第22話 プロポーズ
『――さて、次はおめでたいニュースです。女優の
テレビから流れる音声を聞きながら、ソファーに体をあずけて、食後のコーヒーを
私
うん。このせわしない日常に訪れるゆったりとした時間。ストレス解消にはもってこいだ。
いつもは、一人で楽しむことの多い食後のひと時。
だが、今日は違っていた。
「あら、この女優さん、結婚したのねー。おめでたいおめでたい」
隣で既婚者の専業主婦みたいな感想を呟く、同じシェアハウスの住人
……どうでもいいけど、おめでたいおめでたいって言うと、めでたしめでたしみたいに聞こえるな。
そんなかなりどうでもいい感想を抱いて、私は、コーヒーを一口飲む。
しかし、結婚かぁ……。
まだまだ大学生で、結婚なんて先の話だとは思う。
思うが、今までの人生で男っ気が全くない私に結婚できるのかは、若干不安だ。
いやいや、人生まだまだこれから。折り返しにも来ていないのだから、大丈夫に決まっている。
……大丈夫だよね?
「しかし、一般男性と女優が結婚ねぇ……。この手のニュース聞くと、毎度疑問に思うけど、女優と知り合いの一般男性って何者なのかしらね?」
「確かにそうね……。昔からの友人だったとか?」
言われて、考えてみる。芸能人、それも売れっ子女優となれば、知り合うことすら難しい。なのに一般人と恋人関係になれるなんて、その一般人はどれだけ運がいいのだろう?
いくら昔からの友人だったとはいえ、イケメンやお金持ちがたくさんいる芸能界だ。
一般人が、ハートを射止めるのは
「うーん。昔からの友人で、その芸能人の下積み時代を
「結婚に至る、と。なかなかロマンチックな話ね」
「そうねー。きっとプロポーズもロマンチックだったんでしょうねー」
撫子は、ぽけーっとロマンチックな恋愛を想像しているようだった。
……撫子って意外と乙女だよなぁ。
それにしても、ロマンチックなプロポーズ、ねぇ……。
あれかな。記念日に二人で高級レストランにいく。食事の終盤。火がともったロウソクの刺さったケーキが運ばれてくる。そのロウソクの火を消すと、部屋の電気も消える。そして、しばらくして電気がつけられると、ケーキがあった場所には、指輪が置かれていて……。
妄想してみたが、なんか安い感じがする。私が、恋愛漫画を書くのは難しそうだ。漫画家志望として、精進せねば。
「でも、いくらロマンチックなプロポーズと言っても、フラッシュモブは嫌だわ。私的には」
「うわ、急に戻ってきた」
私の言葉に、
何でもないと、言った後、先ほどの撫子の意見に答える。
「私も、フラッシュモブは嫌ね。なんか『こんなにたくさんの人に協力してくれて、感動したでしょ!?』って押し付けられている気がして……」
「そうよね、二人の大事な瞬間なのに、他の人が入ってくるものなんだか……」
わかるわー、と撫子に同調する。
なんというか、私の言った感動の押し付けや撫子の言う大切な時間に介入されるのも、別にいいという人もいるとは思う。
でも、
「変にロマンチックなことされるよりは、普通のプロポーズがいいわよね」
「全くもって同意見ね」
ロマンチックなプロポーズ。
それに
でも、変に凝り過ぎてグダグダになったり、相手の気持ちを考えられていないようなものだと、かえって残念な記憶として残ってしまうだろう。
それなら、ストレートに、結婚してください!と言われる方が、心に深く突き刺さるだろう。
感動するものは、案外単純なもので構成されているのかもしれないな、というのが私の結論だった。
私が、心の中で結論付けて、コーヒーを一口飲むと、撫子が話しかけてくる。
「ねぇ、
「なに?」
「思ったんだけど、私たちは男性がプロポーズするものと決めつけてしまっていたわ。もしかしたら、私たち自身がプロポーズする可能性を考えてなかったのよ」
……それが、どうかしたのだろうか?
疑問に思っていると、撫子が
「いつもいつも、もらっているだけではいい女とは言えないわ。自らが動き、男性を引っ張るような女にならなければならないのよ!」
「は、はぁ」
な、なんか変なテンションになってきている……?
「でも、男性を引っ張り過ぎると、男性のプライドが傷つくこともあるでしょう。男性を立てつつ、さり気げなく男性を引っ張っていく。これが理想の女というやつではないかと私は思うのよ! だから!」
「だから?」
「……だから、何なのかしら?」
何だったんだ、今の時間。
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