第41話 RPG

 トントン、と肩を叩かれて、私芥川愛花あくたがわいとはなは目を覚ます。

 ええっと、ここはシェアハウスの共用スペースか。どうやら、ソファでうたた寝していたようだ。

 起こしてくれた人物の姿が、ゆっくりとはっきりしていく景色の中で見えてくる。

愛花いとはなさん、大丈夫ですか……?」

 目の前にいたのは、このシェアハウスに住む双子姉妹の妹である花咲福乃はなさきさちのだった。

福乃さちのちゃん、起こしてくれてありがとう」

「いいえ、気にしないでください」

 福乃ちゃんは、両手を小さく振る。相変わらずの謙虚けんきょさだ。

 それはともかく、今は何時だ……?

 壁にかかっている時計を見ると、短針は4のあたりを指していた。つまりは、16時ということだろう。

 私が共用スペースに来たのが、14時くらいだから約2時間ほど寝ていたようだ。……どうせ寝るなら、ベッドで寝ればよかった。

「愛花さん、お疲れですね」

「まぁ、そうね。……いろいろ詰め込み過ぎなのかな」

「体壊したら大変ですから、こまめな休憩は大切ですよ?」

 福乃ちゃんの言うとおりである。

 先日、雑誌の読み切りとして私の描いた漫画がる……かもしれない、という話が出た。

 それからというもの、私は漫画にのめり込んでいた。初めてのことで、担当さんとも何度も打ち合わせをしているが、それでも不安だ。なんせ、世間の人が私という漫画家を初めて知ることになる作品だ。妥協は、したくなかった。

 さて、目覚ましにコーヒーでも飲んで、漫画に取り組まなくては。

 そう思った矢先。共用スペースの扉が開かれる。

「う、うお~」

 なんか私よりダメージを受けていそうなシェアハウスの住人、藤原ふじわらひばりが姿を現した。

「え、えっと、ひばりさん……?どうしてそんな辛そう何ですか……?」

 恐る恐る福乃ちゃんが質問する。

 ひばりは、私たちに向かってサムズアップをすると、

「RPG昨日から徹夜てつやでやってて、今クリアした……!」

 最高にやり切った顔をしていた。

 ああ、なんか安心するわ。

「……あんまり徹夜すると、肌に悪いわよ? ひばり」

「まだまだ若いんだ。風呂上がりのスキンケアで何とかなるはずだ」

 その油断が肌に悪いと思うのだが、まぁいいか。

「ったく、あの作品はなんでラスボスあんな強いんだよ。それまで苦戦する要素なかったのに」

「あんまり簡単すぎると、ネットでああだこうだ言われやすい時代ですからね。難易度調整じゃないですか?」

「だったら、途中のボスも強くしろよ! 絶対制作終わり際に『あ、これじゃ簡単すぎるからラスボス強くしたろ』みたいな簡単なノリで強くしただろ! 納期に間に合わなかったんかー!」

 徹夜明けなのに元気だなこいつ。分けて欲しいわ、その元気。

「そう言えば、RPGで疑問があったんですが……」

「なんだ、福乃?」

「勇者って、魔王倒した後って何してるんでしょうか?」

 RPGで目的を果たした、その後の話か。

 うーん、よくあるのは……、

「ヒロインかお姫様と結婚して、末永くお幸せに……が定番かしら?」

「だな。別の国の王子様と結婚することになったけど、その王子様から逃げて主人公とくっついた作品もあったな。他には、新たな冒険に出るパターンもあるな」

 後は、地元に帰ってのんびりスローライフとかかな。

 私もRPGはやるにはやるが、そこまで詳しくないのでよく分からないけど。

「いろいろパターンがあるんですね。その後が描かれてない作品もあるんですか?」

「あるぞ、福乃。それはそれで妄想がはかどるけどな」

「……案外、それが狙いなんじゃない?」

 私の声にひばりが反応する。

「あれか、愛花? えてその後を明かさないことで、自由にとらえてくださいってして、ファンを楽しませてるのか?」

「多分だけどね」

 創作物の中には、敢えて描写しないというのは、良くある話だ。伏線だから書かないとか、蛇足になるからとか理由は様々だ。もちろん、そんなこと考えてない……なんて場合もあるけれど。

 理由はともかく、敢えて描写しないことで、ファンを楽しませることができるのだ。

 あの時、主人公と仲間はこんなことをしていたんじゃないか。実はあの敵にはこんな過去があったんじゃないか。

 そんな正解のない想像が、さらに作品を魅力的にさせているのではないだろうか。

「でもな、愛花。そんな想像の余地を残しておくと、らぬ火種が生まれることもあるんだぞ」

「例えば?」

「女性キャラが複数いた場合、誰とくっついたのか確実に議論になる」

「それは、明確にしても納得しない人間が出るわよ。必ず」

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