こっち向いて、恋

@genir

第1話

ママを亡くして13年目の夏

私は、18歳。

高校生活があと少しで終わろうとしてる −


「あっついなぁ、今日も」


放課後の帰り道にいつも通るコンビニで

夏になったらアイスを買うのが日課で

もちろん、パパの分も買う。

自分の分は、歩きながら食べて帰る

でもパパの分は溶けちゃうから

アイスを買う時は少し早歩きで帰る


「…一個しかない」


私の好きなアイスが最後の一個

手に取ろうとした瞬間「パチンッ」と静電気が

走る音が体内に響いた。


「ひぃっ!痛っ!」




『ラッキー。ラスイチ』


後ろから現れた男の人が

欲しかったアイスを取った


「え!ちょ!リリのっ…!!」


男の人は一瞬「ン?」とした顔で

数秒見つめてきて我に返ったのか

「あぁ、アイスのこと?」って

目で合図してきた


『欲しいの?これ』


私ったら思わず欲しすぎた上に

声があがってしまってチョット恥ずかしい。


「すいません…つい。大丈夫です!

他の選ぶんで!」


ふ〜んとした表情のままで

そのままレジに並んだ男の人。

なんだ愛想の悪い人かとか思いながら

アイスを再び探す。


好きなやつないし、パパの分だけでいいか。 




『どーぞ』


「…え?(ポカーン)」


『食いたかったんでしょ?アイス』


「…?」


『いいから。はい。持って』




コンビニの袋の中に私が欲しかったアイスが一つ。

ポンっと渡されてそのまま風の様に帰って行った

男の人。

ありがとうって言うのを忘れるくらい

びっくりした。



「名前くらい聞けばよかった…」


空いた口が塞がんない。



夕焼けが綺麗に見えるこの時間帯に

欲しかったアイス食べるのが最高で

夕焼けも沈むのが早いから沈む前に

急いで食べるのも悪くない。

そんな帰り道が好き。




ガチャッ–


「たっだいまー」


昼の残暑が少し残ってる。

リビングに駆け込んでクーラーを付ける

アイスの最後の一口を食べる

風がなくて風鈴すら揺れない外の夏の景色

これが今で言う「エモい」だ。





『リリー帰ったぞー。今日の晩飯は牛丼でも

食いに行くか!』




パパは料理があんまり出来ない。

外食も多くてたまに飽きる。

でも文句は言わないよ


「おっけー!」




13年間1人で私を育ててくれた

唯一の家族なんだから。

一緒に居れるだけ幸せなんだ

ママの分も幸せになるってパパと2人で

決めたんだし。


パパと一緒に食べる牛丼は最強なんだから。




『リリ、大盛りよく食ったな〜太るぞ?』


「パパに言われたくないね!」


『コラ!リリ!』


「はははっ」


『そうだ、リリ』


さっきとは全然違う深刻そうな顔をするパパ

私、太ったこと言いすぎたかな。

とか思っちゃったり。


『やっぱり家ついてから話そうかな』


「なによ〜、今!今言って!」


『いや!家着いてか…っ「こんばんは、お父さん」




「え、さっきの。」




目の前に現れたのは

アイスを買ってくれた男の人

しかも、「お父さん」って何?



パパ『早かったかあ…』


「ねえ、パパこの人誰?(小声)」


パパ『ここで言うのもあれだが、

三川時(みかわとき)お前の生き別れた兄だ」




「…っは!?」


時『トキです。お兄ちゃんでいいけど、

よろしくね」



アイス買ってくれたさっきの人が

私のお兄ちゃん!?

本当に頭がついていけてなくて

パパの顔を何度も見る。




パパ『一旦荷物は、リリの部屋に置いておいて、

リリ?いいだろ?』


「え?あ、はい、どうぞ…」


時『あざす』




荷物をどんどん私の部屋に突っ込んでいくNew兄

ギターに使い古したカメラ、大量の服達。

みんな何事もなかったかの様に荷物を運んで

私だけ過去に取り残された気分。


「ちょっと、いい?パパ」


パパ『あ、あぁ。なんだ?』


「あれ、本当のお兄ちゃん?」


パパ『もちろん!イケメンなパパにそっくりだろ?』




こう言う真剣な話はパパ苦手で

私が呆れて終わるのがオチ。




パパ『あとリリ、悪いけど1ヶ月

トキと同じ部屋でもいいか?

新しい家が遅くって遅くって…すまん!』


「はい!?パパの部屋でいいじゃん!」


パパ『パパの部屋は物が多いからダメなんだよ』


口の中に含んでた水が一気に出た

初めて会った男の人、いや、兄と

同じ部屋だなんて。



時『ごめんね、リリ』



そう言って容赦なく部屋にズカズカと入るこの人

今日は本当に眠れなさそう。






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