第7話 暑さと宝と冒険と
今日は珍しく二人だけだった
少しばかり早い梅雨入りだと言うのに今日は快晴。暑い
「暑いねぇ、なんでこんな日に限って電車が遅延するんだろうねぇ文くん」
「そーですねぇ」
「暇だねぇ」
「そーですねぇ」
駅のホームのベンチに腰掛け自販機で買ったアイスをちびちび食べながら、何度目かもわからない同じ会話を繰り返していた。
最初の方は汗が染み込んで露わになる理科さんの下着なんかに気が散っていたが、意識が朦朧としてきてそれどころでは無い
そろそろ流れる汗で池が作れそうだな、なんて考えていた時
「あっ」
理科さんが声をあげ、かけて行った。
しばらくして発光体として紹介されても問題ないくらいな笑顔を讃えた彼女が帰ってきた。手には何やら紙束が握られている。屈託のない笑顔でそれを差し出し彼女は言う
「宝クジ買ってきた!」
これはほとんど毎日彼女と会うたびに更新されるのだがやはり今日のこの瞬間の彼女が一番可愛い
「スクラッチじゃん」
嫌に冷静に返す僕
宝くじ
それは国の運営するギャンブルの一つ。売り上げは地方財政資金の足しになるらしい。
「どっちでもいいの、それより文くん一等は3000万だって、どうする?何買っちゃう?」
「結婚式と新婚旅行の費用に回す」
「・・・」
彼女はこの時初めて照れていた
が、
この時の僕は暑さにやられて脳死状態での会話だったのでその顔を見れていなかった
「ま、まあそうだよね、いずれはまあそうなるよね、ははは、、、いきなり即答でそんなこと言うからお姉さんびっくりしちゃったよ、ちょっと待っててね文くん、すぐ戻るから」
言うが早いか一目さんに理科さんはホームの反対側まで走って行き何かを叫んでいた
少しだけげっそりして頬の赤い彼女が帰ってきたのは5分後だった。
「もうちょっと近い未来のことを考えようか、たとえばパーっと欲しいもの全部買ってみるだとかさ?ほら、文くん今欲しいものないの?」
「理科さんの苗字」
「そっかー私の苗字かー・・・・ごめんね、またちょっと待っててね?」
今度の彼女はスポーツドリンクを持って帰ってきた
「文くん、飲んで、頭冷やして」
「口移しがいいです」
「分かった、もうお姉さんは動じないよ」
理科さんは口いっぱいにスポーツドリンクを含み、僕の頭をわし掴みにする。
そのまま、、、
冷たい中に生温かさがあるそんな感覚で意識が戻ってきた。言うまでもないが次に赤面したのは僕だった
「ふっ、お姉さんに勝とうだなんて100年早いわ」
なぜかちょっと頬の赤い僕の彼女は隣に腰掛けた、二人で黙々とスクラッチを削ったが結局当たったのは300円だった。世の中は世知辛い。スポーツドリンクとそれ以外の味はまだ口の中に残り続けている。
「文くん?」
「なんですか?」
「新婚旅行の後は子供も作れるかもね」
ポケットから宝くじの束を取り出して彼女は笑った
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