第27話 宇宙旅行

 とある日の午後。

 私芥川愛花あくたがわいとはなは、住んでいるシェアハウスの共用スペースのソファの上で目を覚ました。

 んん……まだ少し眠い気がするなぁ。

 お昼ご飯を食べた後。少し休憩していたら、眠くなってきたのでソファに体をあずけたのだ。

 まだぼんやりとする中で、時計を確認する。

 今は、どうやら十五時のようだ。

 さて、昼寝もしたし、これから何をしようかな?

 なんて考えていると、共用スペースの扉が開く。

「お? いーちゃんやん。何しとん?」

「あ、愛花いとはなさん。どうもです」

 入ってきたのは、このシェアハウスの仲良し双子姉妹、花咲幸音はなさきゆきね花咲福乃はなさきさちのだった。

「私、ここでさっきまで寝てたのよ、幸音ゆきねちゃん。そういう二人は何しに来たの?」

「うちらはお菓子の物色や!」

「……そんなに張り切って言うことじゃないと思うよ、お姉ちゃん」

 テンションが高めの幸音ちゃんに落ち着いている福乃さちのちゃん。

 この二人はなんだか漫才まんざいコンビみたいだな……なんて言ったら怒られるんだろうな。

 そんなことを考えていると、二人はそそくさとキッチンに移動する。

 お菓子か……私も何かを食べようかな?

 いや、先程まで食っちゃ寝していたのだ。

 普段から運動なんてしないのだから、ここは我慢がまんしよう。

 と、思ったのだが。

 物色を終え、私の前にお菓子を広げて食べ始めた双子姉妹の飯テロに負けて、結局食べることになった。

「………………」

「あ、あの愛花さん?」

「いいの、福乃ちゃん。気にしないで」

 自らの意志の弱さに、自己嫌悪に陥る。もっとしっかりしなければ……。

 うん、決めた。明日からダイエットだ。

 三日坊主にならないようにしよう。

「なんかあーちゃんが落ち込んでいるみたいやけど、うちはなかなか面白そうなのを見つけたで?」

 私と福乃ちゃんの間にはさまっていた幸音ちゃんが、持っていたスマホを指さす。

 見ろってことか。

 私がスマホをのぞき込むと、そこに開かれていたのはニュースアプリの記事だった。

「宇宙旅行……?」

「そうや。いつかは行ってみたいやろ、宇宙!」

 宇宙かぁ……。

 行ってみたくない、と言えばうそになる場所である。

 だが。

「いや、お姉ちゃん。これ値段が……」

 そう。福乃ちゃんの言う通り、問題なのはその値段。

 宝くじに当たらないと無理だろこれ、っていうとんでもない値段設定がなされていた。

「それはそうやけど、やっぱり行きたいやん。無重力状態で水がどんな感じになるか、見たいやん」

「まぁ、それはそうね」

「うーん、私は地球を見たいかな。雲とかどういう風に動いてて、大陸とかどうなっているのか見てみたいな」

「お、それも魅力やな」

 こうして考えてみると、宇宙旅行ってやはりかなり面白みがあり、あこがれのものなのだろう。

 だからこそ、こうしてニュースアプリに記事が掲載されたりするわけだし。

 でも、問題なのは、やはり値段。

 この前、好きなゲームや好きなファストフードを買えるくらいのお金があれば幸せだと言う話をした。

 だが、宇宙旅行を達成することが幸せの人は、かなり厳しいものになる。

 もし仮に目がくらむような大金が入ってきたら、選択肢には入るのだろう。

 いや、もしかしたら大金持ちでも諦める代物かもしれない。

 それほど現実離れしたものが、宇宙旅行だ。

 そこで、ふと思う。

「もしかしたら、行った証だけ欲しい人もいるのかな……?」

「ん? 行った証だけ?」

 私のポツリと呟いた言葉に幸音ちゃんが反応した。

「ええっと、ほら。宇宙旅行って今のところ相当なお金持ちじゃないといけないでしょ? だから、見栄みえぱっりなお金持ちとかは興味がなくても宇宙旅行に行くんじゃないかなって思ったのよ」

「……ありそうな話やな」

 今現在、宇宙旅行に行けるのはお金持ちじゃないと難しいだろう。

 だからこそ、宇宙旅行に行ったといういわゆるブランド価値を欲して行く人も中にはいるだろう。

 そのようにして自分の価値を高める人というのは、少なからずいるものだ。

 その行為が本当に自分の価値を高めるかは、私は分からないけど。

「うーん、愛花いとはなさん。でもですよ?」

「なに?」

「未来の話になりますけど、宇宙旅行に低料金で行けるようになった場合。その行った証って、あんまりすごいものじゃなくなってしまうんじゃないですかね?」

「……その通りね」

 例えば、スマホ。

 販売当時はとてつもない最先端の代物だった。

 まさに未来がやってきた。私も子供ながらにすごいものなんだろうな、と思っていた。

 だが、今はどうだろう?

 今は、スマホを持っていない人が珍しいと言われるほどだ。

 未来がいつの間にか、当たり前になる時。

 その時には、宇宙旅行に行った、ということも霞んでしまうかもしれない。

「はー。うちらが生きてる内に宇宙旅行が当たり前になってくれへんかなー」

「どうだろうね? その時には、空中に表示されるディスプレイなんてのも身近になっているかもしれないよ?」

「あ、それは熱いな。もしかして、ポーズしたら光線を放って敵を倒せるようになったりも……!?」

「「いや、それはないかな」」

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