第42話 暖房器具
うー寒い。もうすぐ春だというのに、太陽は何をしているんだ。いや、太陽に文句を言ってもどうにもならないんだけど。
私、
今日は、もうすぐ春の陽気が訪れてもおかしくない季節だというのに、非常に寒くて冬を強く感じる日だった。おかげで、廊下の床が冷たくてたまらない。
と言っても、廊下は短いので少しの間我慢すればいいだけだ。目指す共用スペースは暖房でぬくぬくだし、今しがた出てきた自室も暖かい。
ほんの少しだけ冷たい床と格闘して、共用スペースにたどり着く。はぁー、暖かい。
「あら、愛花ちゃん。コーヒーでも飲みに来たの?」
そう声をかけてきたのは、キッチンで何かしているらしいシェアハウスの住人、
「んー、コーヒーじゃなくて。小腹が空いちゃってね……」
時刻は、22時。もうすぐ寝るだろうけど、なんだかお腹が空いてきたのだ。なんだか落ち着かないので、お菓子でも……、と思ったのが私が共用スペースに来た理由だった。
「あんまり食べるとお腹のお肉がピンチになるわよ?」
「それは言わないで、
分かっているんだ、こんな時間に食べることのリスクは……!
あ、そう言えば撫子はこんな時間にキッチンで何をしているんだろう?
よく見てみると、どうやら鍋でお湯を沸かしているようだ。電気ケトルもあるのになぜわざわざ鍋で……?
疑問に思う私を置いて、撫子は次の行動に移る。
「よし、そろそろいいかしら」
そう言って、撫子はとっくりを半分ほどお湯に浸した。
……ああ、熱かん作ってたのか。確かにこう寒いと飲みたくなるか。
「せっかくだし、愛花ちゃんも飲んでいく? ちょっとしたおつまみもあるわよ」
「……じゃあ、少しだけ」
今日は、漫画を描くのも終わって、後は眠くなるまで何していようか迷っていたところだし、ちょうどいいか。
熱かんができるまで、3分ほど待ってから私と撫子はダイニングテーブルへと移動する。
では。
「「かんぱーい」」
グイっと、お酒を流し込む。おお、これは温まる。
「それにしても、なんで今日こんなに寒いのかしらね? 愛花ちゃん、天気予報見た?」
「見たけど、もう覚えてないわね」
「まぁ、そうよね。こう寒いと追加で暖房器具が欲しくなるわ」
暖房器具、ねぇ……。もうすぐ春だから、今買っても……って感じもするけど。
「買うとするなら、こたつじゃない? 今から買っても、テーブルとして使えるし」
「こたつねぇ……。前から疑問だったけど、こたつって暖房器具としては部屋を暖める力は低いわよね? なんであんなに人気なのかしら?」
こたつは、こたつ布団をかけた中しか暖めてくれない。撫子の言う通り、部屋を暖める力は低いかもしれない。純粋に部屋全体を暖めたいのなら、床暖房がいいのかもしれない。
それでも、こたつが好まれるのは、
「ゴロゴロできるから……っていうのが大きいんじゃないかしら」
「ゴロゴロならお布団でもいいじゃない。愛花ちゃんだって、自分のお布団でぐーたらするでしょう?」
それはそうなんだけど、うーん、どう言ったものか。
「あの雰囲気が愛されているんだと思うの。温泉旅行で泊まるなら、和室の旅館が雰囲気出るでしょう? ベッドのほうが用意する手間は省けるけど、老舗の旅館が敷布団があってのんびりできないと雰囲気として好まれない。それと似た感じで、こたつがあってゴロゴロするっていうのが雰囲気として好まれるんじゃないかしら」
……言葉にしてみたけど、合っているのだろうか?
でも、私が思ったのは、今言った通りだ。こたつでゴロゴロする、というあの特別な空間と時間。ゴロゴロするなら他にも方法があるのにわざわざ好まれているのは、特別さがないと説明がつかないのだ。それが、あの暖かな空気に包まれたまったりとした雰囲気にあるのではないのだろうか。
「確かに、熱かんも飲もうと思えば夏でも飲めるけど、冬に飲むわね。そのほうが、雰囲気でるし」
相変わらずお酒で考えるのは、撫子らしいな。
「機能だけを追い求めていると、味気ないものになるものかもしれないわね。撫子だって、ファンタジー世界のゲームで最先端のロボットばっかり出てきたら嫌でしょ?」
「それは、そうね。今着ている半纏も雰囲気で着てるし」
「え? そうなの?」
「熱かんと言えば、半纏じゃないの?」
「そう……なのかなぁ?」
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