第15話 パワースポット

「パワースポットって、どこまで信用あるものなんでしょうね?」

 となりに座る同じシェアハウスの住人、花咲福乃はなさきさちのは、ぽつりとそう言った。

 私、芥川愛花あくたがわいとはなはその言葉に、福乃さちのちゃんのほうを見る。

 福乃ちゃんは、どうやらスマートフォンで何かを見ているようだ。

「何見てたの?」

「ええっと、これです」

 そう言って、福乃ちゃんは私にスマートフォンの画面を見せてくる。

 それには、夏休みに行きたい観光スポットを集めたウェブサイトだった。その一つに某所のパワースポットが掲載けいさいされていた。

 パワースポットか……。

 よく聞く言葉ではあるが、実際には行ったことがない気がする。

「どうなのかしらね? 私も詳しくないから、よく分からないわ」

「そうなんですね。私も興味はあるんですが、行ったことないんですよね」

「それなら、今度みんなで行ってみる? 私は付き合うわよ?」

 私も興味がないと言えば噓になる。

 何も感じないかもしれないが、行ってみるのは面白そうだ。

「いいですけど、他の人たちは興味あるんでしょうか? お姉ちゃんは、こういうことには否定的なので……」

 あー。そういえば、福乃ちゃんの双子の姉、花咲幸音はなさきゆきねはパワースポットとか占いとか、スピリチュアルなものには否定的である。

 占い師は、全員それっぽいことを言う捕まっていない詐欺師さぎしである。

 それが、幸音ゆきねちゃんの言い放った言葉だった。占いに関わる全ての人にケンカを売る発言に、私も引いてしまったのを覚えている。

 では、他の住人たちはどうだろうか?

 私の高校時代の友人、藤原ふじわらひばり。

 彼女は、幸音ちゃんと同様にあまり信じていない。流石に幸音ちゃんほど敵視しているわけではない。だが、朝の占いなどを見ても、へーぐらいのリアクションである。ラッキーカラーなども気にしている様子を見たことがない。

 最後に、お酒大好き十六夜撫子いざよいなでこ

 彼女からスピリチュアルな話題を聞いたことがない。いろいろと興味が移る人なので、もしかしたら話をすればついてきてくれるかもしれない。

 ……私と福乃さちのちゃんしか、明確に興味ある人がいないのか。

 何というか、このシェアハウスの住人は、女子が好きそうなものに食いつきが悪い気がする。唯一あるとすれば、スイーツくらいか?

 そんな思考をめぐらせていた私に、福乃ちゃんは言う。

「まぁ、お姉ちゃんの気持ちも全く分からない、っていう訳じゃないですけどね。占いなんかも当たった回数のほうが少ないですし」

「それはそうかもしれないけど、あそこまで否定的になることなの?」

「確かに……」

 そういって、福乃ちゃんは苦笑する。

「でも、私もやっぱりどこか否定的なのかもしれません。どうせ何にもならないんだろうなー、って思っちゃいます」

「それは、私も同じよ」

 そう。占いやパワースポットを完全に信じている人は、それを仕事にしているような人でないと、なかなかいないだろう。

 先ほど福乃ちゃんが言ったように、占いが当たったのなんて、数えるほどしかない。

 何か当たったことがないと、信じることは難しいだろう。だからこそ、幸音ゆきねちゃんは否定的なのかもしれないし。

「占いやパワースポットなんて、信じる人は信じるでいいと思うけどね。もしくは、いいことだけ信じるとか」

「やっぱり、お姉ちゃんが過激派かげきはなだけで、そういうものなんですかね?」

 福乃ちゃんの疑問に私は、そうねと答えた。

 パワースポットに行ったからいいことが起きたという人もいれば。そんなものはたまたまでそこに行かなくてもいいことは起きていた、という人もいるだろう。

 占い通りに行動したら悪いことを回避できたという人もいれば。それも偶然だという人もいれるだろう。

 どちらの言い分が正しいのかなんて、そんなことは分からない。

 信じる人は、信じる。それでよいのだろう。

 信じたい人は、占いなどにとらわれ過ぎないようにすればいい。

 信じない人は、信じる人を傷つけないようにすればいい。

 要は、その信じるものを否定して、価値観を押し付けないようにすればいいのだ。

 また、信じるものを過信して、自分を見失わないようにすることが重要なのだ。

 人が信じるものは、人それぞれなのだから。

 誰を信じるのか。それが人それぞれなように。

「で、どうするの? そのパワースポットに行ってみる?」

「はい、行ってみたいですね。お姉ちゃんに何言われるか、あまり想像したくないですけど」

「それは、考えないようにしましょう。案外、御守おまもりとか買って行くと、飛びつくかもしれないわよ?」

「そういえば、お姉ちゃんって、ご利益とか信じないのに、御守りは持ち歩いていたような……?」

 どういう理屈なのかを考えてみたが、全く分からない。

 私たちは顔を見合わせて、苦笑いをした。

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