悪役令嬢には取り巻きが必要

……なんて事があったせいで、食堂で一人碇ゲンドウスタイルで落ち込んでいる。


何がラスボス令嬢だよ……一時のテンションで身を滅ぼしかけてるじゃないか。

ちょっと後悔の涙の海に沈んで溺れ死にそうなんですけど。


「……見つけましたわ! ローズベルト公女アルテミア様!」


一難去ってまた一難、ぶっちゃけ有り得ない。

引き攣った私の顔が、凄い勢いで私の元にやってきた彼女を捉える。

まってくれ! 今の私に君の相手をする体力はない!

なんだ、なんのようだ! そんな獲物を見るような目で私を見るな!


「なんの用かしら、オーディン侯爵令嬢」


「用? ……そんなの決まってますわ!」


彼女の顔に陰が見えた。

まっ、まさか、『よくも私の婚約者を無様に笑いましたわね!? 』とか、『貴方のせいで私の恋が終わりました責任取りなさい!』とか言わないわよね!?


「私を貴方様の側近にしてくださいまし! アルテミア様!」


私の手を握りキラキラした目で彼女はそう言った。


「……はい?」


張り詰めた緊張がとけて、首が自然と横に曲がる。

えっ? 何?


「貴方様の帝国貴族としての誇りと在り方に感服しました! 自らの力と権力を国民の為に使い、誰であろうと正しき道を教え、その人間を正す! まさに理想の帝国貴族! 貴方様こそこの国の支配者に相応しい! あんな女好きクソ野郎など、没落させて貴方様のこの帝国を乗っ取りましょう!」


……わっつはぷん?

何何? 何この子物騒なこと言ってるの?

あのヤンデレの悪役令嬢は何処へ?

皇子様好き好き~近づく女は全て排除する思考を持った彼女は何処へ?


「えっと、その、私に怒ってないの?」


「怒る……? とんでもない! なぜ私が貴方様にそんな無礼な事を! ……先程の事でしたら完璧に私が悪いですわ! 自分の欲望にしか囚われず周りの方など気にせず、暴走し国民を傷つけた……帝国貴族いえ、人間として恥ずべき行動でしたわ!」


急に始まるお嬢様劇場。

あっちこっちに動きながら自分の思いを伝えてくるアリア。


「それに、あの男の本性とポンコツぶりを知れて良かったですわ! あんな男に酔いしれていた私が愚かでしたわ! そんな罪深き愚か者の目を覚まさせたのは他でもないアルテミア様です!」


えぇ……

まさかの悪役改心ルートに驚きを隠せない私。


「私、お傍にいて支えるべき相手を間違えておりました。あんな自己中心的な女しか見てない能無し野郎なんてこっちから願い下げですわ! 婚約破棄上等! むしろウェルカムですわ!」


「ウェルカムって……」


「私は、太陽と月をひっくり返す為なら何でも致します。貴方様を私が支配者にするため尽力致しますわ、ですのでどうかお傍に置いてくださいまし!」


跪いてそんな事を言われる私。

そのせいで食堂中から視線が集まった。

おいおい、なんて事になってるんだ。

……断ったら断ったで面倒くさいし、ぼっちは嫌だしなぁ。

それに、一人だったら私の心が折れるかもしれないし。


「……そんな関係は望まないわ」


「アルテミア様! 私は!」


「私は自分が傍に置いておきたいと思った人間には対等な関係を望むの、君主と下僕みたいな関係は要らないわアリア」


淑やかな笑みを見せ彼女に手を差し伸べる。


「勿体なきお言葉! アルテミア様!」


私の手を握りしめるアリア。

こうして私に取り巻き《ともだち》が1人できた。


「私、アルテミア様を女帝にする為尽力いたしますわ!」


……なんか悪い方向に傾いてる気がするんだけど

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