真の悪役令嬢と書いてラスボスと読む

「ちょっと貴方! なんでライゼン様にベタベタしてるのよ! 彼は私の婚約者よ!」


「おやめ下さい! アリア様! 私はその!」


あっ、あれはホリホリの主人公チェルシーとライバルキャラのアリア・オーディアン!

やっべー、あのイベントは確か皇子ライゼンがチェルシーと物凄く親密になるイベントだ!

それで、どんどんアリアの行動がエスカレートしていくんだっけ。

……そういや、あれって主人公の選択次第では、周りを巻き込んだやばい戦闘に発展するんだっけ……


「あったまに来ました! いくら侯爵令嬢だからって私を虐めるなんて許せません! アリア・オーディン! ライゼン様を掛けて勝負なさい!」


「望むところよ!」


……えっ?


顔が思わず(^o^)になった。


……やっば! 逃げなきゃ!

そう思った時にはもう遅い。

彼女達は互いに魔法を打ち込み始めた。

周りの皆も逃げ惑う。


……このままじゃ、死人が出るぞ!?

なんでそっちの選択肢を選んだ主人公!

馬鹿じゃないの!?


「グレンファイア!」


「カースエレメント!」


慌てふためく生徒達。

このままじゃほんとに何もかも滅茶苦茶だ。

というかこの選択肢どうやって皇子の好感度あげるんだよ!

あっ! 思い出した!アリアに自分で喧嘩売ったくせに負けそうになって皇子に助けてもらうんだ!

そして、アリアは事実上婚約破棄を言い渡されて……そしてどんどん彼女を虐めていくんだっけ。


……主人公クソじゃないか。

どんだけ依怙贔屓されてるんだよ!


「きゃああああ!」


爆発音と共に吹き飛ばされる女生徒。

炎と闇が混ざり合い、まさに地獄絵図。

早く来てよ皇子様! ヒロインを守ってはよこの騒ぎとめんかい!

なんて思っても、皇子はやってこない。


「これで、終わりよ! ローズフォイア!」


「終わるのは貴方よチェルシー! ヘルズホール!」


2人の大技はそれぞれの敵に当たるはずだった。

……だがしかし、彼女達の力は混ざり合い新たな魔法を生み出した。

その闇の炎は怪我をして動けない生徒達に向かって放たれる。

……まっ、まずい。

このままじゃ……皆死ぬ……!


そう思った瞬間私の体は勝手に動いてた。


私はストーリーに関わらないモブだ。

主人公も虐めないし、悪役令嬢の取り巻きでもない。

けれど、この国の貴族として、力の無い民を傷つけることは絶対に許さない!


「グレイトフル・シャイン!」


思い切り叫んで魔法を放つ。

煌びやかな光の魔法は、闇の炎を吸収し鎮火させる。


「いい加減にしなさい……あんたら」


一気に膨大な魔力を使った私はフラフラしながら鬼のような顔を彼女たちに向けた。


「帝国の太陽であるライゼン様を賭けの商品にした上、この国の民たちを自分達の愚かな争いで傷つけるなんて言語道断よ……! 恥を知りなさい!」


いきなりそんな事を言われた彼女達は面白くなさそうな顔をして私に反論してくる。


「何? 貴方誰よ! 邪魔しないでくれる!?」


「そうよ! 平民のくせに皇子のお妃候補に楯突こうって言うの!」


「なぁにが、皇子のお妃候補よ。この腹黒ど平民が、ライゼン様の他にも色々たらしこんで乳クリあってるくせに」


「なっ、なんですって!?」


その言葉で更に真っ赤になるヒロイン。


「アリア・オーディン。貴方帝国貴族でしょ、なんで自国の民が傷ついてるのに気づかないで、自分の欲望の為に力を暴走させてるのよ。帝国2位のオーディン侯爵令嬢が聞いて呆れるわ」


