ハンドアウト 手記

 私が辛うじて正気を取り戻している内に情報を書き起こしておくことにした。

 

 神隠しを起こしている黒幕は三種の化け物達だ。

 ゴム質の皮をした二足歩行する犬の化け物。

 人に取り憑き恐ろしい幻覚を見せ、夜になると私を操り凶行に駆り立て正気を奪う蟲の化け物。

 特に悍ましいのは甲殻類に似た胴に渦巻き状の頭をした化け物だ。


 私は脳みそを取り出されたく無い。

 その恐怖から奴等に従って冒涜的な実験に協力をした私は地獄に堕ちるべき存在だ。


 蟲の化け物が見せる何処かの星が滅ぶ幻覚。

 その滅亡の元凶たる存在と似たナニカが脳を筒へと取り出された子供から湧き出ていた。

 時にはそのナニカを攫われてきた子供に取り込ませる実験をさせられた。子供達は取り込んだ瞬間に発狂してナニカを増幅して放出する。

 奴等はソレを嬉々として集めている。




 あぁ、見てしまった。見なければ良かった。

 保管庫にあったアレはもしやまだ生きていると?

 いや、だが……犬の化け物が貪っていたのを見た気がする。思い出したくも無い悍ましい記憶を振り返るとアレは無かったかもしれない。

 限界だ、誰か助けてくれ!






 なんなんだあの少女は!?

 奴等が嬉々として集めていたナニカを取り込んだというのに発狂はおろか声すら上げない。

 私を見て優しく微笑んで見えたのは蟲が見せた幻覚だろうか。彼女には神聖さを感じる気がする。

 取り込まれたナニカが出てこない事に奴等は残念がっていない。むしろ喜んでる……いや、ようやく見つけたと歓喜の声を上げているようにも見えた。

 大変よろしくない事が起きている。

 最悪のカウントダウンが始まったのか、攫われてくる子供達の数が増加傾向にある。



 嗚呼、優秀過ぎる私の頭脳が恨めしい。

 狂気に飲まれたまま読み進めていた奴等の謎言語で記された本を読み解いてしまった。

 まさかそんな存在がいるなんて、星が滅ぶ幻覚はただの幻では無かったなんて誰が思おうか。

 そして奴等の目的も察した。

 止めなければ……だが、私にはどうする事もできない。正気でいられる時間がどんどん短くな……





 駄目だ……私にはもう時間が無い。

 やがて発狂し、処分され犬の化け物の餌となるのだろう……彼らの様に。


 奴等の目的はかの存在の招来なんて生優しいモノじゃない。

 奴等は魔王を復活させるつもりだ。

 原初の混沌の核に知性と視覚を取り戻させる。

 それが奴等の目的だ。


 まさか人類に魔王の力の断片が宿っていたとは。

 地球の危機なんてレベルじゃない、全宇宙の危機なのかもしれない。


 幸にも奴等は私が手記を書く行動になんら興味を示していない。

 この手記をコピーして各所にばら撒いておこう。

 化け物達の企みを阻止できる者にこの手記が渡る事を願っている。










 追記

 八百万の神を名乗る声が聞こえた。

 おかげで奴等の企みへの対抗策が書けそうだ。

 器の少女を奴等から奪え。

 最悪、器の少女が魔王に取り込まれなければ良いらしい。

 最善なのは休眠状態の彼女を覚醒させる事。


 彼女は外なる神々への抑止力だそうだ。


 その彼女は魔王を復活させるだけの魔王の断片を取り込んでいる。


 彼女は普通に起こせば覚醒するらしい。

 彼女を目覚めさせろ!


 ……どうやら、そろそろ本当に限界らしい。

 この手記をコピーしてばら撒く手筈は整えてあるから、安心して逝ける。

 化け物共、私は貴様らを地獄で待っているぞ。


 人類同胞諸君、後は任せます。

 さようなら

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