6 タイタスとシモン



 午前三時。

 嫌な予感、気配を感じて目が覚めた。…と言うか、なかなか寝付けなくて無理矢理閉じた眼を開いた。

 元々、閉鎖的な場所は嫌いじゃ無いんだが、逃げ場のない地下の一人部屋シングルが落ち着かなくて、ここに入った瞬間から身体の感覚がざわざわしてたんだ。


 死体回収の時にも感じた、善くない霊的なものの気配。


 どうにも落ち着かなくて、重たい身体でベッドから這い出て、背負い袋バックパックの中から水筒を取り出し、一口飲んで一息く。

 ベッドに腰掛け、サイドテーブルの上にある小さなランタンを眺めてぼんやりしてみるが、眠気はやってこない。


 明日の為に、少しは寝たほうが良いんだが…。


「……このまま起きてるか」

 そう呟いてランタンの中の灯りをしばらく眺める。

 この部屋の照明と言える物はこれだけで、寝るには最適だが、室内で何かをするには頼りない明るさだ。


 もう一口水を飲み、溜め息を吐き出す。


 不意に部屋の外で何者かが歩く音が聞こえた。

 ティーダが便所にでも行ったのかと思ったんだが、様子がおかしい。忍び足のようなんだが、足音が隠し切れてないし、その足音は複数だ。廊下をそろそろと歩きながら話す声も聞こえる。

 何を言っているのかは分からないが、語感から蛮族の言葉だ。

「……蛮族? …嘘だろ!?」

 扉に近付き、耳をすます。

 唸るような野太い嗄声しわがれごえの後に聞き覚えのある声がした。覇気のない愛想すらないタイタスのものだ。

 話してる内容までは分らないが、焦っているようにも感じる。辛うじて聞き取れたのは簡単な単語で「ヤメロ」「ツヨイ」の二言。その後に続く蛮族の言葉は「ヤル! コロス!」なんて言う物騒な単語。タイタスの制止を振り払うようなもので、尋常な雰囲気じゃない。

 その声に続いて囃し立てるような声も聞こえてくる。

 なぜ蛮族を引き入れる?

 タイタスは蛮族と密通してるのか?

 …宿泊者をヤツらの餌食にしている?

 タイタス自身が変身能力を持つ蛮族なのか…?

 次々と疑問が降って湧いてくる。


 逃げ場のないここで襲われたら…。

 戦慄に背筋が凍る。


 リーダー格だろう野太い嗄声が、何やら指示をしている。

 ティーダはコイツらに気付いてるだろうか…。


 足音が俺の部屋の扉の前で止まり、タイタスと蛮族は声をひそめつつもまだゴタゴタやってる。


 ……チッ、ターゲットは俺か!


 素早く扉から離れ、防具を兼ねたジャケットを着て、サイドテーブルに置いていたアイアンボックスを拾い上げる。

 隠れる場所が無いか室内を見回すが、そんな場所はどこにも無い…。


 どうする…。


 大抵の蛮族は暗視が使えるんだろうが…、その機能を持っていない蛮族ヤツの可能性もある。ランタンの光量を絞って、部屋の明るさを最低限までにして、部屋の状態をほぼ暗闇にする。

 明るい廊下から入って来た時に、その落差で少しくらいは隙が出来るかもしれないし、この暗さに慣れてる俺の方が僅かに有利になるかもしれない。


 こんな時、暗視が使えりゃな…。


 そう思った時、憎たらしい契約の小魔コントラクト インプの〝アルフティード〟が眼の前に現れて、優越感たっぷりに笑う。

『…【デモンズセンス】、唱えりゃ良いじゃねぇか。暗視、使えるぜ?』

 ニヤリと顔を歪ませて金色の眼を指差した。

「……っ!」

 異貌した姿の俺アルフティードの顔を睨んで無言で答える。

 召異魔法は出来るだけ使いたくない…、それを知ってる小魔インプは唆すようにわらう。

『…ま、死にてぇなら好きにしな』

 突き放すような眼で俺を見下ろし、せせら嗤う。俺が死ねば自分てめぇにとっても不都合なはずだが…、所詮は替えのきく依り代って事か。

「……チッ」

 背に腹は代えられない、意識を集中して頭に浮かぶ言葉を口にする。

「……【デモンズセンス】」

 自分の口から発せられた魔神語の響きが心地悪いが、その言葉を発した瞬間、ぼんやりと薄暗かった部屋の景色が一変した。

 煌煌と照明が灯る部屋のように室内がはっきりと見えて、外の蛮族どもの声がはっきりと聞こえ出した。

 タイタスは蛮族を引き止めているようだが、それも限界のようだ。いきり立つリーダー格がタイタスを押し退け、彼は廊下の隅に身体をぶつけたらしい音がした。

 

 さぁ、どうする?

 暗視が使える今なら、蛮族どもを正面から迎え撃つ事も出来るが…。


 蛮族のリーダーが扉のノブに手を掛け、静かに入って来た。その姿はボルグハイランダーで、手には得物の戦斧を握り、そろりそろりと忍び足でベッドに寝ている俺に近付いてくる。


 勢い任せに押入って来ないあたり、それなりの知能がある個体らしいな…。


 煩いほどの無音の中、敵の興奮した荒い息づかいが部屋に響いて、ヤツは大きく息を吸い込むと、耳障りな雄叫びを轟かせた。

 確実に仕留めるためか、何度か続け様に振り下ろされた戦斧は、毛布に包まれた枕を毛布ごと切り裂き、その中に詰まっていた羽毛が室内に舞い上がる。

「!?……」

 血塗れで息絶えた俺の姿がそこに無い事に動揺したのか、ヤツが部屋の中を見回すが、部屋の中は細かな羽毛が無数に舞って、白い闇ホワイトアウト状態だ。

 白い羽根の中を闇雲に動く敵影を俺はベッドの端、開いた扉の影から見詰め、ヤツが振り向くのを待つ。

 苛立たしげに喚き、俺の気配に気付いて振り向いたヤツの視線が俺の眼を捉えるよりも速く、拳を顎に一発打ち込む。

 俺の全体重が乗った渾身の一撃に、蹌踉よろけたヤツの鳩尾みぞおちにもう一発お見舞いしてベッドに沈め、直ぐさま廊下に出た。


 死体になった俺を担いでボスが出て来るとばかり思っていた手下どもは、俺の姿に驚いて唖然とそこに突っ立ている。


 …手下はボルグとゴブリン四体、シールドフッド四体の一団か!

