第三十六話 グッドエンドを手繰り寄せるには、君が必要なんだ
「そのうちこの世界線の
「んだんだ。ちなみに、おらの世界線の那須珂は、そりゃもうご立派でなぁ。那須珂さんって呼ばれているだぁよ。精神年齢に決定的な違いがあるから、あまり話してねぇけど」
「……それはボクが子どもっぽいってことなの、銀河。ちょっと心外なんだけど」
「那須珂さんは開拓事業で忙しいだぁよ。出張先の星でモテモテだし。おらもおらで、風魔の子平行世界オンライン計画に夢中だしなぁ。やっぱり、精神年齢、同じくらいが一番話していて楽だし、おもしろいだぁ」
いつの間にか話は、平行世界あるあるトークに切り替えられようとしていた。
そして、銀河。星間移動は常識の範囲内なのか。
さすが一億二千年後の世界。
もしかしなくてもルバ・ガイア出身と限らないんじゃないか。
宇宙人説が濃厚になったよ。
「……わかったわ。那須珂のことは、いつか生まれるはずのこの世界の那須珂に聞いたほうがいいわけね」
「ごめんね、センジュ。変に先入観を与えると、この世界のボクに迷惑をかけるかもしれないから」
「んだなぁ。もうこの世界は、おらたちの世界とは違うだぁ。おらたちにとっては大したことなくても、この時代ではデリケートな問題に発展する可能性あるだぁよ」
那須珂と銀河の顔つきからして、タイプが異なっているのは容易に見て取れる。
次元違いで済まさせる問題なのかも……わからない。
もしかしたら、風魔小太郎は襲名で、ファナティックスーツ渡世のシノビを着用した者が代々名乗っているのかもしれない。
実は何人かいると思ったほうが……世の中平和になるのかもしれない。
「うん。風魔の子については、興味本位でこれ以上聞いてはいけないってことね」
深淵を覗いてはいけないってことだ。
「じゃ、仕切り直しも兼ねて、三回戦、いくだぁ!」
「……そうだね。そろそろ流れを変えるべきだ。いいだろ、センジュ」
「パディがそういうなら……」
センジュは菓子を一つかみし、疑心とともに口の中に放り込んだ。些細なことはこのように胃袋の中で溶けてなくなってしまえばいいのだ。
これからの未来は、予想できないぐらいワクワクでドキドキなものにするって、決めているのだから。
「ほいほいほほ~いぃ、ほい!」
銀河が紙コップを持って、集めた割り箸をシェイク。
「あ、今度は小生が王様だ」
「むき~ぃ! なんでおらは当たらなねぇだよ!」
「煩悩のせいじゃないか?」
遺産研究会メンバーは軽口をたたきながら、ゲームを楽しむ。
当たり前の光景が、今日ほどありがたいと思ったことはない。
「ん~、あと少しで下校時間だし……そうだ」
ジュリーの頭の上に豆電球が飛び出した。
「二番と四番は十五分この部室に居残り、片づけをすること! ということで、消灯と戸締りヨロシクね」
「む~。結局おらはフォーチュンズのおっぱい揉めなかったなぁ~。こうなれば、次の機会にとっておくだよ」
銀河は三番の割り箸を長机に置いて、帰り支度を始める。
「えぇ、と……」
五番の割り箸を持つアスラは戸惑い気味。
事が終わったら即座に元の自分の世界の時間軸に戻るつもりだったのだが、思いのほか長居してしまったといったところか。
「お。アスちんは、おらたちと寮に行くだぁよ。なぁに、遺産の力をうまく使えばチョチョイ。侵入、ラックラク」
「それとも、ナスカが居ついたスヴァーヴァ像の広場にする? 草木のベッドならすぐ用意出来るよ」
那須珂は一番の割り箸を振って、今後の寝床について軽く提案する。
「ずいぶん手なれているな……」
「フフフ。ジュリー、住居は確保せんとなぁ。まぁ、すべては世界平和のため。ギブアンドテイクちゅうことで、大目に見て欲しいだぁ」
