眼鏡屋の独り言 -Ⅰ
「やっぱりあの子、全然気づいてなかったな。突然変異か、なにかの影響でも食らったかな」
お若いお客さん――自分から見れば、本当に生まれたての雛もいいところだ――が去って、独り言ちる。
あの少女には魔力があった。
「一種の魔眼持ちかな、あれは」
検眼に使ったレンズは、魔力で強制的に景色を見せる道具ではない。通常の眼鏡が視力を矯正するのと同じく、まさしく魔力を矯正する道具なのだ。魔力の宿った目で使用しなければ、一切の効果を発揮しない。
体の不調も、魔力を持て余しているせいだろう。環境の変化からくるものも間違いなくあるだろうけれど、それに引きずられるように、魔力が余計に重しになっていたに違いない。
「教えてあげればよかったかな?」
原因を知って、落ち着く心も体もあるだろう。
だけど生きていくことのしんどさは、魔力だけが原因だとは限らないし。
彼女はあの時見た光景に、前を向く力を得たようだし。
「多くの人間にとって、魔法なんて一時のまやかしみたいなものだしね」
やっぱり、むやみに魔法の世界に深入りさせてもよくないだろう。
知らないなら、知らないままで。
「まやかしでも気休めでもなんでも、力になったのならば何より」
臙脂色の箱に並ぶレンズを、一枚一枚丁寧に磨く。
少女には魔力を制限する
それでも少女が、本当に魔力というものを抑えられなくなり。魔法の世界の縁に限りなく近づくことがあったなら。
また、この店に足を踏み入れることもあるのかもしれない。
「その時に僕が開けている店が、眼鏡屋かどうかはわからないけれど」
すべてのレンズを磨き箱に並べ終えたことに満足して、やっぱりしばらくは眼鏡屋でいようと笑った。
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