第23話 UFO

「ただいま~っと」

 とある平日の夕方。

 私芥川愛花あくたがわいとはなは、アルバイト先から住んでいるシェアハウスに帰ってきたところだった。

 私はアルバイトと漫画の修行をねて、師匠である人気漫画家、宮沢梓みやざわあずさ先生のアシスタントとして働いている。

 あずさ先生は、天才肌というやつなのか、たまに指示が抽象的で何言ってるか分からないときあるんだよなぁ……。

 でも、梓先生たとえ指示を間違って解釈しても怒ったりしない。いい人だ……。

 さて、シェアハウスに住んでいる他の住人は、何をしているかな?

 手を洗ってから、シェアハウスの共用スペースに足を運ぶ。

 扉を開けると、ソファーに座る人影が見えた。

 あれは……福乃さちのちゃんかな?

「福乃ちゃん?」

「あ、愛花いとはなさん。おかえりなさいです」

 ただいま、と返して部屋の中を見渡す。

 どうやら、部屋には私達しかいないようだ。

「福乃ちゃんひとり? みんなは?」

「ええっと、お姉ちゃんとひばりさんは出かけています。なんでも、今日発売のゲームを買いに行くとかで。撫子なでこさんは、自分の部屋にいると思いますよ」

 撫子はともかくとして、福乃ちゃんの姉花咲幸音はなさきゆきねと私の高校時代の友人藤原ふじわらひばりは、相変わらず仲良しだな。何時に出かけたかは分からないが、ゲームを買いに行っただけなら、すぐ帰ってきそうだ。

 ……そのままどこかへ遊びに行ったりしない限りは。

 まぁ、楽しみにしてたゲームのようだし、真っ直ぐ帰ってくるか。

 ……来るよね?

 で、だ。

「福乃ちゃんは、何をしてたの?」

「実は、スマホでこんなものを見つけて」

 そう言って、スマホを私に見せてくる福乃ちゃん。

 前にも似たようなことがあった気がするな、なんて思いながら差し出されたスマホの画面を見てみる。

 そこには、

「UFO目撃情報?」

「すごくないですか!? これ、この町での目撃情報なんです!」

 言われて、詳しく見てみると、確かにUFOはこの町の南方なんぽうで目撃されたもののようだ。

 しかし、心霊現象といい不思議なことに興味深々だな、福乃ちゃんは……。

 この分だと、UMAとかも好きそうだ。

 それにしても、UFOの目撃情報か。

 ん?これは……。

「映像付き?」

「あ、気づきました? 一緒に見ましょうよ!」

 福乃ちゃんは、ノリノリでソファーを叩く。

 私が、福乃ちゃんの隣に座ると、福乃ちゃんは目をキラキラさせながら映像を再生する。

 映像では、とある家の部屋の中から空を撮影している。

 空には、一見すると何もないように見えるが、少しすると正体不明の発光体が現れた。

 その発光体は、最初はゆっくりと移動していたが、急に異常な速度で加速して、どこかへ消え去ってしまった。

 う~ん、これは……。

胡散臭うさんくさい……」

「そうですか? とってもワクワクするじゃないですか!」

 福乃さちのちゃんには申し訳ないが、私にはこの映像がとても胡散臭く見えた。

「でも、この映像、UFOが見えたから撮影し始めたっていうよりは、なんかおもむろに空を撮影して、そこにUFOが現れた、って感じじゃなかった? 何もないのに空を撮影するなんてことある?」

「それは、そうかもしれないですね……。この手の映像では、よくあるのであまり気にしていませんでした」

 こういう映像よく見ているのか、福乃さちのちゃん。

 でも、彼女の言う通り、UFOやら心霊映像では、いやなんでそんなの撮影した? っていうものが多い。

 だからこそ、超常現象を信じない人から、いるわけないと強く言われるのだろう。

 ぼんやりと頭を回転させていると、福乃ちゃんが口を開く。

「でも、私、思うんですよね。こういう映像を見て、いるいないって議論するのは間違っていると」

「?」

 どういうことだろう?

 超常現象系の話は、あるかないかの議論が一番盛り上がると思うのだが……。

 福乃ちゃんは、勢いそのまま続ける。

 こういう一面を見ると、やっぱりこの子は幸音ゆきねちゃんと双子だなぁ……と、強く思う。

「超常現象は、ロマンなんです! あるとかないとか、そんなのはどうでもいいんです! 某青いロボットの道具と同じです。あれだって、無いと分かっていても心が踊り、『本当にあったらどうする?』なんて盛り上がるじゃないですか。本当に目の前で超常現象が起きたらどうするか。その妄想を楽しむのが、超常現象なんです!」

「な、なるほど」

 気迫に圧倒されながら、思う。

 いるかいないかなんて、どうでもいい。

 もし、目の前に現れたら心が躍るし、現れることがなくても、もしかしたら……なんて妄想が膨らむ。

 それを楽しむのが、都市伝説やUFOといったいわゆる胡散臭いものなのだ。

 もちろん、信じすぎて周りに迷惑をかけてしまうのはだめだが、個人的にあったらいいななんて思うのは、何ら問題ない。

 ほどほどに信じて、ほどほどに信じない。

 それが、ちょうどいい距離感なのかもしれない。

「ちなみに福乃さちのちゃん。UFOがもしいたらどうするの?」

「誘拐して、改造人間にして欲しいです」

「ごめん、その考えは分からない」

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