 全く、厄介な面子だなッ!!

 

「ッ! ……チッ!!」

 蛮族ご一行に怯んでいる暇なんか無い、ボルグの野郎を一発殴って怯ませ、ありったけの声を張り上げる。

「ティーダッ、起きろぉぉーッ!! 敵襲だッ!!」

 廊下に反響した俺の大声にゴブリンどもがたじろいで、その隙に廊下を駆け抜ける。俺の怒声に、階段前の一号室の扉が開いてティーダが飛び出して来た。

 ヤツはんだろうな、慌てて着替えたのかドレスシャツの裾は出したまま、皮のベストもボタンは満足に閉められず、防具も取りあえず感が漂う装着の仕方だ。


 ……蛮族に気付いて起きて来ただけでも良いか。


「ティードッ、無事か!? 怪我は?」

「大丈夫だ、かすり傷ひとつねぇよ! それより、敵は見ての通りの団体だ! 外で迎え撃つぞ!!」

 そう言いながら階段を駆け上がる。他の宿泊客を巻き込む可能性もあるし、狭い宿の中ではティーダのバスターソードはリーチがある分、不利だ。

 ここで一戦交える訳にはいかない。

「ああ、分かった! ……お前、その目どうした!?」

 俺の提案に同意の返事を返してきたティーダが、驚いたように言った。【デモンズセンス】で魔神の視覚を得てるからか、いつもと違う俺の目の色に気付いたらしい。

「は!? 今それを聞くか?」

「いや、だって…異貌してないのに、魔神みたいな眼だぞ!?」

「…暗視出来るように、魔法で魔神の眼にしてんの!」

 雑に事情を説明すると、安心したようにティーダは笑う。

「なんだ、それなら良いんだ!」

「ったく…。あ、それと俺の部屋にボルグハイランダーが一体いるが、そのうち起きて出てくると思う」

 階段を上がる寸前に、廊下の端、六号室からボルグハイランダーが怒りの形相で出てくるのが見えた。

「……そいつがボスか?」

「ああ、おそらくな!」

 呆気に取られてたボルグとゴブリン、シールドフッド達を引きつけながら、火祭り亭から飛び出し、夜の帳に包まれた通りに出る。

 辺りは静寂に充ち、今から起こる戦闘の予兆すら感じさせないほどに静謐だ。

 それぞれ獣変貌と異貌を済ませ、そこで蛮族どもを待つ。



 火祭り亭から最初に飛び出して来たのはボルグだった。

 俺に一発殴られたのが、相当、頭に来てたらしい。俺の姿を見るなり突っ込んでくるから、そいつを寸での所で躱して、背後に回り込み膝裏に蹴りを入れて体勢を崩し、続けざまに後頭部を蹴る。

 脳震盪でも起こしたか、ふらつくボルグに止めを刺したのはティーダの一閃だった。

「よし! まずは一体、片付いたな!」

 足元の死体を見下ろしながら狼面のティーダが一息吐き、唸る。

 火祭り亭の入口を顧みると、そこからわらわらと出て来たゴブリンとシールドフッドどもが素早く俺達の周りを取り囲み、ジリジリと間合いを詰めてくる。

 妖魔どもの圧を感じながらティーダが唸った。

「…全部で八体か、…これは手を焼くなぁ…」

「ああ、油断出来ねぇ数だな…」

 今や単体では俺達の敵じゃない小物でも、数で圧されたら敵わない。

 しびれを切らしたゴブリンが俺に切りかかってくる、それを皮切りに次々と俺やティーダに群がってくるからたちが悪い。

 最初のヤツを一撃で仕留めて、続いて殴りかかってくるゴブリンを躱し、がら空きの背中を蹴って押し戻す。ティーダがシールドフッド一匹を切り捨てて、俺と背中を合わせて妖魔どもと睨み合う。

 軽い膠着状態の戦線に、宿からボルグハイランダーが出てきて何かを喚き、その声に呼応するように暗がりから新手が出てくる。


 ゴブリンが三体にダガーフッドが二体…。ボルグハイランダーと合わせて残り十二体。


 ……勝ち目が見えねぇ。


 それを見てティーダが『うんざりだ…』と言いたげに零した。

「まだ仲間が居るのか!? 本当に手を焼くなぁ!!」

「チッ! どっから沸いてんだよ!!」

 舌を打って兄貴にそう答えた時、ボルグハイランダーが足下のシールドフッドを『邪魔だ!!』とでも言いたげに二匹ほど薙ぎ払い、俺に向かって突進してきた。


 さっきの報復ってか!? 

 クソっ、あのまま寝ててくれりゃ良かったのに!


 ギラつかせた眼でボルグハイランダーが、戦斧を振り上げて突っ込んできて、俺とティーダはそれを素早く避けるが、やつの思惑だったんだろう、二手に分断されてしまった。

 ニヤリと嗤うボルグハイランダーが様子見をしていた手下共に号令を掛け、半数以上がティーダに取り付く。

「…ッ、ティーダ、一人でその数いけるか!?」

「無茶言うなッ!!」

 ボルグハイランダーの攻撃を避けながら声を掛けるが、余裕の無い苛立ちに満ちた咆哮が返って来る。


 ……だよな。

 あの数が相手じゃティーダがもたない…、どうすればいい!?

 手数が足りなさすぎる…。


『…魔神を喚べばいいじゃねぇか』


 アルフティードが耳元で囁いた。

『ま、今のオマエじゃ、精々アザービースト程度だろうが…、戦力にはなるぜぇ~』

 愉快だと嘲笑わらって見下す金色が好奇の色を帯びて、俺の反応を待っている。

 ヤツの煽惑せんわくを振り払うようにボルグハイランダーの脇に掌打を打ち込んで、続け様にもう一発入れ、敵の背後で高見の見物を決め込む小魔インプに言い返す。

「ッ…、必要無いねぇッ!」

『……存外、頑固な野郎だなぁ~、オマエ。つまんねぇの!』

 俺の拒絶を不機嫌に見下ろしてそう吐き捨てると、小魔はそこから掻き消えた。


 俺の攻撃が効いたのか、ボルグハイランダーがふらついた隙にティーダの方へ駆け出すが、俺の行く手には残った小物が三匹。どいつもほぼ無傷だ。


 あぁッ! 面倒くせぇなッ!!


