第12話「身体測定・体力テスト」

「今日の体育は男女に分かれて身体測定と体力テストをやってもらう」

 校庭で体育座りしている生徒を上から見下ろすように、ザ・体育教師と言わんばかりの坊主頭の村松先生がやる気十分にそう言った。

「俺は男子の体力テストから担当するから皆準備するように!」


「では、男子はボール投げから。名簿順にやってもらうから…天野君」

「はい」

 僕は自信なさげな返事をした。言うまでもなく自信がないからだ。

 渋々と山のようにボールが積み上げてあるカゴに向かい、両手で1つを手に取った。

 自分の手が小さいからだろうか、見た目よりも触ってみるとボールは大きく感じてうまく力を伝えられるイメージが全くできなかった。

「頑張れよヒョロメガネ!」

 宮橋が僕のことを煽ってくる。痩せていることは元より、メガネの件も宮橋に言われるとなんだか核心を突かれた煽りのように感じる。

 

 投球領域が示されたサークルに入り、僕は自分が出来うる全力の投球フォームでボールを投じる。

「天野、記録8m」

 村松先生は投げる前から僕の記録が想像できたのか測定エリア内の初めの立ち位置からあまり動かず記録を読み上げた。

 僕が待機場所に戻ると一桁の僕の記録を聞いて宮橋がこちらを指差して腹を抱えて笑っていた。

「おい8mって…8mって…樹」

「運動あんまり得意じゃないんだよね…」 


「続いて…大場君」

「はい」

 大場はいつも通りに返事をし、ボールを掴み、白線で書かれたサークルに向かって歩いて行く。

 ボールを投じるまでの動きは淡々としていた。

「周って運動得意そうだな。あれでスポーツ万能だったら神様は不公平だよな」

「大場君かっこいいだからね」

 そう言えば4人の運動能力はあまり把握していなかった。

 宮橋、明島が運動神経が良いのはなんとなくわかるが、大場や成川の運動神経はあまり想像できないがどうなんだろうか?

 村松先生からの合図を確認して、意を決した大場はボールを投じた。


 近かったからだろうか村松先生の声がよく聞こえた。

「大場、記録8m」

 

 ボールを投じる前と同じく投じた後も淡々としていて待機場所である僕らのところへ戻ってきた。

「え?周?」

 宮橋は顔が固まっていたが黒目だけは淡々とこちらに向かってくる大場の動きを追っていた。

 大場は白い肌を赤く染めて視線をずらし、つぶやくように言った。

「僕、運動苦手なんだよね…」

 宮橋はホッとした表情を浮かべて「天は二物を与えずだな」と言って安心してる様子だった。

「なにが嬉しんだよ良太」

「これで運動もできるようなやつだったら神は周に与えすぎだと思ってさ」

「どういうこと?」

「いやなんでもないよ」


「続いて…宮橋君」

「俺の番だ。見とけよ8mコンビ!」

 宮橋は僕と大場の間に入って肩を組みながら自信満々の様子だ。



「宮橋、記録40m」

 単純に遠いからだろう、村松先生が僕らの時よりも声を張って宮橋の記録を言った。

「しゃあ!去年より5m伸びたぜ!」

「宮橋すげぇ」

 周りの男子達も驚いた様子だった。 

 宮橋は持ち前の身体能力をボール投げでも存分に発揮していたし、強い存在感があった。

 

一方、女性陣は50m走からスタートしていた。

「明島7秒81!」

「舞香、速!」

「中学生の時、陸上部だったからね。理奈のタイムは?」

「え!いや…だ、大丈夫!」

「なによ大丈夫って」

「あ…」


「理奈、記録用紙落ちたよ…10秒3」

「まあ、あれね…足の速さとかあんまり関係ないわよ」

「何によ!舞香の意地悪!」



 次の記録は体力テスト最難関の持久走だった。

 体力テストの持久走は1.5kmで行われる。

「よーし、みんな準備はいいか?」

「先生ちょっとトイレに行ってきてもいいですか?」

「あ、俺も行ってきます」

 男子陣は持久走前に起こる謎の尿意に苛まれていた。 

 また、いつもはクラスで静かな僕のようなタイプの男子でも、スタートラインでの争いでは積極的に前方を攻める者もいた。

 無論、僕と大場は後ろの方で気合十分の男子勢の邪魔にならないように身の丈にあったスタート位置を確保している。ちなみに、宮橋は当然前方を陣取っていた。


「位置についてよーい…スタート!」


 結果はもはやいうまでもないだろう。

 1位は宮橋で2位と大きく差をつけてゴールしていた。

 

