第三十五話 学生らしくチープに王様ゲームをしよう

 戦い終わった後──。

「じゃぁ~、みなさん、おまちかねの王様ゲームを始めるだぁよ!」

 銀河のかねてからの希望である王様ゲームが開始された。

 満身創痍していようが、部員一堂、色々聞きたいこともある。気になってこのままじゃ眠れない。しかも、聞きたいことだらけでまとめられない。こうなればゲームをしながら、一つ一つ解説していくというスタイルをとることにした。

 参加者は発案者の銀河はもちろん、遺産研究会のメンバーパディ、ジュリー。

 フォーチュンズのアスラ、センジュ復元姉妹。

 そして、ほぼ初対面となる、新聞部の腕章をつけた那須珂(アバター・ニョグタ)である。

 なお、会場はナスカがせっせと修復させつつある、遺産研究会部室である。

 早速王様になったパディは、一番に本当のことを言うように命令。

 一番の割り箸を持つのは銀河。予定調和にのっとって答えましょうと、クルクルと長いピンク色のおろしたストレートヘア―を指でもてあそびながら、リラックスモードで語りだす。

「ん~だなぁ、まずはどこから説明すっかなぁ~。とりあえず、一番インパクトがありそうな……おお、そうだ。実はおら、今から一万二千年ぐらい後の未来人なんだぁよ」

 未来人・銀河という個性的なキャラクターが明らかになった。

「ちゅうてぇも、おらや那須珂の世界線は便宜上未来の世界と位置づけとるだけだぁ。実態はパラレルワールド、平行世界、仏教でいうところの三千世界の一つにすぎねぇ」

「うん。ボクに至っては新人類が誕生するぐらい未来だし」

 全宇宙、この世のすべてが多元的な存在である。

 ……しかし、かなり遠い未来……一万二千年である。ここまで年月が離れれば、ほぼ宇宙人だ。

「で、おらの世界線は、平行世界から来た英雄たちによって最善を尽くした結果、たどり着いた可能性の世界だぁよ」

「そっか……」

「まぁ。コーチの受け売りだけど。パディならだいたいそれで納得するってよぉ」

 銀河は玉虫色のクリスタルを指先でコツンと叩く。

「小生視点からすれば、ブラッディハート、いきなり崩れ去っていたな……」

 常夜の闘志を解除したと同時に、ジュリーからコーチ(銀河の世界線のジュリー)は消えた。

 ブラッディハートが死滅してすぐだったらしく、これ以上話すことはないのか、話したくないのか……コーチではないからわからない。ただ、精神的憑依はジュリー自身の精神に負担がかかるので、短いほうがいいのだけは確からしい。

 コーチの技術、知識がすべて消えたことで、ジュリーは元の自分に戻ったのだ。

「疑問は多々ありますが、こう皆が生きていられるだけで、私は十分です。ありがとう、遠い未来の風魔の子、銀河、那須珂」

 なお、アスラは自身が身に着けているファナティックスーツ暁のカラスの自己回復機能のおかげで胸の傷が完全に塞がり、今はこのとおり。メンバー一同、王様ゲームを興じるぐらいにまで余裕が出来ました♪

 そして、銀河の目論見通り、訳を言えばあっさりとアスラは許した。

 囮にされ、取り込まれ、被害を受けたはずなのに、だ。

 ……大人だ。

「わ~い、アスちんにほめられたぁ~。やったなぁ、那須珂」

「……うん」

 派手に喜ぶ銀河と、うれしさを隠そうとしない赤面の那須珂。

 風魔の子という誇りワードも入っているからか、効果は抜群だ。

「それにしても、今回はキツキツのギリギリ~やっただぁ。ほら、おらたち知っていたとはいえ、センジュの決死の覚悟を間近でみたわぇでぇ。精神衛生的に一番つらかっただぁよ。胃が痛かっただぁ」