 そう思いながら飛び掛かってくるゴブリンを避け、ダガーフッドの刃を自前のアイアンボックスで受け止め、弾き返す。

 一息付く間もなく、背後から迫る殺気に振り返れば、ボルグハイランダーが投げ放った戦斧が飛んで来ていた。

 それを視認した瞬間、俺は死を覚悟した。

 遠くでティーダの焦りの色濃い叫びが聞こえた。ボルグハイランダーの勝ち誇った顔に、悔しさと共に苛立ちや怒りが込み上げる。


 …ッ! こんなとこで死ねるかッ!!


 できる限りの回避行動を取るが、やはり間に合わない。


 クソったれ! …避け切れねぇッ!


 そう思った刹那、俺の目の前に誰かが駆け込んで来て、金属同士の甲高い衝突音が響いた。


 時が静止したかと錯覚する程の静寂、思わず閉じた眼を開く。

 俺の目の前には誰かの背中があって、それがリュクティアのものだと理解するのに数秒を要した。

「ぁ……、え? リュクティア??」

 異貌した姿だから戸惑ったんだが、俺を顧みた優越的に微笑む金色の眼が彼のものだと思えた。

「やぁ、怪我は無い?」

「ああ…、大丈夫だ」

「そ、…それは、なにより」

 俺の返事に満足そうに笑うと、カイトシールドで受け止めた戦斧をそこから引き抜き、木片でも捨てるかのように無造作に投げた。

 得物を失い、悔しさで上気したボルグハイランダーが、側にいる手下に武器を用意させてる隙に、リュクティアは早口で捲し立てる。

「君とティーダでボスを片付けてくれるかな? 僕達で小物の方は請け負うから」

 落ち着いて周りを見回すと、ティーダにはメリアルドのサポートが入ってて、シールドフッドを蹴り上げているのが見えた。ライオットとカリンは宿の入口で増援組を相手にしている。

「…あぁ、分かった」

「あ、それと、ボスはでお願いしたいんだけど…。出来るよね?」

 ニコリと朗らかに笑って、難易度高めな要求を突き付けてくる。


 …やっぱり、いけ好かねぇ。


「俺はともかく、ティーダが手加減出来るか分かんねぇけど、…やってみる」

「ふふっ、じゃ、健闘を祈ってる!」

 そう言ってリュクティアはティーダの元へ駆けて行き、ボルグハイランダーの手に新たな武器が届いたと同時に、入れ替わりでティーダがやってきた。

「ティード、怪我は?」

「まだ、大丈夫だ」

「…なら、オレから行って良いか?」

「…ああ。一応、伝えるが、リュクティアがアイツは生け捕りにして欲しいってさ」

「………」

 隣りに並んだ兄貴を横目で見ると、怒りで眼の色が変わってる。

 リュクティアが助けてくれたから俺は生きてるが、彼らがこの騒動に気付いて駆け付けてくれなければ、さっきの攻撃で俺は致命傷を負っただろうし、最悪の場合、死んでいた。

 ティーダの怒りの矛先は、俺を助けに入れなかったヤツ自身の『不甲斐なさ』なんだろうが、それを敵に向けているんだろう事が分かる。

 普段のティーダは、師匠の言葉である『常に冷静であれ、理性的であれ』を信条にしてて、無意識下である程度の感情を抑圧してるから、時に制御が効かないんだ。


 …これは、生け捕りは難しいかもしれないな。



 五分後。

 ティーダの初手、痛烈な【魔力撃】が致命傷になり、その後は俺が二、三発殴って止めのティーダの一撃でボルグハイランダーは易々と倒れた。

 最後の一撃一閃、ティーダは鬱憤を晴らしたかのように満足げに息を吐き、獣変貌を解くと、地面に倒れたボルグハイランダーを蔑んだ眼で一瞥して、先に戦闘を終わらせたメリアルドの元へ歩いて行った。


 普段、ニコニコしてるヤツほどキレると怖いもんだ…。


 兄貴の背中を見送った後、ボルグハイランダーを見ると、既に動く余力は残っていないらしい。

 一応、息はあるが時間の問題だな…。


 微動だにしない虫の息の巨体を指差し、歩いてくるリュクティアに声をかける。

「…悪い。…やっぱり、ティーダのヤツが手加減出来なかった」

「……まぁ、良いよ。想定の範囲内だから」

 そう言ってリュクティアは生け捕りにした捕虜一匹を指差して笑う。その指先には、ライオットとカリンの足元でモゾモゾと足掻いてるゴブリンがいる。ガチガチに縛り上げられながらも脱出を試みているようだ。


 往生際が悪い…。


「僕達の目的は果たしたしね。ボスをってくれて、ありがとう」

 そう言いながら、リュクティアは造作もないと剣を一振りして、ボルグハイランダーの首を落とした。

 放っておけば五分も経たずに死んだだろうに…。


 綺麗な顔してやることがエグい…。


 それから、リュクティア達は捕らえたゴブリンから奴らのねぐらの場所を聞き出すと言うから、その間に俺は火祭り亭の入口にいるティーダとメリアルドの元へ歩いていく。

 途中で草っぽい生臭い匂いが漂ってきたから、嫌な予感はしたんだが、合流した俺を迎え入れたメリアルドの手には、その匂いの発生源があった。

「はい! ティードの分!!」

 得意げにそれを俺に向けるから、思いっきりのしかめっ面を見せて、ティーダをチラリと見る、ヤツもなにがしかの煎じ薬を相伴にあずかったらしく微妙な笑みを浮かべていた。

「……ポーションは無かったのかよ、救命草は苦いから嫌いなんだよ」

「子供じゃないんでしょ? 贅沢言わない! ほら、飲んで」

「…………」

 無言の抵抗をしてみるが、メリアルドは俺の目を睨み上げるようにジィッと見て、にっこりと笑って見せた。その笑顔が脅迫じみていて、彼女の見知らぬ表情に俺は焦って思わず息を飲む。

