第13話 もっとよく考えよう子供なんだから
その日は珍しく雨が降っていた。
切符なんか買わなくてもいいんじゃないかと思えるほど無人の改札をくぐり抜け、僕は一人浮き足立ちながら電車をまっていた、常々僕は思うのだが一生のうちで人が得られる幸福の総量は同じなんじゃないかな、例えばそう大金持ちのお嬢様が初めて庶民の生活を体験したときのドキドキと、同じ学校だけど名前も知らないような女子の隣を通った時すごくいいにおいがした時の幸福感は言ってしまえば同じくらいの幸福の総量で死ぬ間際に幸福の数値が出されたとしても実は言うほど客観的に見れば変わんなくて、受取手の感じ方次第な気がする。それこそ僕が理科さんと過ごしてきたこの一年間も幸福の連続ではあったしきっとこれからもずっと、いやずっととは言わずあと一週間ぐらいは無条件に続くもんだと勝手に思っている、でももしかしたら実はここからずっとそれこそこの瞬間にも僕に不幸がバランス調整のために派遣会社から派遣されてくる可能性もあるもんで、その時はもうどんとこいって感じで受け止めてやりたいものだ。
「不幸ねぇ」
人間の生息していない森の奥深くで木が一本倒れても音なんかしないように僕の声もまた無人の駅に存在を証明していなかった。
電車が深いため息をつきながら目の前で立ち止まり僕に手招きをする、しょうがない今日もこいつの世話になるかとすら思えてくる貫禄であった
「やあ、おはよう」
とても厚い文庫本を両手で読んでいた因幡が視線を僕によこす、心なしか僕を見る目がいつもより哀れみを含んでいる?だがそれに気づくことになるのはもう少し後になる
「僕は今からできるだけ頑張るけれど、所詮は子供のやる事なんだからたかが知れているって君は言うんだろうな」
「よく知っているね、僕はあまり人に期待する方じゃないんだ、ところで何の話」
「そこで君に質問だ、今から君は僕のことを守り続けなければならない、これから先ずっとだ一体何年守り続けることができるかい」
「なんだその質問、そーだな年という単位で人一人をたかが子供が守り続けることなんて不可能だしもって1分とかじゃあないかな」
「そうか、意外と現実的に考えるんだね、ちなみに僕が君の場合でも同じ回答をしたよ守り続けるなんて不可能だからね、だからやっと友達になれたところ悪いんだけど所詮は子供のやることなんだから許してくれ」
「・・いいよ」
今、私の一番大事なもんが壊された、壊されるんはなれとる、家も家族も自分もいつかは壊れるもんやと、小さい頃から教えられてきたから。
今隣でわんわん泣いとるこいつに出会ったんはもう覚えてもいないくらいやった
そんで今目の前でもう2度と動かんこれに出会ったのは忘れてしまいたいくらい最近やった
「また、帰るんか」
泣き腫らした顔をこちらに向けてくる
闇の底だとか世界で一番黒い黒だとかそんなものは全て偽物でこれだけが本物だとしても一切の疑いの余地も湧かないくらいの真っ暗で真っ黒の彼女の瞳がそこにはあった
何も捉えていない、何も見えちゃいない、そして何も考えていない
腕の中にかつて愛してかつて動いていた塊を抱き抱え私の前を横切るとそっと目を瞑り
飛び込んだ
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