第三十一話 やっぱり変形はテンション上がるよね

 ──そして、現在。

 植物型侵略兵器と、諸事情で七不思議の一つになってしまっていた機関車の戦いはというと……。

 不意打ちをくらい、逃走に失敗したブラッディハートであったが、態勢を整えると、機関車に触手を伸ばし、動きを封じようと組み付きだした。

「んぐっ。やっぱりそうくるか」

 操縦者・那須珂も、こうなることはわかっていた。

 この機関車の体当たりの威力は魔法のレールを駆ける速度と距離によって変動する。

 速く、長く、レールを走ることで魔力が蓄積されるため、こう動けなくされると簡単に無力化されてしまうのである。

「まったく銀河は何を手間取っている。いくらボクが憑依していても、本体と比べると弱体しているんだぞ、か弱いんだぞ」

 ただし、ある世界線の絶対支配者・那須珂本体の話であって、現時点のルバ・ガイアでは十分強者枠である。

 その秘密は那須珂が憑依している肉体にある。

 正式名称アバター・ニョグタ。

 荒星の桃太郎の付属武器、三体のお供の一体『サル』に該当する、不定形の依り代である。

 憑依してきた魂の形に応じて姿かたちを変化させ、憑依者の固有能力も、上限はあるものの再現できる優れもの。

 その機能が猿真似のようだから、サル枠に収まったのだろう。

 現装着者である銀河は、アバター・ニョグタに次元の違う兄弟姉妹、風魔の子を憑依させているのである。

「そう、フォーチュンズだけが世界線の未来を切り開ける存在じゃない。ボクたちだって、パパやママのようなこと、やりたいんだ」

 那須珂と銀河はこの日のために何通りの作戦を立てていた。

 何をどのタイミングで行うか、入念にシミュレーションしてきた。

 夜間の特訓もした。

 そのせいで七不思議に数えられるようになったが……いくら注意しても目撃者は出てきてしまうものなのだ。

 意図せず怖がらせてしまった名もなき学生の方々、大変申し訳ないと思うが、これも未来を変えるため。

 あなた方の心労(犠牲)は決して無駄にはしません!

「変形するぞ」

 那須珂は左手で素早くレバーを引く。

 すると、画面右の表示が機関車から電鉄機帝と変わる。

「ギャラクシー・ムイスラ、再発進」

 那須珂の掛け声に機関車は煙突から魔法粒子を大量に噴出、光り輝く。

 その光にブラッディハートの拘束が緩む。

 その隙を、機関車は逃すことなく、連結部を外し、分裂。

 魔力に満ちた大気に揺られ、再構築される。

「ゴォオオォオオ!」

 機関車こと、正式名称ギャラクシー・ムイスラ。

 三体のお供の一体『イヌ』に該当する、操縦型のロボットである。

 もとはそんなに大きくも凄くもなかったのだが……何でもかんでも巨大ロボットにするという、どこぞの文化に触発された銀河が、ギャラクシー・ムイスラを自ら改良。

 機関車モードと人型モードの二つに変形できる、巨大ロボットにするという煩悩と野望が極まった結果、夢とロマンにあふれる、スーパーロボットへと進化した。

 犬型のエンブレムを胸に掲げた、巨大人型ロボットが大地に降り立つ。

「電鉄機帝ギャラクシー・ムイスラ、ただいま到着!」

 そして、その風貌はフォーチュンズの一人『風魔小太郎』、ファナティックスーツ渡世のシノビ着用バージョンをテーマにしている。

 別名・風魔ロボ。

 この一連の掛け声も相まって、風魔の子のハートをがっちりと掴んでいるのである。

「……!」

「ボクの手を煩わせるなんて、いけない奴だな、ブラッディハート」

 ギャラクシー・ムイスラ最大威力を誇る突進攻撃は出来なくなるが、電鉄機帝モードは操縦者の能力に応じる。

 那須珂の場合は、アバター・ニョグタに憑依している分劣化しているため、完全支配とまではいかないが……。

「ナスカ、ヨーク学園の結界魔法陣のコンソートにつながったか」

「イエス・グランドマスター」

 ブラッディハートの代わりにスヴァーヴァ像地下広場を占拠した、ナスカ。

 ブラッディハートの種から芽吹いた植物ではあるが、忠誠心は那須珂にある、新世代のドリュアスである。

 同じ呼び名なのは、陽動役でもあった銀河が、潜伏に徹している那須珂の存在をブラッディハートに感づかせにくくするためもあるが、発音が同じだとシンクロしやすくなるのだ。

