2 森の中のレイチェン



 翌日、俺とティーダは朝から【魔女の占いの家】へ出掛けた。

【時計塔屋敷】の一号室に住む、マーシアから預かった手紙を、その店のメイド、コーティに届ける為だ。


 朝方、起き抜けのタイミングでティーダが帰って来た。寝惚けてぼんやりしてたから、こっちからは何も聞かなかったんだが、朝飯を食ってる時に「メリアの仲間は、皆、良い人達だった」と聞いた。

 昨夜ゆうべの事を詳しく聞くのも野暮だから「…そうか」とだけ返したんだが、微かに酒の匂いを漂わせていたから、メリアルドの仲間達とお近づきの酒盛りでもしたんだろう。

 ティーダは酒に弱い。

 強めの酒をショットグラスで一杯飲めばそこで撃沈する。エールですらジョッキで二、三杯飲めば呂律ろれつが回らない状態になる。

 反対にメリアルドはだ。

 何時だったか、酒の味を覚えたばかりの頃に、酒場の酔っ払いどもを相手に呑み比べをして、相手を酔い潰した上にケロッとしてたほどだ。

 昨夜の酒宴も十中八九、ティーダが先に寝落ちしたんだろうな。


 ティーダの様子から見ても、の方は『おあずけ』だったみたいだ。



「…休み、って書いてあるぞ?」

【魔女の占いの店】の扉の前で後ろを振り返り、後をついてきたティーダに問いかける。扉横の立て看板には『おやすみ中』の木札がかけられてあって、ティーダは「……困ったな」と呟いた。


【魔女の占いの店】は通りに面した庭付きの店舗兼邸宅、といった感じの店構えで、なんというか…可愛らしい感じの店だ。

 女性が好みそうな雰囲気というか、正直、俺達のような野郎が立ち入るには少し抵抗がある。

 通りから店の扉まで続く小道は石畳で、庭には放置したままの庭仕事用の道具が無造作に置かれていて、丁寧な手入れをしているようには見えない。


「どうする? 一応、ノックしてみるか?」

「…ああ、そうだな。せっかく来た訳だし」

 俺に追いついて休み中の札をピンッ、と指先で弾いてティーダが答え、俺が扉を三度ノックした。

 目の前の扉は沈黙したまま、なにも答えはしない。

 念のため、再度ノックするが、やはり誰かが出てくる気配はない。ティーダと顔を見合わせて「仕方ない、帰るか…」と扉を離れて帰ろうとしたところで、背後から「なにか御用ですか〜?」と女の声がした。

 振り向くと、メイドらしき女が扉から半身を乗り出して、こちらを見ている。その姿に、ティーダがいつものように柔和な微笑みを浮かべて、その女の方へ歩いて行った。


 出て来たメイドはコーティと言った。

 青い髪が奇麗な少女のように見えるが、人間の耳にあたる部分が金属の何かに覆われているから、ルーンフォークなのだろう。

 表情が乏しく、見詰め返す目は虚ろで、俺達に興味がないんだと分かる。

 

 彼女が、マーシアから預かった手紙の届け先だ。

 丁度いい、とティーダが用件を話そうとしたところで、彼女は無表情なままで早口で捲し立て始める。

「ここは〝夜明けの魔女〟レイチェン様の占いの店ですが、レイチェン様は、只今、出掛けていて不在です。ご足労痛み入ります。そろそろ戻ってくる時間ですが、放浪癖のある方なので、どこかお散歩へ行ったのかもしれません。全く、困った方です。出掛ける前に仕込んでいかれた薬草がそろそろ良い感じなので、早く帰って来い。と伝言お願いしていいですか?」

 思いもしない勢いに、ティーダは気圧されていつもの習慣でコーティの『依頼』を受けてしまった。

「…あぁ、…っと、そのレイチェン様? はどこへ出掛けたんだろうか?」

「あぁ、そうですね、【ミルタバル神殿】の方へ出掛けました、じゃ、そう言う事で! よろしくで〜す」

 無感情無表情でコーティは言い放って、扉をバタンッ、と勢い良く閉めた。後に残された俺達は余りの展開の早さに呆然と扉の前に突っ立って、再び沈黙してしまった扉を見詰めるしかできなかった。

