酒瓶の入った革袋を掲げて答えたユーリティアに、アウェインは諦めとも呆れとも取れる溜め息を吐き出すと、やれやれ…、と頭を掻いた。

「…ティード、後で二人に謝れよ」

「………」

 ユーリティアを見送って振り返り言ったティーダの表情かおが思いのほか怒っていたから、少し『マズッたな…』とは思ったんだが、ティーダの言葉は無視した。


 間違った事を言ったつもりはないし、謝る必要もないと思ったからだ。


「お前な…」

 俺に無視されてさすがに苛ついたのか、ティーダが小言を言いかけたが、合流したエディトの一言にそれは遮られた。

「アウェイン、ちょっと来て…」

「ん? どうした…?」

 エディトに促されて、俺達はユーリティアが気絶させた誘拐犯が倒れてる所へ移動したんだが、そこにあったのはレッサーオーガの死体だった。

「………」

 思いもしない死骸を前に誰もが困惑し、黙り込む。


 少し離れてはいたが、ユーリティアと対峙してたのは、確かにエルフの剣士だった…。

 あの一瞬で、コイツが蛮族だと見抜いて、始末したって事か…?


 黙ったままティーダがレッサーオーガの死体をあらためる。死骸が身に着けたポーチの中から冒険者証が出て来た。

「…この人物に成りすましていたみたいだな」

 手渡された証書には、犠牲者となった冒険者の名前や簡単な個人情報プロフィールが書いてある。


 師匠の書斎にあった蛮族図鑑によると、レッサーオーガはオーガ族の中でも最下層の劣等種だ。そして、そのレッサーオーガの最大の特徴が変身能力を有する事。

 その能力を使って人族に成りすまし、人族社会こちら側での諜報活動を担うのが主な役割らしい。

 その変身の方法ってのが、胸糞悪い話だが、なり代わる人物の肉片や心臓を喰う事。

 だから、見知った相手でも油断ならないんだ。知らない間にしれないから。


「……知ってる顔だったか?」

「否、俺は知らないな~」

 そう言いながらアウェインはエディトを振り返るが、彼女も知らないらしくかぶりを振った。その二人の様子にティーダがポツリと漏らす。

「…どちらにせよ、ロサを狙ってたのは間違いないな…」


 確かに、問題はの指示で動いてたか…。


【茨の館】を出る時に聞いたラトリッジ氏の話によると、最近、ロサの身柄を狙ってるのがチェザーリ以外にもいるらしく、充分に用心してくれと言われたんだ。

 黙り込んだ俺とティーダを見て、アウェインが口を開く。

「…あの坊ちゃんが何者か知らねぇけど、るなら…、ナグーザーバラじゃねぇかな。アイツ蛮族だし…、レッサーオーガを使役してんなら、多分、そっちだ。あと、仲間の方は普通の人間だな、冒険者って訳でもなさそうだぞ~、一撃ワンパンで終わったから」

「……チェザーリの手下って線は?」

  アウェインの推察に俺が疑問を差し挟んだ、その問い掛けにアウェインは不思議そうに眉を顰める。

「…チェザーリ?」

 彼の反応から見て、チェザーリは俺が思っているほどの悪人でもないようだ。聞いてる話も、見方によっちゃ『悪政』とは言い切れないしな。


 いけ好かねぇ奴ではあるが…。


 アウェインの表情が、何故、チェザーリの名前が上がるんだ? と暗に言っていたから、可能性の提示、というていで聞いたと見せかける。

「…ああ、良い噂を聞いた事ないからな」

「ん〜〜…」

 俺の提示に彼は少し考え込んで、意見を求める視線をエディトに向けた。それに少し考え込んでから彼女が答える。

「恐らく、…ないと思うわ。チェザーリは蛮族を好んで使ったりしないだろうから…。このレッサーオーガが、エルフとして上手く立ち振る舞ったとしても、チェザーリくらいの魔導師なら蛮族の正体を看破するくらいは造作も無く出来るだろうし……」

「そうなのか? そのナグーザーなんとかってヤツとチェザーリは仲間なんだろ? だったら助っ人的な感じで行ってるとかはないのか?」

 今度はティーダが疑問を差し挟む。それに答えるアウェインは首元を摩りながら答えた。

「…ん〜、連携はしてんだろうけど、一枚岩ってわけでもねぇな…。最低限の同盟関係ってやつ」

「元々、目的のためには手段は選ばない人物だって噂だったけど、それでも、蛮族は嫌ってるって話よ。それが、共通の敵、魔神が侵攻してきたから、対抗するために手を結んだって聞いたわ…」

