第39話 SNS

 どうしよう、どうしよう。

「うひ、うひひひひひひひひひ!」

 笑いが止まらない。顔に笑いが張り付いて離れない。これでは、本当に不審者だ。外だったら、確実に職務質問だ。

 だが、今は私芥川愛花あくたがわいとはなが住んでいるシェアハウスの共用スペースの中だ。多少の奇行は許されるだろう。

 ……少し前に、同じシェアハウスの住人で人の悪口などをあまり言わない清らかな花咲福乃はなさきさちのちゃんに、「気持ち悪い……」と聞こえるか聞こえないかのギリギリの声で言われたのは、少しこたえたが。

 で、なんで私はこんな気持ち悪い状態になっている理由。

 それは、このスマホの画面に表れている。

 画面に表示されているは、とあるSNSのアプリで、こう書かれている。

『読み切り掲載になるかも! 嬉しすぎる~!』

 そう、半年以上伸び悩んでいた私の漫画だが、ついに読み切りとして掲載される……かもしれないというところまで来たのだ。

 これを喜ばず、何を喜ぶというのか……!

 しかし、読み切りかぁ。……読み切りかぁ。読み切りかぁ!?

 もちろん、最終目標は連載作品のアニメ化だが、これは大きな一歩だ。

 これから、ネームをさらに改良して、担当さんと打ち合わせして、雑誌に載る。

 大変なことなのはよく分かっている。でも、それすら楽しみになっていた。

 浮足立って、ずっと共用スペースの中をぐるぐると徘徊はいかいしている。

 とにかく落ち着かなかった。でも、さすがに部屋に戻って落ち着かないとな。

 さぁ、部屋に戻ろう。

「あら? 終わりにするの?」

「どぅうえぇ!?」

 ビックリした! 本当にビックリした!

 あわてふためきながら後ろを向くと、同じシェアハウスの住人である十六夜撫子いざよいなでこが、可愛らしく首を傾げて佇んでいた。

 私は、バクバクする胸に手を当てて、落ち着きを取り戻しつつ、撫子なでこたずねる。

「……撫子、いつからいたの? そして、何をしているの?」

「え、20分くらい前から愛花いとはなちゃんの後ろをただただついて行ってただけだけど」

「マジで何してんの!?」

 親の後ろについて回るひよこか! マジで何がしたかったんだよ!

 ……いいや、意味を考えるのはやめよう。どうせ「なんとなくよ」とかしか返ってこないだろう。

 私があきれているのを気づいていないような撫子は、こちらに手を差し出してくる。

「愛花ちゃん。スマホ落としたわよ」

「ありがとう」

 どうやら撫子の奇襲きしゅうの際に落としたらしい。画面は……傷ついていないな。

 画面は、SNSを表示したままだった。操作して、異常がないことを調べてみる。よし、大丈夫だな。

「というか、愛花ちゃん、SNSやってたのね」

「あれ、言ってなかった?」

 シェアハウスの住人には話していた気もするが、気のせいだったかな?

 そこで、疑問が出てきたので撫子に聞いている。

「撫子はSNSってやってるんだっけ?」

「一応ね。あんまり使ってないけど」

 撫子は、ズボンのポケットからスマホを取り出して画面を見せてくる。

 見ると、SNSの更新は5日前で止まっていた。

 どうやら、自分ではあまり情報を発信しないらしい。

「よく使う人は、いいねとかの反応をもらいたがるけど、私はどうでもいいのよね」

「私もあんまり気にしないなぁ」

 もちろん、反応をもらえるのは嬉しいが、ムキになるほどでもない。

 映えスポットなんかもあるが、そんなことより漫画とか別のことの方が優先だ。

 撫子は、くるくると手の中でスマホをもてあそびながら、

「なんか生きづらそうよね、SNSに躍起やっきになっている人って。もっと気楽に使えばいいのに」

「……それが難しいんでしょうね」

 反応してもらうために、カラフルなパンケーキなんかを時間をかけて食べに行ったり。興味もないのにパワースポットなどに行く。私や撫子のような人間から見れば、何をしているのか、そこまですることなのか、疑問はある。

 でも、その人たちにとっては、死活問題なのかもしれない。周りから人が消えてしまう、居場所がなくなる、なんて思うのだろうか?

 本来のSNSは、まだ見ぬ仲間を見つけるものだったはずだ。きれいなものを載せていないと離れていく人。そんな人は、仲間と言えるのだろうか? そんな場所に居たいと思うのだろうか?

 人の繋がりを作ったはいいが、それに縛られてしまう。

 ……人というのは、難しいな。

「ちなみに愛花ちゃんは、主に何の目的で使ってるの?」

「漫画とかの情報収集用かな。撫子は?」

「私は、ゲームの情報集めかしら」

 ……もう少し、女の子らしくSNSを使っている人を見習ってもいいかもしれない。

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