プロローグ
1 ヴァイスシティへの誘い
「ねぇ〜、師匠にお手紙届いたよ〜」
そう言いながらリビングに入って来たのは、玄関を片付けていた妹のメリアルドだ。彼女は受け取った書簡を弄びながら「ほいっ」と俺に投げ寄越した。
「ッと! 投げるなよ!」
「おぉ〜、上手〜〜」
投げたそれを上手い具合に受け取った俺を見て、彼女は目を丸く輝かせ、リカント特有のふさふさの耳と尻尾を愉快だと言いたげに忙しなく動かし、手を叩きながら笑って見せた。
…陽気で天真爛漫が彼女の良い所だが、こういう時は少し苛つく。
俺が苛つきを含んだ呆れ顔で見返してると、彼女はそんなことは意に介さず、
「そうしてると両方の角が見えちゃうんだね」
「…あ?」
ナイトメアである俺の頭には黒い角が生えてる。
この家を片付けてる途中で長めの髪が邪魔になって、後ろに撫で付けて一つに纏め結ったんだが、いつもは髪で隠れてるそれが見えてるんだろう。
「右側の方が少し小さいね〜」
そう言いながら角を触ろうとするから、その手を避けて身を翻す。
「…触るな」
「角、触られるの嫌?」
「…嫌じゃねぇけど、いい気はしねぇよ。…で? これは誰からなんだ?」
受け取った書簡の宛名を見ると、確かに、俺達の師匠宛のものだ。
「…えっとね、差出人はエドワード…なんとかって人」
「…エドワード? 聞いた事ないな…」
メリアルドの答えを反芻するように呟く。
頻繁に他人と連絡を取り合う人じゃなかったけど、このエドワード
書簡をよく調べてみる、外側に差出人の名前はなかったが、イニシャルのような走り書きがあった。
「…ティード? どうかしたか?」
そう言って
血の繋がりはないが、俺の兄貴で誰にでも救いの手を差し伸べようとする、度が過ぎたお人好し。ちなみにティーダは狼、メリアルドは犬のリカントで同種族だが、二人の間にも血の繋がりはない。
俺とティーダは数年前まではヤツの実家で親父(ティーダの実父、俺の養父でもある)と暮らしてたんだが、その親父は長患いの末に亡くなって、大きな支えを失った幼い俺達は途方に暮れ、生活が破綻しかけてた。そんな俺達を見兼ねて、親父の知り合いだった師匠が『うちに来い』と救いの手を差し伸べてくれた。
メリアルドが師匠の養女として引き取られて来たのはその少し後だ。
俺達三人は師匠に拾われた義理の兄妹。
師匠は元冒険者で、現役の頃はこの界隈では名の知れた冒険者だったらしい。働かなくても生きて行けるだけの金を稼いだ後は、小遣い程度の給金で冒険者ギルドの後進の指導にあたっていて、俺達は最後の弟子だった。
数日前、冒険者としてのいろはを教えてくれた師匠が亡くなった。
突然の事で、葬儀の最中や直後は師匠がこの世から居なくなった実感がなかったが、
いつもあった穏やかな微笑みと、時に厳しく、優しい眼差し。
俺達を出迎えてくれたそれが、今はもう、ない。
その現実を少しずつ受け入れながら、俺達は毎日のように師匠の家を片付けに来ている。
「ティーダ! 師匠にお手紙が届いたんだよ〜」
リビングにやって来たティーダの姿を見るなり、メリアルドはヤツの側に駆け寄ってそのまま抱きついた。
師匠が亡くなって間もないから、いつも以上にティーダに甘えたいんだろう…。
一応、成人してはいるんだが見た目よりも彼女の中身は幼い。
「師匠に手紙? …誰から?」
そう言いながら、まとわりつくメリアルドの頭をわしゃわしゃと撫で付けて、ティーダは俺の傍までやって来た。持っていた書簡をヤツに渡すと、俺は側にあった一人掛けのソファーに身を委ねる。
ティーダは俺から書簡を受け取って、抱きついたままのメリアルドと一緒に二人掛けのソファーに座ると、メリアルドがヤツの胸に頬を押し付けながら答えた。
「エドワードなんとかって人〜」
「…届けたヤツらはどこから来たって言ってた?」
目の前でいちゃつく二人を眺めながら、俺はメリアルドに質問を投げつける。それに答える彼女は、記憶を辿るように視線を上に向けて思案げに瞬きをし、思い出したのか耳がピンと立って、俺を見ながらへらっと緩い笑みで答えた。
相変わらず、能天気だ。まぁ、そこが彼女の魅力でもあるんだが…。
「ん? …っとねぇ~、ヴァイスシティのギルドで請け負った依頼だって言ってたかな?」
「ヴァイスシティ!?」
俺とティーダが同時にそう言ったので、メリアルドは驚いてヤツを見上げてる。
