第8話 ラヴァロックの活かし方
俺が村人に頼んだのは、スイートビーの巣箱を作るのに余った木材と、鋤を何本か、炭、薪、桶、柄杓、金ダライだった。
「ラヴァロックに仕事を与えるだって?」
「今度は何をするって言うんだ?」
ラヴァロックに戦々恐々としていた村人たちだったが、俺が何やら始めるというので、興味津々の表情になった。
「──まずはマイガーに設計して貰った通りに、ここに小屋を建てよう。」
俺は皆を村の近くの川に連れて来ていた。
上流には小さな橋がかけられていて、普段はそこから生活用水などを汲んでいる。
地面の石をどかして小屋の水平を保つ。小屋のすぐ脇が川になっていて、小屋から川へ素足で行っても問題ないよう、川までの板も渡した。
川の中にどかした石を並べ、ちょっとした囲いを作ってやる。
小屋の中には対面で何人かが腰掛けられる木の椅子が、壁にくっついて飛び出したような形で置かれている。
小屋の奥に木の囲いを作り、そこに難燃性の金ダライを置き、すぐ脇に水の入った桶と柄杓を置いた。
「──よし、準備はいいな。
ラヴァロックを連れてこよう。」
俺はアントとマイガーにも鋤を手渡した。炭と薪で火をおこし、3人で鋤の刃の部分を火に当てて熱すると、刃の部分の色が変わりアツアツになった。
「こんなものだろう。冷めないうちに急ぐぞ。」
俺たちは街道に佇むラヴァロックの周りを取り囲んだ。
「そっと、そーっと、地面との隙間に刃を入れるんだ。
全員入れ終わったら一斉に持ち上げるぞ。」
「入ったよ。」
「こっちも大丈夫だ。」
「よし、いっせーの!!」
声をかけて一切に鋤を持ち上げると、ラヴァロックは大人しく鋤の刃の上に鎮座していた。
慎重に、だが出来るだけ早足で俺たちは小屋へと向かう。鋤の熱が冷めたらアウトだ。
川の脇の小屋へと到着し、金ダライの中に無事ラヴァロックをおろした。
ここまで言えば、愛すべきサウナバカの皆様にはお分かりだろう。というか、小屋の説明の時点で、いや、ラヴァロックが火傷を負わせる程の、高温を発する石の時点でバレていたことだろう。
大自然がそこにあって、近くに冷たい川があり、冷めない高温の石がある。考えることは1つしかなかった。
そう、俺はラヴァロックを利用した、石が冷めないサウナを作ったのである。
サウナというのは実に簡単だ。何ならテントと熱した石があるだけでも作る事が出来る。
ただし普通の石をただ熱しただけのサウナでは、石の熱がすぐに冷めてしまう為、ロウリュの為に水をかける際は、お湯をかけて少しでも熱が逃げないようにする必要がある。
その点ラヴァロックは常に高温を発している岩石の魔物だ。放っておいても熱が冷めない。
小屋に閉じ込めた場合の室温は80度から最大100度を保つ。
ラヴァロックの好む場所は、本来の住処である溶岩の近くのように、高温が保たれている必要がある。
街道に現れる際に道にいることが多いのは、地面がラヴァロックの熱を吸ってその熱を保つからに他ならない。
触れてもいないラヴァロックが爆発するのは、手足がなく、不死再生を持つラヴァロックの、唯一の移動手段だ。
俺はラヴァロックが草むらにいたら、この方法を取るつもりはなかった。
ラヴァロックのいる場所のが草むらだったりなんかすると、ジワジワと熱されて草が焦げることはあっても、地面が暖かくならない。
その為、そこが気に入らないラヴァロックは、移動目的ですぐに爆発してしまうのだ。
いつ爆発するか分からない状態では、さすがに村人を近付ける訳にはいかない。
だが街道で大人しくしている内は、ラヴァロックの好む高温を保ちつつ、持ち上げて移動が可能になる。
俺は手を入れて小屋の温度を確認すると、早速服を脱いでタオルを腰に巻き、小屋に入った。
高温の小屋の中が気に入ったのか、ラヴァロックは金ダライの上で大人しくしている。
俺はラヴァロックに桶に入った水を柄杓ですくってかける。水蒸気が発生し、ロウリュを楽しむ。
本場フィンランドではアロマウォーターを注ぐと言われるが、日本では普通の水を掛けるのが一般的だ。
たっぷり8分、汗をかいたあとに、すぐに近くの川に飛び込む!
俺は勝手に、サウナの後にそのまま大自然の水に浸かることは、全世界のサウナバカの夢だと思っている。
前世の俺の夢は、出来る事なら、湖畔にサウナを作って、そのまま湖に飛び込みたいというものだった。
「ああ〜最高だ……。」
気持ちの良さそうな俺を見てたまらなくなった村の男たちが、次々服を脱いでサウナに入る。タオルが足りずにそのまま裸で入る奴も現れ、女性たちが悲鳴を上げる。
「いいな、このサウナっての。」
アントも早速サウナにはまったらしい。
俺の教えに従い、砂時計ではかって8分入って、川に入り、再びサウナで8分、を繰り返す。
「ハニービーの養蜂が本格的に開始されるまで時間がかかる。
このサウナで人が呼べたら、こっちでも稼げるかも知れないな。」
すぐには養蜂で稼げないと知ってがっかりしていた村人も、俺のその言葉に俄然沸き立つ。
石を何度も熱するには、薪も炭もかなりの数がいる。高いので経済的ではない。だから村では毎日風呂に入る奴はいない。
たまに入る時も当然沸かし直しなんてしないので、家族全員で一気に入るし、直接お湯につかったりもしない。
洗った体を流すのに使うのみだ。
薪や炭を使ってサウナを商売でやるには、かなりのお金を取らなくては元が取れないが、ラヴァロックを使えば元手はタダだ。
ちなみにラヴァロックを直接水に入れて風呂を沸かすことは出来ない。呼吸をしているので死んでしまうからだ。
ただし、鍋などを上に乗せて湯を沸かすことは可能だ。
冒険者時代は、コイツを見つけては湯を沸かして料理をしたり、沸かした湯を耐水性のある布に入れ、木から吊るしてシャワーを楽しんだりしたものだ。
俺たちがサウナを楽しんでいると、女性たちが焦れて、物干し台とシーツを大量に持ってきて、小屋の近くに囲いを作った。
「いい加減代わりなさいよ。」
村で一番の肝っ玉母ちゃん、ナディに言われて、男たちがすごすごとサウナから出る。
女性たちはシーツの向こうで裸になり、バスタオルを巻いてサウナに入った。
本来汗を水で流すだけで日々の汚れは取れる。サウナで温まって川で汗を流せば、風呂に入らなくとも問題ないし、その点でも経済的だ。
男女共に好評で、俺はこれからサウナが流行ることを確信した。
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