「それはボクも思った。未来を変えるためとはいえある程度流れに沿って行動しなければならないのは、気分いいもんじゃなかったよね」

 ジュリーがブラッディハートに取り込まれなくて、センジュが自爆しないという結末という、ベストエンドを勝ち取れるかは、銀河の機転と努力と運が大きく作用する。

 些細なことで運命が変わるかもしれない、という不安要素に押しつぶされそうになった日々。

「あ、ちなみに、昨日、銀河がパディを気絶させたのは、ブラッディハートが強硬手段に出るタイミングを遅らせるために必要だったからだよ」

 広域視覚能力持ちのパディは、戦闘能力こそなくても、ジュリーとの交流関係もあって、ブラッディハートに目をつけられていた。

 あの嫌な事件を起こした動機は、ブラッディハートの警戒心や焦燥感を和らげるためのものだったのだ。

「悪く思わねぇでくれよぉ、パディ」

「……」

 治ったとはいえ、肉体的に、精神的に一番つらかったはずのアスラが許したんだ。

 性癖が公開されてしまったぐらい、笑って許すしかない……って、

「思わねぇわけねぇだろ、バカ銀河ぁああ!」

 思春期少年にとってみれば、これとそれとは話が別。

 パディの怒りは解けなかった。

「やっぱり。予想はしていただぁ♪」

 銀河はパディのハリセンの一撃を甘んじて受ける。

「赦す赦さぬは被害者が決めることで、第三者や加害者が言うことでも命じることでもねぇからなぁ。パディは受けた不利益をちゃんと取り戻そうとするから、フォーチュンズを結成させたわけだしなぁ」

「僕は根に持つタイプだってこと?」

「言い換えればそうなっかもしれねぇけど、おらはパディのそ~い~性根、嫌いじゃねぇだぁ」

 叩かれたというのに、ニヨニヨと笑う、銀河。

「はぁ。もう仕方ない奴だな、銀河。これぐらいで勘弁してやるよ」

 パディはその笑みが少し不気味だと思った。だが、他者パディを不器用ながら理解しようとする、尊重しようとする姿勢が見えるからか、毒気が消えるのを感じた。

 完全に憎めないって、ムズムズするけど、くすぐったい気もするので、悪い気はしない。

「おらにしてみれば、殴られるのも覚悟の内だったからなぁ。叩くだけで済んで万々歳だぁよ」

 恨まれても、このグッドエンドを引き寄せたかったのか。

「……本当にバカだな、銀河」

「バカだから時間跳躍して、過去の人間を救おうって大それたこと出来るわけだぁし。そこは否定はしねぇだぁよ」

 気持ちいいバカっているものだから、世の中捨てたものじゃない。

 パディはため息をつきながらも、

「ありがとう、な。銀河」

 立役者に感謝の言葉を送って、王冠が描かれた割り箸を紙コップの中に戻す。

 この場にいるメンバーもそれに倣って番号の書かれた割り箸を入れ、

「第二試合いくね」

 ジャラジャラと割り箸を紙コップの中でかき回した後、引く。

「えっと、あたしが王様なのか……」

 センジュが王冠マークを引き当てる。

「では、三番が、自分が身に着けている遺産のことについて説明するということで……お願いします」

 センジュはこういう場に慣れていないようだ。しどろもどろに命令する。

 漠然としていて、答えるのは難しい。銀河はすでに解説終了。コメント不可だ。

「身に着けているというか、憑依しているんだけど……。それとも、植木鉢こと融合の器にいたナスカについて話したほうがいいかな」

 だが、三番を引き当てたのが那須珂だったので、滞りなくゲームが上手い具合に進みそうだ。

「三番、那須珂だったの。だったら、自身の異能についてのほうにすればよかった」

「異能ね……それでも言えること少ないよ。ボク自身もよくわかっていないし。とりあえず、ドリュアスを支配下に置けるって異能だね。あとは親譲りの風魔忍法をたしなむ程度だよ」

 アバター・ニョグタ越しからでもわかる、那須珂の異質さ。

 だけど、それは理解するのは先の話であり、今ではないのだ。

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