 大場と僕もゴールしたが、走りながら大場が先にゴールしているのを見たので大場が先だろう。

 こんなに走ったのは久しぶりだと思う。それに僕は元々運動は得意じゃない。中学の時は部活に入ってなかったし、1年間引きこもっていたツケをここで大きく感じた。



・・・・・・・・

体力テスト5人の結果


天野樹(帰宅部)

握力:31kg

上体起こし:20回

長座体前屈:37cm

反復横跳び:42回

持久走:6分33秒

50m:7.88秒

立ち幅跳び:240cm

ハンドボール投げ:8m

評価D


宮橋良太(サッカー部)

握力:60kg

上体起こし:43回

長座体前屈:55cm

反復横跳び:74回

持久走:4分32秒

50m:6.33秒

立ち幅跳び:261cm

ハンドボール投げ:40m

評価A



大場周(帰宅部)

握力:33kg

上体起こし:21回

長座体前屈:62cm

反復横跳び:60回

持久走:6分20秒

50m:7.8秒

立ち幅跳び:210cm

ハンドボール投げ:8m

評価D


明島舞香(帰宅部)

握力:37kg

上体起こし:27回

長座体前屈:70cm

反復横跳び:63回

持久走:3分36秒

50m:7.81秒

立ち幅跳び:235cm

ハンドボール投げ:19m

評価A


成川理奈(帰宅部)

握力:15kg

上体起こし:11回

長座体前屈:30cm

反復横跳び:31回

持久走:6分20秒

50m:10.3秒

立ち幅跳び:120cm

ハンドボール投げ:9m

評価E

・・・・・・・・


 昼休みになり僕らは教室で5人で昼ごはんを食べていた。

 午後からは身体測定が行われるため、1gでも体重を増やすまいと昼食を抜く女子もいれば男性陣はいつも通りどころか運動後なのでもりもり昼食を食べていた。

 ちなみに、明島はいつも通りの量だったが成川は運動後だからだろうか、いつもの倍近い量を購買から買い込んできていた。

 

「周が運動苦手なのは意外だったよな。中学の時、部活何入ってたんだ?」

 大場はあまり言いたくはなかったのだろうか、ボソッと答えた。

「パソコン部…」

「え、周、意外!テニスとかバスケやってそうなのに。ていうか、パソコン得意なの?」

「いや、全く。籍だけ置いといて1回も活動に出てないんだよね。だから実質、帰宅部だったよ」

「そういう部活あるよね。私の中学は科学部がそんな感じだった」

「ちょっと待って!周が運動音痴だったら私はどうなるの?」

 体力テストE評価の成川が涙ながらにそう言って思わず僕も笑った。

「いやでも、成川、僕と樹よりボール投げ1m上回ってるから運動音痴じゃないよ」

「これはこれで成川の良さだから大丈夫!」

 宮橋と大場がフォローとは言えないようなフォローをした。

 そして何故か僕も巻き込まれていた。

「それどういう意味!」

「理奈って中学生の時、運動部じゃなかったの?」

「運動部だよ。テニス部」

「テニス…部なの?」

 今の発言が嘘なのか疑ったように明島が聞き返した。

「ちょっと舞香またバカにしてるでしょう!」


 宮橋と公園での一件があって以来、彼らは僕に過去のことをあまり聞いてこない。というより、宮橋が僕と翔太が友達だったことを除いて彼らは僕の過去についてあまり知らない。

 多分、僕から話すのを待っているのか、触れないようにしているのか。

 恐らく、両方だろう。

 

 


 午後から身体測定が始まった。

 午後の授業開始5分前になりきゅっきゅっと廊下にサンダルが擦れるリズミカルな音と共に村松先生が教室にやってきた。

「男子から身体測定するから番号順に整列して体育館に来るように」

 そう言い残して村松先生はリズミカルな音と共に教室から出て行った。


「樹と周って同じぐらいの身長だよな」

「いや、僕の方が樹より2cm高かったよ」

 大場は腕を組んで得意げにそう言った。

「もう、どんぐりの背比べじゃないか?」

「体重は僕の方が1kg重かったよ」

 僕は情報を捕捉した。

「いや、2人ともそんなに変わんないだろ…」


一方、女性陣は…

「どおしよぉ舞香、2キロ太ったぁ」

「きっと、昼休みにあんなに食べてたからじゃない?」

「そっか!そうだよね!さっき食べた分を差し引いたら太ってないかも!むしろ痩せたかもしれない!うん、絶対痩せた!」

「う、うん。きっそうだと思う」



・・・・・・・・

身体測定5人の結果

天野樹

身長:167cm

体重:49kg


宮橋良太

身長:177cm

体重:63kg


大場周

身長:169cm

体重:48kg


明島舞香

身長:162cm

体重:???


成川理奈

身長:157cm

体重:???

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