「…あぁ、すまない。驚かせたな」
「ん〜ん、大丈夫〜」
見上げるメリアルドに対して、慌てて謝るティーダに、彼女はにこっと笑って答えると、またヤツの胸に頬擦りして満足そうにしている。
……いい加減、離れろ。
ソファーの肘掛けに頬杖ついて二人を呆れたように見詰める俺に、ティーダは書簡を投げ返してきて、それを空いている手で受け取り、どうする? と言うように揺らして見せた。
「…開けた方が良いか?」
「師匠が亡くなった事を知らずに送って来たんだろう? 急用かも知れないし…。師匠には悪いが、読ませて貰おう」
「……だな」
そう答えて、俺は書簡の内容を読み上げる。
差出人はエドワード・ラトリッジと言った。
詳細は伏せられてるが、昔馴染みのよしみで師匠に頼みたい事があるらしく、ヴァイスシティまで来て欲しい、とのことだった。手紙の内容を一通り読み終えて、俺はティーダに質問を投げかける。
「……どうする?」
俺の問いに、ヤツは少し考え込んで、顔を上げた。そこにある感情は『心苦しい』だ。
「……そうだな。詳しい事情は分からないが、助けを求めてる人を
思った通りの声音で、思った通りの台詞が返って来る。そのティーダの言葉に俺は深い溜め息を吐き出す。
……だろうと思った。
「…じゃぁ、行くか。ヴァイスシティへ」
渋々といった
正直、あの街へ行くのは気が重い。
親父に拾われる前、俺はあの街に居た。
三つか四つかくらいの幼い俺は、ボロを着てあの街の過酷な環境の中で、薬漬けで無気力な実父とその日暮らしをしていた。
ナイトメアとして生まれた俺を持て余した実父は、あの街に立ち寄っていた冒険者で
実父に捨てられた俺を、あの街から救ってくれたのは親父だ。そして、荒んだ俺を弟して受け入れ、
『ヴァイスシティ』と聞くと、…遠く薄れてはいるが、薄汚れた街と表現のしようのない鼻を突く匂いを思い出す。
【攻略日記:雑感 一日目 1】
saAyu:そんなわけで、ヴァイスシティ攻略始めます! ソロプレイは初めてです。リプレイ書くのも初めてです。何もかもが初めてづくし! この先どうなるか、正直、分かりません。ここで、使用するPCの紹介します、ティード君どうぞ〜!
ティード:…キャラクターと対話形式で進めるのってどうなんだ?
saAyu:まぁ、それは…(焦)…仕方ありません、基本、私一人なので!
ティード:…はいはい、じゃぁ、まずは名乗れば良いか?
saAyu:ですね! あ、その前に、フェローのティーダさんもお越し下さ〜い。
ティーダ:ああ、よろしくな。
saAyu:では、ティード君、自己紹介!
ティード:ティード・ジルダール、19歳。人間生まれのナイトメア、
saAyu:いやいやぁ〜、獣変貌したティーダさんと意思疎通するのにリカント語は必須でしょう!
ティーダ:……でも、オレ、フェローだぞ?
saAyu:……小説パートで戦闘描写する時にいるでしょう! では、ティーダさん、自己紹介して下さい。
ティーダ:あぁ、ティーダ・シルヴァウォルフ。年は23、ティードより四つ年上だな。リカント(銀狼)の神官戦士だ。技能はファイター1、プリースト2。太陽神ティダンを信仰しているぞ!
saAyu:はい、ありがとうございます。お二人のキャラビルドは別のテキスト用に用意したものから、このサプリにあわせて、2レベルまでダウングレードしました! 一から作るのと変わんなかったです!
ティード:だろうな…。
saAyu:初期作成のキャラで初心者に毛が生えた程度のプレイヤーがヴァイスシティを攻略出来るのか…、もの凄く不安しかありません! ので、褒められた行為ではないですが、ちょいと有利になるように、能力値補正を三回以上振って、一番良い数値のセットに設定し直しました。それでも、途中でロストしたらごめんね…。
ティード:…不吉な事言うなよ。
ティーダ:ロストしたらって…、借金すれば復活出来るだろうに…。そこは考えてないのか?
saAyu:です。なので、基本的に『全滅(ティードが死亡)』したら、そこでこの攻略も終わりです! ヒリヒリするでしょ〜〜(笑)
ティード:…発想が初心者じゃねぇ…。
ティーダ:………。
saAyu:です! TRPGに慣れてないだけで、コンシューマーのRPGは遊び倒して来てるので! まぁ、あちらの方はリセットボタンを押すのに躊躇はなかったですけどね!