「ま〜ぁ、チェザーリもナグーザーバラも似たようなもんだけどな~。水面下では抗争バチバチやってるって話だし」

 エディトの言葉を受けて、アウェインが肩を竦めながら言った。

 長年この街で冒険者をしていれば、政治的な噂話も耳に入って来るんだろう。

 二人の口振りから察するに、両陣営の関係は微妙なようだ。力の均衡パワーバランスを崩す目的で、ナグーザーバラがロサを狙ったとも考えられる。

 再び黙り込んだ俺とティーダの様子に、アウェインが捕らえた奴らを指差して「…取り敢えず、残った二人に話を聞いてみるか?」と、提案してきたからそれに乗ることにした。

「……あぁ、そうするか」


 捕らえた二人の話によると、レッサーオーガが主犯で、今回の誘拐計画を手伝って欲しい、と、今朝【自由市場】で声をかけられたらしい。

 報酬は一人当たり2000ガメル。


 金払いが良いな…。


 因みに、彼ら二人はレッサーオーガの遺体を見るまで、彼らのリーダーを本物のエルフの剣士だと思っていたらしい。立ち振舞や醸し出す雰囲気もエルフのそれで、中身が蛮族には見えなかったそうだ。

 ティーダと話し合って、この二人に関しては解放しても問題ないだろう、ってことでその場で縄を解き、エディトに足を撃たれた奴は、大した怪我じゃなかったが、ティーダの魔法で傷を治して帰してやった。


「それじゃ、俺達は戻るから。…さっきは…その、悪かったな」

 思いがけない俺からの謝罪に、アウェインは少し驚いて、それを苦笑いに変える。

「…ああ、その事ならユーリも俺も気にしてねぇから! ティードくらいの慎重さがあって丁度なんだよ、この稼業は!」

 彼なりの気遣いなんだろう、満面の笑でそう言って俺の背中をバシッ、と叩く。それを見ていたティーダは嬉しそうに笑っている。


 …謝るつもりは無かったんだが、この後の事も考えて、蟠りはない方がいいと思ったんだ。


 ティーダの視線を受けて、気まずいと顔を顰める俺に、兄貴ぶった顔で『良く言えた』とでも言いたげに頷いて、ティーダは改めて二人に向けて頭を下げた。

「アウェイン、エディトありがとう。本当に助かった」

「いいのよ、大した手間でもなかったもの」

「だな〜。今度、一杯奢ってくれたら、チャラにしてやるよ~」

 何でもない事のように二人は快活に笑って、ティーダはその様子に、『ふふっ』と苦い笑みを浮かべて答えた。

「あぁ、分かった」

 そんな事を言い合ってるうちに、ロサがメアリーと一緒にやって来て、アウェイン達に声をかけた。

「あの、…もし…良かったらなんですけど、僕のラグへいらっしゃいませんか?」

 助けてくれた礼のつもりなんだろう、アウェインとエディトを茶会へ誘うつもりらしい。屈託なく笑うロサに、アウェインが姿勢を屈めて、ロサの顔を覗き込むように答えた。

「うん? …俺たちが混じっても良いのか?」

「ええ、大した事は出来ませんが、助けて頂いたので、お礼がしたいんです」

 小さな紳士の誘いに、二人は顔を見合わせて笑い合うと、その誘いを遠慮することなく受けて、俺達と一緒にラグへ向う。

 ラグの上に広げられたメアリーの手製の菓子や茶を飲み食いしながら、アウェインらの冒険譚に聞き入るロサは楽しげにしている。どうやら、誘拐されそうになったショックは幾分か和らいだようだ。

 その様子を見遣って、俺はティーダに、菩提樹の元にいるニクスとユーリティアの所へ行かないか、と持ちかけた。

「ティーダ、さっきのレッサーオーガの件、ユーリティアに事情を聞きに行かないか?」

「ああ、そうだな…」



 菩提樹の根元、語り部ニクスが鎮座するうろの前で、ユーリティアは彼女と昔話を肴に語らっていた。

 二人共に上機嫌で、彼らを包む雰囲気は旧知の仲といったふうで、ユーリティアの交友関係の広さが伺い知れた。その和やかな空気を纏う二人に、ティーダが遠慮がちに声をかける。