「…ボクの煎じた救命草は飲めないって言うの?」

「……いや、…イタダキマス」


 思った通り、苦い。しかも濃い…。


「まッ…ずっ…!!」

 舌が痺れるほどの苦味や渋味に思わず口をいて出た。俺の反応にいい顔はしないが、メリアルドは満足そうに「苦くて濃い方が良く効くんだよ」と笑って一息吐いた。



 粗方の蛮族どもの死体を路肩に寄せ終わった頃、火祭り亭からヨロヨロと、弱々しい足取りでタイタスが出てきた。

 顔面は蒼白で生気のない様子に、ティーダが駆け寄る。

「…大丈夫ですか?」

 店の前の惨状を茫然と見渡して両手で顔を覆うと、膝から崩れ落ちその場に突っ伏して嗚咽を漏らし出す。

 その様子に俺達は誰もが困惑の表情を浮かべるが、憐れみはなかった。

「事情、説明して貰えます?」

 積み上げた死体の山から、リュクティアがツカツカと歩いてきて、収めていた剣を引き抜きうずくまるタイタスの首筋にその切っ先を向けた。


 リュクティアの面には穏やかな笑みが浮かぶが、氷のように冷たい。


 素早い一連の動作に、俺もティーダも呆気に取られたんだが、直ぐにティーダがそれをいさめた。

「リュクティア、そこまで警戒しなくても良いだろう!?」

 タイタスを庇うように、ティーダがリュクティアの前に出る。彼の手を押さえ剣を収めるように促すが、それは反感を買うだけだった。

「君の最も尊ばれるべきは、その『優しさ』なんだろうけど。…僕達のような生業なりわいには不要だね」

 リュクティアの皮肉にティーダは不愉快を顕わにし、反論に転じる。

「何かしらの事情があるかもしれないだろう。釈明の機会もなしに直ちに断罪すべきじゃない!」

「…君のその『甘さ』が弟君ティードを死の淵に立たせたんじゃないのか?」

「ッ…!?」

 またその話か…、と俺は眉根を顰め、ティーダは図星をつかれたのか、ぐうの音も出ない。俺達二人の反応にリュクティアは正論を盾に優越的な笑みを浮かべる。

 確かに、この場の判断で言うなら、リュクティアの対応は最適解だ。現状、タイタスがなのか分らないのだから。


 ただ、俺が死にかけたのはティーダの甘さと言うよりは、俺の未熟さ故なんだが…。


「……官憲かんけんに…突き出してくれ…」

 険悪な空気の中、うめくようにタイタスが言葉を発した。その声にティーダは振り返り「それは貴方の話を聞いてから判断します」ときっぱりと言って、リュクティアを有無を言わさず押し戻すと、強い口調で言い切る。

「ここは、オレに任せてくれないか?」

 反論を許さない勢いに、リュクティアは呆れを多分に含んだ一息を吐き出すと、肩を竦めて更に一歩下がった。

「…分かった。但し、蛮族あちら側と判断したら容赦はしない。……それで良い?」

 譲歩はしたものの、リュクティアの警戒は解かれていない。いつでもタイタスの首を落とせるように剣は鞘から抜いたままだ。

「……ああ」

 低い声音でリュクティアにそう答えると、ティーダはタイタスを顧みた。彼を見下ろすティーダの眼には優しさと同時に厳しさもある。一息吐くと、屈んでタイタスの肩に手を置き顔を上げるように促す。

 ティーダに答えたタイタスの顔面は涙でぐちゃぐちゃで、晴れやかな薄い笑みがあった。

 フロントで見た無表情とは程遠い、人間味に溢れているそれに、少し意外だと思うと同時に、なぜ薄ら笑いを浮かべているのか…、疑問が浮かぶ。

「なぜ、蛮族を引き入れ、宿泊者を生け贄にしていたんですか?」

 普段のティーダからすれば、充分に厳しい口調で尋問が始まる。無機質で事務的な質問に、タイタスは顔を上げ絞り出すように答えた。

「……人質を、…シモンの命を守るためだ」

「シモンを守るため?」

「……ああ。…あの子は俺の甥なんだ、妹が残した。…俺の唯一の家族だ」

 タイタスはそう言って、詳しい事情を話し始めた。


 元々、火祭り亭はタイタスの妹夫婦が営む料理屋だったらしい。シモンが生まれて暫く経った頃、蛮族どもの襲撃を受け、店は壊滅。

 襲撃当時、タイタスはこの街を離れていたらしく、戻った時には妹夫婦は蛮族どもの餌食となり、遺体は残っていなかったらしい。

 悲嘆にくれて呆然としていた時、荒らされた店の中からシモンの泣き声がして、家具の物陰から見つけて保護したと言う事だった。

 シモンを保護して、冒険者家業で稼いだ金で火祭り亭を『宿屋』として再建した後、『冒険者引退後は宿屋をやりたい』と言っていた懇意のドワーフ夫婦に宿の経営を任せ、タイタス自身は細々とこの界隈で便利屋的な事をしながらシモンを育てたようだ。

 シモンが四、五歳になる頃にはドワーフ夫婦にシモンの養育を託し、タイタス自身は本格的に冒険者として復帰し、宿とシモンを経済面で支えてたらしい。

 二年前、宿を任せていたドワーフがこの街を離れると言う事で、タイタスは冒険者を引退し、この宿を引き継いだと言う事だった。暫くはシモンと二人、順調に宿を切り盛りしていたんだが、店を継いでから一年経った頃、彼らは悲劇に見舞われる。

 タイタスの妹夫婦をほふった蛮族の一団が、再び火祭り亭を襲った。

 昔とったなんとやら、で、タイタスは蛮族どもに抵抗したんだが、多勢に無勢、シモンを人質に取られ『この宿屋をオレたちの餌場にする、逆らえばガキを喰う』と言われ、シモンの為にその条件を呑んだらしい。


「…最初は月に二、三人の要求だった。それがヤツらの頭数が増える毎に要求が増して、最近は月に六、七人に…」

「月に七人!?」

 ライオットとカリンが怒りを含ませた驚きの声を上げる、それに続いてメリアルドが不思議そうに首を傾げた。

「…それだけの人が餌食になってるのに、なんで今まで問題にならなかったの?」

 確かに、毎月それだけの人族がこの宿で消えれば何かしらの『噂話し』は立ちそうなもんだが、その餌食になった人族が『旅人』だったら、この街にえん所縁ゆかりも無い余所者よそものだったら? 