 隣でティーダが『困った…』と苦笑いを浮かべて呟く。

「なんだか依頼を引き受けてしまったようだ……」

「そのようだな……」

 ティーダの呟きに、俺は呆れの溜め息で答えた。



 仕方ないので俺達はミルタバル神殿へと向かった。

 昼過ぎの【ミルタバル神殿】前の広場は、活気があって賑やかだ。様々な露店が並び、食い物を売ってる店の軒先からは良い匂いが漂ってくる。

 肉を串に刺して、炭火で焼いた軽食スナックを食べながら、沢山の人が行き交う広場を見渡す。

「…で? 探すあてはあるのか?」

「ん〜、まぁ〜、地道に聞き込み……とか?」

「…日が暮れるな」

 食べ終わった串を店先の屑入れに投げ入れて、俺は神殿の方へ歩く。後ろからティーダが「なにか良い案でも思いついたのか〜?」と暢気に声を掛けるから、呆れた、と視線を投げるとヤツは『お前の役目だろ?』と言いたげに笑ってやがる。

〝魔女〟と呼ばれてるなら、その手の雑貨が売ってる商店を回れば足取りが掴めるかと思って、一時間ほどかけて広場の露店、神殿内の店を周り、いかがわしい玩具おもちゃを売ってる店の主から、レイチェンの行き先を聞けた。

「あ? …〝魔女〟なら薬草を採取してから帰るって言ってたから、【鍋底】にでも行ってんじゃねぇかな〜」

「そうか、…助かったよ」

 店主に情報量として400ガメルを投げ渡すと、ニヤリと笑って「兄ちゃん、あんがとよ〜」と言い返して来た。


 二時間後、切り立った崖に囲まれた【鍋底】と呼ばれる低地の森の入り口に俺達は立っていた。

 ここへ来る前に聞いた話だと、断崖絶壁に囲まれた窪地で、崖の上から全体を見渡すと『鍋の底』に見える事からこの地名が付いたらしい。土地一帯を覆うように繁殖し拡がる森林の他に、湖とルーンフォークの小さな集落があると言う事だ。

 崖の上の入口付近には蛮族が管理する関所があって、降りるにはそこを通らないといけないそうだ。ただ、入る時には何も言われないらしいが、出るには200ガメルの通行料を払わないといけないらしい…。



「…で? この広大な森の中、どこを探すって?」

 前を行くティーダの大きな背中に、俺は素っ気ない言葉を投げつけた。

「そうだなぁ〜、呼びかけてみるか〜?」

 鞘に入れた状態のバスタードソードで、行く手を阻む茂みを払いながら、兄貴は振り返り苦笑いを浮かべる。


 まったく、どこまでも暢気で楽天家だ…。


 漠然と『レイチェンは【鍋底】にいる』と言う情報だけで、具体的な位置までは聞いて来なかったし、こんなに広い森だとも思わなかった。

 先の見えない陰鬱とした森の中で、少し苛ついていた俺は、ティーダの能天気さに腹が立って語気を強めにして返す。

「闇雲に探してたら、本当に日が暮れるぞ!」

 俺の苛立ちが伝播したのか、ティーダも不機嫌そうに答えた。

「分かってる…、せめて、レイチェンって人の匂いが分かればなぁ…、匂いで追えるかもしれないんだが…」

「なに? お前そんな特技あったの?」

「まぁ、ティードよりは鼻が効くと思うぞ!」

 自慢げに胸を張って笑うと、それに俺は深い溜め息を吐き出す。底抜けに明るい笑顔を見せるティーダに、何も言えなくなったんだ。


 オレは狼のリカントだからな! とでも言いたいんだろうな。

 確かに、俺よりは鼻が良いんだろうけど…。


「……ん? なにか聞こえないか?」

 心底、呆れた…、と冷ややかな視線を投げ返す俺を他所に、ティーダの耳が忙しなく動いて、何かの音を捉えたようだ。

 音を立てるな、と言う意味なのか、俺を制止するように手の平を広げて向けてくるから、俺は動かずにその場に止まった。

 その時、微かに茂みが動く音が聞こえた、気がしたが、十秒も経たないうちにそれは確信に変わる。

 茂みの中を動く二つの音がこちらに近付いて来て、ティーダと俺の間の茂みから若草色の毛並みのタビットが飛び出して来て、獣道を走り去った。その後から追いかけてくるのは、白いラマのような幻獣だった。

