第3話 心機半転
俺たちは、森の中を歩いていた。
まったく疲れを感じないので、身体能力が凄いことはわかるのだが、それでも未知の森を見た目同い年の女と一緒に歩いている姿には本能的に不安を覚える。
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歩き出す前の話。
エンゼは「始まりの町に向かうわよ」と言った。
なんだ、その安直なRPGでしか付けないような名前は。なんて思ったが、この町周辺のモンスターが一番弱いから勝手にそう呼んでいるらしい。
俗っぽい天使だなと思ったが、
エンゼ曰く「天使だって生活してんの。天使ゲーム屋さんに行って、エンジェル・クエストを買ったりもするわよ」だとか。
さっきからネーミングが安直すぎる。とつっこんでやると、これまた彼女が勝手に言っていただけのようだ。
こいつのネーミングセンスは馬鹿みたいだと思った。
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それから1時間。俺たちは無言で歩いていた。しかし流石に暇を持て余したので気晴らしにエンゼに話しかけることにした。
柄にもなく、不安を感じていたのかもしれない。
この世界をある程度知ってるであろう、彼女が焦ってないんだから安全なんだろうが。
「クマとか出たりすんのか?」
「クマよりもっと強いやつなんていっぱいいるわよ?熊退治に、あんた引き連れて私が出向くわけないじゃない」
そりゃ、確かに。
そんなことは俺の世界でも昔話程度にしかならない。
「じゃあ、この森の生き物ってどんなのが居るんだよ」
「大体スライムね。ここら辺のモンスターは熊より全然弱いわよ」
「大体ってなんだよ、そういう種類ってことか?」
スライムベスみたいな
「なにその大体合ってるみたいな、あやふや生物。スライムとその他諸々ってこと」
エンゼは、バカにした目でこっちを見る
知識をひけらかして優越感に浸るなんて碌な奴じゃないと思っていたが、まさか天使にも当てはまるとは。
俺も碌な奴ではないので、こいつが知らないことがあったら心底バカにしてやろう。
「つーか、お前が息止めると俺も窒息しかけるってどういうわけだよ」
「俺が息止めても同じことになんのか?」
駄々こねるときに使ってやろうかな。
「ならないけど?天使の特権ね。ま、別にずっとシンクロしてるわけじゃないわ。私がしたい時だけよ」
ひでぇ話だ。
とりあえず息を止める練習はしておこう。
「というか、言葉は通じんのか?」
というかよく考えりゃ、エンゼと会話できてるってのも奇妙な話だ
「そういう所も含めて才能ね。何分の一よ。ってくらいの確率であなたになったの」
「へぇ?そりゃ光栄だ」
一回死んだ後に勇者ごっこさせられるなんて体験は仏陀だってしたことがないだろう。
しかし、まぁ曲がりなりにも彼女は世界を助けるためにこの世界に来てるらしいし、なかなか立派なやつではあるな。と、こいつに仕返しするために一時のテンションに身を任せて異世界に来た自分を棚に上げて思った。
すると
「あ。」と、エンゼは誰に言ったんだか分からないような小さい声を出しながら立ち止まる。
「あれがスライムね」
彼女が示す指の先には確かにゼリー状のスライムっぽい生物が動いていた。ただーー
「大体スライムだな」
「確かに。なかなか良いニックネームかもしれないわね」
そう言ってしまうくらいには可愛らしさを失ったスライムだった。
猫とかを見習ってほしいぜ
「倒すのか?」
「別にいいけど、なんの得もないわよ」
「お金とか貰えるんじゃないのか?」
「私が持ってるわ。それくらいの準備してるに決まってんでしょ?」
エンゼは得意げに振り返ってきた。
人に金を借りるなんて、俺の信条に反するんだが、エンゼからの依頼料ってことで納得するとしよう。
もしかしたら、生まれ変わって丸くなったのだろうか。
少し気が楽になった。柄になく、そんな事だって考えたかもしれない。
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