6 封鎖街区の魔神



「ねぇねぇ〜、アナタタチが最近入った新人さん?」

 甲高い声とともに、俺達に声を掛けて来たのはタビットの女だった。

 冒険者をやってるタビットは大抵が魔術師ソーサラー操霊術師コンジャラーだが、彼女も見るからにそんな風体だ。抱えるように持っている杖が不釣り合いなほどに立派で、存在を主張している。

「…ああ、そうだけど」

 咀嚼していた物を呑み込んで、俺が応えた。ティーダは白身魚の揚げ物フライを口に放り込んだところで、返事が出来なかったからだ。

 始祖神ライフォスの神殿跡から戻った俺達は〈黄金の盾〉の酒場で休憩がてら軽食スナックを食べていた。新顔の俺達に興味が沸いて声を掛けてきたんだろう、彼女の目は好奇心で輝いてる。

「どこから来たの? この街へは何をしにきたの?」

 いきなりの質問攻めで、俺は露骨に鬱陶しいと眉根を寄せる。それを見たティーダが俺に代わって応えた。

「ここよりは南の方だよ」

 種族を問わずに対しては常に紳士的に対応するから、見てくれとも相まって、俺達の街では結構モテてた。それはここに来ても変わらないらしい、ティーダは柔らかな微笑みをおもてに浮かべて、タビットの女に空いてる椅子に座るように促した。

「あら、南の方! じゃぁ、キングスフォール、もしくは、ハルシカ商協国へは行ったことある?」

 ティーダの応答にさらに目を輝かせて、タビットの女は透かさず次の質問を返してくる。因みに、彼女はナディアと名乗ったから、俺達も一応の礼儀は通して名乗っておいた。

 ぐいぐい来るナディアに、さすがのティーダも引き気味だ。彼女の質問の意図が分からずに、本題へ移ろうと試みた。

「いや、どちらも行った事はないな。…オレたちに用事だろうか?」

「ふふっ、用事ってほどの事はないんだけど、どんなヒトタチなのか興味があったの」

 俺とティーダを交互に見て、無邪気に笑って見せる。何を考えてるか分からない女だが、なにか有益な情報は引き出せないか、俺から質問をしてみた。

「……アンタ、ここは長いのか?」

「ん〜、そうね、もう五年くらいはいるかしら」

 勿体ぶって答える彼女に、思った通り、何かしらの情報は引っ張れそうだと踏んだ俺は、【船乗り協会】の場所がどこにあるのか聞いてみる。

「…じゃぁ、この辺の地理にも詳しいのか?」

「ええ、新市街も旧市街も、西街区もお任せよ〜」

「だったら、船乗り協会の場所は?」

「あらぁ~、マシュー御大が仕切ってる集会所ね」

「その場所、教えてくれないか?」

「……、とは言わないわよね〜?」

 その問いかけに、俺もティーダも面食う。確かに、有益な情報を貰うなら、それ相応の対価は必要だが…。同業にたかられるとは思わなかったから、驚いた。

 ナディアは自分の知識と情報を無料タダで提供しないあたり、手練た冒険者なんだろうな。

 情報料をくれ、とでも言いたげに笑う彼女に、お近づきの印って事で、奢ってやる事にした。

「…好きな物、ごちそうするよ」

「うふふっ、ありがとう〜」

 優越感たっぷりに笑った彼女は、ジョッキになみなみと注がれたエールを飲みながら、【船乗り協会】の場所を教えてくれたんだが…、三時間後、俺達は【封鎖街区】で魔神と戦う羽目になった。



「ギャァァァァァ!!」

 魔神エルビレアが断末魔を上げて地面に倒れた。

 ティーダの【近接攻撃】がエビ面のドラゴンみたいなエルビレアに止めを刺して、兄貴の背後で俺はもう一体の魔神、アザービーストと対峙していた。

 一般的に良く見られる大型の狼のような姿に、俺は妙な親近感を感じていた。おそらく、ティーダが獣変貌した姿に似てるからだ。目の前のアザービーストは兄貴とは違い、黒い毛並みで大型と言うが、通常の狼の五倍近くは大きいし、四肢から生える爪や、涎まみれの大きな口から覗く牙は鋭い。


 あの牙に噛まれたら、ひとたまりもねぇなぁ……。


「悪い、待たせたな!」

 エビ野郎を始末して、合流したティーダが俺の隣でそう言うと、アザービーストが動いた。強靭な後ろ足で地面を蹴って飛び上がった狼野郎は俺とティーダの間に割って入って来て、俺に目掛けて牙を剥き出してくる。

 アザービーストの攻撃を避けて、そのまま俺は攻撃に転じる。一撃目の拳は魔神の胴を捉えて、続く二撃目もヤツの顎にヒットさせた。

 怒りに燃える赤い目がギョロリと俺を見て、慌ててアザービーストから離れて、充分な間合いを取ると、ティーダが代わりに走り込んで行き、狼野郎の首から胸にかけて袈裟切りでダメージを与える。

