第9話 約束します、シリアスにはさせません。

「どうしても嫌なら、うち、来る?」

場所は帰りの電車。窓からの景色はすっかり黒一色。

彼女の発する声には独特のオーラを纏っていて行き同様帰りも膝の上にいる僕には逃れる術はない。潤んだ瞳が優しく僕を見下ろす。このまま一緒に帰っちゃおうかな、


「ダメですよ理科さん、自分で言うのもアレですが僕だってこう見えて男なんですから。それにいきなり上がりこんで来たらお家の人だって困るでしょうし」


「、、、うち今日誰も居ないんだ、、、一人は寂しいな」

「行きます」


「アホか、嘘に決まっとるやろ」


・閑話休題・


 湿っぽかった空気が一変してカラッと乾く

「マスター、せっかくいい感じの雰囲気で文くんをお持ち帰りできそうだったのにぃ」

「お持ち帰りしてどないすんねん、ほらはぶてんな、シャキッとせえ、降りるで」

理科さんはマスターに首根っこを掴まれて引きずられて行った


「文くーんまた明日ねー、ラブー」

「理科さんラブー」


「きっしょい挨拶」


 ほなさいならと言って電車はドアを閉めた。


「さっきまで賑やかだった車内がこれまた一変してがらんとする、まるで世界には僕一人なんじゃないかってそんなノスタルジーな気分。」


「そんなこと思ってねーよ」


「いやー、フーくんならそう思ってるはずだよ、だって顔に書いてあるもん」


「勝手なこと言うな」


「勝手じゃないさ、当然だよ」


「知ったふうな」


「知っているからね、全部」


「・・・」


「それにしても面白い彼女を捕まえたもんだ、お姉ちゃんびっくりしたよフーくんもリア充ってやつかい? で、どこに惚れたんだい?顔か?内面か?それともあのでっかいお胸さんかい?」


「もう黙れよ」


「いいじゃないか久しぶりに会ったんだからさー話そうぜぇ、語ろうぜぇ」


「・・じゃあお望み通り話してやるよ、今までどこに行ってたんだよいきなり1ヶ月近く家出て行ってどんだけ僕が心配したと思ってるんだ姉貴」


「うーんそれについては何度も謝罪しているじゃないか、それともおでこを地面につけた謝り方の方が好みだった?」


 この人相手に何を言っても無駄な気がしてきた

今僕の横に腰掛けている女性は僕の姉だ、正確に言えば父さんの再婚相手の娘だから義姉ちゃんと言うんだろうが、まあ僕の物心着く頃にはもう家族の一員だったし姉貴ってずっと呼んで来たから姉貴ってことでここは一つ。

 結構本気で心配していたこちらの身を知ってか知らずかのほほんとした態度を取られたので流石にカチンと来たこっちは奥の手を使うことにした。周りを確認、よし、誰もいないな

息を吸い込み、姉貴の方を向く。目を合わせてできるだけ睨み、一言


「お姉ちゃん、嫌い」


 刹那。さっきまでの余裕たっぷりの笑顔が崩れ去り目尻に涙が溜まっていくのがわかる。次の瞬間、僕は抱きしめられていた

「ね、いや、姉貴?」

「う、う、」

「う?」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、

 あっ、エック、うわぁぁぁぁぁぁぁぁんフーくんに、エッ、アッ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」


 泣かせてしまった。

 一応説明、これは子供の頃から使っている姉貴のみに有効な必勝法、子供の頃この技を見つけてからというもの、

いつもニヤニヤしていて頭のいい姉貴が泣き崩れてすがってくるのが面白くってよく使っていたのだ。

 ただしこれを使うと自分にももれなくダメージがくるし周りに人がいるともっと迷惑がかかる

てか抱きしめが痛い、背骨と肋がギリギリ言うとる、イタタタ


「うわっ、エッ、うわぁぁぁぁぁん」


 年甲斐もなく大泣きをする姉貴。

 とても人様に見せられる面じゃない

というかこの技使ってたの幼稚園の時だぞ、なんで今でも通用するんだよ

「痛いって、いい加減泣きやめよ姉貴」


「うわぁぁん、だっれ、だっれフーくんが、フーくんがきらいっれ、うっうわぁぁぁぁぁぁぁぁん、エック、きらわれらくないよぉぉぉ、ぜんぶはなすか、エック、らあぁぁぁぁ」


「わかった、わかったから、このままじゃ本当に背骨が、イタタタタ」


大粒の涙を流しながら嗚咽がこだまする、当分この技は封印しよう、そう思った。


駅に着いた

「ほら降りるよ姉貴」

「手、繋いで」

「はいはい」

定期を二人分かざして改札をでる

なんか嫌だなぁ、片方は男子高校生、片方は年齢不詳の背の高いスーツを来た嗚咽を引きずっている女性。やっぱ理科さんの家に行けば良かったかなぁ

「ごめんね、エックごべんね、、うっうっ」


「こっちが申し訳なくなってくるからやめてくれよぉ、泣き止んでくれよぉ、なんならこっちが泣きたいわ」


「フーくん、お姉ちゃんのこと、好き?」


「はいはい好きだよ好き好き大好き」


「ふふっうれしい、、エック」


なんで姉貴とラブコメせにゃならんのだ、なかなか手を話してくれないので、もう片方の手で鍵を探し出し鍵穴にさす


「彼女と、エックお姉ちゃんどっちが」「彼女」

「そっか」

「ただいまぁ、姉貴連れて帰ってきたよー」


出迎えは特になし、返事も特になし

とりあえずリビングに行ってみる。

後になって思えば、この行動はあんまり良くなかったと言えるのかもしれない

 そこには頭から血を流して倒れている一つ上の兄と、僕の生まれる前に父と再婚した母、唯一の肉親の父が倒れていた。


僕は何度かこの光景を見たことがある気がした。

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