 消えた所で、誰も気にも留めないだろうな…。


「…餌食になってたのが、だったからだろ」

 メリアルドの質問に俺は推測で答える、するとタイタスは俺を見て頷いた。

「……ああ、そうだ。旅人ならここで消えても誰も気付かない…。道中、蛮族や賊に襲われたと思って故郷に残された家族もギルドに捜索依頼を出さない…」


 通常、『旅に出る』と言う事は『死』と隣り合わせだ。

 大きな国やそこそこの規模の街にある【守りの剣】の加護から離れ、蛮族や野生動物、アンデッドや幻獣、魔神その他諸々が闊歩かっぽする『外界』を身一つで渡り歩く事になるのだから。


 だから、旅人は相当の覚悟を持って郷里を後にする。


 ただ、大抵は護衛の冒険者を一人か二人は連れていたり、数人のパーティを組むものだが…、護衛も一緒に餌食にしたのか…?

 否、それなら、冒険者ギルドが帰還しない冒険者を追跡するだろうから足が付く…。

 あるいはこの街に到着し、護衛と別れた単身の『旅人』を選んでた…、か。


「…でも、その『遠方からの旅人』が都合良く月に何人も訪れる筈も無い、かと言って、蛮族の要求には応えないといけない。…困った貴方は、ついに地元民に手を出した…」

 リュクティアが彼自身の推測を言葉にした。それは核心をついていたらしい、タイタスの表情が強ばり、視線を逸らすと俯き答えた。

「! ……ああ」

「……どういう事ですか?」

 タイタスの返答にティーダが更に説明を求めるように詰めたが、それに答えたのはリュクティアだった。

「…聖銀同盟の依頼に行方不明者の捜索依頼ってのがあってね、この辺りで行商をやってるドワーフが数日前に消えたんだ。今夜、僕等がここへ来たのはその捜索対象の足取りを追って辿り着いたからなんだよ」

「……お前たちは最初からこの宿が蛮族の餌場だって知ってたのか?」

 その言葉に俺が疑問を差し挟んだ。リュクティアの表情には『確信』があって、ここが『現場』だと知っていたように見えたからだ。

 俺の質問に、彼は含み笑いを浮かべて肩を竦める。

「…いいや、けど、蛮族に通じるある、とは思っていたよ?」

「じゃぁ…、俺達を一人部屋シングルに変えさせたのも、アンタの思惑か? …俺達を囮にしたんだな?」

 俺の質問にリュクティアのおもてから笑みがスッと消えて、ライオットがハッとしたように彼を見る。

 事前にリュクティアがここの『地下』に何かあると思っていたなら、俺達を囮にして蛮族どもをおびき寄せようとしたのも合点が行く。

 大体、最初っから部屋を替えろって言う要求にも違和感があったんだ。彼らが単なる『宿泊目的』なら、自分達が格安の地下に泊まれば良い話しだ。それをわざわざ俺達が『地下』へ泊まる事になるように誘導した。


 自分達に都合の良いように事を運ぶ為に、俺達を利用しやがった…。

 マジでいけ好かねぇ…。


「……君の想像に任せるよ」

 優越的な微笑みを浮かべて、リュクティアは俺を見た。その表情に苛立ちと怒りが湧いて、俺は思わずリュクティアの胸倉を掴みかかる。

「…テメェッ」

「! ティードッ、ダメッ!」

 俺の咄嗟の行動に、素早く反応したメリアルドが伸ばした俺の腕を掴んで、止めに入る。リュクティアはそれも想定内だと言いたげに表情を崩さない。ヤツのその顔を睨み付けると、ティーダが『いい加減にしろ』と言いたげに俺を制した。

「よせティード! その話しは後だ…」

「……チッ!」

 兄貴と妹に制止されたのでは、俺の怒りは、一旦、収めるしか無い。露骨な舌打をして自分の『不愉快』を吐き出すと、メリアルドに押さえた腕を放すように促して、大袈裟に一息吐いて見せる。

 一応の落ち着きを見せた俺にティーダは小さく溜め息を吐き、タイタスに向き直る。その表情は厳しく、彼を断罪するものだった。

「…事情は分かりました。だが、…貴方の行いは許されない事だ」

「……ああ、分かっている…」

 ティーダを見上げたタイタスの顔には『覚悟』を決めた人間の真摯な色があって、彼はゆっくりと立ち上がる。そこへ、火祭り亭の入り口からシモンが足を引きずりながら慌てて出て来た。

 彼の表情から察するに、俺達の話しを聞いていたようだ。

「待って! …待ってくださいッ!!」

「シモン!?」

 その声にタイタスは俯かせていた顔を上げて、シモンを見る。

 その表情は気不味さだったり、焦りだったりが混在していて、自分の『罪』がシモンに露呈した事に衝撃を受けているようだった。

 覚束ない足取りで駆けてきたシモンはティーダの腕を掴み、必死の形相で請い縋った。

「タイタスさんを憲兵に突き出すなら、僕も一緒に!」

「何を言って! …お前はなにも関係ないだろう!」

 思いもしないシモンの懇願にティーダは困惑を極めた顔をして、タイタスがそれを止めるようにシモンの小さな肩を掴んで制しようとするが、それはシモンの強い意志を纏った言葉に阻まれた。

「関係あるッ、…関係あるよ伯父タイタスさん! ……タイタスさんが蛮族と通じてたの、僕、随分前から気付いてたから!」

「!? …知ってた…のか?」

「…僕だっていつまでも子供じゃないよ、何人ものお客さんが泊まった翌朝に居なくなれば、何かがおかしいって思うよ」

 シモンは苦笑いを浮かべてタイタスに答えると、彼に言い聞かせるように言葉を続けた。

「……タイタスさんは『急用で夜明け前に旅立った』なんて言ってたけど…、そんなのが何回も続くなんて不自然だよ…。だから、僕、タイタスさんの動向をこっそり調べたんだ…、そしたら、そこで死んでる蛮族と地下に降りて行くのを見て…。僕を守る為だってのも分かってた、あいつら、何度も僕を食べるって言ってタイタスさんを脅してたから…」

 シモンの告白にタイタスは堪らず彼を抱きしめて、懺悔を繰り返す。

「……シモン、…すまん…済まんっ! 俺はお前の両親を救えなかった…。だから、お前は、お前だけは守ってやりたかった…!」

 タイタスの言葉に、シモンの面には大人びた微笑みと共に、嬉しさと安堵の色が浮かびタイタスに答えた。

「大丈夫だよ、伯父さんは、充分…僕を守ってくれたよ。僕が赤ん坊の頃から僕の為に危険な仕事を続けてくれて、育ててくれたでしょ? 一緒にいる時間は普通の親子に比べれば少なかったけど。僕、ちゃんと分かってたよ…、タイタスさんが僕の伯父さんで、だって事。…だから、父さんの罪の半分を僕にも背負わせてよ」

