3 チェザーリという男



「はぁ〜〜、大きいやしきだなぁ……」

 重厚とも言える堅牢な造りの門を目の前にティーダが関心しきりで呟いた。門に連なる壁も高くて頑丈そうだ。

 確かに、この街の邸宅の中では一番立派で、最大の規模の館かもしれない。新市街地のモルガナンシン城にひけを取らないほどの邸に、チェザーリと言う男のこの街での存在の大きさを感じた。


 チェザーリ邸は西街区の山手にあって、ビスクーネ河を見下ろす立地にある。山の斜面一帯が邸の敷地らしく、モルガナンシン城が縦に最大なら、こちらは横に最大の規模を誇ると言えるだろう。建物自体の意匠は古風なもので、古くからある建物なんだと言う事が分かった。

「おい! そこの、ここで何をしている!」

 門番なのか、門の側にある詰所から衛兵が出て来て、俺達に声を掛けて来た。新市街地で見かけた衛兵とは違って彼ら独自の装備から、チェザーリの私兵だと言う事が分かる。


 チェザーリってヤツは金も権力も持ってんだな…。なんか、いけ好かねぇ。


 険しい表情の衛兵に対して、ティーダがにこやかに答える。

「チェザーリ様のおやしきで〈ビスクーネ渡河許可証〉を発行して貰えるって聞いて来たんですが、こちらで良かったですか?」

「ん? …なんだ、渡河許可証なら、詰所で発行してやるが…、手数料に3000ガメル必要だぞ?」

 小汚い冒険者なぞ、ここに来る資格もない。とでも言いたげな態度に、俺は「…は?」と露骨に敵意を見せたんだが、ティーダに「…よさないか!」と窘められて、それ以降はだんまりを決め込む。

 俺の態度に不愉快と眉根を寄せた衛兵に、ティーダは変わらずに柔和な笑顔で応じた。

「はい。用意して来ました」

「…ふん、ならこっちだ、ついてこい」

 金を持っている事を知ると、衛兵は鼻を鳴らして詰所へ来るように促した。


 衛兵の詰所は、門のあつらえに合わせて見た目こそは立派だが、大人4人が入れば窮屈と感じるほどの大きさの小屋みたいなもんだった。

 詰所の真ん中には四人掛けのテーブルがあり、その存在感が窮屈さを助長している。俺達に声を掛けた衛兵が、一枚の紙切れを出してきて、そこに座り、なにやら書き込み始める。

「そういや、お前たちは船で来たのか?」

 そう言いながら、手を動かしつつ衛兵のおっさんが言った。

「え? いいえ、旧市街から歩いて来ましたけど…」

 ティーダが答えて、その後ろで俺も無言で頷いた。それを見て、他の衛兵が驚いたように俺達を見て問いただす。

「え…、ここに通じる門は封鎖街区にあっただろう、あそこは魔神が占拠してて通れないはずだぞ?」

「ああ、それなら、昨晩、俺達が解放したんだ」

 壁にかかった西街区の地図を眺めて俺が答えた。壁には他にも新市街地と旧市街地の地図が掛かってて、それを眺めてるのは楽しい。

 俺の答えに衛兵のおっさん達は驚いて、その後、感心したように唸ると、俺達を見る目を露骨に変えた。

「なにっ!? 本当か? …それなら、チェザーリ様にお目通ししてやってもいいぞ」

 今まで見下してたくせに、同格か、それ以上のつわものを見るような眼差しだ。


 衛兵こいつらのマウンティングは分かりやすい。


 光栄な事だぞ、とでも言いたいのか、押しつけのようなその提案に旧市街地の地図を眺めながら、俺は「…はッ! …別に会いたかねぇよ」と呟くと、ティーダの窘める一言が飛んで来た。

「ティード! …いや、何でもないです」

 怪訝な表情をした衛兵達に、つくろうように微笑むと、俺の肩を小突く。おそらく、余計な事を言うな、って事なんだろう。変わらない笑顔で衛兵達にとって耳障りの良い言葉を選んで返す。

