第17話 季節
「夏が来たぞ!
「夏が来たで! ひーちゃん!」
「「イェイ!」」
……元気だな、二人とも。
とある日の朝。寝起きでボーとした頭のまま、シェアハウスの共用スペースに行くと、はしゃぐ二人組、
今の季節は、二人が言ったように、夏。アクティブな二人が好きな季節だ。
キャッキャッと楽しそうな二人を見ながら、私、
「おはよう、ひばり。幸音ちゃん」
「おう、おはよう! 愛花!」
「おはようやで! いーちゃん!」
夏の訪れで、もともと元気な二人の
……少し静かにしてほしいが。
「あ、いーちゃん。うるさいって思ったやろ」
幸音ちゃんに心を読まれて、ドキッとする。
まぁ、これくらいのこと、読まれたからなんだという話だが。
そのやり取りを見て、ひばりはため息をついて、首を振る。
「はぁ、愛花、いいか? 夏だぞ? 一年で最もお祭り気分になる季節じゃないか!」
「それは、個人差があると思うけど?」
別に夏にしか楽しいイベントがあるわけではないし。
「む。それなら、いーちゃんが一番好きな季節ってなんなん?」
言われて、考えてみる。えーと……。
「冬……かなぁ?」
「「冬ぅ?」」
パッと思いついた景色は冬だった。ので、言ってみたのだが、二人からは疑問の声が上がった。
冬、素敵な季節だと思うのだけれど。
「冬は、外に出かけるの辛くないか? 雪降ったら交通機関止まるし」
「朝起きるのもキツイよな。布団からなかなか出られないし」
言われれば、その通りだ。でも、冬にだって夏には負けない、
「冬は、クリスマスやお正月があるし、コタツで食べるお鍋なんか美味しいわよ? あとは、雪を見ながらの露天風呂なんていうのもいいものよ?」
「それはそうだな」
「というか、ひばり。あなた、雪が降ると交通機関が~とか言っているけど、雪合戦大好きじゃない」
「そう言えば、雪が降ると一番はしゃぐの、ひーちゃんやな」
追求されたひばりは、口をとがらせ、口笛を吹こうとする。吹こうとするってことは、実際には吹けていないのだが。
そこで、ふと疑問が浮かぶ。
いい機会だし、聞いてみよう。
「ねぇ、二人は、なんで夏が好きなの?」
私の疑問を待ってました、と言わんばかりに目をキラキラさせるひばりと幸音ちゃん。
なんか、散歩に行く前の犬みたいだな。犬、飼ったことないけど。
「夏は、海にキャンプにバーベキュー!
「うちのお
す、すごい勢い……。というか、
ともかくとして、二人の夏が好きな理由は分かった。
引きこもりがちな私と違い、アウトドアな二人なので、野外イベントが好きなのだろう。
でも。
「やっぱり、私は暑いのが苦手だから、夏はあんまり……って感じだわ。電気代もかかるし」
「まぁ、夏の嫌なところは、そこだよな。でも……」
「あと、虫が無理」
「う、それもあったか」
二人が冬の寒さを嫌ったように、私は夏の暑さがダメなのだ。
暑いよりも寒い方がまだましなのだ。
「あれ、ってことは、春や秋が、好きな人が多いのか?」
「ん? どうしてや?」
「気温的に安定しているじゃん。春は花見、秋は焼き芋とか食べ物がうまいと思うし」
「いや、それだけで決めるのは、どうやろ」
異論を唱えたのは、幸音ちゃんだった。
「春は花粉があるし、秋は台風が多くて大変や」
そうか、とひばりは頷く。
つまるところ。
「まぁ、何が嫌で何が好きかなんて、人それぞれってことなんじゃない?」
「まぁ、そうだよな。完璧なものなんてないんだし」
ひばりの言う通り、完璧なものなんてない。
夏には夏の、冬には冬の、いやな部分がある。
人だってそうだ。私にも欠点はある。ひばりにも欠点がある。幸音ちゃんや他の人達だってそうだ。
好きなものや人の欠点。それに目をつぶるのか。受け入れるのか。それは、人によるけど。
欠点だって好きになれれば、それはとても素敵なことだ。
「なぁ、
「なに?」
「愛花が、夏苦手なのは分かったけど、バーベキューぐらいはしたくないかい?」
「それは、まぁ……」
「決まりやな。この夏はバーベキューで夏を満喫や!」
夏は苦手だ。でも今年の夏は、いい思い出ができそうだ。
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