第7話 炸裂する岩
「よーし、それをそこに置いてくれ!」
日頃大工として街に働きに行っているマイガーの指示で、村のみんながスイートビーの養蜂の為の巨大な巣箱を建築する。
巣箱の場所は森の中の、日頃村人が立ち入らない場所に決めた。
ここは少し飛び出した崖のおかげで、雨も当たりにくい場所だ。人も充分雨宿り出来、生い茂る木々が、風や直射日光も防いでくれる。
養蜂をするにあたり、巣箱の設置に適した場所は幾つかあるが、基本、以下の条件に当てはまればどこだって構わない。
●見晴らしがよい場所であること
●強い風や直射日光が当たらない
●巣箱の上に飛び立てるだけのスペースがある
ただそれだけだ。
当然村人の生活スペースから離れた場所がよいが、巣から離れた蜂は、元の巣からあまり離れたところには巣を作らない。
ニホンミツバチで大体数百メートル。
スイートビーで1キロ程度。
移動してきてくれそうな範囲で、決めた場所にたくさん巣箱を設置しておく。移動してきてくれるかどうかは俺にも分からない。正直気長に待つしかない。
すぐに巣を壊すと興奮して襲ってくるので、まずは巣から離れた分蜂が巣を作ってくれるのを待つのが良いのだ。
それを伝えたら、すぐに養蜂が開始出来ると思っていた皆は、最初がっかりしていたが、村人の安全の為と、スイートビーにストレスを与えない為と伝えたところ納得してくれた。
蜜蜂は大体1.3センチしかない生き物だ。
一般的な成人女性の身長を160センチとした時に、蜜蜂は約120分の1のサイズという事になる。
そんな小さな体で巣から2〜3キロ、人間のサイズで換算すると240〜360キロ。それを1日の間に何往復もしながら蜜や花粉を集めるとんでもバイタリティ。
移動の過程で花がたくさんあれば、その蜜を栄養として、8キロ先まで飛ぶこともある。
大人のこぶし大サイズのスイートビーに至っては、何と20キロも先まで往復をし、最大移動距離は100キロを記録したケースもある。
知らない土地の知らない花の蜂蜜も楽しめる。楽しみでしかなかった。
幾つもの巣箱を設置していると、突然アントに肩を抱えられたジャンが、大変だ!と叫びながら俺たちの元へ駆け込んで来た。
皆手を止めて、なんだなんだとジャンとアントの元へと駆け寄る。
ジャンは酷い火傷と殴打されたような傷を作り、失明まではしていないようだが、片目をやられて目があけられなくなっていた。
「街道に、ラヴァロックが出たんだ……。」
その言葉に、皆が一斉にザワザワしだす。
ラヴァロック。
主に道端や草むらに突然湧いて出る、漬物石サイズのゴツゴツした岩石の魔物。
下手に攻撃すると、何度目かで破裂し、高熱を帯びた石をぶつけてきて、かなりのHPを削られる、初心者や村人が苦しめられる魔物。
溶岩岩のその名の通り、多くは群れを作って、溶岩の流れる地下のダンジョンなどに巣食うことが多いが、まれに単体でこうして、人里近くや森の中に現れる事があるのだ。
本来溶岩地帯を好んで生息する魔物だが、個体差があり、魔核の熱耐久度の低い個体は生息地から離れていく性質を持っている。
オーバーヒートによる魔核破壊死を避けるためと言われているな。主な移動方法は自爆。
移動方向はランダムであり、移動中の事故死もよくあるのだが、うまく移動出来ると、こうして人里に現れたりもするんだ。
放っておいても一定時間で破裂する為、タイミング悪くその道を通ると、いきなり被弾して、大人でも一回の破裂で死に至ることもある危険な魔物だ。
この村から街に行くにもどこに行くにも一本道で、どうしてもそこを通らなくてはならない。
定期的に破裂するラヴァロックに怯えながら生活することになるのだ。
街に向かう街道の脇の草原は、この村の子どもたちの貴重な遊び場でもある。
子どものいる親たちは一気に戦慄した。
「スイートビーの問題が片付こうとしている矢先になんてこと……。」
「この村は呪われてるんじゃないのか……?」
皆が口々にそう言って落ち込んだ。
「だ……大丈夫だよ。」
声を上げたのはリリアだった。
「だってお父さんは、まもののおいしゃさんだもの。」
皆が日頃殆ど声を発しないリリアの声だと気付かずキョトンとする。そして、
「そうだ!この村にはアスガルドがいるじゃないか!」
「頼むアスガルド、何とかしてくれ!」
俺はうーんと首を捻る。別にラヴァロック程度俺一人でも退治は出来るが、問題は、一度倒しても、暫くしたらまた湧いてくる可能性が高いということだ。
ラヴァロックは初心者向けの魔物ながら、不死再生の能力を誇る。そして、何故か一度湧いたら、その近くで何度も湧きたがるのだ。
恐らく最適な住処として、そのエリアを気に入ってしまうのだろう。
「……まあ、何はともあれ、まずは状況を見てみないことには始まらないな。
アント、悪いがラヴァロックのところまで、案内してくれないか?」
俺はジャンの怪我の治療を村人に頼むと、アントを連れてラヴァロックの湧いたところへとやって来た。
「……これだよ。」
ラヴァロックは村から街へ向かう街道のど真ん中にその身を鎮座していた。
一見ただの石か岩に見える為、不自然にこんなところにあっても、破裂するまで魔物とは気付けない。
「こんなところにこんなものがあったら、恐ろしくて通れないよ。
早く何とかしてくれよアスガルド。」
アントは怯えたように俺を急かす。
「待て待て、退治するのは構わんが、ラヴァロックは倒したところで、時間が経てばまた同じようなところに湧いてくるぞ?」
「じゃあ、その都度倒せばいいじゃないか。」
「──って、いやいや、それ、倒さなくとも、何とかなるぞ?」
「どういうこと?」
「ここが草むらなんかじゃなく、街道のど真ん中ってのが良かった。
ちょうどスイートビーの巣箱に使った木材の余りもある。
ちょっとラヴァロックにも仕事を与えて、この村の役に立って貰おう。」
俺は訝しむアントを連れて村に戻ると、早速ラヴァロックの活用方法について、村人に話をした。
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