第37話 スパイ

 すっかりお正月も終わり、またいつも通りの日常が戻ってきた。

 大学も再開した言うこともあり、早速一つの講義で課題が出た。

 私芥川愛花あくたがわいとはなは、さっさとその課題を片付けようと机に向かっていた。

 まったく、休み明けにいきなり課題を出すなら、冬休み前に出して冬休みのかだいーみたいにしてくれればよかったのに。

 いや、それもそれで嫌だな……。

 やっぱり最高なのは課題が出ないことか。

 時折ときおり、休憩をはさみながら課題に取り組むこと1時間。

「よし、終わり!」

 無事に課題を終えることができた。

 さて、冬休みはゴロゴロしていたので、久しぶりに漫画を書こう。

 お正月に実家に居たとき、何故かアイデアがたくさん出てきたので、その中から一つを形にしてみようかな?

 だがその前に、コーヒーでもれてこよう。

 私は、自室からシェアハウスの共有スペースへと向かう。

 扉を開けると、ソファに座る二つの影が見えた。

 どうやら、テレビで何か見ているらしい。

幸音ゆきねちゃんに……福乃さちのちゃん?」

「んぁにぁ?」

 変な声を発してこちらに振り返ったのは、このシェアハウスの双子姉妹の姉、花咲幸音はなさきゆきね

「お姉ちゃん、何その声……」

 幸音ちゃんの声にツッコむのは、双子姉妹の妹、花咲福乃はなさきさちのだった。

「二人とも、何見てたの?」

「ん? 映画見ててん」

 テレビに目を向けると、外国の俳優さんがカーチェイスをり広げていた。

 あれ、この映画見たことある気がするな。

「これって、有名なスパイのやつ?」

「はい、昨日の夜に放送していたのを録画しておいたんです」

 あーそう言えば、やってたのを昨日チラッと見た気がする。

 すぐに他の人がお笑い番組に変えてたから、本当にチラッとだけど。

「しかし、スパイってかっこいいよなー。本当におるんかな?」

 スパイか……。

 よく創作物では見られるが、実際にいるかは眉唾物まゆつばものだ。

 もはや都市伝説のような存在じゃないだろうか?

 それとも、都市伝説は言い過ぎか?

 う~ん、分からない。

「どうなんだろうね。昔の時代には居そうなイメージがあるけど、今の時代だといろいろと問題になりそうだし……」

 福乃ちゃんの言うように、今の時代だと万が一ばれたら、そのスパイが所属する会社や国はかなり叩かれるだろうな。

 こんな時代だと、情報を盗むならハッキングとかになりそうだし。

「いや~分からんで。うちらの知らないところで、この映画みたいにド派手な任務をこなしているかもしれんで」

「それは、ないんじゃないかしら……」

「なんでや、いーちゃん」

「映画みたいな事態が起きたら、確実にニュースで報道されると思うし。それに、スパイって隠密おんみつ行動するものだから、派手に何かするってことがないと思うのよね」

 幸音ちゃんの夢を壊すようで悪いが、あくまでもスパイは隠密行動が基本のイメージがある。

 どこかに潜入して、情報を盗む。

 そんな存在の身分がばれて銃撃戦になったら、スパイ本人だけでなく、スパイを雇った側も怪しまれる。

 相手にバレないようにするのがスパイなのに、それでは本末転倒ではないだろうか。

「いや、大国の力なら銃撃戦の一つや二つ、もみ消すことなんて簡単かもしれんで?」

「お姉ちゃん。残念だけど、このSNSが蔓延はびこる時代に、銃撃戦ぐらい大きな事件はもみ消せないでしょ」

 まぁ、このSNSといった、インターネットを使うことがが日常と化した時代では、銃撃戦なんて瞬く間に一般人に知れ渡るだろう。

「ちぇー。もし本当にそんなことあったら、スパイに弟子入りしたんやけどなぁ」

 幸音ちゃんは、口をとがらせ不満そうにつぶやいた。

「まぁ、もしいても映画みたいな派手なことはしてないってことね」

「ですね。というか、お姉ちゃんの夢は保育士でしょ。スパイに弟子入りしてどうするの」

 っていうか、福乃ちゃんも当たり前のように言うが、スパイは弟子とるのか……?

 そんなことを話している間でも、映画は進んでいく。

 画面では、主人公がタバコの箱に見せかけたカメラで何かの証拠写真を撮影しているところだった。

「スパイになれんでも、スパイグッズは欲しいな。靴トランシーバーとか」

「お姉ちゃんが持っててどうするのさ。実用性ないでしょ」

「そもそも携帯あるから、いらないんじゃない?」

「分かってないな、二人とも。路地に隠れて、サッと靴を脱いだと思ったら、通話を始める。クールやろ?」

「いや、ただの変な人にしか見えないわよ」

「愛花さんの言う通りだよ、お姉ちゃん」

「……ロマンが分からん奴らやな」

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