 俺達に見向きもしないで一心不乱にタビットを追いかけて獣道へ入って行く。

「…いまのが、レイチェンじゃないか?」

「とっ、とにかく、追いかけよう!」


 タビットとラマ幻獣が拡張して通りやすくなった獣道を走り抜け、少し開けた場所に出る。先に獣道を出たティーダが辺りの様子を窺いながら、三つある獣道の入り口をひとつずつ調べていた。

「…どっちへ行った?」

 弾む息を整えつつ声を掛けると、力ない答えが返ってくる。

「……分からん」

「なにか手がかりは? …タビットの毛とか落ちてないのか?」

「ん〜、そうだなぁ…」

 矢継ぎ早に問いかける俺に対して、ティーダは気のない返事をしてくる、集中し出すと周りの音が聞こえなくなるほど入り込むから、今は何を言っても無駄かもしれない。

「……たぶん、この道に入って行ったと思う」

 ティーダが立ち上がって、一房の抜け毛を俺の目の前に掲げる。若草色の柔らかい毛、レイチェンのものだろう。獣道の入り口付近の低木にまとまった毛がついていて、幻獣から逃げる際に引っ掛けて抜けたんだろうな。

「…じゃぁ、行くか?」

「ああ」

 レイチェンが入って行ったと思われる獣道を少し進むと、先を行くティーダが立ち止まって、すごい勢いで振り向いてこちらへ向かってくる。

 焦りの色濃い顔をして走ってくるから、俺は来た道を引き返すしかない。

「あ? なに? …なんだよッ!?」

「レイチェンと、幻獣が戻ってくるぞッ!」

「はぁ!?」

 そう言って開けた場所に出て、後ろを振り向くと幻獣に追いかけられ、必死の形相で走ってくるタビットが叫んだ。

「そこの冒険者! 私を助けなさ〜〜〜〜いっ!!」

 と、そう言ってレイチェンは獣道から飛び出して来て、ティーダの後ろに隠れて、俺達の目の前には、怒り狂う白い毛並みのラマ幻獣が躍り出た。


 一体、何をしたんだよ……。


 俺とティーダの連携でラマ幻獣こと、アクリスの前足を潰して動けなくした筈だったんだが、それでも動きを止めない幻獣は、反撃とばかりに、鼓膜を突き破るような甲高い鳴き声一閃、ヤツの歯が俺の腕を捉えて、噛み潰そうと顎に力を入れる。

「グッ! ……くそッ!!」

 噛まれたままミシミシと骨が軋むのを感じながら、俺は噛み付かれた腕をアクリスの方に押し返し、残った方の腕でヤツの首に拳を一発叩き込み、前足に蹴りを一発入れる。

 その攻撃に驚いてアクリスは悲鳴を上げ、俺は解放された腕を庇いつつ、後退する。

「うぉぉぉぉっ、これでどうだッ!!」

 ティーダのバスタードソードがアクリスの腹を斬り破って、血液なのか体液なのか、なんとも言えない色の液体に混じって臓物の一部が出て来てるんだが、そんな状態でもアクリスの戦意は衰えず、俺に向かって突進してくる。

 噛まれた腕は幸いまだ動く、次の一撃でアクリスを沈めるつもりで、ヤツの体当たりを避け、残った力でアクリスの頭に拳を二発叩き込むと、アクリスは絶命して地面に倒れた。



「いやぁ〜、助かったわ〜、あんがとね〜」

 いつの間にか茂みに隠れていたレイチェンが、暢気に悪怯れる事もなくそう言って出て来た。彼女を見れば、頬から血を流してる。獣道を走ってる間にどこかに引っ掛けて切ったんだろう。