「…チェザーリ様にお会い出来るとは、とても光栄です」

「そうか、なら、…おーい、ニック!」

 書き上げた書類をティーダに差し出しながら、外に出ていた若い衛兵を手招きして呼びつけると、俺達を邸内へ案内するように指示した。

「この兄ちゃんたちをチェザーリ様の所へ案内してやれ」

「ありがとうございます!」

 軽快に礼を言ったティーダを尻目に、俺は小突かれた肩を摩りながら「なんで、わざわざ…」とぼやくと、俺だけに聞こえるようにティーダが答える。

「チェザーリってエルフがどんな御仁か興味があるんだ、この街へ来てから良い噂を聞いた事がないんだぞ、気になるじゃないか〜」

 楽しそうに笑うティーダに、俺はわざとらしく「……フン」と鼻を鳴らす事で、不満だと答えた。

 ティーダの好奇心が旺盛なのは知っているが、今日ばかりは呆れる。なにもわざわざ胡散臭いエルフの顔なんぞ拝まなくても…。



 三十分後、だだっ広い応接間に通された俺達の前に、白金髪プラチナブロンドの背の高いエルフが現れた。

 執事らしき人間を従えて入って来たそいつは、深緑のスエード生地を貼った高級そうなソファーに腰掛けて、足を組むと、長いこと待たせた俺達に一言の詫びもなく、微笑んだ。


 『会ってやっただけでも感謝しろ』とでも言いたげだ。


 高圧的な見下すような赤い眼、茶色がかった白金髪プラチナブロンド、身に纏う真っ白なスーツには金糸の刺繍が施されていて、高級品だろう生地で仕立てられている。

 見るからに『権力者』って感じだ。

 門番に聞いた話じゃ、魔法文明時代からこの辺り一帯を支配して来たモルガナンシン王家に仕える名門貴族で、その当主らしい。

〝千年の〟と言われる二つ名が表すように、実年齢は不明で〈大破局〉ディアボリック トライアンフ前から生きてるんじゃないかって噂もあるらしいが、実際のところは良く分からないらしい。


 俺の受けた印象だと、政治手腕のありそうな、いけ好かねぇヤツ。

 噂話で聞いたままの印象だ。

 エルフってのは、もっと清廉な種族かと思ってたが、そうじゃない『私利私欲』にまみれたヤツも中には居るんだな…。


「君達が封鎖街区を解放したんだって?」

「……ええ、そうです」

「ほう…、あそこの魔神をねぇ……」

 俺とティーダを前に、値踏みするような眼で俺達を見て、顎を摩りながらチェザーリは目を細めた。その様子にティーダは小声で俺に聞こえるように問いかける。

「…疑われてるんだろうか?」

「……知らねぇよ、聞いてみれば良いじゃねぇか」

 突き放すように答えて、俺の返事にティーダの耳が急速に垂れて、銀色の髪と見分けがつかないようになった。


 ティーダは得体の知れない人物が苦手だ。

 特に、このチェザーリみたいに、常におもてに冷笑を浮かべて、腹の内を明かさないヤツを前にすると、その得体の知れなさに萎縮する。

 今も、耳と尻尾がだらんと力なく垂れてるから、こいつの本音としては『一秒でも早くこの場を離れたい』と、考えてんだろう。


 率先して会いたいって言ったくせにな…。


「…いや、う〜ん」

 困ったように情けなく顔を歪めると、深い溜め息をいた。ティーダの精神的負担が手に取るように分かる。どこか落ち着きなくその場に立っている俺達に、チェザーリはさらに質問を投げて来た。

