第25話 テレポート
とある秋の日。
私
軸となる設定は、超能力を使える主人公。
主人公は、超能力を使用して、日常で巻き起こるトラブルを周りの人たちに気づかれないように解決していく、というのが思いついた。
そう、思いつきはしたのだ。
設定自体はすぐに思いついたのだが、その先が出てこない。
どんな事件が起こり、どんな超能力で事件を解決するのか。
なかなか超能力を利用するような、特別な事件が思いつかない。
「……ダメだ、きゅうけーい」
誰に聞かせるわけでもなく、独り言を
いいアイデアが思いつかないときは、思い切って休憩する。
これがなかなか効くのだ。
とりあえず、温かい飲み物でも飲もうと思い、私はシェアハウスの共用スペースに移動する。
廊下を抜け、共有スペースの扉を開けると、ソファーに座る二つの人影がこちらを向く。
「あら、
「本当ですね、ぐったりしている感じがします」
二つの影は、同じシェアハウスの住人である
「……もしかして、顔に出てる?」
私は今、確かに少しだけ疲れている。二人が瞬時に見抜いたあたり、目に見えて疲労が分かるのだろう。
「うーん、初対面の人には分からないかもしれないけど、長い付き合いだと分かるって感じですね」
なるほど、と私は
自分では、そこまで疲れていないと思っていたので、見抜かれたとき疑問に思ったが、そういうことか。
「それで? 何かあったの? 愛花ちゃん」
撫子に言われて、事の
とは、言うもののそこまで大それたことではないのだが。
私の話を一通り聞くと、福乃ちゃんは申し訳なさそうに言う。
「やっぱり創作活動は大変ですよね。私もお手伝いしたいですが、どうすればいいのか……」
「そこまで気にしないでいいのよ、福乃ちゃん。ありがとうね」
福乃ちゃんは、優しいなぁ……。きっといいお嫁さんになれる。
そんなことを思っていると、
「超能力と言えば、テレポートよね」
と、
「撫子?」
「いえ、思いつた超能力についてに日常生活でどうするかを深掘りすれば、何かつかめるかもしれないと思ったのよ。どうかしら?」
「……いいかもしれないわ。やってみましょう」
今回の作品は、超能力バトルではない。超能力を使った日常ものだ。
知略を
「で、撫子さんが思いついたのは、テレポートでしたっけ? 撫子さんは、どうテレポートを使いたいんですか?」
「全国各地の酒蔵巡り」
……うん、まぁ、知ってた。
「福乃ちゃんは、テレポートできるならどこに行きたいの?」
「私は、月並みですけど海外にいきたいですね。バカンスしたいです。
私か。私は……。
「うーん、いろんな美術館とか美しい風景を見に行きたいわね」
自分で言っておいてなんだが、これもかなり月並みだ。
銀行に忍び込む……なんて言うのはよく聞くが、あれもテレポートした後に監視カメラに映って終わりだろうし。
なかなかいい使い方が思いつかない。
三人寄れば
なんて考えを巡らせていると、福乃ちゃんが口を開いた。
「愛花さん、私思ったんですけど……」
「何、福乃ちゃん?」
「テレポートでバカンスとか観光地巡りとか一通りしてしまうと、結局は学校に遅刻しないためとか、くだらない使い方するんだろうなーって思ってしまって。あはは……」
「……それだ!」
私の言葉に疑問符を浮かべている二人を置いて、私は興奮していた。
テレポートは、結局はくだらないことに使ってしまう。
そうだ、日常での使い方ならそれでいいのだ。
日常で、ヒーローが死闘を繰り広げるような大事件など、
もっと小さくて、もっとありふれた事件でいいのだ。
学校に遅刻する。家に忘れ物をする。電車で寝過ごしてしまう。
そんな時にこそ、テレポートの出番だ。
特別なものも慣れてしまうと、日常になるように。
テレポートのような力も、日常になっていくのだろう。
「なんだか分からないけど、解決したの?
「ええ。ありがとう、
日常で起きるようなありふれているような事件を超能力で解決する、という方向性で行ってみよう。
漫画の方向性も無事に決まった。
今までの疲労感が噓のように活力が湧いてくる。
そんな私をよそに、福乃ちゃんが撫子に尋ねる。
「そういえば、撫子さんは、テレポートで海外のお酒を飲みに行かないんですか? ウオッカとか」
「私、ウオッカってあんまり好きじゃないのよね」
「あら、そうなの?」
「だって、度数強くてすぐ酔っちゃうから、他のお酒が楽しめなくなるじゃない」
「「……あー」」
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