「…歓談中、すまない。ユーリ、ちょっと良いか?」

「ん…、なんだァ〜、どうしたよ? 二人揃って…」

 振り返ったユーリティアは、すっかり出来上がった呑兵衛爺のように頬を赤くしていて、その緊張感のなさに、俺もティーダも戸惑い気後れしたんだが、ティーダが「こほんっ」と咳払いをひとつして言葉を続ける。

「さっき、ユーリが倒したエルフの剣士の件なんだが…、その……」

「死体を検めたが、レッサーオーガだった。…どういう事だ?」

 言い淀んだティーダに代わって、俺が言葉を継いだ。俺達の様子に軽薄な笑いを面から消すと、思いもしない悔しげな表情を一瞬見せて、ユーリティアは苦笑いを溜め息のように漏らし、俺達に座るように促した。

「まぁ、…座れや」

「…よいのか? ユーリ…」

 ユーリティアの苦々しい面持ちに、彼を気遣うようにニクスが問いかけた。百年以上もここに座って昔語りをする彼女は、どこか彫像のような生気を感じさせない佇まいをしていたが、初めて生身のエルフらしい表情を見せた。

「…あぁ、昔の話しだ」

 ニクスに答えたユーリティアの笑顔は変わらず苦い色が混じっていて、何か事情があるのだと容易に想像できる。

 俺達の顔を交互に見て、何某なにがしかの感情が乗った笑顔を見せた後、大きく息を吐いて、ユーリティアは感情を抑えるように話し始めた。

「……まぁ〜、話せば長い話なんだが。…あのレッサーオーガが被ってたはよぉ、…なんだわ」

「………え…」

 俺達の反応に苦笑いを浮かべてユーリティアは言葉を続ける。

「そんな驚くことかい? 冒険者の端くれなら、レッサーオーガの特徴くらい知ってんだろうよ?」

「…それは、…まぁ…」

「アイツと二人で冒険者でもやるか〜って、息巻いてたんだな〜。若かったから調子にも乗ってたしよ…」


 ユーリティアの話によると、彼が幼馴染みだったエルフの剣士と冒険者の真似事を始めたのは、彼らが成人した頃で、二人は互いに信頼し合い、最高の相棒バディと呼び合える間柄だったらしい。

 順調に実績キャリアを積み、冒険者ギルドへ所属して程無く、ある大掛かりな蛮族掃討作戦に参加した。

 その掃討作戦は辛うじて成功で終わったが、作戦部隊に甚大な損失を与えただけではなく、周辺の村々を巻き込み、作戦終了時には一面の焼け野原だけが残ったという事だった。

 一個小隊規模だった作戦部隊の人員も、撤収時には半数以下にまでに減っていて、ユーリティアの相棒は、片脚を失ったという事だった。


「帰りの野営の時に…、蛮族の残党に襲われてな。……負傷者は一処ひとっところに集めてたのがあだになって、俺らが駆けつけた時には…もう…」

 そこで言葉を切り、ユーリティアは沈黙した。努めて感情を抑えて昔語りをする彼のおもてに、後悔と憎しみが色濃く浮かぶ。その様子にティーダが遠慮がちに疑問を差し挟んだ。