 そこで言葉を切り、シモンはタイタスから身体を離し、彼の顔を見上げる。そこに浮かぶのは、やはり『覚悟』を決めたヤツだけが持つ強さを持った笑顔だった。


「僕たち…『家族』でしょ?」


「シモン……」

 そう漏らしてタイタスは崩れるように地面に蹲り、その背中をシモンは励ますように、慰めるように撫でた。

 そんな親子を見下ろし、俺はここに居合わせた一同を見回す。

 皆が渋く、苦しそうな顔をしていた。冒険者としての『正解』と個人としての『想い』の狭間でどう決断すべきか、誰もが悩んでいるようだった。

 静まり返った空気の中、誰も何も言わないから、俺が口火を切った。

「…で? どうする?」

「……オレは…」

 ティーダが答えるが、まだ決断は出来ていないようだ、一言発して押し黙るから、俺が言葉を継いだ。

「俺はこの件には『関知していない』事にする。…ギルドから依頼を受けてる訳じゃねぇし。襲われはしたが…、まぁ、生きてるし」

 俺の発言にティーダもメリアルドもリュクティア達も驚きの色を浮かべて黙り込んだ。事情があるとは言え、この場合『見逃す』と言う選択は一般的に見ても最適解ではない。


 ただ、俺は官憲でも裁判官でもないから、タイタスの罪を裁く立場に無い。なら、見逃しても良いかって思ったんだ。

 俺がタイタスなら、同じ事をすると思うから。


「……ティード」

 難しい顔をしてティーダが俺を見た、何か言いたそうだが、ヤツのその表情に、俺は肩を竦めて無言で答え、リュクティア達に『答え』を促した。

「あんた等は?」

「…どちらでも、君達に任せるよ。元々…僕達が受けた依頼は、あくまで『行方不明者の探索』だからね。この宿で行われてた事は『与り知らぬ事』。…そうだよね?」

 俺の催促に最初の答えたのはリュクティアだった。抜いていた剣を鞘に収めながら、興味無さげに答えるが、これが彼なりの『情け』ってやつなんだろうな。


 随分と分かり辛いし、捻くれてるとも言えるが…。


 リュクティアがメリアルドとライオット、カリンの三人に目配せして、それにメリアルドが答えた。

 彼女自身も自分なりの『倫理観、正義感』とを照らし合わせて考えたんだろう、少し苦しそうな表情を浮かべて、俺とティーダを交互に見詰めた後、両手を強く握り締めて答える。

「……ボクもティードと同じ。タイタスさんと同じ立場だったら…、きっと同じ事をしたと思う。『家族』を助けるためなら、ボクは…どんな犠牲も厭わない。…なんだってする!」

「…私も、カリンを守る為なら…同じ事をすると…思う」

 そう答えたライオットはカリンを顧みると、彼女も黙ったまま頷いた。

「だそうだよ? ティーダは? 答えは出た?」

「……オレは…」

 リュクティアに促されてティーダが呻く。この中じゃ、こいつが一番『官憲側』に近い感覚の持ち主だ。それに、ヤツの信仰する太陽神ティダンは『正義の神』だからな、決断を迷うのも仕方ない話しだ。

 少しの間をおいて、俯かせていた顔を上げてティーダが『答え』を口にした。

「……オレは、今、ぐっすり眠ってて、これはオレが見てる『夢』の中の出来事だ!」

 その言葉にリュクティアやライオットは呆気にとられてる、カリンは笑って良いのかすら分からず困惑の眼差しをティーダに向けてる。

 唯一、嬉しそうに笑顔で兄貴を見てるのはメリアルドだけだ。

 突拍子も無い言い分だが、ヤツなりの精一杯の誤摩化しなんだろうな。ティーダの答えに俺はニヤリと笑って問い質す。

「良いのか? ティダンの教えに反するんじゃないのか?」

「…オレは戦士の生まれだから、詳しい教義は知らないし、良いんだ!」

「はっ! 出たよ屁理屈…」

「…情状酌量ってヤツだよ、ね〜、ティーダ?」

 そう言いながら、メリアルドは嬉しそうにヤツに抱きついた。いつもの一方的な抱擁に、ティーダは微妙な笑顔を覗かせて、気まずそうに頷く。

 それを見ていた俺やリュクティア達は『もありなん』とそれぞれが苦笑う。


 この場に居合わせた全員が『見逃す』決断をした、即ちそれは『彼らに加担した』と同義だ。

 社会的立場上、官憲側に近い冒険者にあっては褒められた行為じゃないが、犯罪や不正なんでもありの悪徳の都ヴァイスシティで、こと旧市街で起こった事件の犯人を見逃したとしても、誰も咎めやしない。


 自身を守る事で精一杯の連中ばかりだから、隣人の生き死になんかに興味も関心も無いんだ。


「まぁ、良いんじゃねぇか。この場の全員が『共犯』だからな」

 変わらず苦笑いを浮かべる一同を見回し、そう言った俺の言葉にシモンは顔を上げ、嬉しそうに笑顔を見せるが、タイタスにそれは無かった。自身の『罪』は充分に自覚してるらしい、元冒険者なら当たり前か。

「……皆さん、ありがとうございます!!」

「済まない、恩に着る…」

 蹲りながら謝罪と礼を絞り出したタイタスを見下ろして、ティーダは彼に寄り添うように告げた。

「…貴方のした事を『罪』だと思うなら、貴方たちなりのやり方で償って下さい」



 それからの事は、後日、メリアルドから顛末を聞いた。

 あの日、蛮族の死体を片付けに来た業者には『宿が蛮族に襲われ、居合わせた俺達が対応した』と適当に言って、それぞれ部屋に戻ったから、あの後のメリアルド達の動向は知らなかったんだ。

 彼女の話しでは、あの後、日の出を待って一行は捕虜から聞き出したヤツらのアジトへ向かい、無事に行方不明者を救い出し、家族の元へ送り届けたらしい。

 助け出したドワーフには『貴方が沈黙する事で救われる家族がいる』とだけ伝え、帰したと言う事だ。


 そして、その後の火祭り亭は、低価格に見合わない手厚いもてなしと美味い料理で、あの界隈では評判の宿屋になったらしい。

 今でもタイタスとシモンは慎ましやかに、犠牲にした旅人を弔いながら『償い』を続けている。






【攻略日記:雑感 六日目 01】


saAyu:と言う訳で、一年とちょっとぶりの雑感です!