「…ここ、切れてるぞ。大丈夫か?」

 自分の頬を指差しながらレイチェンに話しかけると、彼女は自らの頬をさすり、手の平に着いた己の血液に驚いて飛び上がる。

「え? ひゃぁぁっ!! 血! ちぃ〜〜〜ッ!!」

「……かすり傷だろ、使うか?」

 大袈裟に驚くレイチェンに、俺は【ヒーリング・ポーション】を見せて投げ渡そうとしたんだが、それに「大丈夫! 薬草あるから、ゴリゴリするわ!」と言って、鞄の中から調合用の器材を出して来て、採って来たばかりであろう薬草をすり潰し始める。


 俺の背後では、ティーダが幻獣の皮を嬉々として剥いでる…。


 二人がそれぞれ、調合と剥ぎ取りを終えると、そこでようやく帰路についた。

「そういえば、アナタたち、どうしてここへ?」

 歩いて来た獣道を戻りながら、レイチェンが俺とティーダを見上げて言った。それに先頭を歩くティーダが、邪魔な茂みをバスタードソードで払いながら答えた。

「貴方の所のメイドに頼まれたんです、『薬草がいい感じだから帰って来い』って伝えてくれって」

「あぁ…、そういや、醸して出て来たんだったわ!」

 思い出したように手を打つレイチェンを見下ろし、俺は溜め息を吐く。

「…忘れてたのかよ」

「忘れてた訳じゃないの、気に留めてなかっただけ!」

 勢い良く振り返って屁理屈を返す彼女に、俺は「……屁理屈」とだけ返した。それに気まずそうな表情を浮かべたんだが、直ぐに『ふふん…』とドヤ顔を見せると恩着せがましく言ってくる。

「まぁ、アナタたちは命の恩人だから、うちの店で占いする時には、見料を安くしてあげるわよ!」

 感謝しろ、とでも言いたげな言葉にティーダは苦笑いを浮かべている。

「…ははっ、機会があればお願いするよ」

 おそらく、その機会とやらは一生来ないんだろうが、相変わらず、当たり障りのない言葉で返す辺りはさすがだ。



 レイチェンを【魔女の占いの店】まで送ると、メイドのコーティーが出て来て、開口一番、小言を漏らし始める。

「薬草を醸しているのに…、なぜ? なぜ【鍋底】なんかまで行くんですか!? …まさか、忘れてたんじゃないですよね? 否、忘れてましたね? その顔は忘れてた顔です!! まったく、私が頃合いを見て処理しておきましたけど、大事な商品なんですから、もっと、ちゃんとして頂かないと困りますよ? 大体、レイチェン様は腕は良いのに、いい加減というか、大雑把と言うか、トリ頭…は言い過ぎました、すみません。…本当に私が居ないとダメなんですから、もう少しは私の言う事も聞いて下さらないと、私、拗ねますからね? そりゃもう、盛大に拗ねて、お手伝いしませんからね?」

 一方的に早口で捲し立てるコーティに、レイチェンは勿論、その後ろで一緒に聞いていた俺達もコーティに叱られてる気分になって、何も言えなくなった。

「……ゴメンナサイ」

 怒濤の小言が終わって、レイチェンが絞り出した一言がこれだった。

 一応の謝罪を受けて、少し満足したのかコーティはニコッと笑って、レイチェンに「お帰りなさい、レイチェン様」と声を掛けた。

 その声掛けにレイチェンの表情が明るくなって「ただいま、コーティ」と返す。

 なんだかんだ、仲良くやってるみたいだ。


 コーティから「レイチェン様を助けてくれたお礼に、お茶と焼き菓子をごちそうしたい」と言われ、断る事もないか…となって店の中へ通された。

 店の内装は、外観から容易に想像出来る可愛いらしいもので、アンティークな調度品と天井から下げられた乾燥した薬草類が、片田舎の商店と言った雰囲気で、メリアルドが好みそうな内装だな…、と思った。