「倒した魔神というのは?」

「え? …あ、アザービーストとエルビレア…です」

 俺の顔を見ながら確認するように怖ず怖ずと答えたティーダに、感心したと目を見開き、チェザーリは質問を続ける。

 …横で聞いてても尋問のようだ。

「ほう…、では、それなりの実力はあると言う事か?」

「…さぁ、どうだかな? 俺、死にかけてるし」

 実力を問われて返答に窮したティーダの代わりに俺が答えた。死にかけたのは本当だ、それに昨夜の魔神どもを倒せたのも、たまたま、運が良かっただけかもしれないし。

 俺の答えにチェザーリの眼に好奇心が宿り光った。どうやら俺達に興味を持ったらしい。端正な顔立ちで、笑えば『美しい』と称されるんだろうが、その眼は笑っていない。


 獲物を見定める野獣の眼だ。


「はははっ、君は正直だねぇ。……信用出来そうだ、君達さえ良ければ、私の元で働かないか?」

「…え?」

「…は?」

 思いがけない提案に、俺もティーダも驚いて間抜けな返事しか出来なかった。まさか勧誘スカウトされるとは思わなかったから。


 ただ、こいつのなんてまっぴらだ。


「優秀な冒険者は歓迎しよう、是非、…」

 芝居がかった大きな手振りで、歓迎の意を表してニコリと笑う。ただ、その微笑みには虫酸むしずが走る。

 チェザーリの言葉には『下々の民草なぞ、私が使ってやってこそ生きる価値がある』とでも言いたげで、俺達を見下してる事が透けて見える。

 それはティーダも同じだったらしい、萎縮はしてるんだが、それでもヤツの横顔には『不愉快』があった。

「…あ〜、その、オレたち…」

「断る」

 当たり障りの無い断り文句を考えて言い淀むティーダの代わりに俺が答えた。

「! …ティードっ!?」

 それに慌てて兄貴は俺を見る。横目でヤツを見れば、『断るにしたって言い方があるだろう…』って言いたげな表情かおだ。

 それには構わず、俺はチェザーリを真っ直ぐに見る。

 ヤツの眼から好奇心が消え失せ、急速に俺達への関心が無くなって『道ばたの石』でも見るような無感情に曇った視線を投げ返して来ている。

「せっかくの誘いだが、俺はアンタの手下になる為にこの街に来た訳じゃねぇし、誰かに仕えるのは性にあわねぇ。悪いな」

「…ふむ、そうなのか。……では、に用はないな、そこの報酬を受け取って直ぐに立ち去るが良い」

 言い放った断り文句に、チェザーリは鼻をフン、とならして嘲笑すると、執事らしき男が持った銀盆の上の包みを指差して立ち上がり、応接間を出て行った。


 その後、俺達は執事から報酬を受け取り、丁重な案内を受けて、チェザーリの邸から放り出された。

 玄関前の噴水の側を歩きながら、ティーダがぼそりと零す。

「もう少し言い方があったんじゃないか? あんな敵対心を剥き出しにした言い方をしなくても…」

「俺はお前と違って、『つくろう』って事が出来ねぇんだよ」

 ティーダを横目に見て、俺は素っ気なく答える。

 誰に対しても丁寧に対応するのは良いと思う、それが『繕う』事になっても。不要な摩擦を避けられるからな。


 ただ、俺にはそれが出来ないって話だ。


「…オレは繕ってる訳じゃないぞ、物事を円滑に進める為には、身の処し方ってものがだな……」

 批判的な俺の態度にティーダも良い顔はしない、憤慨、とまでは言わないが、自分の『処世術』を否定されて気持ちのいいヤツなんてのはいないからな。

 つらつらと言い訳を募る兄貴に、俺は冷ややかな視線で答えてやった。

「はいはい、ご高説いたみいるよ〜」






【攻略日記:雑感 三日目 1】



saAyu:はぁぁぁ〜、ようやく、ようやく手に入れましたねぇ〜♪♪ 〈ビスクーネ渡河許可証〉〜♪

ティード:……結局、金に物言わせて買った訳だが。(前の雑感でぶちぶち言ってたくせに…)

ティーダ:まぁまぁ、これで一歩前進、ラトリッジ氏の力になれるんだから良いじゃないか!

saAyu:さぁさぁ、この後は茨の館へ行きますよ〜。物語が進みますねぇ〜。

ティード:ここまでは戦闘はなかったけど、本当に報酬と★の回収って感じだったな〜。

ティーダ:そうだなぁ〜。二日目でフラグ立てて、それを回収したって感じか? 知らないうちに金も結構稼いでいたな。

saAyu:そうですね〜。本当はね、【船乗りの家】のクエストこなして、ここで渡河許可証が欲しかったんですけどね〜。二つ目のモンスター退治はレベル的に無理だなと…。で、一応、3000ガメルは貯まってたので、サクッとキーアイテムゲットしとくか〜って感じです。

ティーダ:チェザーリ邸で、彼の依頼を受けなかった理由は?

saAyu:ああ、それは、なんて言うか、胡散臭い感じだったし、そもそも、目的は渡河許可証ですから、余計な横道に逸れなくても良いかなと。報酬も頂けましたしね。それに、チェザーリさんの依頼、面倒くさそうだったし。

ティード:あと、【時計塔屋敷】に部屋を借りたんだな。

saAyu:ああ、それは宿屋に泊まる度に所持金の計算しなくちゃいけないでしょ? それが面倒だったんで。あとは、ここでも細かいクエストを受けられるので、拠点にしても良いのかな〜と、思いまして。

ティード:まぁ、ギルド上の宿屋よりは格段に良い環境だな。ティエラさんの飯は旨いし。

saAyu:おや? ティエラさんの手料理がお気に召したようですね〜(にやにや)

ティード:……別に。

ティーダ:通り魔の時は用意してくれたが、基本的に【時計塔屋敷】では食事は出来ない仕様なんだよな?

saAyu:です〜。本書を確認しても、食事が出来る記載はないですね〜。ただ、一号室のマーシアさんって方の所で、会話にお付き合いすれば、お茶とお菓子が出るそうで、食事扱いですが、ちゃんとした食事にはならないっぽいですね〜。なので、小説の中では自炊って感じにしますよ、設定的に。

ティーダ:実際のプレイでは酒場や食堂で食事をとらないといけないから、時間処理が煩雑になったけどなぁ…。

saAyu:そこは盲点でした…。あと、今更ですけど、移動にかかる時間処理も最初は良く分かってなくて、ちゃんと出来てるのか不安ではあるんですよね〜…。

ティード:…。

saAyu:いや、そんな大きなではないと思うんですが…。

ティーダ:まぁまぁ、終わった事は良いじゃないか〜。あ! じゃぁ、小説の方は?

saAyu:あ〜……、わり〜と、適当ですね~(苦笑)ゲームではワンブロック移動する毎に一時間が即座に経過するんですが…。小説の方は、ぼやっとさせてます(苦笑)

 各パラグラフでのイベントとか、ランダムイベントとか細かいエピソードは端折ってるので、小説の中で提示される時間はあまり気にしないで頂けたら…(苦笑)

ティーダ:そう言うことなら、そうするか~。

ティード:……(相変わらず、暢気だな……)じゃぁ、この後はラトリッジ氏に会う為に【茨の館】に行くので良いんだよな?

saAyu:ですね〜。そこでミッション受注しますよ〜。


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