「護衛は…?」

「何人かはつけてたがなぁ……」

「……全員、られたのか」

「あぁ…。俺達が駆けつけた時には、…見事に食い散らかされた後だった…って訳さぁ…」

 諦めを多分に含んだ一息と共にそう言って、ユーリティアはカップに残っていた酒を呷った。少しの間をおいて、ぽつり、と零す。

「…アイツを助けられなかった事をずっと悔やんでたんだが、かたきを取れて、…まぁ、なんだ。…少しほっとしてんだわ、正直言うとな」

 俯かせていた顔を上げると、何でもない事のように笑って見せたが、ユーリティアの面にある感情は複雑だった。

 今まで抱え続けたであろう悔恨と、相棒の無念を晴らした清々しさ、それに少しの淋しさ。

 沈黙する重い場の雰囲気を変えるためか、ユーリティアはカップに酒を注ぐと一口飲み、何時もの軽薄な笑みを浮かべる。

「ま、これでようやっと、旨い酒が呑めるってぇモンよ〜」

「…ユーリ」

 普通を装うユーリティアの笑顔が悲愴なものに見えて、俺もティーダも黙り込んだ。それを見遣ってユーリティアは更に戯ける。

「なんだよ~、んな顔すんなってぇ〜」

「…ユーリ自身が吹っ切れてるなら良いんだ」

 ティーダが気遣う一言を放つと、それに答えるユーリティアは『ふっ』と笑う。

「昔の…終わった事だ。この稼業を長くやってりゃぁ、誰にでも起こり得る。……だから、相棒は大事にしな」

 諭すように言われたその一言に、俺達は顔を見合わせ、ティーダは黙ったまま何時もの笑みを浮かべる。その面を見て、俺はユーリティアに答えた。

「……あぁ、そうする」


 それから、ニクスも交えて四人で雑談をして、頃合いを見てユーリティアをロサのラグに来るように促した。

 ロサがユーリティアにもお礼がしたい、と言って、俺達に彼を連れてくるように、としたからだ。

 ラグに向かう途中、菩提樹の周りを囲む石像群の中に、一体だけ壊れている石像があるのを見かけた。それが無性に気になって、俺はその石像を見に行くことにした。

「ティード? どうかしたのか?」

「あぁ、ちょっとな…」

 立ち止まり進行方向を変えた俺に、ティーダは顔面に疑問符を溢れさせながらも後をついて来た。ユーリティアも「何か見つけたんか〜」と言いつつ歩いて来る。

 件の石像に向かいながらそれを指差すと、ティーダが呟いた。

「……一体だけ壊れてる?」

「あぁ、他は経年劣化って感じだが、あれだけ壊されたって感じなんだ」

 問題の石像の周辺には大小様々な石が転がっていて、大槌で打ち壊されたのか、形として残っているのは大腿部から下の部分だけだ。周りの小石は色や質感から石像の一部だったモノらしい事が分かる。

 胴体や頭部だったモノだろう塊も、辛うじてそれだったと分かる程度で、顔の部分に至っては『顔』だと判別出来ないくらいに壊されている。

「あぁ~、この石像か……」

 遅れてついて来たユーリティアが、ニクスから聞いた話しだ、と言って砕けてただの石になった彫像を見下ろしながら説明してくれた。

「大昔のモルガナンシンの王女らしいな、…サイサリアとか言ったか」

「なんで壊されているんだ?」

 ユーリティアの解説にティーダが不思議そうに頭を傾げて言った。それに答えるユーリティアはモルガナンシン王家の昔話には興味なさそうに答えた。

「さぁ〜なぁ…。よくあるお家騒動の影響じゃねぇの? 最終的に王位を継いだアイアロス側のってのが、見せしめに壊したんだろうよ…」

「…でも、サイサリアとアイアロスは仲睦まじい姉弟だったんだろ?」

「…まぁ、そう言われてるがなぁ…。仮に、後継争いをしていた当人同士は変わらず仲睦まじくても、周りはそうはいかんだろう…?」

「…確かに」

「残った王子も王位に就いたなら、背負うもんがデカイだけに、個人の意思や思惑でどうにか出来る事にも限界があんだろ〜なぁ…」

「そう…なのか」

 ティーダが『腑に落ちない』と言いたげに呟く。俺達とは余りにも縁遠い話しで、ヤツ自身の想像が王族の機微に及ばなようだ。


 王族の権力争いなんて興味は無いんだが、打ち壊されて石塊いしくれに成り果てたサイサリアの石像を眺めていると、そこに敗者となった王族の末路の侘しさだったり、虚しさだったりが感じられて、なんとも言えない気分になった。


「王様っても、何でも出来そうで、案外、なんにも出来ねぇんだろうなぁ…」

「ユーリは、サイサリアとアイアロスの伝承に詳しいのか?」

 しみじみと言ったユーリティアに、ティーダは『もっと話を聞きたい』とばかりに、前のめりに催促するように聞き返す。興味津々のティーダに答えるユーリティアの反応は、かなり薄いものだった。

「ん? いんやぁ〜、全然。詳しくねぇよ?」

「……えぇ~」

「…なんだ、アンタの与太話か…」

 がっかりするティーダを余所に、俺は呆れたとユーリティアに言葉を返すと、彼は飄々と笑ってラグに向かって歩き始めた。

「ハハッ、まぁ…昔の話…終わった話、ってな〜」

 そんなユーリティアの様子に俺達は顔を見合わせ、「ユーリらしい……」とティーダが零して、どちらともなく苦笑いを浮かべ、ユーリティアの後を追う。


「……ユーリ、…さっきは言い過ぎた…と思う」

 心地良い風に吹かれながら歩くユーリティアの背中に、声をかける。


 さっきの事を謝るなら今のうちだと思ったから。


 俺の声掛けに振り向いたユーリティアは、少し驚いたような面持ちをして答えた。

「なんだよ〜、その話はさっき終わっただろうよ…」

「…俺が悪かった」

 面倒くさそうなユーリティアに頭を下げると、彼は溜め息をついて「まぁ、なんだ…頭上げろや」と俺の肩を軽く叩く。それに顔を上げてユーリティアを見ると、頭を掻きながら片眉を上げて苦笑いを見せた。