「……どぞ、お口に合うか分かりませんが」

 コーティはそう言いながら、ティーワゴンに乗せて運んできたティーポットやカップを手際よくテーブルへ配膳して、最後に焼き菓子を乗せた皿を置いた。

 皿に盛られた焼き菓子は、おそらくマドレーヌとか言うやつだ。ホタテ貝の殻の形を模した可愛らしい見た目で、メリアルドが好きでよく作っては味見させられてた事を思い出した。

 正直、甘ったるい菓子は苦手なんだが、コーティ手製の焼き菓子はさっぱりした後味で、甘味が苦手な俺でも美味いと思えたし、甘い物が好きなティーダは嬉しそうにパクパクと食ってたから、その様子を見てコーティは嬉しそうに微笑んで「おかわり、ありますよ〜」なんて言いながら皿いっぱいに盛った焼き菓子を追加で持ってきた…。


 焼き菓子で腹いっぱいになった俺達はレイチェンやコーティと他愛のない雑談を交わし、帰りがけにマーシアから言付かった手紙を渡すと、それと引き換えに小包を渡された。


「それじゃ、ご馳走さまでした」

 ティーダが見送りに出て来たレイチェンに告げて、俺達は店を出る。ティーダの後に続いて店を出ようとした時、レイチェンが俺を呼び止めた。

「あ、ちょっと、ティード君」

「? ……なんだ?」

 振り返ると彼女が、ちょいちょい、と手招きしてる。それを見てティーダに「先に行っててくれ」と告げて、俺は店の中に戻った。

「…俺の背後に見えるのか?」

 真剣な目で俺を見詰めるレイチェンを茶化すように答えると、彼女は「…ふっ」と小さく笑って、物知り顔で問いかけて来た。

「……そうね、キミはもう気付いてるみたいだけど。認めたくないのね?」

 彼女の言葉が何を指しているのかは容易に理解出来た。日に日に強くなる『魔神使いデーモンルーラー』の力の事だろう。

「…俺の『魔神使いデーモンルーラー』の力の事か?」

「そう! とても強い力よ、上手に使えばキミの力になる…」

 まるで、そそのかすような表情を浮かべている、もう一人の俺がついに顕現したのかと思って身構えたんだが、そうではないようだ。


〝魔女〟と呼ばれる者の性なのか、悩める者には『助言』を、と言ったところか。


 彼女の助言に俺は黙り込む、確かに魔神使いデーモンルーラー、召異魔法の力は使いこなせれば有益だ、だが、それと同時に『誘惑』との戦いでもある。

「………」

「…キミは魔神に呑まれる事はないと思うわ、…キミの意志は頑なだから。それに、程度を弁えてる。……大丈夫よ、その力、必要な時に使いなさい」

「…みたいな事を言うんだな、アンタ」

 妙に説教臭いレイチェンの物言いに皮肉で返すと、彼女は小さく笑って俺に応戦した。

「あらぁ〜、私をただのだとでも思ってた?」

 茶化した言葉に、俺は薄く笑って答えた。

 レイチェンの目が窺うような視線を返して来て、俺を捉える。その目は、何もかもを見透かしていて落ち着かない。

「異貌した自分の姿が嫌いなのね?」

「…ああ、…昔、ディアボロみたいだって言われてからは、特にな」

 自分がナイトメアだって事はとっくに呑み込んだし、消化もしてる。

 どうにもならない事だから、それを『嘆く』事は早々に止めたんだ。ただ、俺の異貌した姿を見た他人に『蛮族みたいななりしやがって!』と言われた事があって、幼かった俺は、その時ばかりは自分の生まれを恨んだし、嘆きもした。