ティード:(嫌味ったらしく)長い充電期間だったな…。

saAyu:まぁ〜、なかなか書く気分にならなかったので…。

ティーダ:その分、イラストはたくさん描いてたみたいだな〜。

saAyu:あははっ、なかなか『描きたい』欲が収まらなくて、だったら飽きるまで描いてしまおうかと思いまして。

ティード:…その話しはどうでも良いが。結局、タイタスとシモンのエピソード、書いたんだな。…しかも長いなげぇ

saAyu:ですね〜(苦笑)なんか、色々今後の構想練ってる時に、ここらで『家族』をテーマにちょっと書いてみようかと思いまして。後、貴方達三兄妹の関係性の整理とかね。(…結局、何も変わってないようにも思うけど)

ティード:しかし、相変わらずの捏造っぷりだな…。特にシモンとタイタス周りの設定とか。

ティーダ:ヴァイスシティ本書には最低限の事しか書いてないしな〜。『タイタスが孤児だったシモンと二人で営んでる』としか書いてない。

saAyu:そうですね〜。まぁ、遊ぶ側で色々脚色出来るように『余白』として細かい設定がされてないから、このお話は割と難産だったんですよ? 元冒険者の男(しかも愛想悪い)が孤児を引き取る動機は? 成人間近の男子が自身が営む宿で人が消えてるのに気付かないなんてあるか…? とか。余白があり過ぎてどう展開させるか結構悩んだんですよ〜? まぁ、設定は大して捻ってないですけど…。

ティード:…で、一年以上もかかったって?

saAyu:…まぁ、うん、創作の神が降りて来なかったんですよ。私、イタコ創作者(気が乗らないと書けない)なんで(笑)

ティード:……。

ティーダ:前編にあたる『火祭り亭の夜』でメリア達の仲間も登場したな! オレは前に会っててそれぞれ人となりは知ってたけど…、リュクティアってあんなだったかな…。もっと、ほわっとほやっとした印象なんだが…。

ティード:……あれのどこが『ほわっ』で『ほやっ』なんだよ、ただの辛辣毒舌野郎じゃねぇか。……冒険者としての能力は買うけど。

saAyu:ですね〜。リュクティア君、私の中では、理知的ではあるけどわりかしぼんやりした天然系の子かと思ってたんですけど、現実主義な毒舌君になっちゃいましたね…(苦笑)

 でも、貴方達が『感情』で動くタイプだから、『理性と倫理』で動く彼は良いアクセントにはなるかと思うんですよね〜。(といっても、書いてる私次第か…/苦笑)

ティーダ:…オレは『理性的であるように』って意識してるからな〜。

ティード:……お前は適度にガス抜きしつつ、『理性』で制御するくらいが丁度良いよ(キレたらマジでシャレになんねぇ…)

ティーダ:………。(不本意と言いたげな顔をしてる)

saAyu:ではでは、火祭り亭での戦闘の振り返りでも始めますかね〜?

ティード:そうだな。

ティーダ:まずは敵の決定からだな、ボルグハイランダーは固定で、その子分を『蛮族遭遇表』で決定するんだったな…。

saAyu:ですね、この時の脅威度は、〜4.5以下(※このエピソードは5レベルに上がる前のタイミング)でしたのでボルグ(魔神化一段階)となりました。

ティード:魔神化一段階だから、HPとMPの最大値が+5、固定値上昇が出目③で命中力+2、魔神化能力がd66で『55』だったから魔神の眼(補助動作ペナルティ)だな。

ティーダ:ボルグの方は魔神化されてたのか…、1ラウンドで倒したから分からなかった…。

ティード:ボルグは格下だったし、俺の二撃目がクリティカルしたからな〜。



【ボルグハイランダー&ボルグ】戦 

 ボルグハイランダー〈剣のかけら〉4個で強化。HP+20、生命・精神抵抗力判定+1

 ボルグ 魔神化一段階(HPとMPの最大値が+5、固定値上昇:命中力+2、魔神化能力:魔神の眼(補助動作ペナルティ))

 ※ボルグハイランダーのデータはルルブⅠ442頁を、ボルグのデータはルルブⅠ441頁を参照。各判定は固定値を使用。

 ※ティードの初手は【鎧貫きⅠ】を宣言するものとして扱います。


◆1ラウンド目

 ティードの攻撃、ボルグに対し、初手をピンゾロで外し、続く二撃目を命中させて、出目⑪とクリティカルし、続く出目は⑩で【6(出目⑪)+5(出目⑩)+7(追加D)=18】でそこからボルグの防護点3点を引いて、弱点Dの2点を足して、合計17点のダメージを与えます。

 続く、ティーダの攻撃は【近接攻撃】か【キュア・ハート】を選べる出目、攻撃を選択し【6(出目⑨)+9(追加D)=15】そこからボルグの防護点を引いて、弱点Dの2を足して、合計11点のダメージでこのラウンドでボルグが倒れます。


 ボルグハイランダーの攻撃をティードは軽々避けて、次のラウンドへ。


◆2ラウンド目

 ティードの攻撃、ボルグハイランダーに対し、今度は初手から当てて、【2(出目⑤)+7(追加D)=9】続く二撃目、再びクリティカルが発生します【6(出目⑪)+3(出目⑥)+7(追加D)=16】ダメージロール合計25点、ここからボルグハイランダーの防護点5点(鎧貫き半減分切り上げの2点と3点)を引いて20点、弱点の物理D2点を足して、合計22点の大ダメージ。

 続く、ティーダの攻撃は【魔力撃】で、【4(出目⑥)+16(魔力7、追加ダメージ9)=20】ここからボルグの防護点3点引いて17点に物理Dの2点を足して、合計19点のダメージ。ボルグハイランダーのHPは一気に8点まで削られます…(ダメージロールの出目が良過ぎて怖い…)


 ボルグハイランダー攻撃は【切り返し】を宣言し、一撃目が外れて二撃目が当たり【9(2d)+5=14】ここからティードの防護点4点を引いてティードは10点のダメージを受けます。