 それが、どんな感情なのかは分からないが、恐らく、俺を気遣うものなんだと思う。黙ったまま見返す俺に、彼は一息吐いて、『…やれやれ』と一言。

「ま、済まねぇって思ってんなら、今度、一杯奢れや」

 と言って、気のいい悪童のように笑った。





【攻略日記:雑感 六日目 2】


saAyu:さて〜、戦士の丘で思わぬ誘拐未遂が起きたわけですが…。

ティード:…今回もまた、随分と脚色したな。

ティーダ:実際のシナリオでは戦士の丘で誘拐事案なんか起きないからな…(苦笑)

saAyu:まぁ、ここから折り返しなんで、そろそろ不穏な空気も醸しとかなきゃかな〜と、思いまして(笑)

ティード:……醸さなくていい。

saAyu:実際の戦士の丘ではニクスさんからお話を聞くだけなんですが、日付によって聞ける内容が異なるので、この日から朝イチは暫く戦士の丘に通ってましたね〜(笑)

ティード:おかげで余計に時間がかかったけどな…(苦笑)

ティーダ:でも、どの話も興味深かったぞ!

ティード:まぁ…確かに。

saAyu:ほぼほぼサイサリア姫とアイアロス王子のお話でしたね〜。古のモルガナンシン王家のお話が知れたので、私的にはスッキリ思い残すことなくヴァイスシティを終われそうです〜。(にこにこ)

ティーダ:そういえば、ここにアウェインたちを絡めて来たのは?

saAyu:ん? まぁ、展開上の都合もあったんですけど…(苦笑)メリアルドさん達と一緒で、NPCとしてビルドした子達ですが、どんなキャラクターなのかここらで固めたいなぁ…、と思ったので、絡めてみました。(ニコッ)

ティード:あの三人を絡めなきゃ、もっと短いエピソードになったんじゃないか? 今回のも無駄に長いなげぇ……。

ティーダ:そうだな…(苦笑) ティードの良くない部分も出てた回だったな。

ティード:良くない部分?(ちょっとムッとしつつ、思い当たる節が無い、という様子)

ティーダ:助けてくれたアウェインとユーリに酷いことを言っただろう。(まぁまぁ険しい顔してる)

ティード:あれは……。ってか、二人に謝っただろ。(気まずそうにしてる)

ティーダ:オレがそうしろって言ったからだろ? じゃなきゃ、お前は謝らなかったよな?

ティード:………。(図星)

saAyu:まぁまぁ、ティーダさん、それくらいにしてあげてくださいな〜。ティード君としては当たり前の警戒行動ですよね〜?

ティード:……まぁ。顔馴染みってだけで、信用に値する連中なのか、俺には確信がなかったからな。

ティーダ:ティードは警戒心が強すぎるんだよ、こちらから相手を信じないと。…誰にも信用して貰えないぞ?

ティード:…お前は迂闊に人を信用しすぎんだよッ! この街は性善説で動いてねぇんだ!

ティーダ:だからって! 助けてくれた人たちにあんな言い方しなくても良いだろッ!

saAyu:(うん、ここも不穏な感じ…)はい、はい、は〜い、そこまでにしてくださ〜い。兄弟喧嘩は他所よそでやってくださいます?

ティーズ:………。

saAyu:貴方がたはんですから、仲良くね。

ティーズ:…………。

saAyu:仲良く、ね?(ニコッ) それと、…今後の貴方がたの処遇はだってことをお忘れなく。(圧のある笑顔)

ティード:…キャラクターを脅すってどんな書き手だよ。(……チッ)

ティーダ:……。(不本意そうに黙ってる)

saAyu:ではでは! 気を取り直して、パラグラフでも配置しますかね、コロコロっと。…『3』と『2』?

ティード:……【流民街】か…。

ティーダ:ティード…、行きたくないなら…。

ティード:…別に構わねぇよ。記憶自体、薄れてるし…。

saAyu:では、次回は、ティード君が幼児期を過ごしたエリア、【流民街】より、お送りします~。


※攻略ノートの見るとこ間違えて、次の行き先を【処刑台公園】としてましたが、正しくは【流民街】でしたので修正しました…。すみません…。

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