 その姿で居るだけで『他人』を不快な気分にさせるのか、と。


 その日以来、出来るだけ異貌しないように生きて来た。


「あら? 確かにディアボロは恐ろしい蛮族だけど、見目は美しいと思うわよ?」

「……は?」

 レイチェンの思いもしない言葉に、俺が呆気に取られていると、彼女はうっとりとした表情を浮かべ、まるで陶酔している様子で話し続ける。

「艶やかに伸びる角、漆黒に輝く髪、滑らかな青黒い肌、様々な光彩を放つ神秘的な瞳! どれをとっても美しいわ!! …蛮族の最高傑作よ!!」

 人の嗜好をどうこう言うつもりはないんだが、芝居がかった大仰な身振り手振りに、俺は呆然と彼女を見詰めて、なんとか言葉を絞り出す。

「……アンタ、相当な変わり者だな」

「まぁ、否定はしないけど。…見目なんて大した問題じゃないわ、キミは強いんだから、備わった力は使うべきよ」

 人になんと言われようが、自分の主張は曲げない、とでも言いたげな自信に満ちた笑顔でそう言われて、俺は思わず苦笑いを浮かべる。


 確かに、自分に備わった能力は活かすべきだ。あとは、俺がを受け入れられるかどうか…。


「……覚えとくよ」

 俺はそう言ってレイチェンに笑い返すと、店を出た。

 ふと視線を上げると、その先には庭を囲む柵に浅く腰掛けたティーダの姿がある。どうやら、俺を待っていてくれたようだ。店から出て来た俺の姿を視界に捉えて笑うと、いつもの調子で声を掛けてくる。

「レイチェンはなんだって?」

「え? …人生について、アドバイスをされた」

 素っ気なく答えて、通りに出る。立ち止まらなかった俺を追いかけて、ティーダが更に問いかけてくる。心無しか、ヤツの声音が弾んでいた。

「それにしては、嬉しそうじゃないか?」

「ん? ……」


 確かに、レイチェンの言葉には救われた、心持ちが、また少し軽くなったようにも思う。


「…あぁ、そうだな、考え方を改めるきっかけにはなったな」

 横に並んで歩く兄貴にそう言って返すと、ヤツは嬉しそうに「そっか……」と、呟いて、俺はそれに短く答えた。

「……ああ」






【攻略日記:雑感 五日目 2】


saAyu:そんな訳で、ミッション【08.レイチェンを呼んできて】クリアですね!

ティード:そうだな、じゃぁ、まず、どっちからする? 成長報告? それともラマ幻獣…、あ、アクリス戦の振り返り?

saAyu:そうですね、サクッとアクリス戦の振り返りしてから成長報告しましょうかね。

ティーダ:じゃぁ、えっと…、まず通常の【鍋底】の「低地の森」ではイベント決定表を振るんだな?

saAyu:です! が、ミッションで行く場合は、イベント表の出目2が固定のようですので、それに従って「幻獣遭遇表」を振って、ラマ幻獣こと、アクリスとの戦闘が決定しました。

ティード:このアクリスは『魔神化』が二段階まで進んでるんだったな。

saAyu:そです〜。もう、面倒だったらありゃしない…。魔神化表を振るんですけど、こういう時に限って嫌な出目を振っちゃったりするんですよね…。

ティーダ:えっと…、羽が生えて、魔神を召還する、それに加えてHPとMPが+10されるんだな。

ティード:まだあるぞ、固定値の上昇があって、命中力が+2、弱点値+3、先制値+2、打撃点+3、……なかなかなてんこ盛り具合だな…。

saAyu:そうなんですよ〜、面倒くさいでしょ〜。しかも、二部位ですよ!

ティーダ:…羽は尻に生えてるんだな?

saAyu:そうです、ダイスの女神様のご意向で(笑)想像するとちょっと面白いですけどね〜。


【幻獣アクリス】戦

 【2レベル 前半身(噛み付き)/命中4(11)/打点:2d+1/回避4(11)/防護点:3/HP28/MP20】

 【      後半身(蹴り)  /命中4(11)/打点:2d+4/回避3(10)/防護点:4/HP14/MP6】

 プラス分のHPは前半身に全乗せ。物理ダメージ+2点。

 ※各判定は固定値を使用。   

 ※ティードの初手は【鎧貫きⅠ】を宣言するものとして扱います。


 ◆1ラウンド目

 ティードの攻撃、アクリスの後半身に対して、二回とも命中し、8点とクリティカル含む14点の合計22点ダメージ、アクリスの防護点6点を引いて16点ダメージに物理Dの2点を足して、18点ダメージ。ここで、早くもアクリスの後半身が落ちます。(棒立ち状態となり、前半身は命中と回避に−2点の修正)