◆3ラウンド目

 ティードの攻撃、一撃目が回避され、二撃目も出目が振るわず【1(出目③)+7(追加D)=8】ここから防護点3点を引いて、物理D2点を足して、確定ダメージは7点。

 ティーダはこのラウンドはお休みで、ボルグハイランダーの残りHPは1点。


 ボルグハイランダーの攻撃は【切り返し】を宣言するも、ティードは華麗に回避します。 


◆4ラウンド目

 ティードの回復目的でティーダの行動表を先に振り、回復と攻撃の出来る出目③を出します。【キュア・ウーンズ】でティードを11点回復(全回復)。

 ティードの攻撃、一撃目を当て、【2(出目④)+7(追加D)=9】ここから防護点2点を引いて物理D2点足して、確定ダメージは9点でボルグハイランダーを倒しました。



ティード:わりとサクッと終わったな〜。

ティーダ:レベルがオレたちと同じくらいだったし、出目が良かったからな。

saAyu:ですね〜、ダメージロールの出目が良過ぎて怖いくらいでしたね〜。

ティーダ:で、この後、タイタスさんの悪行は見逃す事にしたんだよな…。

saAyu:そうです、見逃した方がこちらのメリットになりますし、見逃したとてこちらが不利になる記載も本書には無かったので、宿代安くなるし〜、で見逃す事にしました(…と言っても、この後、泊まる事はなかったけど)。

ティーダ:……もの凄く軽いテンションだ…(小説パートのオレたちの苦悩はなんだったんだろう…)。

ティード:だな……。ここで睡眠を取った後は拠点の【時計塔屋敷】へ一旦帰って、ティエラさんのクエストをこなした報告して、ミルタバル神殿の盗賊ギルドで共通ミッション、21:北部への遠征を受注したんだったな。

ティーダ:詳しい事は『4.とある貴族令嬢誘拐事件』の雑感で語ってるから、ここで語る事って無いよな…?

saAyu:ですね。成長報告もあちらでやっちゃいましたし…。

ティード:そうだ、…なんでメリアルドの一行をここに絡めて来たんだ?

saAyu:え? ……まぁ、先ほども言いましたけど『家族』をテーマにしたお話なので、色んな『家族』の形を見せたかったのと、せっかく、作成したキャラクターですから(リュクティアとメリアルドは著者が実際のセッションで使用してるPC)もう少し、しっかりと登場させたいな〜と思いましてね。特にリュクティア君を。自分でも思わぬほどにリアリストになっちゃいましたけど(苦笑)

ティード:…俺、リュクティア嫌いだ。俺達の事を囮にしやがって、詫びのひとつもねぇんだぞ?

saAyu:あら、あら…。はっきり言いますね〜(苦笑)

ティーダ:…彼の名誉の為に言っとくとな。地下の部屋にはリュクティアも泊まってたんだ。

ティード:は? ……どういう事だ?

ティーダ:…最初からメリア達を安全な部屋に泊めて、彼自身は宿泊者が消える『地下の客室』に泊まって囮になるつもりだったみたいだ。ただ、俺達が先に『安全な部屋』に泊まってたから…。

ティード:…なんだよ、なんで早くそれを言わねぇんだよ!

ティーダ:口止めされてたんだ…、囮にしたのは事実だから、黙っててくれって。リュクティアは合理的に状況を判断して最適解を出せる優秀な冒険者だよ。

ティード:なんだよ、それ…(事情も知らねぇで苛ついてる俺が子供みたいじゃねぇか……)。

saAyu:リュクティア君への誤解は解けました〜?

ティード:…チッ。……知らねぇよ!(気不味いのか言い捨てて、プイッと行ってしまう)

ティーダ:あっ、ティード!? …それじゃ、お疲れさん!

saAyu:は〜い、お疲れ様でした〜。



【散会後のティーダさんとティード君の会話を盗み聞き】


ティード:そういや、悪かったな。…の邪魔して。

ティーダ:えッ!?(物凄く動揺している)

ティード:…メリアと一緒だったんだろ、あの晩。

ティーダ:…あ……えっと………。(顔を真っ赤にして固まる)

ティード:階段上がる時に部屋の中にメリアが居るのが見えた…、一緒だったんだろ?

ティーダ:…あ〜…うん。…すまん。

ティード:…謝るようなコトでもしてたのか?(無感情で無表情)

ティーダ:………。

ティード:(深い溜め息を吐きつつ)別に謝るコトじゃねぇだろ、恋人同士なんだから。

ティーダ:うん、まぁ…そうなんだけどな…。

ティード:お前らが、ドコでナニしてようが俺は興味ねぇし、構わねぇよ。

ティーダ:………。

ティード:それより、ライオットとカリンに蛮族の襲撃を知らせたのはメリアなんだな。…アイツ、随分と機転が効くようになったな〜。(しみじみした表情)

ティーダ:あぁ、リュクティアにずいぶんと鍛えられたらしいぞ~。『自分で考えて動かないと、君、死ぬよ』って、言われたらしい…。

ティード:駆け出し相手に辛辣だなぁ…。らしいっちゃぁ、らしいが…。

ティーダ:まぁ、メリアは少しおっとりのんびりしたとこがあるから、良かったのかもな(苦笑い)

ティード:ライオットとカリンは仲良し姉妹って訳でも無さそうだったな~。ちょっと蟠りがある感じがしたけど?

ティーダ:いやぁ~、どうだろう…。確かに長い間離れ離れだったらしいし、カリンは苦労したみたいだからな…。でも、心の深い所で信頼し合ってるみたいだぞ?

ティード:へぇ…。

ティーダ:オレたちみたいだな!(満面の笑み)

ティード:……まぁ、そうだな。(微妙な顔/照れてる模様)

ティーダ:(とても神妙な面持ちで)…なぁ、ティード。

ティード:あ?

ティーダ:オレなりにお前の事は理解してるつもりなんだが、…その。

ティード:…なんだよ、急に…(もの凄い怪訝な顔)

ティーダ:……オレに対して言いたい事があるなら、ちゃんと『言葉』にしてくれな? オレ、…お前の『気持ち』までは分からないからさ。(微妙な苦笑い)

ティード:言いてぇ事は言ってるつもりだが?

ティーダ:(ちょっと歯痒そうに)…そう…か、なら、良いんだ。

ティード:……(何かを察した模様)

ティーダ:じゃぁ、帰るか!

ティード:…ああ。

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