第12話 筋トレ
住んでいるシェアハウスに帰って来たら、各人の個人スペースの扉に耳を当てている
「……何やっているのよ、ひばり」
私、
いくら同じシェアハウスに住んでいる気の置けない仲とはいえ、個人のプライベートエリアを探るのはいかがなものかと思う。
そんな
「いやな? なんか荒い
「荒い息遣いって……」
……ま、まぁそれは気にならないと言えば
私は、コホンと咳払いをして
「この部屋、
そう、この部屋の主は、
彼女が、何か他の人に隠しておきたいようなやましいことをしているとは、私はどうも思えなかった。
ひばりは私の問いかけに、チッチッチッと人差し指を振りながら答える。
「分かってないな、愛花。真面目な性格だからこそ、隠しておきたい秘密もあるもんだぜ?」
う、う~ん。そういうものなのか?私にはよく分からない。
首をかしげる私に、ひばりは続ける。
「福乃は女子としてレベル高いからな。もしかしたら、あたしたちが知らない間に彼氏を作ってたのかもしれないぜ?」
「えっ!?」
思わず
「そう! 今この瞬間、あやしい荒い息遣いが聞こえるということは!」
ま、まさか……!?
「あたしたちがいない時間に、彼氏を連れ込んで十八禁的なことを行っている可能性が――」
「ありませんよ! 変な想像やめてください!」
私たちの
「筋トレ?」
はい、と短く返事をした
今は、廊下から福乃ちゃんの部屋に場所を移して話している。それにしても、流石福乃ちゃん。部屋がきれいだ。
福乃ちゃんに、ひばりが聞いたあやしい
「それにしても、なんでまた筋トレを?」
私たちが知る限りでは、福乃ちゃんにそんな趣味があるというのは聞いたことがない。
福乃ちゃんは、少し目を逸らしてひばりの疑問に答える。
「その、ダイエットを……」
「ダイエット? 福乃ちゃん、十分にスリムじゃない」
あくまで私の主観だが、福乃ちゃんは
「いえ、その、最近、お菓子を食べ過ぎて……」
最近の福乃ちゃんの行動を思い返してみる。三時のおやつに夕飯のデザート、エトセトラ……。
確かに、よく甘いものを食べているのを見た気がする。
「ま、ダイエットするかどうかは個人の自由だからいいけどさ。筋トレって何やってたんだ?」
「とりあえず、スクワットを五十回を目標にやってました」
「いや、いきなり飛ばし過ぎでしょ」
スクワットって、かなりきつい運動だった気がするのだが、それを五十回?
確実に筋肉痛になるでしょうに……。
私たちが驚く中、福乃ちゃんは
「いえ、もうすぐ薄着の季節。
と、やる気満々だった。
意気込みは立派なのだが、かえってマイナスなことをしていると思う。
何事もそうだと思うが、はじめからハードなことをやって、続けていく気力がなくなってしまったら全く意味がない。
「いや、それはよくないと思うぞ。
同じことを思ったのか、ひばりが福乃ちゃんに話しかける。
「はじめから自分から追い込むのは、心がけとしてはいいのかもしれない。でも、結果として辛くなって何もしなくなるなら意味はないんだ」
「でも、すぐに結果を求めるなら、はじめから追い込む必要があるんじゃないですか?」
それは、福乃ちゃんの言う通りかもしれない。
だが、ひばりは福乃ちゃんの言葉に首を振った後、続ける。
「はじめから追い込む場合でも、最初は基礎から始めると思うぞ。そこから、難易度を上げていって、『自分成長してるんだ』って成長を楽しんでもらってんじゃないかな」
そこで、ひばりはひと呼吸おいて、
「ま、何事も何かしらの楽しみがなきゃ、なかなか続かないってことだ」
そう
「なるほど……」
どうやら、福乃ちゃんも納得したようだ。
それにしても、もうすぐ夏。薄着の季節か。
「……はぁ」
自分の認めたくない貧相な胸に目線を落とし、勝手に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます