モブキャラだと思っていたら結構重要なキャラっているよね

「アル様~! 置いていかないでくださいまし~!」


あの騒ぎの中からいそいそとアリアが戻ってきた。


「あそこで騒いでても良かったのよ?」


「すっ、すみませんアル様」


えへへと笑うアリア。


「もう、変な騒ぎに首っつ込まないでよ」


「でもアル様の支持を集めるためですわ!」


「はいはい、それよりアリア今日の授業のことなんだけど……ん?」


横にいるアリアの方に顔を向けた瞬間、何やら変な視線を感じた。

でも何処だ? キョロキョロしてみるけど誰もいない。


「どうされました? アル様?」


「いや、気のせいか……」


「アルテミア・ローズベルト! 覚悟!」


「気のせいじゃねぇ!」


いきなり木の影から黒髪の少年が私に剣を持って走り込んできた。

おい! ちょっと待てや! なんで私が!?


「フラッシュ」


「ぎゃあああ!! 目がああ!!」


イラついたので目潰ししてやった。

でもこの少年何処かで……


「流石アル様! 雑魚など初級魔法でひとひねり! 手を下すまでもありませんわ!」


「くっそ、目が何も……」


目を手で抑えながら地面に踞る少年。


「おい、貴様。我が帝国の月の命を奪おうとした罪はその命で償ってもらうわよ」


そんな彼を見てアリアはいつもの笑顔から悪役令嬢の冷たい表情を彼に向ける。

ちょちょちょ! 闇の力が溢れすぎてる!?


「待ちなさい! 私が慈悲をあげた意味が無いでしょ!」


「はっ! 申し訳ありませんアル様!」


溢れる闇の力をしまい込み何時ものアリアに戻る。

つか凄い設定だよな……ライバルキャラが強い闇の力を使えるって。

どのルートでもアリアは強敵として主人公達と対峙する。

ライゼンルートでは、主人公を虐めまくって闇の力で殺そうとしてくる。

他のルートでも彼女との戦いはあるけど、一番激しい戦闘をするのは若き騎士団長ギルガルドルートだっけな。


まぁ、他の攻略対象とは会ってないからいいんだけど

ちなみにライゼンは光魔法を使う。

……私と同じじゃないか!


……このゲーム、乙女ゲームのくせにルートによっては戦闘しまくるからなあ……。

その戦闘ルートになるセリフばっかここの主人公選んでるけど。

というかもはや、ルートすら外れてるんですけど。


「うっ、アルテミア……ローズベルトお前だけは……!」


再び剣を握ろうと彼は地面を這い蹲ろうとする。


「あら、ごめんなさい、足が滑りましたわ」


身の危険を感じたので剣を蹴飛ばした。


「おい、平民。アルテミア様を何故狙う。皇帝派の人間か? ただのお祭り騒ぎが本当の戦いになることを望むのか?」


「違う! そんな訳あるか! 俺はただ……チェルシーを助けようとしただけだ!」


「チェルシー……?」


「あぁ! あいつは俺の幼馴染だ!」


……あぁ! 思い出した!

どこかで見たことあると思ったら、ギルガルドルートに出てきたモブだ!

そうだ、そうだよこのイベントはギルガルドルートの悪役イベントだ!


ギルガルドルートは途中まではライゼンルートと同じなんだけど、主人公を好きな幼馴染が現れる。

その少年は、彼女を虐めるアリアを殺そうとしに来るんだけどアリアに簡単に闇に沈められるんだよね。

その幼馴染はギルガルドの親友で、その仇を取ろうとしてる所でチェルシーと知り合って何やかんやいい雰囲気になる。


……ってことはギルガルドルートが始まった!?

そうか、アリアが悪役じゃなくなったから、私にこのイベントがやってきたんだ。

あっぶねー、殺してたらギルガルドに敵視されてたとこだった……。

って! 殺そうとしたのはラスボス令嬢爆誕ルートでもアリアなんだけど!?


「あら貴方もしかしてあの平民に惚れてらっしゃるの!? うふふっ! あはは!! 可哀想に! あの女はライゼン・バルバットの事が好きなのよ! 自称未来の皇后ですし! 貴方の様な平民に見向きなどしなくってよ!」


うっわ~悪役令嬢モード全開だぁ。

超絶煽ってる。


「ぐっ!? ……そんなの分かってるよ!」


「けど、諦めたくないんでしょう? 僅かな希望に掛けてるんでしょう? くすくす! あははは! あーっはっはっ! 彼女に認められたくて、彼女に気にかけられたくて、彼女に選ばれたくて、汚い事でも何でもやろうと思ったのでしょう!? なんて無意味なんでしょう! 無意味で無価値! 自分の人生をドブに捨ててまで、彼女を手に入れるためにアルテミア様を殺そうとするなんて! 流石平民! 理性に囚われず己の感情だけで動くなんて! なんて愚かなんでしょう! あははは!」


ゲーム本編よりえげつない煽りだな……

もしかして、自分と重ねてるのかな。


「分かってんだよ! そんなこと! お前に言われなくたって!」


煽りに耐えらずブチ切れた少年。


「お前こそ、ライゼン皇子がチェルシーに取られて悔しかったんだろうが! 俺はお前だって恨んでるんだからな! アリア・オーディン! 丁度よく強い奴を見つけたからそいつについて、復讐か? 馬鹿馬鹿しい! お前がやってる事こそ無意味で無価値だと思うぜ!」


「なっ!? 私達の関係をそんなちんけな関係と愚弄しますの!? 許せませんわ!」


「はいはい、そこまでよ。無意味で無価値なものなら今作り上げられてるところよ」


二人の間に入ってそう言うと黙り込む二人。


「えっと、少年。私の事殺そうとしたのは許さないけど、罪には問わないわ。ぶっちゃけ今貴方のことをメッタメタのギッタギタにしたいけど、心の優しい私は貴方に真実を伝えるだけで許してあげる」


「なんだよ、真実って」


「彼女計算高い男たらしよ」


「うるせえええええええ! やっぱ死ね!」


「フラッシュ」


「ぐぎゃあああ!! 目があああ!!」


……懲りないやつだなあ。

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