第46話 愛花と梓
現在、私
「本当に、ほんとーーーーにご迷惑をおかけしました!!!!」
「い、
シェアハウスの共用スペース。そこで、梓先生に謝り倒していた。
先週の夜。漫画の読み切りに全力を注いでいた私の視界が突然、黒く染まった。
その後、すぐに梓先生が救急車を読んでくれて、病院送りになった。ベッドの上で目を覚ました私に、医者から告げられたのは、私が倒れたこと。そして、その原因は過労であることだった。
ひとまずは、しばらくの間安静にしていなさい、と言われて少しだけ入院して、シェアハウスに還ってきたのが数日前。
シェアハウスに帰った日にも、他の住人からお
いや、完全にやらかしたよね……。
私的には、そんなに疲れていないと思ってなかったんだけど。今思えば、栄養ドリンクがぶ飲みしてたし、ろくに休憩してなかったし、まともに寝てもいなかった。あれだ、ランナーズハイ的な感じになっていたんだろうな、うん。
まだいけるはもうダメだ。そのことを身に染みて実感致しましたよ……、ええ……。病院からシェアハウスに戻った日には、何年かぶりに正座からのお説教もくらったし。両親も病院にお見舞いに来てくれたし。本当に迷惑かけたな。気をつけないと、次同じ事したら何を言われるか……。
梓先生もお見舞いに来てくれただけでなく、病院から帰る時には忙しいのにシェアハウスまで付き添ってくれた。
そんな優しい先生は、謝り倒している私に対して、
「本当は少しだけお説教しようと思ったけど、もう十分に反省しているみたいだし、それはいいや。でも、また倒れないようにするんだよ? もし連載することになったときに同じ事したら、もっと多くの人に迷惑かけることになるんだからね?」
「はい……、肝に
私は、深々と頭を下げる。
先生は、そんな私を見ると柔らかく微笑んだ。
「で? 結局、担当さんの判断で読み切り載るのも今月号から来月号になったんだでしょ?」
そう。私が倒れたことで私のデビュー作の読み切りが載るのが、来月になった。作品自体は、もうほとんど完成していたのだが、私が倒れて入院している数日のうちにちょうど原稿の締切日がきてしまったのだ。担当さんにも「無理せず今は休みなさい」とくぎを刺されたので、大人しく従った。
先生の問いかけに、私はコクリと
「なら、時間できたんだからより良い物にできるように、適度に頑張りなさい。しばらくはひばりちゃんとかみんなにも協力してもらって、こまめに休憩をとるようにするからね」
「ははー」
先生の言う通り、時間ができたからゆっくり作品を仕上げよう。むしろ、時間ができたんだから、より良い作品に……!
私の瞳に炎が灯る。
やる気が満ち溢れてきた!よし、やってや――。
「てい」
ペチンと額にわずかな傷みが走る。先生の手が私の顔の前にあった。え~と、デコピンされたのか……?
梓先生は、キョトンとする私を見て、ため息をついた。
「愛花ちゃんは、本当にがんばりやさんだねぇ」
「へ? ありがとうございま、す?」
「愛花ちゃん」
先生の目に芯が入る。普段の柔らかい目つきから、かっちりとした大人の目つきになる。
「頑張るのを私は否定しないよ。何かのために頑張れるのは、素敵なことだと思うし、それを見てる人たちにも勇気を与えられると思うんだ。でも、それが自分を壊してしまうようなものだと、周りの人たちだって心配するだけになっちゃう」
先生は、私の頭を撫でる。優しい母親のような手つきだ。
「愛花ちゃんは、ひとりじゃないんだから。周りに心配する人がいることも忘れちゃダメだよ。もう愛花ちゃんの夢は、愛花ちゃんだけの夢じゃなくなっているんだよ。愛花ちゃんだって、ひばりちゃんが倒れるまで頑張るのは、嫌でしょ?」
「そう、ですね。嫌です」
「なら、それも自分に当てはめないと。ひばりちゃんが夢を叶えることも、愛花ちゃんの夢になっている。それと同じ様に、愛花ちゃんの夢もみんなの夢なんだよ。だから、さ」
梓先生の目がいつもの優しいものに戻る。
「一緒に頑張ろう、ね?」
「……はいっ!」
私は、力強く頷いた。そうだ、私には大切な人がいる。その大切な人と一緒に夢を叶えたい。きっとみんなもそう思ってくれると、信じている。
「それじゃあ、愛花ちゃん。お話はここまでにしようか。せっかく来たし、今書いてるやつ少し読ませてよ」
「え、緊張するなぁ」
梓先生が私の漫画の師匠で、本当に良かった。
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