第3話 性癖回

 僕はいつも通り電車に乗っていた、理科さんとのやりとりからちょうど一週間。

当然学校は毎日あるので僕らは毎日顔を合わせている。あれをきっかけに話もするようになったし、ただひたすら彼女のことを目で追いかける日々からは前進している。と思う

 一つ問題は抱えているが。その問題というのが

「何しとるん?」

「ひゃい!!いや何も考えてませんよ、えーほんとに何も理科さんのこと以外は」

「理科のこと好きなん?」

「大好きです」

「知っとる」

 どうやらいつの間にか背後を取られていたらしい

「あいつ、本当に彼氏できとったんか」

後ろにいたのは石見さん、風邪治ったんだ

その背後から唐突にもう一人の声がする、

「エッへへー、紹介するねこのちっこいのが私にナンパしかけてきて今は私の彼氏の文くん」

理科さんは僕の方を指さして、石見数子に紹介する。

数子さんは僕を見下ろして言う

「ほーん、別に初対面ってわけでもないけど、初めまして、君はどこの小学生?」

「高校生です」

「知っとる」

「なんで聞いたんだ」

「まあ立ち話もなんやし座りなよ坊ちゃん」

「・・・」

 なんというか完全にあっちのペースと言うか理科さんしかり僕のペースをつくれたことがないんだよなぁ、なんでだ

「こら、マスター、文くんをいじめていいのは私だけなんだから」

 いやそう言うわけでもないんだけど、ん?マスター?

「数子さん外国籍の方なんですか?」

「いや、ちゃうよ」

「じゃなんでマスター?」

「んーとねーまずうちあんまり数子って名前気に入ってないんよダサいし、じゃけー数子をもじって数学、数学を英語にしたらマス、そんで語呂を良くしてマスター」

 単純だな

「せやろ」

 心を読まれた!?

「別に読んでへんよ」

 気持ちわるっ

「失礼やな、次言うたら窓からぶん投げるぞ」

「そんなことしたら私が許さないから」


ここで一区切り


 んでまあ今の並び順は右から順にマスター、理科さんその膝の上に僕、あなたの幸せはどこから?私は膝から

 そこからは普通に他愛もない話をして過ごした、お互いの学校のことだとか理科さんの身長は180cmでマスターの身長は178cmだとか、高いな。とにかくそんなことを話していた。

不意に、理科さんたちが降りるまで残り二駅ほどというところでお腹に腕を回された。

「と、こ、ろ、で、文くん君はお姉さんに何かしないといけないんじゃないのかな?」

 射抜くような目で僕の方を見下ろしてくる理科さん、今日ほど自分の身長が低くて良かったと思いえる日はない、見上げれば彼女がいて、見下げれば彼女の膝の上、桃源郷はここであったか。

「しなきゃいけないこと?」

 わざと惚けてみる。

 肩から腕を回されがっちりとホールド、自分のつむじに彼女の顎が乗る。完全に捕まってしまった、あとホールドされた腕なんか強くない?いや強いよ、いたい。

 「君が惚けるんだったら考えがあるよぉ?」ぎゅうぅぅ

 「うぐっ」

 背中に幸せと希望の感触が、あっ。

「・・・なんやようわからんけど、隣にはうちがおるんやで、そういうのはうちが降りてからにしてくれへんか」

「えー、マスターが降りる時は私も降りなきゃじゃん、もうちょっと文くんのこといじめさせて」

「このバカップルが」

 マスターはカバンからイヤホンを取り出し(おそらくノイズキャンセリング)装着して寝てしまった。

 いや、止めるなら最後まで止めて、死ぬ、苦しい、腕の力つっよ。

いやでも彼女の圧で窒息死できるならそれも本望な気がしてきた。ありがとう父さん、母さん、僕は幸せに旅立つよ。

「でぇ、文くん?ん?」

 首に巻きつけたれた腕はおそらく跡が残るであろう

心なしか彼女の心音も聞こえてくる

「えっとその、帰りまで待ってくださいその時ちゃんと話すので」

 少しむせながら、顔が赤いのは絞められているからだと願いながら。

 少し腕が緩められたじんわり熱がこもる

頭の上に乗っかっていた彼女の頭がゆっくり耳元まで下がってくる。彼女の心音が急に早くなる、いや、これは自分の心音だ

 吐息が耳にかかる、さっきまで僕の首を絞めていた手が僕の目を覆う。何も見えない。

 呼吸が荒いのは自分かもしれないし彼女かもしれない、この心音が自分のなのか他人のなのか、もしかしたら自分のはもう止まっているかもしれない

「もう、離さないから、大丈夫だよ」

 パッと手を離される。視界が開ける感覚

どっちだよ、とツッコむのはこの際野暮だろう

ていうか何今の?残るのは多幸感と高揚感だった

そして呼吸が荒くなっているのはやっぱり自分だった

「もう文くん汗すごいよ」

「えーまあそりゃね、僕耳弱いですから」

「知ってるよぉだからやったの」

「なんで」

「んーと、マーキングかな」

 、、、マジかこりゃ体が持たんぞ

「じゃ、帰り、待ってるから」

 僕を抱え上げ膝から下ろす。180cmといえど華奢な体のどこにそんな力があるのか

「ほら、マスター起きて駅着いたよ」

「あと、、、セシウム133原子の基底状態にある2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の9192631770周期の継続時間、、」

「オーケー、いーち、はい終了起きて」

「んじゃまあ帰りぐらいは空気を読んで早く帰ってあげますさかい、お二人さん楽しんで」

 二人は降りて行った

僕がこのあと学校へ行って全く授業に集中できなかったのは言うまでも無いだろう

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