ティーダ:まぁ、一応、回復はオレが出来るし…な。(ダイス目次第だけど…)
ティード:………。(じとり、とティーダを見る)
saAyu:それから、フェローシートはエピックトレジャリーで導入された、8項目入れられる新しい方を使用してます。
ティーダ:ん? 全部は埋まってないんだな。 【近接攻撃】【魔力撃】【キュア・ウーンズ】の三つ(各二回ずつ)しか入ってない。
saAyu:【フィールド・プロテクション】を入れて枠を全部埋めてもよかったんですけど、まぁ、なくても良いかなって思って。
ティーダ:…『防御』も大切だぞ?
saAyu:まぁ、そうなんですけど、フェローの行動表はダイス運に左右されるし、ギャンブル性高いし…。あとで追加するかもしれませんけど…。
ティード:一応、どの目が出ても『攻撃』か『回復』が選べるようになってるんだな。
saAyu:です。ただ、【魔力撃】は次の手番がお休みになっちゃうのが辛い…。
ティーダ:まぁ、今の所、オレは基本的に回復役だし、攻撃はオマケだと思えば良いんじゃないか?
ティード:だな、一応、俺が自動取得で追加攻撃(攻撃が追加で一回)出来るし。(グラップラーは【両手利き】を取ると三回攻撃出来るらしい)
saAyu:さて、さて…。ではまずは、小説パートでも判明してますが、エドワード・ラトリッジさんを探し、お手伝いするのが貴方達の目的となりました。(ダイスで決めたけど、このルート最高難度なんだよなぁ…。大丈夫かなぁ……)
ティード:…言い方。…子供の使いかよ。
saAyu:本書(ヴァイスシティ)によると、出発前に既に【ミッション03.ミルタバル神殿の盗賊ギルド】を受注した事になってるので、まずは、そこへ行きましょう。
ティーダ:了解した。で、その神殿はヴァイスシティのどの辺りにあるんだ?
saAyu:えぇ〜と(本書を確認中)…即座に【ミルタバル神殿市場】を配置し…って書いてあるけど…。配置ってなんだろう?
ティーズ(ティード&ティーダ):はぁ!?
◆ 改めてキャラクター紹介 ◆
【プレイヤーキャラクター】
ティード・ジルダール/ナイトメア/19歳/男/冒険者レベル:2
グラップラー:2/スカウト:1/セージ:1(リカント語:会話)
HP:25/MP:18 生命抵抗力:5/精神抵抗力:5
能力値:【器用度:17(2)】
【敏捷度:18(3)】
【筋 力:17(2)】
【生命力:19(3)】
【知 力:18(3)】
【精神力:18(3)】
※( )内はボーナス数値
防護点:3/先制力:4/魔物知識:4/
命中力:5/回避力:6/魔力:0
追加ダメージ:4
判定パッケージ:【技巧:3】【運動:4】
【観察:4】【知識:4】
装備:〈アイアンナックル〉【威力⑤/C値⑪】
(命中修正+1 計算済み)
鎧:〈アラミドコート〉
(回避力+1/防護点+2 計算済み)
戦闘特技1:防具習熟A/非金属
(防護点+1 計算済み)
追加攻撃(自動習得)
所持金:50G
持ち物:冒険者セット/スカウトツール/黒い剣(ロングソード)
【フェロー】
ティーダ・シルヴァウォルフ/リカント(狼)/23歳/男/冒険者レベル:2
ファイター:1/プリースト:2
MP:17/魔力:5/命中力:3
追加ダメージ:6 ※獣変貌時の筋力B+2込み
戦闘特技1:魔力撃
【フェロー行動表】
1d:1-2
想定出目7【近接攻撃(バスタードソード)】
「いっちょ、やりますか〜!」
達成値10/【威力⑮/C値⑩+6】
※追加Dは獣変貌時の物です。
想定出目6 空き
1d:3-4
想定出目8【魔力撃】
「当ると痛いぞ〜!」
達成値11/【威力⑮/C値⑩+11(追加D+魔力)】
※次の手番は休み
想定出目5【キュア・ウーンズ】
「助けが必要だろ?」
達成値10/【威力⑩+5】
1d:5
想定出目9【近接攻撃(バスタードソード)】
「オレの一撃、受けてみろ!」
達成値12/【威力⑮/C値⑩+6】
想定出目4【キュア・ウーンズ】
「大丈夫か? 今、治してやるからな」
達成値9【威力⑩+5】
1d:6
想定出目10【魔力撃】
「…これがオレの本気だ!」
達成値13/【威力⑮/C値⑩+11(追加D+魔力)】
※次の手番は休み
想定出目3 空き
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