幼馴染は大体負けフラグ

マスコミは何時だって真実をエンターテインメント化する

「あはは! 知らなきゃ教えてあげる!」


赤い瞳をギラギラと輝かせながら白髪の女は、不敵な笑みを見せる。


「私の名前はアルテミア・ローズベルト! この国の公女よ!」


崩れ落ちた栗色の乙女を助けようと思ったが、体が動かない。

彼女に対して恐怖を抱いたせいだ。

悪魔の様な女は彼女の心を抉るように、言葉を投げかけ嘲笑う。


「おい! 何をしている!」


乙女を助けようと白馬の王子様がやってきたが、彼もまた圧倒的な力を持つ魔物の長には敵わない。

コテンパンにやられしっぽを巻いて逃げていく王子をケラケラと馬鹿にし勝利の笑みを浮かべる悪魔。


「……アルテミア・ローズベルト」


悪魔の名を口にしたら自然と拳に力が入り、唇を噛み締めていた。


※※※


「アル様! おはようございます!」


今日も元気にアリアが私に挨拶する。


「アリア、おはよう」


苦笑いしながら手を挙げて挨拶を返す。


「聞いてくださいませアル様! 昨日無事婚約破棄出来ました!」


だからいつも以上に機嫌が良かったのか。

でもよく出来たな、婚約破棄なんて。


アリアと皇子の婚約の経緯は少々面倒臭い。

初めに、皇帝は国一番の公爵家の娘を嫁に取ろうと思ったが、その家には断固拒否された。

そこで名を挙げたのが、オーディン家。

富も名声もあり、皇帝への忠誠心も半端ない。

それに加え、アリアが皇子に惚れている事実もあった。

そんな訳でライゼンの意見も聞かないままかなり強引に婚約は決まってしまった。

だから、すんなり行くなんて思えなかった。

まぁ、大方あの皇子が上手いこと丸めたんだろうけど。


……ちなみに国一番の公爵家の娘ってのは私の事である。

ゲーム本編で私ちゃんと登場してました。

……テキストだけど。

つまり、彼女を悪役令嬢にしてしまった原因は私ってことだ。

……おわっと、なんかお腹が痛くなったぞ。


「そっ、それは良かったわ」


ちょいと責任を感じてしまったので、声がちょっと上擦った。


「はい! あっ! でもアル様のことは私達喋ってないですよ! あの戦いがバレたら私も皇子も面倒臭い事になるのは目に見えていたので! 多分皇子も決定的な勝利のプランが立つまでは昨日の出来事は口外しないと思いますわ!」


「そっ、そう……」


そんなプラン立てられても困るんだけど……


「ですから、その前にこちらも戦力と支持を集めて革命の準備をしましょう!」


……そんなプランも立てられるのは困るんだけど!?


「貴方はどちら派!? 校内アンケート!」


心中でツッコミを入れていたら、学校にあるスピーカーからテンションが高い声が聞こえてきた。


「さて! 我がホーリーランド学園にも新たな春がやってきました! さてそんな最中、国をも揺るがす戦いが幕を開けたぁ! 先日起こった、未来の大皇帝! 帝国の太陽ライゼン・バルバット様VS我らが帝国貴族!帝国の月アルテミア・ローズベルト様の戦い! あぁ……あの興奮生で味わいたかったなぁ!」


校舎の前で、茶髪の長い髪のキャスケットを被った少女がマイクを持ちながら楽しそうに喋る。


「さて! 彼らの戦いはまだこの学校内でしか広まってません! まぁ、お二人の関係を考えると大事にしすぎると国の存亡にも関わって来そうですしぃ……ですが! そんな面倒事は抜いてお聞きします! ズバリ貴方はどちら派!? ライゼン様とアルテミア様、どちらに付くか!」


彼女のマイクパフォーマンスで湧く生徒達。


「なんじゃ……こりゃ」


なんでこんなあの話が大きくなってんの!?


「俺アルテミア様!」


「貴様! 我が帝国の皇子を裏切るのか! 彼女はあくまでも貴族! 皇族ではない!」


「そうですわ! ローズベルト家は皇族の血が混ざっていませんもの! やはり、純血のライゼン様こそ国を治める者に相応しいですわ!」


「はぁ!? 浮気したせいで、婚約者と愛人が迷惑な争い起こした奴が相応しい!? そんな脳みそお花畑より、私達のために力を使ったアルテミア様の方がよっぽど王に相応しいと思うわ!」


……こっ、これは、不味い!


「アリア、ちょっと私用を……って居ないし!?」


ふと目を離した隙にアリアはあの人混みの中に混ざっていた。


「アルテミア様こそ真の帝王! この国は彼女の物に! あんなアホ皇子に帝国を任せられませんわ!!!」


「婚約破棄をされた当てつけですの!? アリア様!」


「んな訳ありませんわ! 貴方達、その綺麗なビー玉ちゃんと眼科で外して目ん玉付けてもらった方がいいのではありませんの?」


あっ、アリアが煽りに行ってる!

やばい! 元の悪役令嬢に戻っちゃう! ステイ! ステイアリア!


「おぉっと! 貴族と平民とで意見が真っ二つだ! ぶっちゃけ私は断然アルテミア様派! だって最近不景気だし、皇帝の君主制って縛りが多いし税金高いし色々面倒なんだよねー都合の悪いことは隠すしさぁ」


ぼそりとマイクに自分の意見を言ったせいで、校内中に彼女のボヤキが広まった。


「くぉら! 情報局! 腐れマスゴミが! 風紀を乱すことはやめろ!」


「げぇ! 風紀委員!? 皆ずらかるわよ! って……いないし! 」


「情報局員! シャルドネ・ルーデンダルク! またお前か! こい! 私が叩きのめしてやる!」


「いやあああ! やめてー! これは報道の自由の侵害だあああ!!」


風紀委員がやってきて、情報局の彼女は彼に連行されてしまった。

だかしかし、盛り上がった熱は全然冷めない。

あーあ、ダメだこりゃ。

とりあえず、教室行こ。

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