「ギャァァン!!」

 犬が上げるような悲鳴を発して、堪らずアザービーストが後退し、俺達の様子を窺うように体勢は低く保ちつつ、牙を出し、威嚇を続ける。

「…魔神っても、意外と弱いなぁ〜」

「気を抜くなよ、…お前は優位に立つと途端に相手を侮るからな」

 一定の距離を保ちながら、反撃の機会を窺う魔神を前に暢気な事を言うと、ティーダが兄貴面で俺を窘める。


 でもなぁ、聞いてたほどの手応えがないんだよなぁ…。


 三時間前、ギルドで声を掛けて来たタビットのナディアに【船乗り協会】の場所を聞いて、ティーダと二人出掛けて来た訳だが、別れ際にナディアが【船乗り協会】は【封鎖街区】に近いから、迷い込まないように、と警告をしてくれた。

 封鎖街区は魔神が占拠していて、占拠された当初は何組もの冒険者達が討伐に向かったらしいが、誰も返って来なかったらしい。

 誰も返って来なかった、って聞いてたからそれは恐ろしい魔神がいるのかと思ったんだが…。


 いたのはエビ面とでかい狼。


 拍子抜けしなかった、と言えば嘘になる。が、そもそも魔神を退治しに来た訳じゃなくて、ティーダが道を間違えて、ここへ迷い込んだ末に、魔神どもに遭遇して戦闘する羽目になったんだが…。


 膠着状態と言える時間が二、三分続いて、アザービーストが動いた。太い四肢で地面を蹴り、猛烈なスピードで俺に突進して来て、ナディアに言われた事を回想していた俺は、反応が遅れてヤツに体当たりをされて、そのまま後ろへ吹っ飛ばされる。

「ッ! ……ティード!」

 ティーダが焦ったように叫んだ、その声に俺は「…イッ…てぇ。…大丈夫だ、大した事ない!」と答えた。躱す事は出来なかったが、咄嗟に防御はしたから致命傷じゃない、体当たりされた反動で頭が少しふらつくが、俺は立ってる。

 目の前の狼野郎に向け反撃に転じるが、脳震盪でも起こしたのか、足元がグラついて俺の拳は魔神の頭を掠めただけで、大したダメージにならない上に、俺がやられて動揺したのか、ティーダの攻撃もバスタードソードが虚しく空中を切っただけだった。

 空回る俺達の攻撃に、アザービーストが攻撃の手を緩めるわけもなく、ヤツの大きな口が、俺の横っ腹を捉えて、牙が容赦なく肉を喰い破り、内臓を食い千切ろうと顎に力を込めやがる。その激痛に俺は苦痛の呻きを漏らした。


 クソっ…たれ……。


「ティードっ!? うぉぉぉぉぉぉっ!!」

 アザービーストに喰われる俺の姿を視界に止め、俺から魔神を引き剥がそうとティーダが突進して来て、バスタードソードを振り上げる。

 俺を放り出して、その場から飛び退いた魔神の目が優越に歪んでるように見えた。


 痛みで朦朧とする意識ではさすがに立っていられない、俺は力なく地面に倒れて、その後の事はぼんやりとしか覚えていない。


 取りあえず、必死で、生きてこの場を凌ぐ事しか考えてなかった。


 ティーダの【キュア・ウーンズ】である程度の回復をした俺は、無我夢中で拳を魔神に向けて繰り出し続けて、ヤツの四肢を折り、動きを止めると、そこへティーダの【魔力撃】が止めを刺した。


 沈黙した魔神二体の死体を見下ろして、安堵感からか、俺は意識を手放した。






【攻略日記:雑感 二日目 3】


ティード:……俺、死んだのか?

saAyu:いやいや、ちゃんと生きてますよ〜。生死判定振ってないんで。だいぶヤバい状態でしたけど。

ティーダ:さすがに、HPが『2』になった時には血の気が引いたな…。

saAyu:ですね〜。直前のティーダさんの出目が『1』で【近接攻撃】しか選べなくて、アザビの回避がティーダさんの達成値を上回るって言うね…、ちょっと、タイミング悪かったですね。

ティード:………。…まぁ、生きてるなら良いけど…。

saAyu:では、魔神戦の振り返りでもしますかね?

ティード:だな。

saAyu:えっと、まず、アザービーストは〈剣のかけら〉で強化されてますので、HPは52です。物理攻撃が弱点で、こちらの攻撃に+2です。エルビレアは強化無しなのでHPは24です。諸々のデータはルルブⅠの469頁を参照して下さい!