「そうそう。それにブラッディハートとの戦いで、ここら辺一帯の魔法粒子もエネルギーほぼ使い切っちゃったから、当分時間跳躍は無理だから。みんなで張り切って、この世界を満喫しようよ」
「那須珂は憑依だから、そんなにコスト使わなくても帰れるだろぉ?」
「勝利の余韻に浸りたいんだよ、銀河。あと、ナスカの調整にまだ時間がかかるから。それに変えた未来の分、つじつま合わせも必要だろ。銀河の世界線のアスラもやっていたじゃん」
「後始末があるってことか……」
「うん、ジュリリン……じゃなかった、ジュリー。そういうことで、当分、よろしくね」
「だな。時間のフォローについてはアスちんが一番詳しいからよぉ。おらたちは適度にサポートするだけだろうけどぉ。おらの海外留学期間中に解決できればいいなぁっと思っているだぁ」
「そうですね……これからの未来に不都合が出ないように滞在しないといけませんね。わかりました、相応な手続きをとりましょう。そういうことで、センジュ、あなたの分まで私が担いますから、安心して博士と居残ってください」
王様の命令で、この時代にやってきた未来の来訪者と古からの英雄は肩を並べて、部室から出て行く。
残るのは──二番の割り箸を持つセンジュと、四番の割り箸を持つパディ。
「……」
「……」
絶対計算しているだろ、みんな。
二人っきりに、気恥ずかしくも甘い雰囲気が漂う。
「あ、あのさ、センジュ」
沈黙を耐え切れず言葉を発した、パディ。
身も心もシンクロしたことにより意識は共有され、パディにはセンジュのすべてがわかっている。
「僕の願いをかなえてくれて……ありがとう」
もちろんセンジュたちフォーチュンズを作り出したパディの願い、ジュリーをブラッディハートに取り込ませず、平和な学園生活を満喫できるようにすることも知っている。
「……それは、あたしたちフォーチュンズの使命だから、当然だよ」
彼女たちは再びこの世に暖かく迎え入れてくれたパディに対する恩義に報いるために、戦ってきたのだ。
理不尽で利己的なもののせいで、壊れてしまうはずだった学生時代のパディの日常を守りきれたのなら、フォーチュンズとしては感無量だ。
「いや、それだけじゃないよ。センジュ個人に対して……で」
「パ、パディ!」
ぎゅっとパディからセンジュを抱きしめる。
「センジュ……、センジュ……」
パディは知ってしまったのだ。
センジュに刻まれている、記憶。
愛する人を失った悲しみ。
シンクロして、センジュのすべてが流れ込んできた。
「パディ……」
それはつまり、センジュの気持ちも……。
「僕を、こんな僕を好きになってくれて、ありがとう」
矮小で、卑屈で。
正直、未来のパディと比べたら幻滅しただろう。今のパディは何も知らないくせに、いうことだけは一丁前のガキなのだから。
「パディ……」
「これからも僕はきっと、センジュ、君を、傷つけてしまうだろう。でもね、これだけは言える。僕はセンジュのことが大好きだ。センジュがいることで僕は幸せになれる」
抱きしめる力が強くなる。
「だからもう、僕のためとはいえ、死に急ぐようなまねをしないでくれ。もう、君の命は自分だけのものじゃない。僕にとって……大切なものだ」
愛されていることに、自信と誇りを。
パディはセンジュの白い手を握り締め、訴える。
「……そうだね。あたしはもう一人じゃない。そのことすっかり忘れていたけど……思い出させてくれてありがとう、パディ」
「こちらこそ。僕を愛してくれて……信じてくれて……ありがとう、センジュ。これからもよろしく」
夕焼け色に染まった部室から、軽いリップ音が聞こえてくる。
甘酸っぱいこの音が響いたわけは、重なり合う二つの影だけが知っている。
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