 続いて、ティーダの攻撃は【近接攻撃】で、前半身に13点ダメージアクリスの防護点3引いて、10点のダメージ。アクリス前半身の残りHPは18点です。


 続くアクリスの攻撃をティードは避けられず、14点からティードの防護点4点を引いて、10点ダメージ、ティードの残りHPは19点でこのラウンドを終了します。


 ◆2ラウンド目

 ティードの攻撃、アクリスの前半身に対して、初手が命中し、10点からアクリスの防護点2点を引いて8点ダメージに物理Dの2点足して、10点のダメージ。二撃目は回避され、外れました。

 続いて、ティーダの攻撃は今回も【近接攻撃】で、11点ダメージアクリスの防護点3引いて、8点のダメージに物理Dの2点足して、10点のダメージで前半身も落ち、戦闘終了です。


ティード:魔神化盛りもあっけなく終わったな…。

ティーダ:そうだな、まぁ、レベルが俺達より低かったし…、そもそものHPが低いから、10点盛られた所で、大した事なかったな。

saAyu:ただ、二部位ある敵って、何かしらの条件下でHPやMPが増える場合って、部位数関係なく一体全体でプラスするって事で良いんですよね? 部位毎にプラスとかじゃなくて?

ティード:いや、俺らに聞くなよ…。

ティーダ:…ライフォス神殿の魔動機戦の時は全体でプラスしてたじゃないか…?

saAyu:そうなんですけどね、今ここに至って、…その解釈で良いのかなぁ〜って思っちゃったんですけど…、まぁ、終わった事なんで、良い事にしときます!

ティード:それよりも、俺はレイチェンがディアボロ信者っぽくなってるところが気になるけど…?

saAyu:あぁ〜、そうですね〜。ティード君の異貌を肯定する為と、書いてる私がディアボロ推しなので、ああなっちゃいましたね〜(苦笑)

 なので、異貌してるティード君別嬪ですよ!(鼻息荒くドヤ顔)

 あ〜、2.5でも蛮族PC作れるようになれば良いのになぁ〜。

ティード:………。(なんか微妙な顔してる)

ティーダ:2.0のレギュレーションで作れない事はないんじゃないか?

saAyu:ディアボロさんは2.5の追加新種族なので、その辺のコンバートの仕方が良く分かんないんです、初心者にはハードル高いです。

ティーダ:あぁ、そっか。オレたちと一緒なんだな。(リカントも2.5からの新種族)

ティード:じゃぁ、成長報告するか?

saAyu:あ、そうですね、では、ティード君からお願いします!

ティード:ん、じゃぁ…まずは経験点4,270でグラップラーを4に上げて、新たにデーモンルーラー技能を取った、レベルは2だ。残りの770点は次回に持ち越しだな、成長は【精神力】で18から19になった。あと、デーモンルーラー技能を取ったから、魔神語の会話と魔法文明語の読文が出来るようになった。

saAyu:武器も買い替えましたね。

ティード:あぁ、そう、アイアンボックスに買い替えたな。威力が上がるのは良いんだが、普段から着けっぱなしに出来ないのが不便だな…。アイアンナックルは着けたままでも物を掴んだり出来たが…。

saAyu:まぁ、そこは上手く折り合い付けてください。じゃ、次はティーダさん、どぞ!

ティーダ:ああ、えっと、経験点が4,670点だから、ファイターとプリーストをそれぞれ4に上げて、新たにレンジャー技能を取った、レベルは2だ! 残った170点は次回に持ち越しだ。

saAyu:今回の攻略には必要ないんですけど、元テキストの設定に合わせたかったので、取っただけで、行動表には入ってないですけどね〜(苦笑) 

ティーダ:うん、地図をちゃんと読めるように鍛錬したんだ! それから、成長は【筋力】で18から19になったぞ!

