第35話 クリスマス

 雪がしんしんと降り積もる。

 私芥川愛花あくたがわいとはなは、楽しそうに笑いあう人々の合間をって、住んでいるシェアハウスへと急いでいた。

 今日は、クリスマス。

 雪が降ったことで、はからずもホワイトクリスマスとなったわけだ。

 それにしても、もうクリスマスか……。

 あっという間に今年も終わるなぁ。

 年を取れば取るほど時間が進むスピードが速くなると言う。

 そのうち、ひと月経つくらいの感覚で一年が過ぎるのだろうか。

 まったく、これ以上速くなってどうするんだろう?

 そんな至極しごくどうでもいいことを考えながら、私は寒空の下を早足で歩くのだった。


 帰宅した私を待っていたのは、数々のきらびやかな料理たちだった。

「お、愛花いとはな。おかえりー」

「ただいま。ひばり」

 台所に立つ、同じシェアハウスの住人である藤原ふじわらひばりは鍋をかき混ぜていた。

 作っているのは、スープか何かだろうか?

「愛花ちゃん、お疲れ様」

 ひばりが作った料理を並べているのは、こちらも同じシェアハウスの住人である十六夜撫子いざよいなでこだ。

 私は、撫子なでこに持っていた袋を渡す。

「はい、ケーキ買ってきたわよ」

「ありがとう。食後のお楽しみね」

 撫子はケーキの袋を受け取ると、そそくさと冷蔵庫に入れる。

「ほら、最後の一品ができたぞー。愛花も手洗ってこい」

 ひばりに言われて、手を素早く洗い、席に着く。

 撫子がニコニコしながら、グラスにビールを注ぐ。やはり、撫子的にはお酒がないとダメらしい。

 クリスマスならワインとかの方がいいのではないだろうか、とも思う。まぁ、撫子がいいならいいけど……。

 グラスが私とひばりにも渡される。

 では。

「「「メリークリスマス!」」」

 カチンと軽くグラスをあわせて、ビールを流し込む。

 ふぅ、久しぶりにお酒飲んだな。

 乾杯でグラスを空にした撫子に少し驚いたが、そんなことより目の前の料理だ。

 何せ、料理上手のひばりが作った料理だ。これは食べ過ぎ注意報発令だ……!

「しかし、花咲はなさき姉妹は残念だったな。姉妹そろってバイトとは」

 このシェアハウスの残りの住人、花咲幸音はなさきゆきね花咲福乃はなさきさちのの双子姉妹。

 彼女たちは、姉妹仲良くバイトが入ったので、このプチパーティーには不参加だ。

「まぁ、仕方ないわよ。私達だけで楽しみましょう?」

 こうやって友人たちと騒ぐ機会がないのは、さびしいだろう。だから、せめて食べ物だけでも残しておこうかな?

 なんて考えていた時に、撫子が口を開いた。

「そう言えば、なんでクリスマスって恋人の日みたいになったのかしらね?」

 クリスマスと恋人たち。

 それは、この日本では切っても切れない関係になっている。

 恋人と綺麗きれいな夜景が見られるレストランで、ロマンチックに過ごす。

 恋人がいない人間たちが集まって、傷を舐めあうためにパーティをする。

 クリスマスには、何事も恋人がからんでいる気がする。

「クリスマスって、もともとは外国の文化だしな。なんか雰囲気がオシャレだから、恋愛事と結び付けられたんじゃねーの?」

 雰囲気、か……。

 せっかく恋人と過ごすのだから、雰囲気は重要だろう。そして、外国というなんとなくオシャレそうなもの。

 結び付けられても、変ではないのか?

「雰囲気ね。街中はなやかになるものね。いい雰囲気なのは、間違いないわ」

 そう言って、撫子はビールの缶を開ける。ちらりと見ると、空き缶は三本目だった。いつの間にそこまで飲んだんだ。

 街中は、聖なる夜ということでお店もキラキラ輝いている。

 サンタクロースの格好をした人たちも、笑顔を配って人もキラキラしている。

 キラキラと輝く日。それが、クリスマス。

 そう考えると、恋人たちが共に同じ時間を過ごしたいのも、なんだか分かる気がする。

「聖なる夜だから世界がきらめいているのよ。だから、特別な時間を過ごしていたいんだと思うわ、きっと」

 世界が輝く特別な夜。

 だからこそ、恋人たちは一緒に居たい。

 誕生日や付き合って何か月目の日のように、特別な日なのだ。

 ただ違うのは、それが多くの人に共通するだけ……なのかもしれない。

「しっかし、恋人かー。こんだけ花の女子大生がいて、誰も恋人がいないのは、なんだか寂しい気もするな」

「あら、ひばりちゃん。私は、いいと思うわよ? 無理に付き合って無駄な時間過ごすのも嫌でしょう?」

「まぁ、それもそうだけど……」

「私も撫子なでこに賛成ね。こうして、身内でワイワイ楽しくやれているならいいんじゃないかしら」

「そうだな。でもな、愛花いとはな。お前は飯を食い過ぎだ。あと、撫子も飲み過ぎだ」

「「クリスマスは、合法的に食べたり飲んだりしていい日でしょ?」」

「……ダメだこりゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る