ティード:例によって先制を俺達が取って、1ラウンド目でエルビレアを落したんだよな。

saAyu:そうです、珍しくティード君がクリティカルしましてね〜。


【魔神アザービースト&エルビレア】戦

  アザービーストは〈剣のかけら〉×4で強化。HP+20、生命・精神抵抗力判定+1

  各魔神のデータはルルブⅠ469頁を参照。


 ◆1ラウンド目

 ティードの攻撃、二回とも命中し、7点とクリティカル含む12点の合計19点ダメージ、エルビレアの防護点3点引いた16点ダメージ。

  ※本来なら防護点6点ひいて、13点のダメージ。

 ティーダの攻撃、【近接攻撃】で、11点ダメージ(追加Dの7点含む)エルビレアの防護点3引いて、8点のダメージ。ティードの攻撃と合わせて、24点ダメージで、このラウンドでエルビレアを倒しました。この時点でアザービーストは無傷。


ティード:二撃目がクリティカルしたんだよな〜。このラウンド。

saAyu:ですです。魔神側の攻撃も軽やかに躱しましたね〜。

ティーダ:オレとティードの攻撃で、エルビレアのHP24点と同値で、このターンで落せたんだよな。


 ◆2ラウンド目

 ティードの攻撃、二回とも命中し、一撃目がクリティカル含む12点、二撃目は出目が悪く追加Dのみの4点、合計16点の防護点3点引いて13点に、物理D+2点で合計15点のダメージ。この時点でアザービーストのHPは37。

 ※本来なら防護点6点ひいて、12点のダメージ。

 ティーダの攻撃は【近接攻撃】で11点のダメージから防護点3引いて8点、ここに物理D+2点で10点のダメージ。ここでアザービーストのHPは27。


ティード:2ラウンド目アザービーストの攻撃が当って、13点持ってかれて、俺のHPは12。…結局、この戦闘も不毛なHPの削り合いなんだよな…。

saAyu:まぁまぁ、実際にプレイしてる私の脳疲労には優しいですけどね、基本、殴ってるだけなので(苦笑)

ティーダ:運命の3ラウンド目だな。小説パートでティードが喰われたラウンドだ。


 ◆3ラウンド目

 ティードの攻撃、一回目は命中しダメージは6点、二撃目は外れて、アザービーストの弱点、物理D2点足して8点、そこから防護点3点引いて5点のダメージ。

 ティーダの出目も悪く、【近接攻撃】の達成値がアザービーストの回避より低く、空振り。アザービーストのHPは22点残して、ターン終了。


saAyu:このラウンドは出目が良くなくて、結局5点ダメージのみです…。ここでのアザービーストの攻撃でティード君のHPが10点持って行かれて、HPの残りが2! ここで3ラウンド目が終了して、続く4ラウンド目。


 ◆4ラウンド目

 ティードの攻撃、出目が持ち直し、二回とも攻撃が当り、7点と6点足して13点、防護点3引いて、物理D+2の合計12点ダメージ。アザービーストのHPは10点。

 ※本来なら防護点6点ひいて、9点のダメージ。

 ティーダはここで回復を選べる出目で、ティードを回復、フル回復とはならずHP15。


saAyu:ここでもアザービースト攻撃が当りますが、なんとか耐えてティード君のHPは6点残して、4ラウンド終了。次の5ラウンド目で決着しました〜。

ティード:俺の回復目的で、先にティーダの出目振って、ここで【魔力撃】が出て、それがクリティカルして、なんだかんだで20点の大量ダメージ。あっさり、アザービーストを落したんだよな。

ティーダ:そりゃぁ、かわいい弟を喰おうとしたからな! たっぷりお返ししてやったぞ!(にこり)

saAyu:……ティーダさんは怒らせると怖い…。暴走するタイプですね。

ティード:あぁ、特に身内関係がやられると見境がないのかもな…。

ティーダ:小説パートで道に迷って【封鎖街区】に行った事になってたが、ここへは元々いくつもりだったんだよな?

saAyu:そうですね〜、〈剣のかけら〉集める目的で。この時は船(有料)で西街区に行けるとは知らなかったんで、陸路で行くには【封鎖街区】の解放も必要だったんです〜。

ティード:攻略二日目はここで終わりだな。じゃぁ、この次は? どうするんだよ。

saAyu:あぁ、そうですね〜、取りあえず、【船乗り協会】へ行きたいですね〜。出来ればお金は使いたくないので。

ティーダ:マップには配置したのか?

saAyu:はい! 多少、強引ではありましたが、配置しました!

ティード:……どうせ、d66で『1』『2』が出るまで振り直したんだろうな…。

ティーダ:あぁ、容易に想像出来る。

saAyu:まぁ、ルールは指針ですから〜〜。とは書いてありませんでしたし。(色々なやらかしが判明した後なので、開き直った)

ティーズ(ティード&ティーダ):………。

ティード:じゃぁ、まぁ、今日はここまでだな。

ティーダ:お疲れさん。

saAyu:は〜い、お疲れ様でした〜。

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