「さっきから何なのですか貴方。勝手に話に入ってきて。私をオーディン家の者だと知ってるくせに、無礼じゃありませんこと?」


悪役令嬢も私に苛立ち覚えて棘のある言葉を投げかける。


「無礼? そうかしら。私はただ正しい事言ったまでよ。男を賭けた下らない争いで、人の命を奪うような魔法を使う侯爵令嬢にお説教するのは無礼なのかしら?」


「ぐっ、それは……!」


自分のした事に気づき彼女は唇を噛み締め下を向く。


「ごめんなさいね。貴方達が勝手にやって勝手に傷つく分にはいいけど、帝国の宝である国民と、と言われる私の命を奪われるのは癪だったから、邪魔させてもらったわ」


「帝国の月……ですって!?」


その言葉に反応し、全てを理解したアリアはその場にペタリと座り込む。


「はぁ? 何が帝国の月よ! どうみたって貴方平民じゃない! 私と同じような格好をしてる癖に貴族の振りだなんて笑わせないで!」


「チェルシー! 何言っているのですか! その方は!」


「いい!? 貴族の振りをするバカな下民! 私はね次期皇后よ!ライゼン様は私のことが好きなの! 結婚まで約束したわ! つまり! 私の事を侮辱するって事は時期皇后を侮辱するってことよ!」


「……そう、貴方が私の代わりに皇后になるのね。無知で無価値な平民の貴方が」


クスリと笑って彼女をバカにするように見下した。


「あんた、私をまたバカに!」


「ふふっ、帝国の月って二つ名も知らないなんて貴方この国のこと全然分かってないじゃない。それなのに皇后なんて務まるの? それなら、そこのちゃんと教育がなされた、お嬢様の方がよっぽど皇后にふさわしいと思うけど」


「いい加減にしなさいよ! というかあんた誰なのよ! 人を馬鹿にする前に自分の名前名乗ったら!? 何処の馬の骨か分からない下民が! 偉そうにしてくるんじゃないわよ!」


ブチ切れた次期皇后(笑)。

その彼女に私は笑いながらこういった。


「あはは!誰に口聞いてるのよ! 何処の馬の骨ですって!? 知らなきゃ教えてやるわ!」


深呼吸して、大きな声で高らかに私は自分の名を叫ぶ。


「私の名はアルテミア・ローズベルト! この国の公女よ! 」


「ろっ、ローズベルト……!? そっそれって!」


カタカタとふるえる指で私を指さす彼女。


「あら? あらあらあら? どうしたのかしら? さっきまでの威勢はどうしたの? まさか、私の正体を知ってさっきまで私にしてきたこと後悔してるの? さっ流石! 平民ね! 身分を知った途端手のひら返しで震えて怯えるなんて! 大丈夫よ私なーんにもしないから」


怯える彼女に近づいて優しく笑って言ったつもりだったが、彼女の表情は悪くなる一方。


「あらあら? 泣いているの? 泣かなくていいのよー!しょうがないことなんだから、貴方は何も知らなかったんだもの。この私がローズベルト家の令嬢だなんて知るはずないものね~!」


その瞬間彼女は悪魔に取りつかれたような悲鳴をあげ、土下座を決め込んだ。

今にも泣き出しそうな彼女に私は優しく「顔を上げなさい」と声をかけ、悪魔のような笑みを向ける。


「おい! 何をしている!」


そんな所に、このゲームのヒーロー、イケメン皇子様がやってきてしまったのである。

土下座して泣きじゃくってるヒロインを見て血相を変えて私達の所にやってくる。


「彼女を泣かしたのは誰だ!」


……

…………

…………はっ、はぁ~い、私で~す。


聞き覚えのあるセリフを聞いたせいで、顔から汗がダラダラ垂れてくる。

こっ、このセリフは! アリアの処刑イベントが始まる前のライゼン・バルバットのセリフじゃないか!


「らっ、ライゼン様ぁ!」


「あっ、ちょっ!」


泣きながら彼の後ろに隠れるチェルシー。

怯える仔犬のように彼にピッタリとくっ付いて何ともヒロインらしい。


「貴様か! 私の愛しき大切な人を虐げたのは!」


……まっ、まずいぞこの展開は!

きっと、次のセリフはこうだ、「よくも私の愛しきチェルシーを! 貴様のした事は万死に値するぞ!」


「よくも私の愛しきチェルシーを! 貴様のした事は万死に値するぞ!」


「そして次に貴方はこう仰る。よって皇子ライゼン・バルバットの名のもとに、貴様に不敬罪を言い渡す!」


「よって皇子ライゼン・バルバットの名のもとに貴様に不敬罪を言い渡す! ……ってなんだ貴様は!」


おうしっと、神様なんてこと。

本編にも出てこないモブ令嬢になんてことするんですか。

これ、もしかしなくても、この世界の悪役私に変わったんじゃないですか?


