アルテミアのターン!

「なーんだそういうことでしたの」


余裕たっぷりに悪役令嬢さながら彼に微笑んだ。

焦ったわー、鞄盗むとか古典的な意地悪されかけたんだもん。

破滅ルートにまた片足突っ込んだと思ったよ。

あーよかったよかった、まだ巻き返しが着く。

彼が自分の意思でやったのでないのなら、今ここで皇子をギャフンと言わせても、私は悪くないと証明してくれる人がいる!


「あら、ライゼン様どうしてここに?」


わかってるのにそんな質問するなと言わんばかりにライゼンの額には汗が。


「はっはは、なぁに、彼と一緒に帰ろうかと思ってね」


「あら、今日は皇帝と視察なのではありませんでしたっけ? こんなところで道草をくって大丈夫なのですか?」


「へっ? あっ、あぁ、視察はその夜からなんだよ」


「あら、もう午後4時ですけど?」


「しっ、視察も兼ねた晩餐会なんだよ! 分かるだろ!」


焦ってんなー、自分がしむけたってことバレバレなんだけどなー、こいつ顔にでるから。


「まぁ、いいけど。それよりさ、カムイ君。その鞄どうしようとしてたんだっけ? まず私に返してくれるかな」


「あっ、ああ! ごっ……すみませんでした、アルテミア様」


急に様付けてきた。

別にあんたをコテンパンにする訳じゃないのに。

でもまぁ、怯えてる彼を見るのも悪くはない。


「はい、じゃーその鞄どうしようとしてたのか言ってみようか」


「えっ、あー、その」


ちらりとライゼンを見るカムイ。


うん、その態度でなんとなーく分かるけど、貴方の口からちゃんと言って欲しいの。

じゃないと、君自身が変われないから。

どーせ、あの子にちょっと色目使われて、言いなりになってたんでしょ?

……それに、こうなったの私のせいだし。

あの時個人的な感情で動いちゃった私の責任。

ごめんっていうのは癪だから、カムイをもうあの二人に関わらせないようにしてあげる。

そうすれば、私の破滅ルートが減るしね!

危ない目に遭わなくてすむもの!

一石二鳥ってやつ!


まぁ、カムイの勇気しだいだけど。

どっちに着けば君が辛い思いをしなくて済むのかは明白だ。

それでも、裏切りたくないものがあるならそれでかまわない。

だけど、違うでしょそんな顔してるって。

私の事味方だと思ってくれてないなら、それでいい。

だけど敵じゃないって事は分かってよね。


だから、私はにっこり笑ってこう言った。


「口ごもらないで、早く言いなさい。未来の女帝を待たせるの?」


「なっ!?」


「……はい、アルテミア様」


「きっ、貴様! 言うな! 何も言うな! その女の言う通りにするな! どうせ気づいてるんだ! わざと言わせて何かする気だ! どーせ、盗聴器でもしかけてるんだろ!? それとも魔法で今のこと拡散しようとしてるのか!? えぇ!?」


……見事な自滅。

見てて気持ちいいっていうか、可哀想に思うっていうか。

私はただの自己満足とカムイを2人という呪縛から解放するために言わせたかっただけだからそんな準備もしていない。

というかそんなこと出来るわけもない、ただ忘れ物取りに来ただけだぜ私。


「このバカが焦ってる理由は俺に、アルテミア様の鞄を盗んでこいと言われたからです」


そんな彼を見て、ため息混じりに彼は本当のことを言った。


「だと思った、よく言ってくれたわね」


「分かってるならわざわざ言わせるな!」


「感情的になりすぎよ、ライゼン・バカバット」


「おい、今なんってた!?」


「貴方は感情的に動きすぎなの、少しは考えて行動なさい、今の一件だって私達3人しか居ないんだから、そんな感情的にならなきゃ自滅はしなかったはずよ? 上手いこと言って、そいつの勝手な判断だとか2人で組んで私を言いまかせるとか私を黙らせる手段は幾らでもあったはずよ?」


「そっ、それは……」


「貴方は優秀なくせに幼稚すぎるのよ、感情的になりすぎなのよ、クリエイターやアーティストならそれでもいいけど、貴方は皇子様よ、国の未来のことを考える国のトップ。それがこんなんじゃ呆れるわ。……今はこの事が公になってないからいいけど、もし公になって国民がクーデターでも起こしてみなさい、貴方は玉座から引きずり下ろされるわ!肝に銘じておく事ね」


……ふふっ、これで暫くは残念な行動も嫌がらせもしないはず。

ここまで言われちゃあ流石に自分の態度を改めるでしょう。

みてよ、あの間抜けな顔。

顎をガクガクさせちゃって。

せっかくの美しい顔が台無しだよ。

じゃあ、最後にこの言葉をかけて締めますか。

これで彼が更生してくれればいいんだけど。


「いい? ライゼン様、国民から好かれない自分勝手な王について行こうだなんて誰も思わないわ、王にふさわしい人なんていくらでもいるんだから、彼らが他の人について行きたいと思ったら貴方は負けるのよ」


そう言って私はひらりと手を振って「御機嫌よう」と言って学校を後にした。

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