「風魔はね、封魔という言葉が元になったっていう説がある。だから、その血が流れるボクたちは魔を封じる魔法陣との相性がよくってね……」

 ポツポツと。

 魔法粒子が電鉄機帝ギャラクシー・ムイスラに、アバター・ニョグタに、操縦者に、集まっていく。

「ヨーク学園に長年居座り続けた割には、学園の真価を見抜けなかったよね。いや、見抜けても、ブラッディハート、お前じゃ使えないか」

 ヨーク学園が創立された時代は、乱世とまではいかないが、水面下では激しく対立し合っていた。

 それこそ、使えるものはなんだって、使える限りは有効に使う。

 安全なだけの牌ばかり揃えても、何の益も生み出せやしない──それが常識の世界だった。

 創立者がブラッディハートの性質について、どこまでわかっていたのか、気になるところだが、対抗手段は作られていた。

「気がつかなかったら、滅ぼされても仕方がないって感じだったのかな。昔の人って結構シビアだよね」

 ブラッディハートと那須珂が争っていた間、地下広場のナスカに任せたことがある。

 一つはヨーク学園の魔法陣につながること。

 もう一つは魔法陣を描くこと。

 準備が整い次第、ナスカが取り込んだ魔法粒子をアバター・ニョグタの全身に巡るように設定していた。

 ドリュアスの支配する、もとい、協力が得られる那須珂が憑依しているからこそできる交信法である。

「頼もう!」

 取り込んだ魔法粒子によって、体内が蠕動する。

「東の賢者・ニコル、西の女傑・スヴァーヴァ、南の大魔法使い・ヴィヴィアン、北の騎士・ルーカス」

 ここからでは見えないが、ヨーク学園を守護する四体の偶像が呼びかけに反応し、淡く光り出す。

「時空の彼方の偉人たちよ。学園を守るため」

 学校に敷かれている五色魔法陣にも光の粒が浮き上がる。

「反逆者ブラッディハートをこの場に留めることをお許しください」

 学び舎が光ったのが合図だった。

 許可が下りたのだ。

 その証拠に、ヨーク学園の結界魔法陣の全権を貸し与えるときに顕在化されるという礎の杯──見た目トロフィー──が巨大ロボットの頭上で回転する。

 うずまく風が生まれ、雷光が轟く。

 操縦者にとって使いやすい魔法属性を生成しているようだ。

「ありがとう……」

 操縦者は、素早く手を動かし、合わせ、印を結ぶ。

 その一連の動きは、電鉄機帝ギャラクシー・ムイスラにも反映される。

「封魔の力をこの身に受けろ、ブラッディハート。風魔忍法・金縛りの術!」

 操縦者が呪文を唱えると、忍法発動。

 ギャラクシー・ムイスラも胸元にある犬型のエンブレムが共鳴するようにピカっと光り出し、特大極太稲妻を放出。

 光の速さから逃れる術がないブラッディハートは直撃した。

「……、……、……!」

 バリッ、バリリリリィリリィィイイイイイ!

 遅れてきた音が頭の中で反響するころには、雷の鎖によって、その巨体を封じ込まれていた。

「ギャラクシー・ムイスラ、ブラッディハートに魔法の恩恵を与えないようにするよ」

 荒星の桃太郎の付属武器たちは、主の勝利へ貢献するために動く。

 敵に魔法粒子を一切渡さないように、風を吹かせて大気をコントロール。

 ここ一帯の大気の流れを、魔法粒子の流れを、掌握しているヨーク学園が誇る究極魔防結界の全面協力を得たからこそできる、今場所最高の忍法だ。

 こうして、ブラッディハートを完全に捕縛・足止めすることに成功したのだった。

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