第20話 流しそうめん
「っんーまい」
とある日の昼下がり。私
今日のランチは、そうめん。
間違いない美味しさでお手軽。その上、まだ気温が高いこの時期に、上質な
うん、我ながらナイスチョイス。思わず、座っているダイニングテーブルの椅子で、足をパタパタしてしまう。
そう言えば、そうめんにランチっていうのはなんというか、違和感がある。ランチは、なんかこう、もう少しオシャレな感じだ。
では、何と言ったらいいのだろう?
……
そんなどうでもいいことを考えていると、ガチャリと共有スペースのドアが開いた。
「お、生き残っていたか。
「私は、私の知らないところで何に巻き込まれていたのよ。ひばり」
入ってきたのは、同じシェアハウスの住人で高校時代からの友人、
「すまんすまん。昨日、
確かに昨日、ひばりは、このシェアハウス住人の一人、
……だけど、あるか?口調がうつるなんてこと。
私が、疑問を感じていると、ひばりはこちらに近づいてきて、私の向かいに座った。
「お、そうめんか。あたしと同じだな」
「あら、
「いいよなー。この時期のそうめん。食べるだけで納涼だ」
そう言って、ひばりは手を組んで深く頷く。
全くもって同意見の私もそうめんを
うん。やはりこの夏というの季節は、そうめんが合う。
そうして、そうめんの素晴らしさをかみしめていると、ひばりが目を開けて、話しかけてくる。
「そう言えば、愛花。流しそうめんってやったことあるか?」
ん~。流しそうめんか。記憶を辿ってみるが……。
「いえ、ないわね。どうしたの、急に?」
「いや、あれも夏の風物詩だろ?」
「ええ、そうね」
ひばりの言う通り、夏の風物詩として、テレビなどで流しそうめんをやっている映像をよく見る。
ひばりは、暑くて髪がうっとおしいのか、首のあたりを掻きながら続ける。
「その割には、周りでやったことあるって人いないなーって思ってさ」
なるほど。それは、的を得ているかもしれない。
他の夏の風物詩と言えば、花火やバーベキューがある。この二つは、やったことがあるという人が多いだろう。
それに比べて、流しそうめんは、やったことがあるという人は少ない……と個人的に思う。
「やっぱりあれかな? やるハードルが高いんかな? あたしもテレビでやってるの見たことあるだけだし」
「そうね、専用の器具なんかも売っているけど、なかなかね」
一応、夏になると、流しそうめん用の電化製品が売っているのを見ることがある。だが、それを持っている人もあまりいないような気がする。
小さな子供が喜びそうだから、そういった家庭では案外持っているものなのだろうか?
そこまで、考えて目の前のそうめんを箸で取る。
油断していると、私の
「夏の風物詩と言えば、あたし、盆踊りってやったことないんだよな」
「私も、スイカ割りとかしたことがないわね」
こうして考えてみると、風物詩というものはやったことがないものが多くあるのかもしれない。
だからといって、生活に困るとかそういったことは全然ないのだが。
「夏だけでも、経験したことない風物詩がいろいろとあるから、オールシーズンで考えると、かなりの数になりそうだな」
「全部の風物詩を経験している人なんて、そうそういないでしょ。お金もかかるし、準備もあるだろうし」
「確かに……。それこそ、竹で流しそうめんとか、広い庭とか、竹を加工する技術とかいるしな」
風物詩というものは、季節を感じるためには非常に良いものだろう。
だが、こどもの日にはこいのぼり、ひなまつりにはひな人形といったようにお金がかかるし、別の技術が必要だったりする。
「それに、全部に興味があるわけじゃないしな。秋のお月見とか、あんまり、って感じだし」
「私も、肝試しはちょっと……」
風物詩は季節を感じて、楽しむことが大事だと思う。あくまでも、私の意見だが。
風物詩をやることだけに意識を向けるのは、なんだか違う気がするのだ。
そう考えると。
「無理せず、自分の興味があるものだけ楽しめれば、それでいいんじゃないかしら」
「だな」
私たちは、そう結論付けた。
話が落ち着いたところで、目の前のそうめんに箸をのばす。
あ、そうだ。ついでに聞いてみよう。
「ねぇ、ひばり」
「なんだ?」
「そうめんにランチって言葉、似合わない気がするのよね。お昼ご飯を表す言葉で、何がそうめんに似合うと思う?」
「……おばんざい?」
「いろいろと違うわよ、それ」
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