第3話 スイートビーのなだめ方
俺が村人に用意して貰ったものは、ナイフ、斧、軍手、木でできた桶を幾つか、それとはしごだっだ。
俺ははしごを使って木のてっぺんにある巣まで近付く。巣の周りでは、スイートビーたちが警戒しながら、ブンブンとうるさく飛び回っていた。
至近距離に魔物がいても恐れない俺を、村人たちが遠巻きに見ている。俺は思い切り巣に斧を突き立てた。
スイートビーたちが一瞬で攻撃態勢に移り、俺に襲いかかった。村人たちの悲鳴が上がる。
だが俺は落ち着いたものだった。俺の周囲を守っているリッチが、スイートビーを追い払う。
仮にもBランクダンジョンで活躍していた魔物だ。こんな人里近くに現れる魔物など、100匹いたって物の数じゃない。
俺はむき出しになった巣の一部をナイフで削り取ると、その下に桶を当てた。
トロトロと濃厚な蜂蜜が溢れ出る。黄金色に輝く液体は、まさに食べる宝石と呼ばれる名に相応しい。
俺は桶がいっぱいになる頃に、
「おーい、誰か受け取ってくれないか?
リッチがいるから、魔物は大丈夫だ。」
と叫んだ。皆が互いを見回し、一番若い少年が、母に背中を押されて、半ば転げるように前に出た。
戦々恐々としながら、俺から桶を受け取ると、素早くその場を離れた。スイートビーに限らず、蜂は素早く動くものを攻撃する習性がある。
スイートビーの一部が少年に向かって行き、それをリッチが防ぐ。
再び桶を受け取りに来た少年に、
「ゆっくり動いたほうが襲われないぞ?」
とアドバイスをした。
桶が足りなくなり、追加で持ってきて貰う。桶7つを満タンにし、巣から流れる蜂蜜がようやく止まった。
俺は村人たちを連れて村に帰った。
「……あんなことして大丈夫なの?」
「スイートビーが、襲ってくるんじゃ……。」
美味そうな蜂蜜には惹かれるが、それを村に置くことには、反対、といった空気が皆の間に漂う。
「大丈夫だよ、これで女王が落ち着くから。」
「どういう事なんだ?」
先程から半信半疑だった村長が俺に尋ねる。
「スイートビーはとても不器用な頑張り屋さんなのさ。
頑張って蜂蜜を集めるんだけど、たまに集め過ぎて、女王の部屋まで蜂蜜でいっぱいにしちゃうんだ。
考えてご覧?
女王が部屋にオシリを入れたら、蜂蜜でベッドがビッチャビチャ。
そりゃあ怒るだろう?」
「オシリがビッチャビチャ……。」
そのキーワードに子どもたちがぷぷっと笑い出す。
「女王が怒ってストレス成分を出すと、それにやられたスイートビーが、花のないところにも現れて、近くで動くものを襲うようになるんだ。
巣を壊して、蜂蜜を取ってあげれば、巣を直すのを優先して、スイートビー自身で中も掃除するから、人を襲わなくなるんだよ。」
スイートビーはその名の通り蜜蜂の魔物だ。これは魔物でない一部の蜜蜂にも同じ性質ものがいる。
初めてそのことを知った時、魔物といえど、そこで暮らす1つの命で、むやみに人を襲うわけじゃなく、ただ自分たちの生活を守ってるだけなんだなあ、と思った。
「あとは巣箱と遠心分離機を作れば、そこにスイートビーの巣を作らせて、養蜂が出来るよ?
スイートビーは一ヶ月に一回蜂蜜が取れるから、それを売ったり加工したら、それで商売が出来るし、レレンの木は、今はスイートビーにあげちまおう?」
「……レレンの実は、もう食べられないの?」
子どもたちが心配そうに俺を見上げる。
「花が萎めば、レレンの木に近付かなくなるから、巣箱を安全なとこに設置すれば、みんなも自由に取りに行けるようになるよ。」
わあっと皆がわく。
スイートビーを養蜂に使うにあたって何が凄いかというと、実は通常一般的に流通している西洋蜜蜂で、年に3〜4回しか蜂蜜を取ることが出来ない。
ニホンミツバチで何と年に一回。
それを月に一回取れる程集めてしまうのだから、どれだけ優秀な頑張り屋さんかが分かるというものだ。頑張り過ぎて女王のベッドをビッチャビチャにしてしまう程に。
しかも冬眠しないので冬にしか咲かない花の蜜も集めてくれ、季節ごとに違う花の蜂蜜を楽しむ事が出来るのだ。
俺は村人たちと巣箱と遠心分離機の作成方法について話をし、まずはスイートビーの蜂蜜を食べてみることにした。
糖度の高い実を付けるレレンの花の蜂蜜。
これはもう期待しか出来なかった。
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