第9話 宝物
「ふぅ、面白かった……」
満足そうに息を吐く
金曜日の夜、私は同じシェアハウスの住人である
最初は、二時間しっかり見るつもりはなかった。
なんとなくテレビを眺めていたら、福乃ちゃんがやってきて、
「面白いので、ぜひ見ましょうよ!」
と誘われて、流れで見ることになった。
正直、最初は途中で
私もこんな風に読書を引き込める作品や何度も読みたくなる漫画を生み出したい……!
私が静かに気持ちを高めていると、福乃ちゃんが話しかけてくる。
「しかし、この映画みたいに財宝を探すのってロマンがありますよね~。
「う~ん、宝物ねぇ……」
子供の頃まで
「ごめん、期待に応えられるような物に心当たりはないわ」
実家からこのシェアハウスに持ってきたものに何十万円もの価値があるものなどない。また、実家も別に昔から大きな蔵を任されるような
「まぁ、聞いといてなんですが、私も宝物に心当たりはないんですけどね……」
あはは……、と
でも、当然と言えば当然か。
唯一、このシェアハウスの住人でそういうものに縁がありそうなのは、私の高校時代からの友人である
「子供の頃は、宝物探しとかやった思い出もあるんですけどね。お姉ちゃんが宝の地図書いてくれて。それを夢中になって探した思い出があります」
「意外と男の子みたいな遊びしてたのね」
「今は落ち着いてますけど、お姉ちゃんの後を追っかけてたら自然と……」
今度は照れ笑いをする福乃ちゃん。彼女の双子の姉、
「宝探しって何を宝物にしてたの? まさか数万円もするようなものじゃないでしょう?」
子供の頃の宝物。私は、それが何なのか少し気になったのでそう聞いてみた。
福乃ちゃんは、思い出そうと目線を上に
「
……いかにも幸音ちゃんらしい行動だな。今では、人が嫌がることをするのを嫌う優しい子になるのだから、人は変わるものだな。
「逆に
言われて私も記憶をたどる。私の子供の頃の宝物。私も大したものではなかった気がする。
ええっと、確か……。
「お手玉みたいなアザラシのぬいぐるみだったかな? 水族館で買ったか何かで、すごく気に入ってた記憶があるわ」
そうだ。今も多分実家にあるアザラシのぬいぐるみ。家族で水族館に行ったときに、お土産屋さんで見つけたものだったと思う。親がすんなりと買ってくれたから、そこまで高くないものだろう。
でも、とても大切にしていたのは、間違いない事実だ。
本を読む時に
きっと売りに出しても、小銭にしかならないような小さな人形。もしかしたら、周りから見ればなんでそんなものを、と思われるかもしれない。
それでも、私には何にも変えられない大切なものだった。
そうだ。宝物っていうのは、
「……誰にも理解されなくても、その人にとって
「はい?」
はっとして隣を見る。
そこには、キョトンとした
「い、いや今のは、えっと」
急にポエムみたいなことを呟いたことが、恥ずかしくなり隠そうとする。
「ふふ、私もそう思いますよ?」
そういって、福乃ちゃんは
いっそ、からかってくれた方がよかったかも知れないが、福乃ちゃんはそういうタイプではない。
……例え、ありふれていたとしても、今の私にとっては、この日常が宝物かもしれない。恥ずかしさが残るが、そんなことを思った。
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