ティード:今回もまた、成長機会を結構、逃してるな…。

saAyu:はははっ、なんか、つい、貯めちゃうんですよね〜、★。

ティード:そういや、マーシアのお使いは? 一応、小包を渡した事にはなってるんだろ?

saAyu:そりゃ、もちろん。謝礼に〈アンチドーテリング〉を頂きましたので、ティード君、着けといて下さい。毒の効果をある程度防いでくれるみたいですね。

ティード:……へぇ〜、じゃぁ、ありがたく。

saAyu:いえいえ〜。

ティーダ:じゃぁ、次は? …そう言えば、冒険者レベルが4まで上がったから、メアリーさんの所に行くんだったか?

saAyu:そうですね、まずはメアリーさんに報告して、クエストを次の段階に進めましょうか!

ティード:…★集めはまだまだ続くんだな…。

saAyu:そう言う事です!!






◆ 成長報告 ◆


【プレイヤーキャラクター】

ティード・ジルダール/ナイトメア/19歳/男/冒険者レベル:4

グラップラー:4/デーモンルーラー:2(魔神語:会話 魔法文明語:読文)

スカウト:3/セージ:2(リカント語:会話/魔動機文明語:読文)

HP:32/MP:25  生命抵抗力:7/精神抵抗力:7

能力値:【器用度:18(3)】

    【敏捷度:18(3)】

    【筋 力:19(3)】

    【生命力:20(3)】

    【知 力:18(3)】

    【精神力:19(3)】

     ※( )内はボーナス数値

防護点:4/先制力:6/魔物知識:5/

命中力:8/回避力:8/魔力:5

追加ダメージ:7

判定パッケージ:【技巧:6】【運動:6】

        【観察:6】【知識:5】

装備:〈アイアンボックス〉【威力10/C値⑪】

   (命中修正+1 計算済み)

鎧:〈アラミドコート〉

  (回避力+1/防護点+2 計算済み)

装飾品:首 :〈始祖神の首飾り〉(石化無効)

    右手:〈怪力の腕輪〉(筋力+2 計算済み)

    左手:〈アンチドーテリング〉(毒属性への耐性)

    腰 :〈ブラックベルト〉(防護点+1 計算済み)

    足 :〈召異の徽章きしょう〉(〝扉の小魔ゲート インプ〟 封入具)

戦闘特技1:防具習熟A/非金属

     (防護点+1 計算済み)

戦闘特技3:鎧貫きⅠ

     (敵の防護点を半分に、C値は+1)

      追加攻撃(自動習得)

所持金:11,380G

持ち物:冒険者セット/スカウトツール/黒い剣(ロングソード)

    能力増強の指輪(器用度/敏捷度/筋力)※壊す用

    ヒーリングポーションなどのポーション類、数個


【フェロー】

ティーダ・シルヴァウォルフ/リカント(狼)/23歳/男/冒険者レベル:4

ファイター:4/プリースト:4/レンジャー:2

MP:24/魔力:7/命中力:7

追加ダメージ:9 ※獣変貌時の筋力B+2込み

戦闘特技1:魔力撃

戦闘特技3:必殺攻撃Ⅰ


【フェロー行動表】

1d:1-2

想定出目7【近接攻撃(バスタードソード)】

     「いっちょ、やりますか〜!」

      達成値14/【威力15/C値⑩+9】

      ※追加Dは獣変貌時の物です。

想定出目6【フォース】射程1(10m)MP4

     「聖なる力、受けてみるか?」

      達成値13/【威力10+7】

1d:3-4

想定出目8【魔力撃】

     「当ると痛いぞ〜!」

      達成値15/【威力15/C値⑩+16(追加D+魔力)】

      ※次の手番は休み

想定出目5【キュア・ウーンズ】射程1(10m)MP3

     「助けが必要だろ?」

      達成値12/【威力10+7】


1d:5

想定出目9【近接攻撃(バスタードソード)】

     「オレの一撃、受けてみろ!」

      達成値16/【威力15/C値⑩+9】

想定出目4【キュア・ウーンズ】射程1(10m)MP3

     「大丈夫か? 今、治してやるからな」

      達成値11【威力10+7】


1d:6

想定出目10【魔力撃】

     「…これがオレの本気だ!」

      達成値17/【威力15/C値⑩+16(追加D+魔力)】

       ※次の手番は休み

想定出目3 空き

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