皆様にお知らせ致します。

悪役令嬢代わりましてアルテミア・ローズベルト。

帽子をかぶってマウンドに上がってしまった可哀想なモブ。

このままだと、私は破滅エンドへ向かってしまう。

このゲームの破滅エンドは国外追放からの死。

……最悪の展開である。

だがしかし、その展開は悪役がアリアだった時のもの。

彼に好意を抱いたがゆえのストーリーなのだ。


なら、皇子様にくそも興味が無い私の結末は?

そもそもルートが存在しない私の話は?


悪役が消えて真の悪役がでてくる新たなストーリー、

だいたいこういうのは、超絶強くて倒せない悪役が登場する。

ならなってやろうじゃない、誰も倒すことの出来ない真の悪役、ラスボスに!


「不敬罪? まだ皇后いや、婚約すらしていない平民に対して私が? だったら、彼女に不敬罪が適用するのではないかしら」


クスリと笑って表情を作る。


「何を言ってるんだ……?」


「彼女ならその意味がわかると思うのだけど」


びくりとして震えるヒロイン。


「侯爵令嬢に喧嘩をふっかけて、国民の命を奪いかけて、帝国の月である私に無礼な態度をとった。あらあら? これ不敬罪じゃ収まりませんわね」


「帝国の月だと?……ふざけるな! その二つ名を普通の人間が…… まっ、まさか貴様!」


悪魔のような笑みPart2くどいけど、再び自己紹介。


「お初お目にかかります、ライゼン・バルバット陛下、過保護のローズベルト公爵の娘、アルテミア・ローズベルトです、以後お見知り置きを」


私の正体を知った瞬間彼は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。


「貴様が誰であろうと関係ない! 貴様は未来の皇后を侮辱したのだぞ! その罪は受けて……!」


「受けてあげますわよ、ですけど」


私の言葉に眉を顰める皇子。

それを気にせず冷静に私は続ける。


「ですが、私が罪を悔い改める前に、その女も罪を償うのですよね? まさか、自分の愛人だから罪に問わないと言いませんよね? 貴方の国民の命を奪おうとしたのですよ? その罪を無くすということは、国の宝を無碍に扱うのと同じ事……未来の皇帝が国民の事を蔑ろにすると?」


「うっ、それは……とっ、とにかく! 貴様は国外追放だ! そしてローズベルト家の爵位も取り上げる!」


「それはおかしいだろ!」


彼がそう言った瞬間、まわりに倒れていた生徒達が一斉にブーイングをし始めた。


「私達を助けてくれたのはアルテミア様よ!」


「そうだ! アルテミア様を悪く言うな!」


「アルテミア様! 万歳! アルテミア様! 最高!」


鳴り止まない彼らの声に、ライゼンは焦りを見せる。


「……そんな事して困るのはそちらの方では? 国民の支持も高く、国の中枢もローズベルト家が牛耳ってる。

ローズベルト家が無くなって一番の損害を受けるのは何処の皇族様でしょうね?」


苦虫を噛み潰したような表情を見せる彼に更に追い打ちをかける。


「それに、今回貴方の大好きなチェルシー様を殺人犯にしなかったのはこの私。国民を守ったのもこの私。お礼を言われる筋合いはあっても、罰せられる意味が分かりませんわ」


ため息をついてそう言った。


「聡明で、国民のことを第一に考える帝国の太陽なら……取るべき行動はお分かり……ですよね?」


上目遣いでニヤニヤしながらトドメを指してやった。


「くっ! アルテミア・ローズベルト! 名は覚えたぞ! 貴様今日やったこと必ず後悔させてやる!」


「後悔? あはは! するのは私じゃなくて貴方様よ! そのお荷物を溺愛して、敵に回しちゃいけないやつを敵に回したことをね! 精々その一時の幸せを噛み締めておく事ね!」


笑いながら高らかにそう言った。

……これで本当に私はこの世界の悪役になった。

悪役令嬢も超える最強の真の悪役。


祝え、ヘブンズフィールもびっくりな、ラスボス系

悪役令嬢ヒロインの誕生を。


……って! どうしてこうなった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る